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<幻影学園奇譚・ダブルノベル>


真実の追究
 携帯電話が短い音楽を奏で、メールの到着を告げたことを知った。

 新着メールあり

 小窓から表示される言葉に気付いて、メールを開く。
 ひどく簡略な文章で一言二言述べられた文章は、それでも用件だけはしっかりと伝えようと足掻いていた。
 ……多分、伝わった。伝わったと思いたい。
 確信の持てぬメールは一方的に意思を届けられ、不安気にその心に深い色を落としていた。

 それは文化祭の終わった翌日。
 急な呼び出しに、シュラインは片付けのほぼ完了した教室を級友に任せ、適当な理由をつけて教室を飛び出した。メールで一言、しかも意外な人物からのものだったので、彼女の会って言いたいことは想像もつかない。想像がついたところで、彼女の持ち得る台詞の殆どは別の人物の意思であるからして、思考は二重に働かせておかねばならない。彼女の意思と、彼の意思と。
 およそ予想通り、化粧すらしていない無機質な顔で、少女は指定した場所で仁王立ちの侭シュラインを待っていた。
 シュラインは訊いた。
「待った?」
 問いに、“盾”の少女は首を振った。
「なら良かった」
 “盾”の眼前の壁にもたれかかり、シュラインは誰かが何か言うのを待った。待って、沈黙しか聞こえないことに小さな疑問を持った。持って、再び訊いた。
「何の用?」
 簡潔な質問は、“盾”の得意とするところだった。得意だからこそ、それを求めているのだと思っていた。だが実際は、そうでもなかったらしい。口をしっかりと噤んだまま、顔を俯かせるに止まっていた。
「……礼を言いたかった」
 数十秒後、“盾”は漸くそれだけを言った。
「礼? 何かしたっけ? 私」
「“奇術師”の自己欲求に構っていただけて、感謝している。本当に、な」
「それだけを言うために、呼んだの?」
 こくりと”盾”は頷いた。
「ふーん。で、それは“奇術師”に言えって言われて」
 ふるふると首が横に振られる。
「我はただ感謝をせねば納まりがつかぬが故に、来ていただいたのだ。本来なら我が出向くべきなのだが、大勢の人前は好かん。ご足労、感謝痛み入る」
 行動と発言の伴わない“盾”に、シュラインは笑みを浮かべて言葉を幾つか述べた。
 “盾”は軽く動揺したかの如く視線を泳がせ、暫し眼を伏せた後は常の闇の色になっていた。
「……それでは、失礼する」
 立ち去る“盾”の背中を消えるまで見送って、シュラインは壁から背を離す。
「またね」
 小さく言って、小さく手を振った。
 風に靡く髪を抑えて、小さな変化に喜びを噛み締めていた。



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■   登場人物                  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別】
【0086/シュライン・エマ/女性】

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■         ライター通信          ■
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御久し振りです、千秋志庵と申します。
依頼、有難う御座います。

“奇術師”と“盾”の正体はひょっとしたらばれてしまっているかもしれませんが、敢えて秘密な侭で話は終わっています。
もし分かりましたら、「ああ彼らだったのか」と笑ってやって下さい。
話は変わり、シュラインと“盾”は私の中では共に「カッコイイ」女性です。
芯が通っているというか、意思を貫こうとしているというか。
幾ら活躍させても活躍させ足りないくらいです。
そして今回の話は前回と違ってほのぼのとした終わりでしたが、どうだったでしょうか?
兎にも角にも、少しでも愉しんでいただけたら幸いです。

それでは、またどこかで会えることを祈りつつ。

千秋志庵 拝