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<幻影学園奇譚・学園祭パーティノベル>


ボコボコマシーン


 ――プロローグ
 
 準々決勝。
 シュライン・エマは座席で異種格闘技戦を観戦しつつ、回りの熱気にあてられつつ、少し困っていた。今競技に出ているのは柔道着姿の小柄な女の子赤星・壬生と、ともかく大きな男の子である。ルールらしいルールがなかったので、シュラインはいちいち
「ねえ、今のはどうなったの?」
 そう隣の草間・武彦に訊ねなければならなかった。
 草間は少しめんどくさそうな顔をしながら、さっきの試合の解説をする。
「ボクサーは足使わねえからな、足技の方がリーチ的にも完全に有利だろ。人間には脳震盪を必ず起こす場所があるんだ。そこを足で蹴り飛ばしたってわけ」
 ふうん、と言いながら手元のポップコーンを見ると、草間が手を突っ込んでポップコーンを取っていくところだった。ボロボロと回りにこぼしている。学園祭に入ってから常備してあるビニール袋をポケットから取り出して、シュラインはゴミを拾った。
「観ろよ、はじまるぜ」
 赤星・壬生はクラスメイトである。そしてその相手も、どうやらクラスメイトらしい。
 
 
 ――エピソード
 
 試合が始まってから少しして、シュラインの隣の席に人がやってきた。
「よおよお、あア、間近で観る格闘大会は迫力があるねェ」
「藍原先輩」
 シュラインが立ち上がって礼をしようとするのを押し留めて、ガクラン姿の藍原・和馬は座席に腰を下ろした。
「先輩は出られないんですか?」
「あ? あア、そうさなァ、この際乱入事件でもあったらおもっきし暴れてやるんだがなァ」
 和馬は笑ってシュラインに返した。挨拶もなしにポップコーンをもごもご食べている草間に、笑顔で手を伸ばす。
 ガツンと頭を殴りながら和馬は言った。
「よお、草間。お前こそ出ないのかよ」
「出ないっすよ」
 和馬の前だと草間も少しは敬語らしきものを使うらしい。
「お前等のクラスメイトだろ、赤星――なんつったっけ」
「壬生です。相手側もクラスメイトなんですよ」
「へえ、そうかい。じゃあ複雑だなァ」
 競技は服を掴もうとしている壬生とつかませず、足技で決めてしまおうと思っている相手とで膠着状態だった。
「さっさとやっちまうのじゃ!」
 そう叫びが聞こえて振り返ると、人造六面王・羅火が長ランをひっかけた姿で立っていた。……と言っても最早人間には見えない。なんというか、とても恐ろしい怪物のような姿をしている。羅火に気をよくしたのか、和馬も立ち上がって観戦をはじめた。
「イケー!」
「掴め!」
「やっちまえー!」
 と勢いばかりの声援が続く中、草間・武彦の隣に座っていた赤星・鈴人が笑顔で草間に話しかけた。
「草間さん、ケーキ食べませんか」
 草間が驚いて隣を見る。鈴人がパンケーキを膝に載せて隣に座っていた。
 シュラインが目をぱちくりさせる。
「あら、いたのね、赤星くん」
「さっき妹に差し入れに入ったら、試合前に食べられるわけないでしょうって追い返されたんです。きっとおいしいのにな、このパンケーキ」
 草間はパンケーキをシュラインに私シュラインは和馬に私和馬は羅火へ渡した。全員の手に行き渡ったはいいものの、羅火と和馬は興奮していて手の中でパンケーキをぐにゃりと変形させていた。
「ああ……パンケーキが」
 なんとなく罪悪感に囚われてシュラインは言った。
「ご、ごめんなさいね」
「いえ。食べてみてください」
 鈴人はとびきりの笑顔でそう言ったので、シュラインは格闘技観戦とケーキに接点を見出せないまま、パンケーキをちぎって口に入れた。


