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<幻影学園奇譚・学園祭パーティノベル>


大正浪漫異聞−恋せよおとめ−


 時は大正――民主主義(デモクラシー)の真っ盛り。

 所はヒノモト・ニッポン――大日本帝國、東京府なりや。
 花の都は天下泰平、事も無し。
 軍刀シャカシャカ鳴り響きゃ、風にハモニカ金糸雀(カナリヤ)の夢。
 モダンなシールコートに身を包む、麗しの女(ひと)よ、君の名は。
 海老茶の袴を翻し、彼(あ)の娘(こ)の揺らす長い髪。
 詩(うた)はゲーテかバイロンか。ハイカラ女学生は都の西や目白台。


♪(ゴンドラの唄 大正四年/吉井勇 作詞・中山晋平 作曲)
 ―いのち短し恋せよおとめ
 ―黒髪の色褪せぬまに
 ―心のほのお消えぬまに
 ―今日はふたたび来ぬものを


 ロイド眼鏡にチリリン自転車、夏姿ならカンカン帽。
 洋装のバンカラ車掌は洒落男。
 読むはアワヤかチャンバラか。
 ご自慢の鉄道靴は手印運動靴(ズック)の三足分なり五円三十銭。
 内地ならば送料なんと十八銭。安くて丈夫だ紳士の味方。

 キネマ女優のよなカフエーの女給に「白蓮しない?」と言や平手打ち。
 怒った顔が鯔背(いなせ)じゃないか。染まった双頬がなお愛し。
 帰路に絵ビラ(ポスター)の美女に笑まれ、サクラビールをちょいと一杯。
 気取って頼むは海軍コロツケ。ポテートなんてな粋だねホイ。 
 ほうら御覧よ、軍人さん。月のうさぎもダンスする。
 東京の可惜夜(あたらよ)は斯くも長くて御座候。


♪(東京節 大正八年/アメリカ民謡/添田さつき 作詞・編曲)
 ―ラメチャンタラ
 ―ギッチョンチョンデ パイノパイノパイ
 ―パリコト パナナで
 ―フライ フライ フライ


 声高らかに謳ひませ。吾等が都、文明開化の帝都万歳。
 夢幻の刻よ――嗚呼、花の大正浪漫(ろうまんず)


□■


 大正元年以降、東京の街にはプランタン、パウリスタなど数々のカフエーが誕生した。

 大正三年、サラエボ事件を発端に墺太利洪牙利帝国(オーストリー・ハンガリア)がセルビアと開戦すると、独逸・オスマントルコ帝國が墺太利洪牙利帝国に協力。
 露西亜帝國・亜米利加・佛蘭西・大英帝国・伊太利がセルビアを助けた。
 其の戦火はやがて東洋にも飛び火し、全世界を巻き込む世界大戦へと発展した。俗に言う欧州大戦(第一次世界大戦)の勃発である。
 吾等が大日本帝國も白耳義(ベルギー)・中国等と共に連合軍(セルビア側)に参加し、大正七年十一月、独逸・墺太利洪牙利帝国が降伏、休戦条約に調印。
 翌年には巴里にて会合が開かれ、同年六月、ヴエルサイユ条約が結ばれた。

 そんなきな臭い時代ながらも、我国に戦禍が及ぶ事は無く、大いに大戦景気を満喫したので御座います。
 何しろ戦場は遠く離れた海の向こう。商売敵は戦争で商売どころの騒ぎではない。
 日露戦争後よりずっと続いていた国の財政悪化による景気停滞は、この長期にわたる戦争で一気に吹き飛んだのである。
 いくつもの新規大工場が出現し、日本の国富は年率十二パーセント以上の上昇。
 此の戦争において、日本帝國の生産力はたった数年で、其れまでの二倍に拡大したとすら言われる程の発展を遂げる事となった。
 其の工業生産力は、大戦中に同じく著しい成長を遂げた亜米利加に次いで、世界第二位の座に至っていた。
 そうなると一般大衆の経済力も鰻上り。
 其れに伴って欧州式のモダンなカフエーが数多く誕生し、大正十四年には東京市内で働く女給の数は二万八千人を超えたとか。

 大きな戦争中とは言え、大日本帝國――殊に帝都に於いてはダイナマイト、ドンパチなんざ関わりのないお話。
 ――つまり、世界情勢とは関係なく、大正浪漫と言えばカフエー。カフエーと言えば大正浪漫なので御座います。


