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<幻影学園奇譚・学園祭パーティノベル>


屋台の醍醐味


 ――プロローグ

 シオン・レ・ハイは行き倒れそうな顔色で、タイヤキ屋の数メートル後ろで愕然としていた。握り締めていた所持金は百円。今時百円ではタイヤキを買うことはできないらしい。シオンの頭をタイヤキが回っている。
「ああ、私のタイヤキがあ」
 見知らぬ生徒が買ってスタスタと去っていくのを見送りながら、シオンは涙も堪えずがっくりとうなだれていた。
「シオンさん」
 温和な声がする。顔を上げると、セレスティ・カーニンガムが目をほそめて微笑んで立っていた。片手にステッキを持っている。
「よろしければ、なにかお食べになったらいかがでしょう。大丈夫、お代は私持ちですから」
 セレスティは穏やかにそう言った。
 シオンはその場で飛び上がるほど喜んだ。
「うわーい、じゃあご一緒にジャンボ屋台を回りましょう! 休憩所がありましたら、お礼に似顔絵も描きます」
 まず、そういうことで一人連れてジャンボ屋台へ入ることになった。
 
 ――エピソード
 
 シオンは元々目先のことに神経が奪われて、こういった人込みだとしょっちゅう人にぶつかるので、謝り通し謝られっぱんなしなのだが、今回もホットドッグ屋の前でハデに銀髪の美少女とぶつかった。シオンはどんという反動に見事に押されて辺りに何もないのにシオンはすっ転んだ。頭をクラクラさせながら立ち上がると、ぶつかってきた少女が口を開く。
「大丈夫か」
「平気れすールーナさん」
「お詫びにホットドッグを……二つ」
 セレスティがいえいえとゆっくり首を振る。彼女の銀髪の髪が揺れる。
「私は結構です。シオンさんに差し上げてください」
 ルーナは金髪のやけに人の良さそうなホットドッグ屋からホットドッグを一つ買って、シオンに手渡した。
「ホットドッグゲットです」
 シオンはがっつりそれを四口で食べ終えてから
「マスタードは苦手でしたー」
 涙目になって二人に訴えた。二人は可笑しそうにシオンを眺めている。


