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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


幸福のプレゼント

 自分に突然プレゼントが贈られてきた時はどうしますか?
 きれいなラッピングに包まれた箱と、自分の誕生月の花束……カードには「ハッピーバースディ」という文字のみで、送り主すら分からない。
 普通の人ならば無気味に思い受け取れませんよね。
 でも、カードの裏にはこう書かれていたのです。
「私は幸福をもらいました。あなたにもその幸せを送ります。あなたも誰かに幸せを送って下さい、そうでなければあなたに送ったこの幸せは不幸へと変わります」

■幸せが不幸になる時
 玄関先で管理人からプレゼントを受け取った三下・忠雄はその文章を読み驚がくした。
「こ、これは……いわゆる不幸の手紙ってやつですか!?」
 こういういたずらは放っておくのが一番、心配ならば神社仏閣に納めて供養してもらうのも良いだろう。
 だが、この男は決行した。不幸の恐怖に負けて、彼はプレゼントを送ってしまったのだ。9月生まれの見知らぬ誰かへ。
 
 それから数日して、1人の男性がアトラス編集部へと乗りこんできた。
「ここの住所で『幸福のプレゼント』やらがきた、そいつのせいでうちの娘が引きこもってしまったんだ。責任を取ってくれ!」
 話が全く見えない碇・麗香は忠雄に処理を命じた。
「せっかくだからその『幸福のプレゼント』、次の特集として取り上げましょう。取材と後始末、頑張ってきなさい」
 麗香の冷たい笑顔に背筋を強張らせながら、忠雄は小さく返事をした。
「で、でも僕独りじゃ……」
「何言ってるの。ほら、強力な助っ人がここには一杯いるでしょう?」
 会議スペースからぐるりと編集部内を見渡しながら麗香は言う。
「せいぜい、うちの名を落とさないよう気張ってらっしゃい」
「は、はひっ……!」

■届けられた贈り物
「はいっ、はい、そうです……よ、よろしくお願いします!」
 体にすっかり身に付いた癖のように、忠雄は何度も電話に向かって頭を下げながら、何度もダイヤルをし直していた。
 その様子を見つけて、珍しいこともあるものだ、と伍宮・春華(いつみや・はるか)は小さく声をもらした。
「三下も真面目に働く時もあるんだな」
「だって、自分が原因で編集部にめーわくかけたんだもん。当然のことだよっ」
 傍らにあるソファに腰掛け、はがきを眺めていた海原・みあお(うなばら・みあお)が言った。
「何してるんだ?」
 春華は手近にあったはがきを一枚拾い上げる。宛先はアトラス編集部「特集」係、裏には色鮮やかなペンでつづられた丸文字が並んでいた。ほのかに甘いいちごの香りは、ペンのインキから漂ってくるものなのだろう。
「なんか……読みにくいはがきだな……」
「どうかしたの?」
「ほら、これだよ」
 春華から手渡されたはがきを眺め、みあおは小首を傾げる。
「普通のお手紙……だよ?」
「そうかなぁ……赤や緑の部分はまだ読めるが、この黄色いラメの所なんてはがきと同化してるぞ? 派手だと目に付きやすいかもしれんが、派手すぎるのも問題じゃないか?」
「だってこれレインボーペンだもん、いろんな色があるのは仕方ないよ。みあおも1本持ってるよ、ほら」
 みあおは胸元にさしていたペンを差し出した。鮮やかなマーブル調のインクがつめられた小さなボールペンだ。流れ星の模様がラメ付きで施されている。試しに、と軽く線を引いてみると、ピンク・青・黄色・赤とカラフルな色が出てきて、色とりどりの美しい線が出来上がった。
「なるほど……」
「ね、綺麗でしょ♪」
「あのー、作業進んでますか?」
 ひょっこりと二人の間に顔を出す忠雄。みあおはいつもの笑顔で返事をした。
「うん、すすんでるよー。えっと……これが『幸福のプレゼント』関係の内容だね」
 みあおははがきの山から、はがきを数枚取り出した。どれも端の部分に分かりやすいよう付箋紙(ふせんし)が貼られている。
「有難う、本当に助かったよー……」
「この数の中から探し出すのって大変だもんね」
 よしよしとみあおは忠雄の頭を撫でてやる。その対応に、どう反応していいか困った様子で、忠雄はとりあえず作り笑顔を見せた。
「みあお、これ1本もらっていいか?」
「いいよー。あっ、まだ使ってないのあるから、そっちあげるね♪」
 ちょっと待ってて、とみあおは鞄を入れてあるロッカーへと向かった。最近、編集部内に様々な人が出入りするようになったため、用心にと麗香が訪問者用に開いているロッカーを解放することにした。ここの常連客や外注クリエイターが主に利用している。

