 |
祭のあと< 祭の後 >
◆
校庭の中央で、燃え盛るファイアストーム。
楽しそうに目の前で踊っている友人たち。炎に照らされて、彼らの笑顔は一際輝いて見える。
……その輪には加わらず、日和は悠宇と二人校庭の隅にいた。
悠宇の腕には痛々しげに包帯が巻かれている。それをちらりと見てから、日和は悠宇を見上げた。
「まだ痛む?」
「いや? 別に最初から痛くなかったし」
それでも、自分の方がよほど痛そうな顔をしていたのか、悠宇はにかっと大きく笑って見せてから、日和の頭をなでた。
「ふーん?」
「どうしたの」
「お前の髪ってサラサラだな」
「どうしたの、悠宇くんってば」
二人の間で交わされる何でもない会話と、穏やかな空気。
例え辺りの賑やかさからとりのこされていたとしても、二人は満ち足りた気分でいた。
「……ねえ、悠宇くん?」
と、日和が口を開く。
「さららちゃんが、これは夢かもしれないって言ってたでしょう?」
「……ああ」
「私ね、なんでだか分からないけど……そうかもしれないって気がするの」
「俺もだ」
短い、同意の言葉。
日和はかすかに迷ってから、再び言葉をつむぎ始める。
「私ね、少し怖くなっちゃった」
うつむく日和の肩を、悠宇が強く抱く。
「こんなに楽しかったことも、あんなに大切に思ったことも……みんなみんな夢のように、消えてしまうのかって」
「日和」
「もし。もしもよ? そんな風に悠宇くんと過ごした時間も、いつか忘れてしまうかもしれない」
「……なあ、日和」
と、悠宇は日和に正面から向き直った。
かすかに高いところから、真摯な視線でじっと日和を見つめてくる。
「俺は、日和のことが好きだ」
「悠宇くん……」
「誰に何と言われようとその気持ちは変わらないし、何が起こったって俺のその気持ちは変えられないよ。
俺はずっと、日和のことをとても大事に思ってる。それは夢だろうが現実だろうが変わらない。
何があったって、俺はお前の側にいるから」
「……ありがとう」
心のうちで凍えてた不安な心が、悠宇の言葉に解かされていく。
と、悠宇がうなだれた。
「かぁ……っ、俺、何恥ずかしいこと言ってんだろ」
いつの間にかファイアストームも消えうせ、辺りは真っ白な空間になっていた。
――真っ白な空間に、ただ二人。
彼方から光が一筋差し込んでくる。あれが目覚めの光だろうか。
例え体験したことが全て夢だったとしても。
――こうして私の中で、全ての想いがしっかりと焼きついている。
「ありがとう、悠宇くん。……じゃあ、あそこまで一緒に行こう?」
そして二人は、しっかりと手をつないで歩き出した。
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【3524 / 初瀬日和 /はつせ・ひより/ 女 / 2-B】
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
ライター通信
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
こんにちは、つなみりょうです。
この度はご発注下さり、誠にありがとうございました。
大変お待たせして申し訳ありませんでした! その分、ご期待に添えていればよいのですが。
今回は幻影学園忌憚、そしてこれが「学園祭」最後(の方の)ノベルになるだろうなーという考えから(笑)「別れ」をテーマとさせていただきました。
そして皆様には、それぞれの大切な方にお迎えにあがっていただいてもらっています。さて、いかがでしたでしょうか?
日和さん、今回もありがとうございました!
悠宇さんへの思いを大切にかかせていただいたつもりなのですが、さていかがでしたでしょうか。
あとさららとの描写も比較的多めにかかせていただいたのですが、受け入れていただければ幸いです。
ご感想などありましたらぜひぜひお寄せくださいね。今後の参考にさせていただきますので!
これにて『現実』に戻りますが、そちらでもどうぞよろしくお願いいたします。張り切ってお出迎えさせていただきます。
それでは、つなみりょうでした。
|
|
 |