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<幻影学園奇譚・学園祭パーティノベル>


迷子どこの子?


 ――プロローグ

 自分には不似合いな場所だって――最初からわかっていたんだ……。
 雪森・雛太は今ものすごく落ち込んでいる。くぼんでいると言った方が正しい。どうして迷子案内の係になんてなったのか(立候補したのだが)なんで、こうも小うるさいガキの相手をしなければならないのか、むしろお前等帰れとさっくり切り捨ててやりたい奴等がごまんと。
 いるわけです。どうしろというの、俺に。と雛太は、胸中でひたすらつぶやき続けていた。
 
 ――エピソード
 
 
 大変だ、大変だ! と言う声がして、すでに混雑でおおあらわの放送室へ、三春・風太がおばさんの手を引いてやってきた。
 雛太は眉根を寄せて、老人にも関わらず指をさして訊く。
「やい、なんなんだそれは」
「おばあちゃんだよ」
「だから、なんでここに連れてきたんだよ」
 風太は相変わらずのマイペースで頭をカリカリとかいた。
「嫌だなあ、迷子だから連れてきたんだよ」
 雛太はじっとおばあさんの顔を見て、ボケてるのか? と驚愕した。やめてくれ、ガキだけでも手いっぱいなのにボケたばあさんの面倒まで自分にみろと言うのだろうか。
 雛太は片手に持った迷子帳なる代物を開いて、ボールペンをカチリと言わせてから
「ばあさん、どうしたんだ」
 ぶっきらぼうに聞いた。するとおばあさんは顔を上げて、じいっと雛太を見たあと、静かにつぶやいた。
「じいさん……逝っちまったじいさんに会いたくて」
「……ておい! 会えるか!」
 おばあさんは、歓喜余って泣き出してしまった。
「じいさんや、やっと見つけたわい」
 雛太の手を取っておばあさんはシクシク泣いている。こうなってしまうとどうしようもない。風太に助けを求めると、彼はいつものごとく
「そっかー、雛っちがおじいちゃ」
 言いかけたところを横っ面を思いっきり殴りつけてやり、雛太はなんとかおばあさんの手を離れた。
「ボケ老人に構ってる暇はねえっつうの」
 そこへ電車ゴッコのように綱を持っている、シオン・レ・ハイとキウィ・シラトがやってきた。
「ガタンゴトンガタンゴトン、キキー! 迷子案内所です。迷子の皆さん降りてください」
 シオンが言うと、泣き止んで電車ゴッコを楽しんでいた新たな迷子が輩出された。雛太はシオンとキウィの電車ゴッコに嫌な予感を覚えながら、二人を止めた。
「お前等まさか、……ただ、迷子を探してるだけだよな?」
「そうです、私は迷子見つけ隊隊長なのです。再びパトロールへ行って来ます」
 シュタッとシオンが敬礼をすると、キウィも同じようにシュタッと敬礼をした。
「楽しいねー、シオン電車さんゴッコ」
「迷子も見つかって隕石頑丈です」
「うわーい、隕石頑丈、人生団塊」
 二人は嬉しそうに放送室を出て行った。
 
 
 その頃、神宮寺・夕日とCASLL・TOも迷子探しにいそしんでいた。迷子はいたるところにいたので、捜すのはあまり苦労しない。神宮寺・夕日が小さな子の頭を撫でながら
「大丈夫よ、お母さんに会えるからね」
 笑顔で言うと、小さな子はコクリとうなずいて彼女の手を引いて歩き出す。
 同じようにCASLLも小さな子の頭に手を置いて
「大丈夫だよ、お母さんとすぐに会えますからね」
 と優しい口調で言うのだが、迷子は驚くべき勢いで泣き出して夕日の足にしがみ付いてしまった。心の底からガビーンである。しかしCASLLもめげない。めげずに
「ほら、お兄さんが連れてって……」
「いやあ、怪獣に食べられたくない!」
「……か、かいじゅう」
 おもむろにショックを受けてまっ白になっていると、夕日は二人の子の手を引きながら
「委員長はなにか悪いことをしていそうな奴を取り締まってください」
 CASLLはうなだれたまま、夕日の指示に従って校内を歩き出した。
 しばらく歩くと、廊下の隅で窓を開けている少年に出会った。彼は煙草を吸っている。いけない。この学校はもちろん禁煙である。
「あなた、煙草はよくありません」
 駆けて行ってそう言うと、少年は窓の外に煙草を投げ出してからCASLLを見て、恐れおののいてべたっと廊下に土下座した。
「すいません、すいません、申しません、申しませんから助けてください」
「え? あの、それなら、よいのですが」
「助けてください」
 頼み込まれて、CASLLは本当に困ってしまった。
 