□■


 さて、時はずんどこずんどこ経ちまして、所は変わらず東京の、此処は幻影学園のとある教室。
「こりゃマジで眼福、眼福。生きてて良かった♪ な、そう思わねぇ?」
 生成りの詰襟シャツの上に、鳩羽色の麻の単、鶯袴姿の高台寺・孔志(こうだいじ・たかし)の恰好だけを見れば書生風ではあるが飽く迄も“風味”である。
 何しろ景気よく開かれたシャツの襟。着物の袖に手を通す事は無く、身に着けた意味を問いたくなる程に開かれた衿の中で腕組みをしている。
 本人曰く『ヤンキー書生姿』らしい。ヤンキー書生って何デスカ。原稿用紙三枚以内で説明しなさい。
 まぁ、良い。風味なんだから。例にあげるなら“みりん風味”のようなもの。
 腐った蜜柑は蜜柑に違いないが“みりん風味”は“みりん”じゃないですから――残念ッ!
 東京だよ、おっかつぁん斬り!←意味はない
 そんな訳で、話を振られた人物――嘉神・真輝(かがみ・まさき)はと言えば……気だるげに「ふわぁ」と大欠伸を一つ。
 聞いちゃいねぇ。 
 こちらは白地の着物に紺の袴、頭には学生帽子の爽やか3組……じゃなく3年B組(続けてとある言葉を叫びたくなるのは気のせいか……)の爽やか書生だ。
 しかし、どうにも覇気のない表情なのは何事か。
 本日、大正浪漫喫茶『浪漫亭』に顔を揃えた面子の中で、愛くるしい娘達に囲まれて至福の時を過ごす幸運に恵まれた野郎は以上の二名だ。
 とまぁ、それは外野の揶揄で、本人達に自覚があるかと問われれば、ヤンキー書生は兎も角、一見爽やか君(命名)にはなさそうである。
 低血圧、低体温で常のテンションがこれのようだが、動きが鈍る寒い季節には岩場に出て日向ぼっこするのが日課と見た! キラン☆(変温動物じゃありません)
 いや冗談だってば睨んじゃイヤン。ってまた聞いてねぇや。ぼーっとウエハースかじってます。そっとしておこう。
 一方どう見ても高血圧ってよりか、むしろ高気圧な孔志は既にエンジンフル回転である。
 口と手足は勤勉なようだが脳は働いていやしませんので悪しからず。
「女学生姿ってのはいいもんだな……こんなチャンスはそうそうねぇからな、死ぬまで忘れねぇようにしっかり目に焼き付けておかねぇと!」
「孔志さんったら……大袈裟ですよ」
 無駄に元気な孔志が一人頷くのに、柏木・アトリ(かしわぎ・あとり)は苦笑して返す。
 矢羽着物に江戸紫の袴。大きなリボンが一際目を引くハイカラな女学生姿でありながら大和撫子然とした凛とした美しい女性だ。
「大袈裟なんかじゃねぇって! 姫……なんなりとお申し付けを」
 恭しく畏まってみせる孔志にアトリから思わず笑みが零れる。お嬢様と下僕か? ……どんな間柄なのやら。

