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<幻影学園奇譚・ダブルノベル>


SWINGU&スウィング

傷ついた少女。止める少年。
少年に向かって生徒会長が告げる。
「君には何も関係ない、これ以上関わるな。それより、最後の学園祭を楽しみたまえ」
彼女は、それを聞いていた。
「‥最後の‥学園祭」

夕暮れの音楽室で、海原・みあおはピアノを弾いていた。
長く白い指がかつての記憶そのままに鍵盤の上を右に、左に踊り‥そして音を作り出していく。
それは、とても気持ちが良かった。
「うん、指は結構動きますね」
このままずっと音に浸っていたかったけれど、そろそろ集合時刻。曲を終え、蓋を閉じた彼女の耳に
パチパチパチ‥
拍手の音が聞こえる。
「誰?」
ゆっくりと後ろを振り向くと‥そこにいるのは一人の女性、いや‥高校生。
始めて出会ったはずなのに、どこか懐かしい‥。
「‥汐耶さん?」
「‥みあおちゃん?」
呼び合ったお互いの名前は小さくて、お互いの耳に入らなかったかもしれない。
それに‥もう忘れた。
「私は、1年C組、綾和泉・汐耶です。お上手ですね」
「ありがとう。あたしは‥海原・みあお。2年C組 今日の夜ね、後夜祭で演奏するからちょっと練習してたんですけど‥」
「あれ? 先輩もなんですか? 私も後夜祭のお手伝いすることになってます。と、言っても私は裏方ですけど」
「あら? あなたも? じゃあ、一緒ね。」
まるで、昔から知り合っていたかのように楽しい気分で、二人は肩を並べた。
そして、ゆっくりと階段を降りていく。
最後の学園祭を楽しむために‥。

「じゃあ、練習始めよっか?曲目はオクラホマミキサーと、ジェンカ。それにああ、この曲でいい? 日和さん?」
はい、と頷く少女はチェロを構えた。仲間たちも準備はOK、吹奏楽部の部室を借りて、夜までの短い時間だがボランティアバンドの練習が始まった。
「やっぱり、人に聞いてもらうんだもん、少しは練習しないとね」
「ええ、みあおさん、そこは少し静かにお願いします」
お互いの意見を出し合いながら、彼女達は音楽を作り出していく。
真剣に、でも楽しく、一人ではできない時を紡ぐ。
「少し休憩しませんか? お茶を入れましたから」
汐耶がもってきた紅茶。珈琲。
ほんの少し音と、手を止め皆で集まった。
「わ〜い、お茶お茶♪」
「くすっ、まるで子供みたいですね」
ティーカップを持つみあおの無邪気な笑顔に、仲間たちはそう言って微笑んだ。

いよいよ本番だ。
深呼吸をしながら、みあおはピアノの前に座る。
『では、ここで特別ゲストをご紹介しましょう。後夜祭の為に特別に組まれたスペシャルチーム『すうぃんぐボーイズ&ガールズ』。吹奏楽にはない楽しいセッションにご期待ください。では、どうぞ!!』
高らかに響き渡る声。みんなの視線と、どこから出てきたのか眩いスポットライトが彼らを照らし出す。
華やかな場、紹介と、拍手。こんな晴れがましい場所に慣れてはいない
「と、とにかく演奏しましょ。1・2・3〜〜♪」
ほんの少しドキドキしながらみあおの指が、ポポン! 鍵盤の上で踊った。
後夜祭の炎を見ながら音を紡ぎだす。

気持ちを全て、音に乗せて‥彼女の心は楽器と一緒に踊りだしていた。

「お疲れ様でした。ステキでしたよ」
演奏が終わったみあおに汐耶はペットボトルのドリンクを差し出した。
紅茶のボトルの蓋を捻りながらみあおは首を傾げる。
さっきまでいた仲間のうちの二人がいない?
「どこに行ったのかな?あの二人。後夜祭はまだこれからなのに」
それを見て汐耶はクスッっと笑う。
「これからだからこそ、でしょう。恋人同士にそういうのは野暮ですよ、ヤ〜ボ♪」
「あ、なるほど♪」
冷たい紅茶の雫が喉を潤す。始まる前に飲んだ紅茶のぬくもりが始まる前の期待の暖かさなら、この冷たさは終わりの寂しさだろうか、とみあおは思う。
「もう、学園祭も終わりね‥」
キャンプファイアーの炎が全てを燃やし尽くしていく。思い出も心も全て。
学園祭の終わりが何かの終わり。
みあおは、そんな予感を感じていた。あの時、あれを見たときから‥。
自分は、本来ここにいるべきものではない。
夢が終わればきっと‥
それは最初から解っていたけど‥
「でも‥楽しかった。最後に思いっきり皆と青春できたしね。‥最後の学園祭に‥最後のステキな思い出‥」
押さえきれない寂しさを抱きながら炎を見つめるみあおの手に、ぬくもりが重なった。
「?」
「まだ、終わってませんよ。最後まで、楽しみましょう!」
「汐耶さん‥」
「それに何かが終わっても、きっとまた新しい何かが始まります。生きている限り‥」
「生きている限り‥そうね。最後まで思いっきり楽しみましょう!」
二人は手を取り合って、輪の中へと入っていった。
人の輪の中で、心と身体を温めながら‥。

「終わりは‥始まり。きっと‥また新しい何かが始まるね」
「ええ、また会いましょう。夢の向こうでも‥」
もう『あたし』が出てくることは無いかもしれない。
でも‥みあおは友と、そう、約束した。
そうしたいと、思ったから。
この思いは‥あたしだけのもの‥


眠る銀の髪の女の子が寝返りを打った。
かすかに揺れた風が何かをベッドの下へと運んだ。
それを、黒髪の娘が拾い上げる。
「まあ、ステキな写真ですこと」
幸せそうな笑顔と照れた朱の頬が魅力的な美少女が、楽しそうに踊る姿。
それは、夢。だが、10年後に叶うかもしれない未来かもしれない。
終わりは始まり。
新しい何かへの‥

‥夢は静かに終わりを告げた。
その断片を静かにそれぞれの心に残して‥。
夢の少女は夢に還る。

『また、会いましょう。夢のむこうでも‥』


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■   登場人物   ■
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【 1415/海原・みあお  /女性 /13歳  /小学生 /2−C】