 
 シュライン・エマは人探しでチョコを捜していたのだが、こう雑多な雰囲気の中ではなかなか見当たらなかった。普段とはまったく内装の違う学校は、まるで少し異次元のようだ。ぼんやりとあちこちのモヨウシを見ながら歩いていると、今にも泣き出しそうな幼児の男の子に遭遇した。
「あら? 迷子かしら」
 近寄って、男の子の肩に手を置いてから目線を同じにする。
「どうしたの? ぼく。お母さんとはぐれちゃった?」
 男の子は目に涙を溜めていて、思いっきり舌を噛むのではないかという勢いで首を縦に振った。
「大変ね。じゃあ、お母さん探してあげるからいらっしゃい」
 シュラインは笑顔で言って、男の子の手を引いて歩き出した。小さな子供と一緒だったので、六階の放送室まで上がるのは骨が折れた。そして、放送室はなにやら混沌としている。
「夕日ちゃん」
 シュラインが小さな子二人を連れている夕日に声をかける。夕日は嬉しそうに振り返って、それからシュラインの足元を見た。
「また迷子か」
「そうなの。そっちもよね」
「名前が言えない子もいるみたいよ。雛太くん相当てんぱってるわ。シュライン、この子達任せていい? 中手伝ってくるから」
「うん、いいわ」
 夕日は二人の子供に「お姉さんと待っててね」とやわらかく言って放送室へ入って行った。
 そこには人生相談をするリストラサラリーマンと雛太にすがりつく老婆の姿、そして我関せずに的外れの迷子のお知らせをする零がいた。
「零ちゃん……」
「はい?」
「ちょっと放送席代わってくれる? 雛太くん大変みたいだから」
 零はうなずいて立ち上がる。夕日が円滑に迷子の特徴や名前をあげ、ようやく迷子案内所はそれらしくなってきた。


 雛太の元へは外資系のサラリーマンがやってきていて、相づちがつい「アーハーン?」になってしまうことを嘆いている。意味がわからない。雛太は一応客なのだから突っ込むわけにもいかず、イライラと相談を受けていた。雛太の隣には真剣な顔をした零が座っている。
「相づちがアーハーン? だと困るのでしょうか」
「アーハーン、それはちょっと困るんだ、ハニー」
 というかその言動自体問題ありすぎ。つい雛太は客の頭を引っぱたいた。誰がハニーだ、誰が。
「おじいさんや、一緒に家に帰りま」
「ばーさんも現実を直視しろ。おら、お孫さんとお子さんがお待ちだ」
 おばあさんを蹴り出すように案内所から押し出して、雛太は今度はリストラされたサラリーマンの前に座った。そこへ、三春・風太がやってくる。
「雛っちおつかれさまー、ロシアーンタコ焼き買ってきたよ。おすそわけ」
 しかしそのタコ焼きは一つしか残っていない。
 ……。
 雛太は無言で風太の頭をどつき、ギリギリとこめかみを押さえながら言った。
「てめぇ、当たり全部食いやがったな」
「ええ、当たりはこれだよ、雛っち」
「だーかーらー怒ってんだよ!」
 それを見ていた零が、パクンとたこ焼きを食べた。彼女は一瞬呆然と雛太と風太を見ていたが、突然シクシクと泣き出した。
「わあ、零ちゃんが泣いちゃった」
「うおっ、おい、零泣くな。俺が泣かせたみてえじゃねえか! 泣くな、な? 泣くなよ」
 雛太は見事に狼狽している。
 そしえ風太の方を向いて、心頭滅却した様子で案内所の外を指差し、雛太は言った。
「てめえは出入り禁止だ、二度と来るな、このオタンコナス」
「……オタンコナスなんて、雛っちを思って持ってきたのに」
「うるせえ」
 そこへおずおずとリストラ社員が声をあげる。
「あの……私はこれからどうしたら」
「うるせえ!」
 雛太にとっては零が泣いているのが一大事なのである。
 そこへド派手な制服を着た雪森・スイが現れた。
「迷子になった」
 ポツリと一言雛太に告げる。雛太はそんなものに構っている暇はない。
「盗賊が迷子になるな!」
「いや、しかし入り組んだダンジョンというか」
「やかましい!」
 スコーンと飛び上がってスイの頭を雛太が叩く。スイはまるで動じた様子はなく、
「まあ、落ち着け。今私がお茶をいれてやる」
 と出店で買ってきたのであろうお茶葉でスイは熱いお茶をいれて、雛太と零に差し出した。その間も、神宮寺・夕日の的確な迷子案内は続いている。迷子案内所の混雑は、そのお陰で緩和されようとしていた。
「……これ……こんなの飲めるか!」
 お茶は真っ赤である。しかし、隣の零はずずずうとお茶をすすった。
 雛太はつい沈黙して零を見ていた。零は案の定、しばらくしてからまたシクシクと泣き始めた。
 雛太はスイにお茶をつき返し、零からお茶を取り上げてから、放送室の外へ出た。何か飲み物を買ってこなくては……。思っているところへ、迷子を全員親元へ引き取らせたシュラインが、四人分のジュースを持ってやってきた。
「はい。雛太くんと零ちゃんと夕日ちゃんの分」
「サンキュー姉御」
 方向転換をして泣いている零の元まで行き、雛太はピーチ味のジュースを差し出した。さすがの零も抗体が出来たのか
「飲んでも平気でしょうか」
 鼻声で聞く。
「大丈夫、飲め」
 言ってから雛太は平気でお茶をすすりながら、放送室の機器に興味津々のスイを放送室から追い出した。
 