「ちょお、そこ! やかましーにぃちゃん、いつまでも何しとん?! バリ忙しなんねん、暇無いねんて。今のうちにゴリゴリ準備してや」
 ぴしりと指差したのは浅蘇芳色の着物に真っ白なふりふりエプロン姿の笹原・美咲(ささはら・みさき)だ。
 テンション的に言えば孔志に負けてない。
「やかましーにぃちゃんって……」
「ん? うち2年〜♪ あんた1年やろ? いっこ上神様精神やで♪ ほな、掃除よろしゅう」
 有無を言わさぬ笑顔で掃除道具一式を手渡す。ってか何ですか、それは。一億総勢火の玉精神じゃないんだから。
「いっこ上神様精神て……んじゃ、あいつにゃ逆らえねぇんだよな? おまえ」
 渡された道具で両手を塞がれた孔志が顎で真輝を差す。
 自分の与り知らぬ所で話題にされてしまった爽やか書生は、爽やかからは程遠い虚ろな視線を空に向けている。
 それでも「そんなアンニュイなところがいいのよね♪」とは密かに彼を見守り、時には傍迷惑に付き纏う女生徒談。
 最高学年になった今でこそ、無邪気と書いては邪気がありまくりな気がして止まない後輩に囲まれはするものの、先輩が居た頃よりは随分平和になった。
「何ちょろこい事言うてんの。世の中、下克上やねんで。……そやし、“おまえ”て誰のこと言うとん?」
 サラリと矛盾してます美咲さん。しかも既に話題すり替えて、に〜っこりプチっとキレてるし。見事だ。
「美咲ちゃんの手も止まってる気がするけど……」
「そうだ、そうだー!! いいぞ! みどり、もっと言ってやれ!」
 彩峰・みどり(あやみね・みどり)がぼそりと呟けば、孔志が味方を得たようにヤンヤと乗っかる。
「いちいち気にしなや“カワイイ後輩”」
 後輩の部分を惜しみなく強調した美咲は満面の笑顔でぐりぐりぐり〜と足を踏む。しかもこれは孔志限定スペシャルメニューのようだ。有り難くはない。
「あか〜ん、阿呆相手しとる場合ちゃうわ。みどりちゃん、メイド服よぉ似合うてる〜。あ。そや! 後でツーで写真撮ろ? なっ♪」
「うん。美咲ちゃんもとっても可愛いよ」
 色とりどりの衣装に身を包む彼女らは、まさに蝶よ花よ。

「ほらほらほら、みんな。霞波さんはあんなに綺麗なお花を飾ってくれてるんだから愛華達もお仕事、お仕事!」
 実家が喫茶店を経営しており、看板娘として店を手伝っている桜木・愛華(さくらぎ・あいか)は慣れたもので的確に指示を出している。
 この出し物も彼女のアイディアだった。
 唐紅の着物に濃紺の袴でくるくるとよく動く。彼女の揺れる路考茶の髪が自然と皆の心をも躍らせるようだ。
「どんと愛華に任せなさい!」
 頼もしく胸を叩く彼女だが、頼もしいというよりは可憐さが圧倒的に勝って逆に守ってあげたいと思わせるのではあるが……それは秘密だ。
「うわー、お花きれいだね」
「ありがとう。花達もそう言って貰えて喜んでると思うわ」
 秋月・霞波(あきづき・かなみ)はみどりの言葉に柔らかく笑んだ。
「そうだわ、少しお花が余ったから皆さんの髪にも飾りましょう。自然の簪……どうかしら?」
 霞波の提案に少女達の顔が綻ぶ。
「若いっていいわねぇ、無邪気で」
 浮き立つ少女らを眺めていた橘・都連(たちばな・つづれ)がぞんざいに言葉を吐く。
 どうでもいいが一番若いのはキミだ。
 彼女はもう一人――底辺(食物連鎖だとすればミジンコ←マテ)の孔志と同じく一年生コンビ、しかもクラスメートである。
 いや、別にお笑いコンビを組んでるワケじゃあないが。
「そゆ事言われると俺が年寄りみたいな気がしてくるな……」
「大丈夫だよ! まきちゃん先輩は女の子に見えるしっ!」
「関係ないだろ、それ……」
 ええ。みどりの言葉は慰めにも励ましにも何にもなっちゃいない。気にするな、まきちゃん。……きっと無理だけど。
「そやけど、嘉神にぃさん。ほんま何でこっちやあらへんの?」
 首を傾げた美咲が「こっち」と指差したのは予想通り女学生な衣装だ。
「…………っ」
 ぴしっと音を立てて真輝の額に青筋が浮かび上がるが美咲に悪気はないのだ。……恐らく。耐えろまきちゃん。
「えーっと……みんな笑顔、笑顔! ね、にっこり笑って“いらっしゃいませ〜♪”ですよ」
 愛華が玉虫色に澱んだ空気を払拭しようと必死に繕うが――。
「ハァ?! 笑顔?! タダでくれてやる笑顔なんて都連にはないわよ!」
 ……大丈夫だろうか。