 カチャリ。

 ロッカーにほど近い扉が開かれ、大きな紙袋を下げた高橋・理都(たかはし・りと)が入ってきた。
 偶然、そこを過ろうとしていたみあおが、理都と鉢合わせしそうになる。
「おっとっと、あっぶない」
 ひらりとみあおは避けるが、理都は体が反応しきれず、つまづきそうになった。
「危ないっ!」
 あわてて駆け出す忠雄。
 が、途中でコードに足を取られてその場にこけた。
「コテコテギャグもここまでくると特技だな」
 ソファにもたれかけ、春華は楽しげに笑みを浮かべる。
「……あの、大丈夫ですか?」
「は、はひ……」
 助けるつもりが逆に助けられた形になり、申し訳ないといった表情で忠雄は身を起こす。
「あれ、高橋さん……その荷物、ずいぶんと大きいですね」
「あ、これですか? 昨日届いたものなのですが、是非編集部の方に見ていただこうと思って、持って参りました」
 よければどうぞ、と理都は忠雄に紙袋を手渡した。
 何気なく中身を覗き込み、忠雄はそのまま体を硬直させる。
「どうしたのー? あ、きれいなお花ー」
 紙袋の中には、小さな薄い桃色の菊の花束と真紅の箱が入っていた。箱には白いリボンで丁寧にラッピングがされており、金色の文字の入ったプレートまで添えられている。
「happy birthday dear Fortunate you ……これってもしかして……」
 小さく頷き、理都は困った笑顔を浮かべる。
「私のところにも来てしまいました」
「へぇ……これが噂のねぇ……送り主は誰だ?」
 いつの間にか傍らにきていた春華がひょいと箱を取り出した。箱の大きさはちょうど春華の頭ぐらい、大きさの割にはずいぶんと軽い。
「箱には何も書いてありませんよ、こちらの紙袋に宅急便のラベルが張ってあります」
「ふーん、まあ、とりあえず中身見てみようか」
 別に、取り出すきっかけが欲しかっただけで、送り主が気になっていたわけではないようだ。
 紙袋の方にはさしたる興味も持たず、春華はそのままソファの方へと箱を運んでいった。
「あっ、駄目だよ! そういうのは開けないで、焼き捨てなくちゃ駄目なんだよ!」
「平気だって。それより、みあおも中身が気になるだろ?」
「う……」
 実は彼女も、包装紙に書かれていた「エメルス」の文字に、どんなプレゼントが入っているのか気になって仕方なかったのだ。
 品の良い包装の仕方からして、直営の正規代理店で買われたものに間違いはない。プレゼントとはいえ、見知らぬ誰かにあげるために、それほど高価なものを送るとは考えにくいのだが……
「お、バッグだ」
「あら……今年の秋の新作だわ……」
「さすが理都さん、よく知ってますね」
「ええ、先月にちょっとフランスの本店を覗いてきましたから」
「……よし、オークションに出すか」
『まてまて』
「いーじゃん、どうせ捨てるんだろ?」
 全員から入れられたツッコミに春華は頬を膨らませた。
 ふと、時計を確認し、忠雄は顔を青ざめさせた。
「……はっ、いけないっ! 電車に乗り遅れる!」
 慌てて自分の机に置かれた鞄を取りに走る。資料の山の上にはがきを乗せて、簡単なメモを貼付けた。
「とりあえずまとめるのはあとっ!」
「三下、もしかしてインタビューに行くの? ついてってあげるー」
 丁度鞄も取り出したところだし、とみあおは忠雄の後をついていくように駆け出した。
 ばたばたと外へ出ていく2人を眺めながら、理都は不思議そうに春華に訪ねる。
「お2人ともあわててどちらへ行かれるのでしょう?」
「さあ? 俺は別に聞いてないし」
 それより喉が渇いたな、と春華は理都にお茶をせがむ。
「ええ、ちょっと待っていてくださいね」
 とりあえず紙袋をソファに置き、理都は給湯室へと向かっていった。
 理都の後ろ姿を眺めながらのんびりと背伸びをする春華に、様子を眺めていた麗香が1枚の紙を見せた。
「あの子達がいった先はここよ」
「……ふーん……東京都三鷹市……ちょっと遠いな」
「ついていく気はないみたいね……」
「俺は三下をからかいにきただけだし」
 きっぱりと言う春華。ここまで自分に素直だと気持ちもいいものね、と麗香は飽きれた笑顔を浮かべた。
「あら、麗香さんも休憩ですか。ちょうど良かった、よかったらご一緒しませんか?」
 理都は持ってきた盆をテーブルに置きながら言う。盆に載せられていたコーヒーカップの数は3つ、用意周到なところはさすがというべきだろう。
「そうね……現役フライトアテンダントの美味しいコーヒーでもいただこうかしら」
 ソファに置かれていた花束を通りがかったスタッフに手渡し、麗香はそのまま席に腰を降ろした。
 
