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<幻影学園奇譚・ダブルノベル>


●天使と悪魔の奇想曲

 シャツを肩辺りまでまくり上げ、下はスパッツ姿の賢は武彦と共に部屋で待っていた。
 ターキーサンドなるものを貰って、賢はご機嫌だった。 
 テーブルにはフライドポテトと小海老のサラダ、ぺペロンチーノスパゲッティー、オレンジジュースなどがある。
 ふんふんと鼻息を鳴らして食べまくっていた。
 武彦はというと窓辺を見たまま、ぼーっとサンドウィッチを食べている。
 自分は男なので美男子は嫌いだが、総一郎はご馳走してくれるいい人だから好意を持っていた。呪いを掛けられた可哀想な人、愛しい人を亡くしてしまった寂しい人に同情していたのだ。
 しかし、もしかしたら主人や執事が人外の者であるかもしれない可能性も考えられた。ゆえに、戦闘用の宝輪はポケットの中にある。
 カタッと音がして賢と武彦は窓のほうを見た。ベランダにうっすらと影らしきものが見える。
「何だ?」
 賢は手に持っていた食べ物を離して、ベランダのある窓のほうに歩いていった。
「何にもいねぇよ」
 武彦は賢に言った。
 そしてガラス窓を押してベランダに出る。
 庭を見ても白薔薇が咲いているばかりで何も見えない。
「誰もいないか………ぁッ!!!!」
 振り返った刹那、物陰に引きずり込まれる。
「んんんんんッ!!」
 頭ごと口は押さえられ、声を上げる事は出来ない。
(ぎゃぁぁぁ! 離せぇ!!)
「ん〜〜〜〜ぐっ! うーうー!」
 両手まで捕まれて自由にできない。
 何だか分からないが黒いものに覆われて前が見えなかった。
 不意に耳元で囁かれる。
「馬鹿! デケぇ声だすなよ」
「ふがぁ?」(誰?)
 ふがふがもふもふと賢がうめいているので、それはやっと手を離してくれた。
「うー…苦しかった。…ン? てめぇ…神聖都学園の生徒…」
 賢は目の前にいる人物の服装を見て訊ねようとしたが、目の前にいた人物の美貌に言葉を失う。
 長い黒髪を腰まで伸ばした青年は神聖都学園の制服を着ている。学年バッチを見ると『3年A組』と書かれていた。
 肌の色が白いのと長い黒髪が相まって吸血鬼のようだ。
「あぁ…そうだ。3Aの塔乃院だ」
「なんで、てめぇはここに来れたんだよ」
「招待を受けたからな。それに探し物があるんだ。ところで、お前はこの今の主人に会ったのか?」
「会ったにきまってるだろっ!」
「そうか…」
 そう言うと塔乃院と名乗った少年はにたりと笑った。
「じゃぁ、月祭の宴のルールは知っているか?」
「え?」
「そうか…その身をもって教えてやろう…」
 いかにも楽しげに笑うと塔乃院は賢に顔を近づける。
「は、離せ!!」
(やべっ、男相手なのにドキドキしてる)
 危険を感じた瞬間、賢は目を閉じる。
「…………あれ?」
 不意に顔を上げると、塔乃院が頭を抱えて座り込んでいた。その後ろには塔乃院そっくりな少年が立っている。無論、制服を着て…
「お前…大丈夫か?」
 首を傾け、賢を覗き込んでいる。
「て、てめぇ…誰だぁ?」
「俺か? 俺はシェルフ・ビーストだ」
 そう名乗った少年は塔乃院に瓜二つだ。膝裏に達するほどの黒髪だけでしか判別できないほどに。
「くぁああ! くそぅ…何するんだ!」
 頭を弟に打っ叩かれた塔乃院は顔を上げ、睨み据える。
 その視線を平然と受け止めて、シェルフは言い放った。
「兄さん…いい加減にしろ。つまみ食いするしか興味が無いのか?」
 呆れたように言うと、賢に近付き手を引っ張って立たせた。
「こいつの前に立ったら、危険と思え」
「酷い言い草だな」
不機嫌そうな声で塔乃院は言った。
「真実だ」
 キッパリと言い放つと賢を連れて部屋に向かった。仕方無しに、塔乃院も立ち上がって部屋に入っていく。
 来訪者に武彦は吃驚したが、シェルフの説明を聞くと納得していた。どうやら、塔乃院たちは事前に諸事情を聞いていたらしく、この島の主人の呪いについて話してくれた。
 この島の主人の花嫁になる筈だった人が封印を解いてしまい、その挙句に死んでしまったらしい。悪魔に呪をかけられた総一郎は年をとらなくなり、眠りを奪われ、月祭の宴である一定の量を超えた精神エネルギーをしなければ永遠にそのままなのだ。
 快楽というエネルギーを提供すれば呪いを解くと言う約束を信じて今日まで過ごしてきたが、エネルギー総量のバロメーターになる花は、中々、満開になってはくれなかったそうだ。
「じゃぁ、何だ。快楽だったら何でもいいと…」
 武彦は顔を顰めて言った。
「そういうことになるな。食欲でも構わないだろうが限界がある」
「俺…そういうんじゃ手伝えな…」
 半ば絶句していた賢はようやく口を開いて言った。
「まぁ、それに関しては適任者がここにいるしな。お前は何もやらなくていいと思うぞ」
「適任者?」
「あぁ、こいつ以外いない。…と言うわけで、俺たちは島の散策にでもでよう」
 シェルフはそう言うと、勝の腕を引っ張った。
「どこに行くんだよ」
「餌食になりたくなきゃついてこい。…兄さん、後は頼んだ」
「任せておけ」
 そう言うと塔乃院は楽しげに笑う。
「はぁ?」
 意味が分からなかった武彦は、ぼーっと皆を見回ていた。
 シェルフはさっさと賢を連れ出し、そこには塔乃院と武彦だけが残る。
 ドアを閉めた瞬間、二人が残った部屋からは絶叫が、そして数分後にはすすり泣きに似た喘ぎ声が聞こえてきたという。

 賢は屋敷を調べ、幾つかの石を拾った。
 それは学校で見つけた石と同じものだ。シェルフと散策を終了した賢は総一郎の部屋へと向かったが、そこで何を見たかは本人のみぞ知る。 
 
 ■ 天使と悪魔の奇想曲〜END〜■


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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 3070 / 菱・賢 / 男 /  男 /2年A組

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、朧月です。
 まだまだお暑い日々が続いておりますが、如何お過ごしでしょうか?
 まさるくんが可愛くて楽しかったです。
 個別の部分は、各自部屋を別れてからの話になっています。
 『白い花の中で』と『朝』という章の間の話です。
 ご意見がございましたらお教えくださいませ。

 それでは発注をありがとうございました(礼)

 朧月幻尉 拝