「アトリさん、何をなさってるのですか?」
 沢山の和紙を広げて作業をしていたアトリの手元を覗き込んだ霞波が訊ねた。
「折り紙ですよ。これは蝶々です。こちらは金魚で、箸置きにならないかしらと思って……」
「とっても素敵ですね。お花も合わせて飾ろうかしら?」
「それは好いですね。三方を折りますから、その中に飾ってはどうでしょうか?」
 笑顔を向け合う彼女らの手でテーブルの一つ一つがテーマ毎にコーディネートされてゆく。
「すごぉい! 可愛い♪ この鶴さん親子なの?」
 通り掛った愛華が瞳を輝かせる。
「連鶴ですね。はさみが必要なのですけれど、後で作り方を教えましょうか?」
 紫陽花、朝顔、椿、睡蓮、菊、兎、蜻蛉、風鈴……色とりどりの和紙が、まるで魔法にかかったかのように姿を変えてゆく。
 霞波によって添えられた花も愛らしく微笑んでいるようだ。
「記念やし写真撮ろ♪ これは撮らな勿体ないやんな? って事で嘉神にぃさん早よ、早よ」
 賑やかさに釣られた美咲がすかさず第一のモデル(犠牲者とも言う)を指名する。
「そこでなんで俺かっ!」
「あー、ちゃうちゃう! もっと雰囲気出してくれな、にぃさん。うーん、小道具欲しいな、詩集やら。なんや、こう……薄幸の苦学生みたいな」
 真輝の反論は一切合財聞き流されるらしい。
 そして一体何を求めているのやら。
「はいはい! モデルなら都連しかいないでしょ?! 撮らせてあげるんだから感謝してよね」
 気付けばきゃいのきゃいのと大撮影大会。若く明るい女学生にかかれば準備も楽しいもの。
 最終的にカメラマンにおさまっていたのは、矢張りと言うか何と言うか、ミジンコ……じゃなかった、孔志である。
「さ、さ。姫達も一緒に」
 アトリと霞波にカメラが向けられる。
「でも、まだお花の準備が……」
「馬鹿言っちゃいけねぇや。主役の花はこっちだって♪」
「もう、孔志さんたら」
 くすくすと笑った彼女らの、まさに花のような笑顔は永遠に色褪せる事はないであろう。


□■


「珈琲チケットが五銭になってるんだね。すごい凝ってて面白い〜」
「教室だって判んないほど可愛いよね!」
「美味し〜vv」
 大正浪漫喫茶『浪漫亭』の評判は上々。開店早々から大賑わいだった。
 甘い香りとノスタルジックな雰囲気。それに愛らしい女給さん、料理の腕も天下一品とくれば当然であろう。
 しかし、多くの客が訪れれば中には困った輩がいるのも世の常である。
「いらっしゃいませー。ご注文は何にされますか?」
「んー……何にしよっかな。とりあえずキミ。みたいな?」
 にっこり笑って接客するみどりに卑しい含み笑いを浮かべた男達が言う。
「……あのご注文は?」
 負けじともう一度笑顔で訊ねるが、男達はただニヤニヤと顔を見合わせて笑うばかり。
「テイクアウトは出来ないの? それか、餡蜜におまけで女の子がついてくるとかさ」
「当店ではそのようなサービスは行っておりませんので……あの……」
 まぁ、普通の喫茶でそんなサービスやってるわきゃあない。それに曲がりなりにも学園祭だ。
「つれない事言ってくれるじゃん。んじゃ、隣座って話し相手してよ。なんなら膝の上でもいいけど?」
 あははは、と笑う男達に『ぶちっ』みどりの“何か”が切れた。“何か”とは俗に言う堪忍袋の緒というヤツだ。
「…………いね」
「は? なに、なに? 遊んでくれる気になったの?」
「下賎な人間よ、去(い)ね」

――ヒョォォォォォォォ

 みどりの身体から冷気が発せられ、髪も銀氷の色に妖しく輝いている。

「ひっ!」
 異変に気付いた美咲が慌てて駆けつけて「ご注文は?」と再び何事もなかったかのように聞くと男達は大人しく珈琲を注文した。
 その後、浪漫亭の室温が軽く5度ほど下がったのは言うまでも無い。
「みどりちゃん平気? けったいな客も多いみたいやし気ぃつけてな」
 美咲が男達に見えないように「い〜っ」と舌を出す。