■遅刻の代償
「あちゃー……やっぱり帰っちゃったかな……」
 改札を出てすぐのロータリーを見渡し、忠雄はがっくりと肩を下ろした。
「誰かと待ち合わせしてたの?」
「うん、音切さんとここで待ち合わせしてたんだけど……あ、いたいた!」
 少し離れた場所にあるコンビニエンスストアから出てくる姿を見つけ、忠雄は急いで駆け寄った。
「ずいぶん遅かったな」
 じろりと忠雄をにらみ付けながら、音切・創(おとぎり・そう)は1時間の遅刻だぞ、とさりげなく言う。
「すまない、電車に乗り遅れちゃったんだよ」
「まあ、アイスでもおごってくれるのなら勘弁してあげるよ」
「あ、みあおもついでに何かおごって♪」
「みあおちゃんはついてきただけでしょーが……」
「……あのはがきの山を全部読むの大変だったんだけどなー」
「……はいはい」
 がっくりと肩を降ろし、忠雄は財布の中身の確認を始めた。
「創も三下のお手伝い?」
「まあ、三下が迷惑かけたっていう相手がどんな状態なのかなと思ってね……」
 興味半分、実験材料目的半分といった様子だ。
「二人とも100円アイスでいい?」
「俺はリーベンリールのクッキー&クリームサンド」
「みあおはハーボンダットのチョコチップストロベリーね」
「……はい」

 忠雄がアイスを買って戻ってきたと同時に、都営バスがロータリーに入ってきた。
 そのまま3人はバスに乗りこみ、三鷹市内の都営住宅地へと向かっていった。
 
■幸福を得るには
 雑然とする忠雄の机を眺めていた理都はふと、小さな箱を見つけた。
「……あら、これは何かのプレゼントかしら」
「あっ、それ! あの馬鹿忘れていったわね……!」
「麗香さん、ご存じなのですか?」
「それが今回特集している『幸福のプレゼント』の資料よ。引きこもった本人が受け取ったプレゼントらしいわ。取材に行く時忘れず持って行けと、あれほど言っていたのに……今からじゃバイク便でも間に合わないわね……」
 時計と箱を眺め、麗香は渋い顔をさせる。
「どうかしたのか?」
 はがき整理にすっかり飽きた春華は忠雄のパソコンを使ってネットを楽しんでいた。丁度、ゴーストネットでも幸福のプレゼントが話題になっており、掲示板はその話題でもちきりだった。
「それにしてもすごいぞ、すっかり三下のこと噂になってるぜ」
「……編集部の人間がまた情報をもらしたのね……」
 麗香は頭を抱えて深いため息を吐いた。
 この業界の不思議のひとつに、噂になった分だけ売り上げが伸びるという現象があるが、その反動も大きく、あちこちから苦情や問い合わせが殺到する。編集長としては売り上げが伸びるのはうれしいが、サポート課からの苦情を考えると今から頭が重くなった。
「あのー……よければこれの中身見てもよろしいでしょうか?」
「……ええ、いいわよ。ただし、ちゃんと元に戻してね」
「はい、わかりました」
 こくりと頷き、理都は復元しやすいように、包装紙を破らないよう丁寧に開いていく。
 箱の中身は小さなくまのぬいぐるみだった。胸元に金のメダルを下げた本格的な素材のものだ。
「あら、なかなかセンスのあるプレゼントじゃない」
 麗香も中身を見るのは実は初めてらしい。箱の大きさから装身具の類いと思っていたが、予想を反した可愛らしい中身に思わず表情を緩めた。
 だが、それとは対照的に、理都はぬいぐるみについているタグや足の裏のサインを眺めながら、徐々に表情を険しくさせる。
「これって結構高価な代物ですよね……あのバッグといい、何か関係があるのでしょうか?」
 理都は春華と少し席を交代してもらい、掲示板をひととおり読み、ひとつの記事に目を止めた。
「……これですね……」
「……なになに『プレゼントを贈る時の注意点。1:もらったものとは絶対に被ってはいけない。2:もらったものより安いものを贈ってはいけない。これらを破った者は必ず不幸になります』……どっかの詐欺商法みたいな話ね」
「なあ、それって……後からもらう奴はとんでもない代償を受けるんじゃないか?」
 物の価値はひとそれぞれとはいうが、ある程度のものならばその価値はすぐに分かるだろう。理都がもらったバッグも著名なブランド品であるし、くまのぬいぐるみも丁寧な造りから、それなりに価値のあるものだとは容易に推測出来る。
「そういえば被害にあったって子……ただの高校生って話だったわね。高校生にエメルスのバッグ以上の物を用意しろ……か、確かにそれは難しい話だわ」
「最近はそーでもないだろ?」
「高校生にも色々いるけど、普通はそうなのよ」
 さらりとツッコミを入れる春華に麗香は苦笑いを返した。
「もしかすると、引きこもられた子は……完全にこの話を信じているのかもしれませんね」
 外に出れば、いつ自分に不幸が襲いかかるか分からない、だから外に出られないのではないだろうか……?
 掲示板の最近の書き込みに、それとよく似た心境の告白が多く書かれている。だが、それに対するレスはどれも不安をあおるか同情するだけで、回答にまでは至ってない。
「一種のパニック症みたいなものね、こりゃ三下クン苦労するわ」
 心配するかのような内容とは裏腹に、麗香は楽しげな口調でつぶやいた。
「それで、このプレゼントはどうしましょう?」
「ああ、取りあえず元に戻しておいて。三下クンが帰ったらガツンと叱っておきましょ」
 帰ってくるのが本当に楽しみね、と麗香はにこりと微笑んだ。
 