 夏野・影踏はルンルンといい男ウォッチをしていた。
 格闘技は嫌いではないのだが、観ているとこちらまで痛くなるので少し嫌だ。……なんて言ってられないので、双眼鏡を片手に会場を舐めるように見渡していた。
 回りからみたら、ただ単にとても格闘技好きな人間に見えるだろう。
 影踏は内心ルンルンしながら、たとえば今戦っている男とか――でもあれはちょっといい男とは言えないかなあ。でも腹筋割れてるのはおいしいよなあ。などと考えつつ、同じ二年の連中を見つけ、相変わらず美しい容貌の赤星・鈴人に目をつけつつ(ただ競争率が高いんだよなあ)あっちこっちの男に目移りし、
「いやあ、まいっちゃうなあ」
 とまだなにもないうちから、困っていた。
 


「ジュース、ジュースいりませんかー」
 聞き慣れた声がそう言いながらシュラインの方へ歩いてくる。だが、異常な盛り上がりを見せている和馬と人ですらない羅火に引いて、その声はなかなか近付いてこなかった。
 やがて決心したように、シュラインへ声がかかった。
「シュラインさーん、ジュースの販売です」
 売っているのはシオン・レ・ハイである。彼は相変わらずの長髪を後ろで結び、シャツ姿だった。前に下げているカゴには、謎のジュース(ラベルがない)が入っている。
「……なんのジュース?」
「コーラにラムネにクリームソーダーです」
「……」
 コーラとラムネは譲ったとしても、どこにクリームがあるのだろう。
「買ってください」
 大真面目な顔で言われてしまったので、仕方なく持ち歩いている鞄の中から財布を取り出して無難にコーラ味を一本購入した。シオンは嬉しそうに百円玉をポケットへしまう。そうしている間に準々決勝は終わり、どうやら壬生が勝ち越したようだった。
 次の試合が始まると同時に、熱気がまたあがる。客席も総立ちで、通路の客は前へ前へと進んでいる。それに巻き込まれたシオンは、カゴをぶら下げたままリングのあるところまで流されて行き、果てはリングに上がってしまった。
「え?」
「うおー! 乱入っていいねェ」
 和馬が腕まくりをしてギュウギュウの通路へ飛び出す。
「え? ちょっと、先輩……」
 もちろん羅火がいる筈もなく。
 草間の隣の赤星・鈴人だけは、
「あ、俺もコーラ飲みたかったなあ」
 間の抜けたことを言って、笑っていた。
 
 
 夏野・影踏が一人ひっそりといい男ウォッチングにいそしんでいる後ろへ、突然売り子が現れた。振り返ると、銀のアクセサリーをジャラジャラつけた褐色の髪の超美形である。たしか中国から留学してきた、舜・蘇鼓だった。影踏がついクラリとしているうちに、影踏に気付きもせずに、首から下げたカゴにおかしやジュースを載せた蘇鼓は白熱する会場を歩いて行った。
「ポップコーン、ポテト、ジュースいかがっすかー」
 蘇鼓は草間達を見つけたようで、軽快な足取りでシュラインと草間の元へ向かった。
「ビールいかがっすか」
「おお、一本ください」
 草間ががっつり反応する。
 シュラインはもうっと草間の頭をポスっと叩いた。
「まあまあ、祭りだぜ、祭」
 蘇鼓は笑いながらジュースでカモフラージュしてあるビールを草間に手渡した。通路はさっきの出来事で全員前に寄ってしまって空いていたので、蘇鼓は腰を下ろして観戦に入る。
 彼もジュースのふたを開けた。
「かんぱーい」
「先輩もビール?」
「俺はジュース」
 シュラインは物欲しげにカゴの中を見てから言った。
「ポテトちょうだい」
「あいよ」
 蘇鼓はお代をもらうつもりはないのか、ひょいとシュラインに手渡した。
 後ろから声がする。低い声が……――。
「あーなーたーたーちー」
 神宮寺・夕日の声である。びっくりして振り返ると、彼女は草間・武彦のずさんにラベルを隠してある缶を指差していた。
 そう、彼女は風紀委員だった。
「うげ」
 蘇鼓がまず一言。
 取られる前に飲んでしまおうと、草間は無言でビールを飲んでいる。
 シュラインは頭を抱えてから、蘇鼓のカゴの中からビールを取り出し無理矢理夕日へ押し付けた。それから一言
「今度の席替えのときも必ず融通するから」
 意味深長なことを言った。夕日は、「うっ」と言って眉根を寄せてうなり、ビールを片手に持ったまま、途方に暮れている。
「これであなたも共犯!」
 蘇鼓は愉快そうにからから笑った。
 
