 |
祭のあと< 祭の後 >
◆
校庭の中央で、燃え盛るファイアストーム。
それを彼方に見やりながら、シュラインは一人校庭の隅に佇んでいた。
楽しそうに目の前で踊っている友人たち。炎に照らされて、彼らの笑顔は一際輝いて見える。
……いいな。私も踊ろうかしら……。
と。
「あー、シュラインちゃんだー!」
「ねえねえ、こんなところで何してるのー?」
話しかけてきたのはクラスメイトの二人。……だが、シュラインが内心苦手としている人だった。
わずかばかり生まれた不快感を押し込め、シュラインは笑顔を作る。
「うん、ちょっとね。人を待ってるの」
「なーんだ。ねえね、そんなヤツほっといてさー、一緒に踊ろうよー」
「そうしよそうしよ、ほら、後夜祭なんだからぱーっといこうよ!」
……こういう強引さが、苦手なのよね。
苦笑しつつも、シュラインは誘いを断り続ける。
そんなシュラインがおもしろくなかったのか、彼女たちは話の矛先を微妙に変えてきた。
「ねえねえ、ところでさぁ。シュラインちゃんって、どうしていつもセーラー服なの?」
「そうそう、ウチの学園ってブレザーなのに」
「ど、どうしてって。うちって制服の改良が認められてるから」
「そうだけどぉ。なーんでわざわざセーラー服着てるのかなーって。そんなにあたしたちと一緒じゃウザイ?」
「そーだよねー、なーんか、付き合い悪いって感じ。お高く止まってるって気がしてさぁ」
「……べ、別にそんなつもりじゃ」
想像もしていなかった言葉に、シュラインは反論の糸口すら見つけられない。
だいたい、そんなこと今は関係ないじゃない! ……そう言ってやりたい気持ちが中で渦巻く。
だんだん表情を険しくしていくシュラインに気づいていないのかそれとも気づいていない振りをしているのか。
彼女たちはどんどん会話をエスカレートさせていく。
もしかしたら、ただ話のタネにされてるだけなのかも。そう気づいた時はもう遅い。
「今だから言うけどさあ、やっぱりぃ、みんなと同じにした方がいいよ?」
「あたしたちの仲だから、わざわざ言ってあげてるんだからね」
「別に理由なんてないんでしょー? だったらセーラー服より、みんなと同じ方がいいって!」
その時。
「こいつがセーラー服が着てる理由なんて、これが一番似合うからに決まってるだろうが」
――聞きなれた声。
慌てて振り向くと、草間武彦が立っていた。シュラインが呆然と見返すと、困ったように頭をかく。
「悪い、遅くなった」
その言葉に何と返したらいいか分からなくて……とりあえずシュラインは、顔をしかめて見せた。
「遅いわよ、チョコ」
「はぁ? なんだよ、チョコって」
と、草間が変な顔をする。
――よく見れば、そこに立っていたのは高校生ではなく、『いつもの』事務所で困ったようにたばこの煙をくゆらせている武彦だ。
年の差のせいかいつだって余裕で、だから。
……もし学生時代に知り合えていたら。同級生だったらそんなこともないのに。
そんなことも思った武彦だ。
「そうね。でも……やっぱりいつもの武彦さんがいいわ」
「あ?」
「なんでもない」
いつの間にかファイアストームも消えうせ、辺りは真っ白な空間になっていた。
自分がまとっている服も、セーラーからお気に入りのスーツへと変わっている。
――真っ白な空間に、ただ二人。
彼方から光が一筋差し込んでくる。あれが目覚めの光だろうか。
「さ、行きましょう武彦さん」
例え体験したことが全て夢だったとしても。
――こうして私の中で、全ての想いがしっかりと焼きついている。
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【0086 / シュライン・エマ /しゅらいん・えま/ 女 / 2-A】
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
ライター通信
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
こんにちは、つなみりょうです。
この度はご発注下さり、誠にありがとうございました。
大変お待たせして申し訳ありませんでした! その分、ご期待に添えていればよいのですが。
今回は幻影学園忌憚、そしてこれが「学園祭」最後(の方の)ノベルになるだろうなーという考えから(笑)「別れ」をテーマとさせていただきました。
そして皆様には、それぞれの大切な方にお迎えにあがっていただいてもらっています。さて、いかがでしたでしょうか?
シュラインさん、今回もありがとうございました!
えと、やはりここは草間さんだろうと(笑)お迎えに来ていただいたのですが。
当初は高校生の草間さんと共に行く、というEDを考えていたのですが、ここはやはり『現実』の草間さんの方がいいかな……なんて思ってこうなりました。
高校生な彼も素敵ですが、やはり大人な草間さんが一番ですよね。
ご感想などありましたらぜひぜひお寄せくださいね。今後の参考にさせていただきますので!
これにて『現実』に戻りますが、そちらでもどうぞよろしくお願いいたします。張り切ってお出迎えさせていただきます。
それでは、つなみりょうでした。
|
|
 |