 シュライン・エマは屋台で買ったお好み焼きを持て余していた。とてもおいしいのだが、一人で食べると最後はいつもお腹がいっぱいになってしまう。もったいないわね、と逡巡していると、フラフラと見慣れた顔が屋台を横切って行った。
 シオン達だった。シオンが屋台を巡っているのならば、色々となんとかして食べ物を手に入れているだろう。ちょうどいい、お好み焼きの半分を食べてもらいたいし、他のたこ焼きを一個だとかも譲ってもらいたかったので、シュラインは慌ててシオンを追いかけた。
「シュラインさーん」
 シオンはセレスティに買ってもらったばかりのたこ焼きを片手に、嬉しそうに目をまたたかせた。
「丁度良いわ、もしお腹が減ってるようならコレ、食べてもらえないかしら」
「お安いごようです」
「あと、たこ焼き、一個分けてくれる?」
「もちろんです!」
 シュラインはセレスティとルーナに笑顔で挨拶をした。セレスティは穏やかに、ルーナは優雅に挨拶をし返す。
 分けてもらったたこ焼きを口に入れて、ハフハフとしながら飲み込んでから、シオン一行はまた歩き出した。
 今度のおでんの店先には、神宮寺・夕日がいる。
「うわーい、おでんです、おでんです」
「なににします?」
 夕日は休憩用のテーブルを拭く手を止めて、シオンに言った。
「あ、シオン先輩。おでん食べます? お代はいいですよ。私手伝い賃ももらってないんだし」
 夕日は少し舌を出してみせた。シオンとルーナとシュラインはおでんを見てそれぞれ、ちくわと大根とコンニャクを注文した。
「どうせなら、座って食べて行けば? 飲み物もあるわよ」
 そこへ風紀委員の見回りをしていたCASLLがやってきた。相変わらずの混雑だというのに、なぜかCASLLの回りだけかなりすいている。
「お腹が減りました……シオン、あなたこんなところで食べられるお金を持ってるんですか」
 CASLLは休憩所でおでんを目の前にしているシオンへ言った。シオンは一瞬ギクリとしたが、ふにゃふにゃと笑顔になってCASLLへ答えた。
「皆さんのご好意で食べてます」
 CASLLも夕日の元でおでんを買って、シオンの隣に腰かけた。前にはセレスティとルーナが座っておりシオンの逆隣にシュラインが座っていた。おでんを片手にテーブルへ座ると、すでにお目当てのちくわを食べ切ったシオンが、スケッチブックを取り出してセレスティの似顔絵を描きはじめた。
「あー、シオンせんぱーい」
 遠くから声がして振り返ると、三春・風太がとたとたと屋台に群がる人をかき分けて駆けてきていた。
「風太さん、こんにちは」
「こんにちは。うわあ、絵描いてるんですか、似顔絵ですか。いいなあ、僕も描いてもらいたいなあ」
「どうぞ座ってください」
 シオンは気をよくして四人の似顔絵とCASLLのいたずら書きを見せて、きゃっきゃっと喜んでいる。全員分よく特徴を捉えて描かれていたので、全員がなんとなく納得したような顔をしていた。
 しばらくくつろいだ後、やっぱりまだお腹が減っているということで、今度は五人で歩き出した。次の食べ物は狙うはヤキソバである。ついでにかき氷も食べたい。シオンがヤキソバに並び風太がかき氷に並ぶことになった。
 セレスティが微笑ましげに二人を見ている。
「楽しそうでなによりですね」
「そうだな」
 ルーナが同意した。それからルーナは露店のあちこちを見て回り、そして銀鎖の懐中時計をどこからか入手して戻ってきた。
「それは、お買い上げに?」
 セレスティが訊くと、ルーナは曖昧な笑顔をみせた。
「探し物だったんだ」
 シオンがすっかり方向感覚を失ってヤキソバを片手にウロウロしているのを、シュラインとCASLLが呼ぶ。
「こっちよー、シオンさん」
「しっかりしてください」
 シオンはようやく一行を発見して戻って来た。次いで風太も到着する。
 四人は立ったまま食べたり話しをしたりして、またゾロゾロと歩き出した。
「さっきのヤキソバの店にも夕日さんがいましたよ」
「え? またお手伝い頼まれちゃったのかしら」
「僕のかき氷でもシロップかけてたよー」
 シュラインが頬に手を当てて考える。なんでもヘルプに入っているのだろうか。屋台にいるというのに、それは気の毒だ。
 シュラインは夕日と役目を変わると言って雑踏の中に消えた。しばらくして、すっきりした顔の夕日が戻ってくる。
「あーもー、屋台の売る側なんてやるもんじゃないわ」
「夕日さん、これからジャンボコーナーですよ」
 鼻息荒くシオンが言ったので、夕日は疑問符を浮かべながら彼の視線を追った。そこには確かに、ジャンボコーナーと書いてある。
 ジャンボコーナーの横のコーナーに、なぜかピンクのヒヨコとニワトリが売っている店があった。
「ああ! ニワトリが!」
 今にも絞められるところである。
 シオンは大慌てで駆けて行って、皆さんに募金してもらいニワトリを救うことに成功した。ピンクのニワトリは命の恩人の頭を突いている。
 シオンはニワトリを抱いて、そのジャンボコーナーへ喜び勇んで足を踏み入れた。
 夕日がすでにゲンナリした表情でつぶやいた。
「たこが丸ごと入ったたこ焼きなんてどうやって食べるわけ」
「たーべたーいでーす!」
「いや、だからどうやって」
 シオンはCASLLにニワトリを託し、たこ焼き屋へ走っていく。おいおい、どうやって食べるんだかと思って見ていると、見事に顔に押し付けられ顔に全面的にヤケドを負ってシオンは泣きながら戻って来た。
「じゃあ、次はあれです」
 巧くさばいて屋台を抜けてきたらしいシュラインが合流する。次とシオンが指差したのは、CASLLの背丈はあろうペロペロキャンディであった。シオンはそれを片手で持ち、ぐらりと揺れたところをCASLLが助け、しかしCASLLにも支えられず、残念ながら大きなキャンディーは横倒しになってCASLLを下敷きにした。
 全員でなんとか飴を寄せ、さきほどのシオンのヤケドも心配だったので、ジャンボ屋台前保健室派出所へ二人を連れて行くことになった。
 そこには本当にちんまりした女の子が立っていて、彼女はダボダボの白衣にWITCH付きのDOCTORの文字があった。彼女はレイベル・ラブである。背丈こそ医者とはほど遠いような気はするが、れっきとした医者だ。
 レイベルは屋台前に出した派出所のおかげで、あちこちの食べ物のご相伴に預かっていた。それこそ、何から何まで食べ物が揃っている。シオンは治療そっちのけで目を丸くしていた。CASLLの打撲を適当に治療した後、CASLLはお礼ですとレイベルに福引の券を渡した。
 せっかくなので一緒に引きに行こうということになり、小さなレイベルと共に一行はまた屋台街を歩いた。
 福引の会場で、カラカラと例の五角形の機械を回す。すると出たのは金の玉だった。
 カランカランとベルが響き渡る。
「一等賞、米俵一つでーす」
 ……それは嬉しい……のだろうか。シオンがレイベルを見ると、彼女は心底嬉しそうにガッツポーズをとっていた。
 とにかく米俵を全員で派出所の前まで送り、レイベルに挨拶をして一行はまたジャンボコーナーへ向かった。
 今度のジャンボは並みのジャンボではない……それはもう驚くべきジャンボなのである。
 そうそこには約百五十人前の目玉焼きが焼かれているのだ。シオンはニワトリを抱いたまま、興味津々にそれを眺めていた。
 夕日が目を逸らして一言洩らす。
「気持ち悪い」
「私も」
 シュラインも大量の目玉から目を離した。
「すごいやすごいや!」
 風太の喜んでいる方向を見ると、なんとクレープを三人が折り畳んでいる。三人が折り畳むクレープは、寝かせたままだが、立たせるとシオンの背丈ほどはあるのではないだろうか。
「うわー食べたいなー食べたいなー」
 風太がクレープの方へ寄って行く。
 シオンも目玉焼きの方へ寄って行く。
 他の面々も止めるのは無理と判断したのか、辺りを見回した。
 すると、抽選会なるものがあるのがわかった。受付へ行って聞いてみると、それぞれ抽選で食べる者が選ばれるらしい。
 シオンと風太を無理矢理呼んできて、ついでに自分達の名前も書いて中へ入れる。もし、誰かが当たれば二人に譲ればよいのだ。
「楽しみだなあ」
「楽しみですね」
 風太にセレスティがにこりと微笑んだ。
 ルーナがなんだか照れ臭そうに笑いながら言う。
「やっぱり賑やかなのはいいな」
「そうですね」
 CASLLは腕の打撲を気にしながら、シオンから受け取ったニワトリを撫でていた。ニワトリはコッコッコと鳴いている。あとで飼育小屋へ入れておいてもバレないだろうか、とついCASLLは考えた。