 
 リングには壬生とシオンそして和馬と羅火がのぼっている。四者とも見合ったまま動かない。たあ、と和馬に壬生が組みついて投げ飛ばしたところに、羅火が彼女の足を持ってぶんぶん振り回す。振り回した彼女に当たってシオンがスコーンとリングの柱へ頭をぶつけた。和馬もすぐ立ち上がり、羅火の横っ腹を飛び蹴りした。羅火の手元から壬生が離される。
 シオンがぐるぐると目を回しながら立ち上がった。
「喧嘩はよくないのれすー」
 言った瞬間に、壬生の平手打ちがシオンに炸裂。シオンはハラホロヒレハレと言いながら倒れた。
「わしとやり合おうとはのう」
「おもしれえじゃねェの」
「私を無視しないで」
 壬生は毎晩引いているゴンドラと二分ルールで食べてる夕ご飯、それから毎日車の車庫入れをこの腕一本で行ってきたことを思い出していた。このために、今日のために壬生は練習に練習を重ねてきたのである。
 ここで負けるわけにはいかない。
 そうしている間に、シオンが復活して、彼はコーナーにあがってとうっと飛んだ。
「怪盗、シオン参上!」
 そしてリングについた途端、三人のつわものにボコボコにされた。
 
 
「めちゃくちゃね……」
 当初格闘戦の動きを頭の中でシュミレート化し、格闘ゲームのボタン操作を連想して面白く見ていたシュラインだったが、四人の乱入者の戦いは頭の中で処理するには複雑すぎ、尚且つ全員のタイプが違うため理解不能だった。投げる、蹴る、殴る、飛ぶ、火を吐く、獣化する、とまあそりゃあ様々なこと極まりない。
「おもしろいじゃないの」
 通路に腰かけて一杯ひっかけている夕日が平然という。
 シュラインはそんな彼女が心配になって窺い見た。
「大丈夫? 夕日ちゃん」
「えらい、酒くさー」
 出した張本人の蘇鼓が鼻を摘んで手をフルフル振る。それを見た夕日は、蘇鼓の頭をポカリと殴りじろりと睨んだ。
「取り締まるわよ、この留年男」
「……取り締まられるのはあなたよ、夕日ちゃん……」
 シュラインはがっくりとつぶやいた。
「チョコは飲み終わったんでしょ」
 訊くと、草間はフルフルと中身のない缶を振ってみせる。シュラインは用意周到にガムを取り出して、草間へ渡した。
「カモフラージュ」
「サンキュー」

 そこへ、夏野・影踏が美青年二人に耐えかねてやってきた。
「あの、こんにちは」
「ポテト? ポップコーン? ビール?」
 最初から裏メニューの欠片もなく、蘇鼓が聞き返す。影踏は、いえいえと手を振っておずおずと言った。
「いつも、拝見してます」
「ええ、いつも、いつもっていついかなるときも!」
 蘇鼓がおもむろに立ち上がって影踏を見た。同じタイミングで鈴人も立ち上がる。
「それはとてもご苦労様ですね!」
「ちがーうだろ、そこはストーカーとか危険な線に持っていけ!」
 蘇鼓のするどい突っ込み。
「でもご苦労様なことにかわりはありませんよ、蘇鼓先輩」
「だからな、そりゃあ好きでやってることなわけだから……」
 鈴人と蘇鼓が顔を突き合わせて真剣に話しをはじめる。こうなったら、折角勇気を出した影踏も無視体制だ。しくしくと崩れ落ちた横には夕日がいて
「あんたね、それぐらいでガックリくるもんじゃないわよ。私なんか名前覚えてもらってるかさえ怪しいっていうか、視界に入ってないのよ、ストーカーやったって相手にされないわよ。ご苦労様なんて言われてみたいわよ」
 半分意味がわからない。
 