■扉を開けて
「娘さんは……この中ですか?」
 案内された部屋は2階の隅の奥まった場所だった。
 扉には何もついてないが、ドアノブだけはかなり真新しかった。つい最近、カギ付きのものに取り替えたらしい。
 扉を叩いてみるも返事はない。内側から鍵をかけているため、中に入ることは不可能だ。
「名前はなんでしたっけ……?」
「三下、ちゃんと資料見なきゃだめじゃない。『小笠原由美』ちゃん、だよ」
「ああ、そうそう。由美さーん、ちょっとお話だけでも……お願い出来ませんか?」
 名を呼びかけながら、忠雄は何度も扉を叩いた。だが、相変わらず返事はない。
「仕方ない……ちょっと強行手段に出ますよ。音切さん、海原さん、協力してくれますか?」
 忠雄は数歩下がり、思いきり扉に体当たりを始めた。
「……鍵が開かないなら、そうするしかないな」
「三下、ちょっといい?」
 みあおの小さな手がそっと忠雄の腕に触れた。
 その時一瞬だけ、妖艶な女性の姿がみあおの姿に重なったように見えた。が、それは瞬きをする間にかき消え、見つめ直した先にはいつもの幼い少女の姿しかなかった。
「多分、次できっと開くよ……」
 みあおの言葉を信じ、忠雄は思いきり扉にぶつかっていった。
 
 ガキィン!
 
 大きな音を立てて、扉は奥に開け放たれた。
 その先にあるベッドの上に少女はいた。ひざを抱え、必死に何かをつぶやきながら震えている。
「……由美……さん?」
「……不幸がくるの……わたし、あんなより立派な贈り物なんて出来ない……外に出ちゃだめなの……皆が不幸になるの……!」
「いや、君は何ももらってない。この間、旨いものを食べただけだ……」
 そっと少女の傍らに佇み、創は手に乗せていたやじろべえを少女のひざの上にそっと乗せた。
 見る間に震えが止まり、少女は呆然とやじろべえと創を見上げる。
「……あなたは?」
 創が口を開くより早く、少女の父親が彼女を抱きしめた。
「なに、お父さん……どうしたのよ……」
「由美……! 相談に乗らなかったお父さんが悪かった……! 許してくれ!」
「なによ、もう。恥ずかしいじゃない」
 親子の様子を眺めながら、みあおはこっそりと創に囁きかけた。
「何したの?」
「ちょっと記憶をいれかえたのさ。昨日の俺の記憶と、彼女の……忌わしい記憶を、ね」
 しばらく2人きりにさせてあげよう、と3人はそっと部屋を後にした。
 
