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『砂浜で花を咲かせよう:及川・瑞帆編』
「及川さんも、どうですかぁ?」
万輝達の所から帰ってくるのを待ちかまえていたように、燐華が線香花火を差し出す。
「なんや、待っとってくれたん?」
からかい口調で言いながら周囲に視線を走らせると、宇都波や真亜と一緒に柘榴は盛り上がっている。
「お一人でやるより、一緒にやる方が楽しいですからねぇ」
「せやったら櫻居さんもあっちで一緒にやったらええよ。俺、カメラマンするさかいに」
形的にあぶれてしまった自分に付き合わせるには忍びない、と瑞帆は提案したのだがしかし、燐華は静かに首を横に振る。
「及川さんと一緒に、と思って待っていたのですが、ご迷惑でしたか?」
「……嬉しい申し出なんやけどな、俺の分千影ちゃんにあげたんや。せやから……」
「では、ちょうど良いですね、五本ずつ」
はいどうぞ、と燐華は笑顔で線香花火を改めて差し出す。
マイペースで自分勝手に話を進める燐華に、流石に瑞帆は閉口した。
「他の方を撮るのではなく、誰かお誘いすれば良かったのに」
線香花火の爆ぜる火花を見つめながら、燐華は誰ともなしに言う。
「誘いたくてももう誘われへんしなあ」
暢気な口調で言い返す瑞帆の表情は暗い。
手元の灯りが線香花火の心許ない小さな火花だけだからではない。
二年前の今頃は二人でやっていたはずの線香花火を、瑞帆は本当はやりたくなかったのだ。
去年の今頃は覚えていない。
今年は、こうして花火を楽しむまでにはなった。
ただ、線香花火はやはり見たくなかった。
分けて貰った分を運良く千影に手渡せたというのに、結局『二人』でやっている。
誰かが『二人』でやる姿を妬む気持ちは無く、逆に微笑ましいとさえ思う。
その姿に自分と誰かを重ねることは出来ない。
違いすぎるから。
「でしたら、私達や栄神さん達と一緒に花火が出来て良かったですねぇ」
「……はい?」
「今年は大勢で花火を楽しめたのですから、きっと来年も、もっと楽しい夏が過ごせますよぉ」
燐華は、瑞帆が相手に振られたと思って慰めているつもりなのかもしれない。
いっそのことその方が良かっただろう。
けれど。
「そやな……」
腹の底からわき上がってくる笑いに、瑞帆は体を揺すった。
線香花火の火玉が落ちる。
赤い火の玉が砂を焦がし、砂を掛けて消した。
それは想いを封じる方法に似ている。
慰めらしくない言葉の方が、素直に受け止められる時もある。
「そうなると、ええな」
「なりますよぉ」
根拠の無い燐華の言葉が、瑞帆の心を浮上させる。
今年の夏はこれでいいかもしれない。
来年は来年で、違う何かを見つければいい。
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■ 登場人物 ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / クラス】
【3068 / 及川・瑞帆 / 男 / 2−B 】
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■ ライター通信 ■
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初めまして、こんにちは。葵藤瑠です。
この度は『砂浜で花を咲かせよう』にご参加いただき有難う御座います。
三枚目のような二枚目のような……(笑)
まともな女性NPCが居なくて申し訳なかったですが、カメラマンとして意外と重要な役をしてくださったのでは……? と思うのですが……。どうでしょう?
少しでも楽しんでいただければ幸いで御座います。
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