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<幻影学園奇譚・ダブルノベル>


潮騒に聞こえる想い

●メイドさんは大忙し
 タンタンタンタンタン……
 小気味よい音で100円ショップの包丁がキャベツを刻んでいく。
 慣れた手つきで野菜を刻み終わった少女は、2年B組の大曽根千春。
 海キャンプは学園指定の体操服とスクール水着が基本なのだが、彼女に関してはそれは当てはまらない様子で、肩から膝下までの純白のエプロンが身体を覆い、その下には薄地だが濃紺色で腰を細く絞った風な衣装……俗に言うメイド服が彼女のユニフォームだった。
「きっと美味しい料理ができるでしょうね☆」
 空気も美味しいですと、千春が笑顔で言うと因幡恵美もにっこりと笑顔で返してくる。
「同じクラスだから組み合わせにはファオさんもいらっしゃると思ったんですが……」
 ちらと、A組のメンバーが集まっている調理場を背伸びで覗いてみる。
 いつものお団子頭は、ヒラヒラと踊るように不安定な赤いリボンを結んだ金髪の側にいた。
「やっぱり……」
 溜息も出ない代わりに、千春が軽く肩をすくめてみせると恵美も何があったのと首を傾げて千春の見る方角に目を向けていた。
「ファオさんは、レティシアさんや縞りすさんのクラスの方に行ったっきりで戻ってきませんわね……」
「納得」
 千春の言葉に頷く恵美。
 理解を得られて嬉しいのか、それとも情けないのか判らない千春だが、彼女達B組の炊事担当は流れ作業で次々に料理をこなしてゆく。
「恵美さんも一緒ですから、何とかなるでしょう☆」
「そうですね」
 微笑む千春に、同じく微笑む恵美。
 その自信はどこから沸くのだろうかと、周囲の者達がいぶかしむのもよそに、のんび
り二人組は会話の中でも手が止まらない。
 あわてて、それを見た者達が動き出したところに、配布不足だった肉、米を取りに行
っていた男性陣が帰ってきた。
「大変そうでござるな。拙者も手伝えることがあったら野菜を刻むなり、肉を整えるな
りするでござるが?」
「ありがとうございますねぇ。でも、男子厨房に入らず……の世界ではないんですか?

 時代がかった話し方をするのは高梁秀樹だ。
 千春もそれとなしに彼のことは聞いているので、珍しく返す言葉も親しみのあるもの
になっている。
「ふふ。千春殿は古風でござるな。男子といえど、自分の食するものは作る時代でござ
るぞ?」
 さぁと、千春たちから米袋を受け取ると、流しに向かって秀樹が歩き出す。
「……」
 はく、はく、はく。と、恵美の口が酸欠状態の金魚のように動いている。
「……あーあの……高梁さんに言われると、どうにも言えないんですけれど……」
 包丁を空中で握りしめたままの恵美の表情は、ありていに言ってしまえば『あなたに
言われるとは思わなかった』という呆然としたもので、いち早く回復した千春も流石に
どもりながら言いかえすしかないのだった。

●危険だらけの昼食時間
「夜の肝試し大会ですか? 肝試し大会なんんかしなくても、海のそばに霊さんが沢山
いらっしゃいますんですけどねえ……」
 物騒なことを口にする千早に慌てて、雨宮徹が唇の前に指を立てて、静かにと言う合図を送ってくる。
「何でしたら、その霊さん達に強力を仰ぎましょうか? きっと盛り上がると思いますよ〜?」
 気が付かずに、続けた千春の真後ろに郭花露が腕組みで仁王立ち。
「くぉら!」
「はい?」
 怒気をはらんだ声だけど、何故か小さなその花露の声を不審に思って見上げた千春は、こめかみをヒクつかせる花露が無言で指さす先を見て納得した。
「わくわく。わくわく」
 餌を待っている子犬の大きな目を彷彿とさせる金髪娘がそこにいた。
「……よーく、わかりました……」
 じーっと、千春の言葉の続きを、口に出してまで待ちくたびれているレティシアの姿がそこにあった。
「昔の人は良いことを言ったでござるな……」
 ほうと、食後のお茶を飲みながら秀樹が続ける。
「後悔は先に立たないものだと……」
 遠い目で青空を見上げる秀樹にならって、徹、花露、おまけに太郎までもが韜晦している。
「高梁さん……洒落になっていません……」
「わくわくわく♪」
 レティシアの大期待光線を背に浴びながら、どうやって逃げようかと千春のお昼は過ぎて行くのだった。

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■   登場人物                  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / クラス】
【0170 /大曽根・千春  / 女性 / メイドな高校生】

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■         ライター通信          ■
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 台風一過、非常にお待たせして申し訳ありませんでした。
 もう来ないよね、台風と思いながら執筆することここ数日でしたが、ようやくお渡しできます。
 非常に私事ですが、職場が8月30日の台風で海水とヘドロで床上70cm冠水という悪条件になり、未だに完全復旧できていない職場の復旧で毎日を費やしていました。本職で執筆に支障をきたしましたこと、心よりお詫び申し上げます。