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<幻影学園奇譚・ダブルノベル>


IN THE MOOD ―分岐点―
●西瓜割りによくある光景【6C】
 西瓜割りに付き物のかけ声が、砂浜に響き渡っていた。
「右右右! もっと右!」
「違うっ! 左だよっ、左! 半歩左に動けってっ!」
「そのまままっすぐまっすぐ! まっすぐだってばっ!」
「目標は2時の方角だ! 調節しろ!」
「行き過ぎ行き過ぎ! ほら、戻って戻って」
 銘々が勝手なことを言っている。どれが本当でどれが嘘か、割り手には分かったものじゃない。
「ええと……。右? 左? どっち?」
 目隠しをされ、割り手となっていた詠子はあっちへふらふら、こっちへふらふらと砂浜を歩き回っていた。足跡だけみれば、ちょっとした酔っ払いである。
「まっすぐ! まっすぐだよっ!」
 みあおが元気よく詠子に声をかけた。
「まっすぐ行けばいいんだね?」
 みあおの言葉を信じ、詠子がまっすぐ歩き出す。が――。
「おいおいおいおいっ! そっちは海だ!!」
 詠子が波打ち際まで来た所で、1人の男子生徒が慌てて詠子を呼び止めた。そう、みあおの言葉は大嘘だったのである。
「まっすぐじゃなかったの?」
 やや抗議するような声を上げる詠子。
「月神さんごめーん。間違えちゃった」
 それに対し、みあおは舌をぺろっと出して言った。
 そのうち詠子も何とか戻ってき、上手く指示を聞いて見事に西瓜を割ったのだった。
「やったねっ☆」
 大きな拍手を送るみあお。目隠しを取ってみあおの方を振り返った詠子は、くすっと笑みを浮かべた。
「西瓜割りって楽しいものだね」

●視線【6D】
「本当に、楽しそうだ」
 西瓜割りを見ていたクミノは今度はしっかりと口に出して言った。しかし、そのつぶやきが聞こえた者は恐らく居ないであろう。何故ならばクミノは今、地上20メートルの空間に位置して居たのだから。
 地上20メートルの空間に居るのはクミノだけではない。そこには大量の情報収集用の機器まで設置されていた。西瓜割りも、カメラを放ちそれを通して見ていたのである。
 しかし何故、クミノはこのような所に居るのか。それはクミノが致死性の障壁を持つがゆえである。
 その範囲は、周囲半径20メートル――そう、クミノが今居る高さと同じだ。他者に被害を与えぬためには、これだけの距離がどうしても必要なのである。
 だが、それだけで空中の空間に居られるはずがない。実はこれにも障壁が絡んでいた。
 障壁とは言ってみれば障気の壁である。厄介な物であるが、長年付き合ってきたからなのだろうか、近頃ではその厄介な障気を用いて空中に自らを固定することが出来るようになったのである。
 イメージ的に言うならば、障気が20メートルの腕やら足やらになって、クミノの身体を上空へ抱え支えているのである。
 もっとも空中にクミノの身体やら、大量の機器やらが浮かんでいてはあからさまに怪しまれてしまう。そこでもう1段階、光学迷彩を用いて自らの姿や大量の機器の存在などを隠匿してしまったのだ。
 ゆえに、基本的にはクミノの姿を見ることが出来ないようになっているのだが……。
「ん?」
 クミノはふとモニタに目をやった。モニタには、相変わらず西瓜割りの様子が映し出されている。
 が、妙なのだ。何故か詠子が、カメラのある方をじっと見つめている。
(カメラの存在に気付いたか?)
 クミノは肉眼で西瓜割りの一団の姿を探した。遠くに見えるが、何とか肉眼で姿を確認出来た。
 そしてクミノは気付いた。詠子がカメラを見ているのではない、クミノの居る方を見ていることに。その証拠に、カメラの位置を移動させても、詠子は向く方角を変えなかったのだから。
「『見える』者か……?」
 クミノはぽつりとつぶやいた。

●温かさ【14】
(……美味しそうだ……)
 クミノは1人寂しく離れた場所で、皆が楽しそうに夕食のシーフードカレーなどを食べている様子を、カメラの映像を通じて見つめていた。
(現実でなくともこうか……)
 クミノはモニタから視線を外した。人との接触を避けねばならないのはいつものこととはいえ、さすがに皆が楽しそうな様子を見続けるのは辛かった。
「……まあ、『この楽しき日々を守る』ことは当然のことだ」
 クミノは自分自身に言い聞かせるようにつぶやいた。
 その時、クミノは人影を見付けた。距離はちょうど20メートル、障壁の手前辺りである。
 肉眼で確認をするクミノ。そこにはシーフードカレーが盛られた皿を手にした詠子が、何故か立っていた。
 詠子はしばしクミノの方を見ていたが、やがて皿を砂浜に置いて皆の方へと戻っていった。
(これは……食べろ、ということだろうか)
 クミノは障気を操り、シーフードカレーが盛られた皿を自分の手元まで運んできた。シーフードカレーからは、まだ湯気が立ち上っていた。
 ちゃんとスプーンもついている。クミノは一口スプーンに盛ると、シーフードカレーを口の中に放り込んだ。
「美味しいな……」
 しみじみとつぶやくクミノ。何故だか分からないが、胸の奥が熱くなっていた――。

【IN THE MOOD ―分岐点―・個別ノベル 了】


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■   登場人物                  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                 / 性別 / クラス / 石の数 】
【 1166 / ササキビ・クミノ(ささきび・くみの)
                  / 女 / 2−C / ☆00 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談・幻影学園奇譚ダブルノベル』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全23場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・OMCイラストのPC学生証やPC学生全身図などをイメージの参考とさせていただいています。
・『幻影学園奇譚』の本文において、高原は意図的に表現をおかしくしている場合があります。
・この度はノベルをお手元にお届けするのが大変遅くなり、申し訳ありませんでした。ここにようやく、海キャンプの模様をお届けいたします。
・今回諸々のことは個別ノベルへ回っていますので、他の方の個別ノベルもご覧になっていただくと、より深く分かるかもしれません。ちなみにタイトルの元ネタは、あの終わりそうでなかなか終わらない曲のことです。海といえば、この曲でしょう。
・ササキビ・クミノさん、ご参加ありがとうございます。どうも詠子は見えていたようですね。最後の方、何故詠子がああいう行動を取ったのか。それは自ずと分かってくるかもしれません。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、またお会いできることを願って。