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<幻影学園奇譚・ダブルノベル>


楽しい学園祭〜心霊写真コンテスト〜
 ――無い。
 無い、無い無い…
 何処か必死に、コンテストの済んだブース内の写真を眺め回している…青。シャツの裾を捲くり上げたベスト姿で。
 先程の衝撃がまだ癒えていない手の平が、ひりひりと痛む。
「くそ…っ。何で、無いんだよ」
 展示パネルを叩き壊さんばかりの勢いで、拳を振るう…が、そのままがくりと手を落とした。
「どうしましたか?」
 その後ろから、そっと、相手を気遣うような声がかかる。SHIZUKUと一緒にこのイベントを手伝っていた、ヒミコの声だった。
「ああ、いや、その…探してる人が、写っていないかなって」
「探している人?」
 小さく首を傾げるヒミコ。青がその真っ直ぐな目に照れたように笑うと、
「ほら。盆踊り大会があっただろ?あの時の写真なんだけどさ」
「ああ…あのイベントも、雫ちゃんが随分楽しんでましたね。ご先祖様が遊びに来るなんて楽しいです」
「うん。まあ、そういうイベントだから、その中に俺の知ってる人も混じってないかって思ったんだけど…」
 ヒミコが、目を細めてそっと笑みを浮かべた。
「…ご先祖様の、お写真ですか?」
「あ、ああ…まあ、そんな感じになるのかな」
 良いですね、そういうの。――そう、呟くヒミコに、
「おまえの先祖は?どんなやつだったんだ?」
 つい、そう訊ねた。青に取ってはいつも気になっている事だっただけに、それはごく自然な問いだったが。
「分からないんです。私、記憶が無くって。だからこの名前も本名なのか分かりません」
 あっさりと返って来たその言葉に愕然とする。
「あ…それは、悪いことを聞いたな」
「どうしてですか?でも、私…今はとっても楽しいですよ」
 にこ、と笑いながら写真を展示してある場所をぐるりと見渡し、
「あの辺ですね、盆踊りのを貼ってあるのは。ちょっと高い所にありますから、見づらいでしょう?今降ろしますね」
「それくらいは俺が…」
 大丈夫ですよ、そう言いながらヒミコが身軽にパネルを降ろして来た。
「――あら?詠子さんの写真が消えてますね」
 その、何気ない言葉にはっと青が並べられている写真を見た。
 …あれだけあった写真が。在り得ない写真が1枚も無くなっていた。審査直前のあの騒ぎの時までは確かにあった筈だ。
 瞬間、青の頭に浮かんだ人物像、それは――審査が始まるまではまともに写真を見もしなかった、生徒会長の姿。同様にカスミもそうだったが、彼女の場合は持ち出すどころか触れるのも嫌がるだろうとあっさり消し去ってしまう。
「影沼くん……ああ。きみもいたのか」
「っ、――ああ、会長」
 突如、思いもかけない人物の声が聞こえ、青が思わず大きく振り返った。
「ありがとうございました。無理を言ってしまったのに快く引き受けて下さって。私も一緒にお願いに行ければ良かったんですけれど…」
「たまたま時間が空いていたからね。それに、こうした活動を見るのも会長の務めだろうし」
 ヒミコは陽一郎の事を露ほどにも疑ってはいないらしい。だが…どうして今頃引き返してきたのだろう?それも、どうやらヒミコに用事があるらしかったが…。
「ところで影沼くん、きみのご家族に付いてなんだが、訊ねてもいいだろうか?」
「あ…構いませんけど、その、私、記憶が無いので…聞かれても答えようがないんです。申し訳ありません」
「記憶が無い?」
 こくん、とヒミコが頼りなげに頷く。その様子を、残念なような、ほっとしたような顔で見ていた陽一郎だったが、
「そうか…それでは、この世界は新鮮だろうね」
「ええ、とっても。毎日が楽しくて仕方ありません。…それは、嫌な事とか、悲しい事とか、ありますけど…それでもこうしていられる事が何だかとても嬉しいんです」
「そう、か。…そうだろうね」
 なんだ?
 青が訝しげな表情を送る。どうして、会長がヒミコにだけはあれだけ優しい目で見ているのだろうか、と。
「邪魔をしたな。――きみも」
「なんですか?」
「本当に呪わしいのは、血じゃないと思うが」
「なっ!?」
 何で。
 何で、そんな言葉を。知っていると言うのか?それとも、別の事を指しているのか。
「楽しみたまえ。あと、少しだ」
 青が聞きたそうにしている様子を知りながら、ふいと顔を背けてそのまま立ち去って行く。
「…大丈夫ですか?顔、真っ青ですよ…?」
「いいさ。名前どおりで丁度良い」
 苦い声で軽口を叩き、無理やり写真へと意識を向ける。
 ――結局、目的の写真…あの日、見かけた青い髪の男は見当たらなかった。たまたまあの日のあの時間に、やぐらの周辺で写真が撮られていたのを期待する方が間違っているのだろうが。
 だが、それよりも。
『――本当に呪わしいのは、血じゃないと思うが』
 何のつもりであんな事を言ったのか…ほんの少し、自嘲を含んでいたような気もしたが、それが気のせいなのか。
 青には、判りようも無かった。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / クラス】

【2259/芹沢・青        /男性/2-A】

NPC
影沼ヒミコ
繭神陽一郎

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■         ライター通信          ■
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お待たせしました。「楽しい学園祭」個別ノベルをお届けします。
真相に繋がるもの…この話でほぼ見えたのではないかと思います。思うところは各自あるのでしょうが、楽しい筈の学園祭にもこうした陰の部分はある訳で、その辺りを見ていただければと思いながら作成しました。
狙い済ましたようなチームワークが組めるパーティになりましたので(笑)あのようにタッグを組ませていただきました。楽しんでいただければ幸いです。

尚、今回はあえて月神詠子本人には登場願っていません。話題に出たり写真に載っていたり、――で出たりしている位です。最後のは曲者ですが、お分かりになったでしょうか。

それでは、またのお話で会えることを願って。
間垣久実