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IN THE MOOD ―分岐点―
●何を探しているのか【7B】
「宝探し……というと、砂金取りとか……」
シュラインはそう陽一郎に言ってから、はたと自分の今言った言葉で思案顔になった。
「あ。砂金取りは海じゃなくて川よね」
「残念ながら砂金は探してないが」
苦笑する陽一郎。
「んー……」
なおも思案するシュライン。しかし、目は陽一郎の全身をくまなく探っていた。
(よく聞くのは、金属探知機で砂浜に埋もれたお金とか探すことだけど)
だが、陽一郎が金属探知機を持っている様子はない。非常にコンパクトであるならジャージのポケットに入るのかもしれないが、ポケットが妙に膨らんでいるということもなかった。
(となると……)
砂金でない、金でもない。それでいて砂浜で探せるような物というと、限られてくる。
その時、シュラインの脳裏に昨日草間が言っていたことが蘇った。
(そういえばチョコ、会長に小石を渡したとか言ってたっけ。確か、淡く光ってたとか)
いつものようにシガレットチョコをくわえながら、何か引っかかるような感じで草間は言っていた。いったい小石などどうするのか、といった様子で。
「石探し……ですか? 例えば、天然の宝石を見付けようとか」
草間の言っていたことを踏まえて、シュラインが陽一郎に尋ねてみた。光るということから、そちら方面を考えてみたのだ。
普通の石も宝石も鉱物という点で同一である。なので川を流れ海へ至るまでの間に砕かれ削られ、小さな石となって宝石が砂浜に埋もれている可能性もなきにしもあらず。
すると陽一郎は、軽く咳払いをしてから言った。
「宝石か……。ある意味そうかもしれないな」
「えっ、本当に?」
驚くシュライン。自分で言ったことながら、まさかストライクな返事が来るとは思っていなかったようである。
「まあ、そういうことだから、わたしの宝探しの邪魔をされると困る」
苦笑する陽一郎。ややあって、シュラインが口を開いた。
「そうですか。それじゃあんまり邪魔をしていてもあれなので、これで」
陽一郎にぺこんと頭を下げ、シュラインは来た方向へすたすたと戻ってゆく。
陽一郎はしばしシュラインの後姿を見つめていたが、十分に遠ざかったことを確認するとぼそりとつぶやいた。
「もっとも……面倒な宝石だが」
そう言った陽一郎の表情は、実に渋いものであった。
●ロックオン【8】
「女子生徒、ターゲットより離脱……である」
森の中、双眼鏡を構えて微動だにしないすばるは、シュラインが陽一郎より離れていったのを見て、そうつぶやいた。
(非常に興味深い映像が記憶出来たようだ)
すばるは今目の当たりにした光景を自己の中で反復・分析しつつ、そんなことを思った。
実は――すばるは人間ではない。アンドロイドなのだ。今の光景だって、ベクタバイトメモリ内蔵のカメラアイによって全て記憶している。報告の際には、外部出力だって可能である。双眼鏡はカモフラージュで構えているだけなのだ。
では何故アンドロイドがこの神聖都学園に居り、陽一郎を監視しているのか。それは、すばるが学園から派生し世界をすら変貌させるような超常現象の調査と排除という使命を受け、派遣されてきたからに他ならない。無論、使命のことやすばるの正体は極秘である。
神聖都学園に派遣され、水面下で調査を続けていたすばるの監視対象は陽一郎だけではない。今ここには居ないが、詠子だって対象となっている。不審者、あるいは現象の一因としてマークされているのである。
やがて現時点までの調査内容を踏まえ、すばるの自己分析の結果が出た。それは――。
(学園には宝があるに違いないのである)
……ちょっと飛躍し過ぎのような気がしないでもないのだが、もう少し続きを聞いてみよう。
(生徒会長はその宝を探すため、『石』を収拾しているに違いないのだ)
なるほど、まあ筋は通っているかもしれない。では、詠子についてはどうなのか?
(データ不足である)
ちょっと待て、データ不足って何ですか。そりゃ確かに、詠子については色々と謎が多いかもしれないが……。
(しかし、月神が宝に関係している可能性は非常に高いと思われるのである)
ならば、神聖都学園を巡る現状はどういうことになるのか。
(宝が原因となり……)
「ここで何をしているのかな」
現状についての推測を述べようとしていた最中に、すばるに声をかける者が居た。それも、ついさっきまで聞き覚えのある声だ。
すばるは声のした方を向いた。陽一郎の姿がすぐそこにあった。目と目がしっかり合ってしまった。
「…………」
表情を変えず、沈黙のすばる。どうやら自己分析している間に、カメラアイがターゲットロストしてしまったようである。
「ここで何をしているのかな」
陽一郎が再度尋ねた。それに対し、すばるは淡々と答えた。
「ホエールウォッチングである」
……いや、それはどう考えても間違っているのではないだろうか……。
「……バードウォッチングじゃなく?」
面食らった様子の陽一郎。
「ホエールウォッチングである」
繰り返すすばる。一瞬の沈黙の後、吹き出す陽一郎。
「シュ、シュールなギャグだ……」
何だか知らないが、ギャグだと思われたようである。
「どうしてここに来たのだ?」
すばるが逆に質問を投げかけた。それに対する陽一郎の答えはシンプルだった。
「いや、森の中できらっと何かが光ったようだったからね。気になって来た訳だが……そうか、ホエールウォッチングか……」
恐らく、双眼鏡のレンズが太陽の光に一瞬反射してしまったのだろう。しかし、陽一郎がすばるの真意に気付くことは、幸いにも回避されたのであった。
【IN THE MOOD ―分岐点―・個別ノベル 了】
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■ 登場人物 ■
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【 整理番号 / PC名(読み)
/ 性別 / クラス / 石の数 】
【 2748 / 亜矢坂9・すばる(あやさかないん・すばる)
/ 女 / 2−A / ☆00 】
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■ ライター通信 ■
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・『東京怪談・幻影学園奇譚ダブルノベル』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全23場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・OMCイラストのPC学生証やPC学生全身図などをイメージの参考とさせていただいています。
・『幻影学園奇譚』の本文において、高原は意図的に表現をおかしくしている場合があります。
・この度はノベルをお手元にお届けするのが大変遅くなり、申し訳ありませんでした。ここにようやく、海キャンプの模様をお届けいたします。
・今回諸々のことは個別ノベルへ回っていますので、他の方の個別ノベルもご覧になっていただくと、より深く分かるかもしれません。ちなみにタイトルの元ネタは、あの終わりそうでなかなか終わらない曲のことです。海といえば、この曲でしょう。
・亜矢坂9すばるさん、ご参加ありがとうございます。初めましてですね。陽一郎の行動についての分析は個別ノベルの通り。『宝』を額面通り受け取るかどうかが問題ですが。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、またお会いできることを願って。
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