 
 シオンとキウィの電車は好評だったので、小さな子は皆乗りたがった。一階で五人、二階で三人三階で二人、四階で二人、五階で三人の合計十五人が迷子列車に乗っている。多くの迷子は、親と一緒にいたにも関わらず、電車ゴッコにつられてはぐれてきた組であった。
「到着です」
「とーちゃく!」
 シオンとキウィが迷子案内所の前に着いたとき、そこにいた面々はがっくりと肩を落とした。
「どうしたんです、皆さん?」
 そうこうしている間に、ドドドドドと廊下をすごい人数が走ってくる。
「誘拐よ、うちの子が誘拐されたのよ」
「変な学生が電車ゴッコで」
「うちの子がー!」
 全員がシオンを見た。シオンはきょとんとした顔で、
「私のやっていたのは、迷子列車ですよ?」
 そう言って、ジュースを飲んでいる四人を見た。
「あー、いいなあー」
 キウィが言う。
 シュラインは力なく笑って
「……この騒動が終わったら、一服しましょうね」
 迷子(誘拐?)は全員親元へ帰り、シュラインもお目当ての人物が見つかったからと案内所を去って行った。神宮寺・夕日も、同じくお目当ての人間の後姿に機敏に反応して去っていく。シオンとキウィもジュースを飲んでから楽しげに出て行った。
 最後にCASLLがやってきて困った顔で言った。
「何故か、弟子ができてしまったんですが」
「はあ?」
 CASLLの後ろには、五名ほどの強面の男達が控えていた。
 
 
 ――エピローグ
 
 零と雛太はちゅるちゅるとジュースを飲んでいる。混雑を極めていた放送室は、今は二人だけだった。
 零は珍しく「すごく疲れました」と言って笑った。
「変なものたくさん食べたしな」
 雛太が言うと、零は力強くうなずいて、「どうしてスイさんは平気なんでしょう」
 不思議そうにこくびをかしげる。
「そうだ、雛太さん」
「なんだ」
「お手伝いありがとうございました」
 雛太は鼻をかいてから、そっぽを向いて言った。
「係だからな、係」
「それでもとっても楽しかったです」
 クスクス笑う零の頭を一度撫でて、雛太はふうと大きな溜め息をこぼした。
 

 ――end
 

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0086/シュライン・エマ/女子/】
【2164/三春・風太(みはる・ふうた)/男子】
【2254/雪森・雛太(ゆきもり・ひなた)/男子】
【3304/雪森・スイ(ゆきもり・すい)/女子】
【3356/シオン・レ・ハイ/男子】
【3453/CASLL・TO(キャッスル・テイオウ)/男子】
【3586/神宮寺・夕日(じんぐうじ・ゆうひ)/女子】
【3801/キウィ・シラト/女子】

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■         ライター通信          ■
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「迷子どこのこ?」にご参加くださいまして、ありがとうございます。
ライターの文ふやかです。
パーティーノベル第二弾のお届けになります。場所が限定されているのもあり、少し短いできになってしまいましたが、いかがでしたでしょうか。

少しでもお気に召せば幸いです。
またお会いできることを祈っております。

文ふやか