「へぇ。綺麗なもんだな」
 調理場で感嘆の声を上げたのは真輝だ。
 霞波の作り出す色鮮やかな花のサラダに、暫し作業の手を休め見入る。
「これだけは自分で作りたかったので我侭を言ってごめんなさい」
「いや、助かるわ。正直、俺一人じゃ手がまわんないし」
 忙しさに拍車がかかれば、みどりも調理場に入ってくれるが、どうしたものか、途中から彼女の様子が変である。
 黙々と働いてくれるのは有り難いが、彼女が来ると火を使っているというのに寒いのだ。
「やっほー! やっぱりここに居た、まきちゃん!」
「げっ」
 突然声を掛けてきた三人の女生徒に真輝は明らかにげんなりとする。どうやらクラスメートのようだ。
「ねぇ、ねぇ、まきちゃん女学生じゃないの〜?」
「期待してカメラ持ってきたのにねぇ?」
「後でやってよ、はいからさん♪ 絶対そっちの方が似合うよね!」
「煩いわっ! とっとと食って帰れ! 営業妨害め!」
 注文すらまだ取っていないのにダン! ダン! ダン! と抹茶パフエーを三つ並べて威嚇の表情。
「だめだめ。だって、もう販売ルートだって確保してあるんだもん。どっちが営業妨害よ」
「お前ら……ふざけんな」
 そのルートは割り出しておかないと危険な香りだ。

「あっこら! 都連ちゃん笑顔が足りないぞ! ほら、にっこり」
 愛華に窘められた都連が溜息を吐く。
「あぁもうなんで都連がこんな面倒なことしなきゃなんないのかしら……」
 口からはついそんな言葉が出てしまうが、彼女なりに頑張って接客している。……彼女“なり”ではあるが。
「いらっしゃいませー。ご注文は?」
 とりあえずマニュアル通りの台詞は完璧。
「うーん……ちょっと待ってくれる?」
 ちっちっちっ――ただ時間は過ぎてゆく。どうやら、かなり優柔不断な客のようだ。
「ちょっと、いつまで都連を待たせる気? あんたいい加減にしなさいよ。もうあんたはクリームあんみつね! 都連が決めてあげたんだから文句ないわね?」
「は? いや……ちょっと……」
「なに? まさか、都連が決めてあげたってのに文句つける気じゃないでしょうね? あんた身の程を弁えなさいよ」
 いや、都連さんご無体な。
 更にはこんな事も――。
「君、すごく可愛いね。着物にエプロンも似合ってるし。後で一緒に写メ撮ってよ」
 軽いナンパである。確かにクソ忙しい最中に付き合ってやれる暇はありゃしない、が。
「はぁ? 当たり前でしょ。分かりきった事言わないでよ。脳みそ足りてる? やーよ、なんで都連があんたなんかと撮らなきゃなんないわけ? 冗談でも有り得ないわ」
 骨までバッサリである。
「わ〜、ちょっと都連ちゃん〜! お客様ごめんなさい〜」
 慌てて愛華がその場を取り繕う。こんなシーンが度々……ってか毎回のように繰り広げられたのではあるが、大事には至らなかったのは偏に愛華のサポートと都連の容貌の愛らしさ故であろう。

「姫! ここは俺が! 姫はオーダーを」
 アトリの運ぶサンドイッチを強引に取り上げた孔志がウインク。
「え……いいですよ孔志さん。私が運びますから」
「いいって、いいって! 姫がこんな重いもの持っちゃダメだっつの」
 サンドイッチは重いらしい。どんなサンドイッチだそれは。
「それじゃ三番テーブルですのでお願いしますね。あちらの恋人さん達です」
 アトリに教えられ「へーい」と返事を返した孔志はデンッ! とテーブルにサンドイッチを置くなり「あっれぇ?」と素っ頓狂な声を上げた。
 妙に芝居かかっているのが怪しい。
「久しぶりじゃん♪ なになに? 新しい彼氏? へぇ……趣味変わった?」
 何の真似か、女の方に笑顔を向けて語りだす。もちろん紛う事無く初対面だ。
 誰が呼んだか『カップルクラッシャー孔志くん』いや、誰も呼んでない。
「もうっ、孔志さんたら! すみません、人違いです」
 アトリが孔志の手を引き強制連行。裏へ連れ出すと「駄目ですよ、メ」と腰に手を当て注意する。
 孔志はまるで叱られた仔犬のようにしゅんとしてしまったが、すぐに復活するのが若さのシルシ。
 彼の暴走はその後も続いたのではあるが、不届きなナンパ客に対するお仕置きなどは見てみぬ振りをされた。
 いわゆる公認の用心棒ってところか。
「……お客様困りますっ」
「終わるまで待ってるから、一緒にカラオケ行こって言ってるだけじゃん」
 愛華の手を掴み離さない客の手に孔志がもぐさを乗っけて火をつけた。
「あちちちちっ!! てめー、客に何しやがるっ」
「愛華、これがホントの『灸を据える』だな。残念ながら当店では迷惑なヤツは客じゃないんでお引取りください」
 くすっと笑った愛華を見て、安心した孔志は吠える客を蹴り飛ばし見事に退場させた――のだが。
「高台寺、そのライターについて詳しく話を聞こうか?」
「あ……えーっと……誤解だってば! こりゃアレだ。お灸専用のライターで」
 いや、その言い訳無理。諦めろ。
 って訳で、教師にライターが見付かってしまった孔志も引き摺られて一旦退場。