 
 乱入騒ぎはシオンのボコボコのボコボコで納まり、しかし壬生もかなりの負傷を負ったため次の試合は不戦勝でどこだかのボクサーが勝ちあがって、そしてその彼が勝利をおさめたようだった。が、……そんなことはこの際ここの混沌とした状況に比べればなんてことはない……と、思う。夕日は泣き上戸と怒り上戸が混じっているし、影踏はナチュラルに凹んでいるし、蘇鼓は鈴人のいい人ボケに突っ込み続け、シュラインは辺りの掃除を手早くして、草間を連れてこの場から逃げ帰ることにした。
 一応手は尽くしたのだ。慰めたし、諌めたし、宥めたし、突っ込んだし。
 しかしちょうどシュライン達が立ち上がったとき全員の争いごとは終わり、全員で道場を後にすることになった。


――エピローグ

 赤星・壬生は悔しそうに握りこぶしを作っている。
「試合以外の理由で負けるなんて。まだまだ鍛錬が足りないわけだわ。こうなったら夕食一分にチャレンジよ」
 鈴人が笑顔のまま答える。
「ずっと思ってたんだけど早食いは強さに関係ないと思うなあ。のんびり食べようよ、一緒に」
「あんたみたいにタラタラ食ってたら日が暮れちゃうわよ!」
「お夕飯は暮れてから食べるんだよ」
 壬生が切れて鈴人にチョップ。慣れているのか、鈴人はイタタタと頭を押さえただけである。
「でもよくがんばってたわよ」
 シュラインが壬生に言う。壬生は少しだけ微笑んで
「ありがとう」
 そう言った。
「俺達もよく戦ったぜ」
「わし等もようやったのう」
 和馬と羅火も満足気にうなずいている。ただし、二人はうんうん呻いているシオンの腕を首に回し被害者を連れていた。
「ビール余ってるから、いっぱいやろうか、おのおの方」
「サンセーイ!」
 酔っ払いの夕日が叫んだ。
 草間は関わりたくなさそうにしていたが、酒の話についつい
「おっ」
 と蘇鼓に近寄った。
「打ち上げ会ってとこだな」
 蘇鼓はニヤニヤ笑いながら影踏へ言った。
「ストーカーもくるだろ」
「……俺は無実だ!」
 異種格闘技戦、やはり大波乱であった。


 ――end
 

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0086/シュライン・エマ/女子/】
【1533/藍原・和馬(あいはら・かずま)/男子】
【1538/人造六面王・羅火(じんぞうむつらおう・らか)/男子】
【2199/赤星・鈴人(あかぼし・すずと)/男子】
【2200/赤星・壬生(あかぼし・みお)/女子】
【2309/夏野・影踏(なつの・かげふみ)/男子】
【3356/シオン・レ・ハイ/男子】
【3586/神宮寺・夕日(じんぐうじ・ゆうひ)/女子】
【3678/舜・蘇鼓(しゅん・すぅこ)/男子】

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■         ライター通信          ■
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「ボコボコマシーン」にご参加くださいまして、ありがとうございます。
ライターの文ふやかです。
パーティーノベル第三弾のお届けになります。場所が限定されているのもあり、またも短いできになってしまいましたが、いかがでしたでしょうか。それぞれの個性が出ていればと思います。

少しでもお気に召せば幸いです。
またお会いできることを祈っております。

文ふやか