●箱が残したもの
 本人に許可をもらい、みあおはパソコンの中に入れてあったログをひととおり確認した。
 メールの内容は特に大したものは見当たらない。
 が、ブラウザの履歴にゴーストネットのURLを見つけ、みあおは迷わずそれをクリックした。
 URLの先はゴーストネットの相談掲示板だった。
 その話題はもっぱら『幸福のプレゼント』についてだった。誰に送っただとか、中身は何だったか……受け取ったらどうすればいいか等、様々な内容が飛び交っていた。
 その中に由美が書き込んだと思われる内容もあった。最初の方はログがすっかり流れてしまい、もう読むのは難しかったが、中盤辺りから、プレゼントを出さない彼女を中傷する内容へと明らかに変わっていた。
「……これはもう読まない方がいいね」
 資料として使えるかもしれないので、うかつに消すことは出来ない。
 とりあえずの手段として、管理人である瀬名・雫にみあおは携帯メールを送った。
「由美ちゃん、このパソコンの中身、ちょっといじってもいい?」
「……ええ、メールは消さないでね」
「うん、もちろんだよ」
 そう言ってみあおはブラウザを履歴とキャッシュをリセットさせる。ブックマークにゴーストネットの名前はない。恐らく、リンクをいろいろたどった末に、偶然この場所へ行き着いたのだろう。
「あ、そうだ。由美ちゃん、良かったら携帯のメール交換しない? 何かあった時はみあおが相談相手になってあげるよ」
「え? よく分かんないけど……交換してもいいよ」
「由美ちゃんのも赤外線ついてるよね……これでよし、っと。それじゃよろしくね!」
 得意の満面の笑顔を向けて、みあおは元気にそう言った。 
 
■ご報告
 それは取材を終えた帰りのことだった。
 バスを待っている間、忠雄は鼻歌まじりに、創が手に入れた少女の記憶と父親の話をまとめあげていた。
「三下ごきげんだねー」
「ここまで取材がしっかり取れたのは久しぶりだよ、編集長もきっと僕のことをほめてくれるだろうなー……」
 
 その時、忠雄の携帯から軽快な行進曲が流れてきた。
「編集部から……? 何だろう?」
 不思議がりながらも、忠雄はおそるおそる電話にでた。
『よぉ、三下かー? 取材はうまくいったかー?』
「伍宮さん!? 何で編集部からかけてるんですか?」
『ん? だってまだ俺、編集部にいるしな……あ、もしかして編集長かと思った?』
「まままままさか……!」
『まあ、とにかくお疲れさん。あ、そうそう土産に何かケーキでも買ってきてくれよ。編集長がたっぷりと話がしたいんだってさ』
 そう言い終わると回線は切られてしまった。ツーという無機質な機械音を聞きながら、忠雄は思い付く限りの嫌な予感を頭の中にめぐらせ、がっくりと肩を下ろす。
「あああ、やっぱり……怒られるのかなぁ……」
「三下また何かしでかしちゃったの? 大丈夫、みあおがなんとかしてあげるよ!」
「いや……それは本人のためにならない。再発防止のためにも、きっちり怒られた方がいい」
 みあおの提案をきっぱりと否定する創。
「あ、バスが来たよ。乗ろう、三下」
 しょんぼりとうずくまる忠雄の背をみあおは軽くたたいてやる。
 駅へ向かうバスはゆっくりとバス停に近付いてきていた。
 バスが近付いてくると共に、少し肌寒い秋風がゆるやかに3人の間を駆け抜けた。
 この風が一緒に嫌な気分も運んでくれないものかと、忠雄はちょっぴり思うのだった。
 
 おわり
 
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/ PC名 /性別/年齢/   職業   】

 0366/高橋 理都/女性/24/スチュワーデス(FA)
 1415/海原みあお/女性/13/小学生
 1892/伍宮 春華/男性/75/中学生
 3579/音切 創 /男性/18/実験体(組換能力体)

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■         ライター通信          ■
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 お待たせしました。
 「幸福のプレゼント」をお届けします。
 
 まず、三下忠雄氏の2人称を「(名字)さん」に変更しています。
 以前、アトラス内の私の依頼に参加された方は違和感を感じたかもしれませんが、どうぞご了承下さい。

 インターネットがなかった時代、噂話というものは実に狭いコミュニティ内に広まる程度でしたが、今現在はネットのおかげで日本国内はもちろん、海外にまであっという間にまんえんしてしまいます。
 こういった「不幸・幸せの〜」の噂も、ものすごい早さで広まるみたいですね。なんだかウィルスみたい。
 
海原様:ご参加ありがとうございます。みあおちゃんの幸運の力、ほんの少しだけ使わせていただきました。気が張っている間は大丈夫かもしれませんが、家に帰ってからどっと疲れがでてしまったかもしれません。今回は雑務が多かったかんじですね。お疲れさまでした。
 
 それでは、また次の物語でお会いできるのを楽しみにしています。
 
 文章執筆:谷口舞