「終わりましたね……」
 最後の客を送り出した霞波が息を吐いた。
「お疲れ様でした〜」
「何や色々あったけどおもろかったよな」
 愛華と美咲がくたりと座り込むと甘い香りが鼻腔をくすぐった。
「お疲れさん。ほい、特製ココア」
 こってり先生に絞られた孔志も戻ってきて、真輝の運んできたココアで乾杯♪
 最後に八人並んで記念撮影。
 もし今日という日が幻であったとしても、夢であったとしても、彼らのこの笑顔は間違いなく本物である。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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●2227/嘉神・真輝(かがみ・まさき)/男性/3年B組
●0696/秋月・霞波(あきづき・かなみ)/女性/2年B組
●2155/桜木・愛華(さくらぎ・あいか)/女性/2年C組
●2528/柏木・アトリ(かしわぎ・あとり)/女性/――
●2936/高台寺・孔志(こうだいじ・たかし)/男性/1年C組
●3057/彩峰・みどり(あやみね・みどり)/女性/2年C組
●3202/橘・都連(たちばな・つづれ)/女性/1年C組
●3315/笹原・美咲(ささはら・みさき)/女性/2年C組


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■         ライター通信          ■
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 この度はご発注有難う御座いました。幸護です。
 納品が遅くなりまして申し訳ありませんでした。


・嘉神真輝さま
 はじめてのご参加有難う御座います。
 まきちゃんの写真販売ルートがあっち(どっち?)じゃない事を祈っております(笑)
 この後、クラスメートに捕まってはいからさんにされてないと良いですが。
 えーっと……頑張って、まきちゃん<何

・秋月霞波さま
 初めてのご参加有難う御座います。
 霞波さんらしさが出せましたでしょうか? 学生という設定になりますので
 普段の設定とは異なりますけれどイメージが違わなければ良いのですが……。

・桜木愛華さま
 はじめてのご参加有難う御座います。
 とても可愛らしいお嬢さんで、その愛らしさが出せていたかどうか心配です。
 今回は皆さんを引っ張るお姉さんっぽくなりました。如何だったでしょうか?

・柏木アトリさま
 はじめてのご参加有難う御座います。
 アトリさんの和紙で素敵な喫茶店になりました。
 凛と美しく、心優しいアトリさんらしく描けていれば嬉しいのですが。

・高台寺孔志さま
 シチュノベに続いて二回目のご参加有難う御座います。
 色々とごめんなさい。ミジンコとか底辺とか、あとライターも見付かってみました(笑)
「ヤンキー書生姿」についてのレポートお待ちしております<嘘

・彩峰みどりさま
 はじめてのご参加有難う御座います。
 早々に雪女モードに突入してしまいましたが宜しかったでしょうか。
 狭い教室に人が溢れかえっては暑苦しそうですので、エコロジーな冷房は有り難かったと思います(笑)

・橘都連さま
 はじめてのご参加有難う御座います。
 普段の都連さんよりはちょっぴり成長した設定でしたが、女子高生はいかがだったでしょうか?
 都連さんにとって楽しい思い出になっていれば嬉しく思います。

・笹原美咲さま
 はじめてのご参加有難う御座います。
 幼少時より京都で育ったという事でしたが、普段は京都弁は使わないようにしているとの事でしたので
 ベタベタの大阪弁にしてしまいましたが、宜しかったでしょうか?
 元気な関西弁の女の子が大好きですので書いていてとても楽しかったです♪

□■

 この度はとても楽しく執筆させて頂きました。ご参加下さった皆様、有難う御座いました。
 また皆様とお逢いする機会に巡りえる事を祈りまして、この辺で筆を置かせて頂きます。


幸護。