 抽選会が始まり、見事ジャンボクレープは三春・風太の手に渡り、なんと巨大目玉焼きはセレスティ・カーニンガムが手に入れることになった。セレスティは主催者側に有無を言わせぬ笑顔で、その権利をシオンに譲り、シオンは晴れてジャンボ目玉焼きを手に入れることができたのだった。
 しかしジャンボな食べ物のさがとして、さすがの風太、シオンでもその量に圧倒されて全部食べたあとは、あちらこちらに配置されている愛のバケツ行きになるのであった。


 ――エピローグ
 
 保健派出所前の休憩所にて。
 セレスティが少し疲れた声で言った。
「それにしても歩き回りましたね」
「疲れたわね」
 シュラインが、うーんと背伸びをして答える。
 ルーナが紙コップのコーヒーを飲みながら笑った。
「CASLLさんはニワトリを洗えたのだろうか」
「シオン先輩水浸しになってないかなあ」
 あのコンビは、ピンクのニワトリを白いニワトリに戻して飼育小屋にこっそりと忍ばせておくつもりらしい。
「なってるわね、きっと」
 夕日が同意をする。レイベルはそれとはまったく関係なく、派出所に置かれた米俵一つに上機嫌な様子だった。


 ――end
 

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0086/シュライン・エマ/女子】
【0606/レイベル・ラブ/女子】
【1883/セレスティ・カーニンガム/男子】
【2164/三春・風太(みはる・ふうた)/男子】
【3356/シオン・レ・ハイ/男子】
【3453/CASLL・TO(キャッスル・テイオウ)/男子】
【3586/神宮寺・夕日(じんぐうじ・ゆうひ)/女子】
【3890/ノワ・ルーナ/女子】

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■         ライター通信          ■
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「屋台の醍醐味」にご参加くださいまして、ありがとうございます。
ライターの文ふやかです。
パーティー・ノベル初挑戦でのお届けです。あちらこちら拙いかと思いますが、プレイングは反映されていると思います。

少しでもお気に召せば幸いです。
またお会いできることを祈っております。

文ふやか

※修正申し訳ありません!重ね重ね申し訳ありません!ケアレスみす多申し訳ないです。