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<幻影学園奇譚・ダブルノベル>


PRESENCE ―存在―
●立場は異なるはずなのだが【19】
「いらっしゃいま……あ」
 深雪の出迎えの挨拶が途中で止まった。学園祭最終日のサークル棟、『ロシアンたこ焼き』のスペースに突然陽一郎が現れたのである。
「おおッと会長。うちは真ッ当な商売だぜ?」
 反射的になのか冗談なのか、陽一郎にそう言う十三。
「何を言ってるんですか。1つ下さい」
 財布からお札を出し、陽一郎が十三に言った。ただ単に、客として買いに来ただけらしい。
「何だか評判だと聞いたんで、食べてみようかと」
「ついに評判が生徒会まで届いたんですか……」
 陽一郎の言葉に、軽く感動する深雪。だが忘れてはいけない。『評判』という言葉には、いいことだけでなく悪いことも含まれている可能性があるということを。この場合どちらの意味なのか、ちと定かではないが。
「ほォ……ならいいモンを見繕ッてやらにャなァ」
 ニヤニヤ笑いながら、容器へたこ焼きを入れてゆく十三。よく見れば、たこ焼き器のあちこちからランダムに入れているではないか。
「ほい、お待ち!」
「お釣りはこちらです」
 陽一郎が十三からたこ焼きの容器を、深雪からお釣りを受け取る。
「ありがとう。この味……せっかくだから、覚えておかないとな」
 そう言い残し、立ち去る陽一郎。直後、今度は詠子が姿を現した。ここには2度目の来訪である。
「やあ。今日はお金を持ってきたよ」
 硬貨を2人へ見せる詠子。ちゃんと1人前の代金分あった。
「へッ、律儀だぜ。ほンとにまた来るたァよ」
「約束したからね、ボク」
 十三の言葉に、くすっと笑って詠子が答えた。
「ほい、お待ち! 1つおまけしといたぜ」
「ありがとう。じゃ、これ……」
 詠子は十三からたこ焼きの容器を受け取ると、硬貨を深雪へ手渡した。
「ここのたこ焼き、忘れないからね」
 2人に手を振り、詠子が立ち去ってゆく。詠子の姿が見えなくなって、十三が訝し気につぶやいた。
「ン……何だァ? どッちも辛気くせェ言葉残していきやがッて。ま、最終日だから今日逃すと食えなくなるッちャなるけどよォ」
「……渡橋先輩」
「オウ、何だ?」
「2人とも……何かを決意したように感じられたのは……ただ、私の考え過ぎなんでしょうか?」
 深雪が真剣な顔をして、十三に尋ねた。
「さあなァ……。ただ、決意したンなら、それなりの覚悟はあるてェこッたろ」
 十三は坊主頭をボリボリと掻き、溜息とともにその質問へ答えた。

●最終チェック【23A】
「うーっし、物品チェック完了ッと」
 校庭で後夜祭が始まっていた頃、十三はサークル棟にて業者に返す機材をチェックしていた。全て綺麗にし、片付けも終えていた。
「しかし、まさか5日間続けることになるたァ、思ッてもみなかッたぜ」
 好評ゆえの期間延長。おかげでレンタル業者との調整など新たな手間が生まれたが、こうして終わってみればそれもこれもいい想い出である。
「さァて……後輩たちもフィナーレに追いやッたことだし、アイツん所にでも行くとすッかね」
 ニィッと笑う十三。この場に他の部員たちの姿はない。チェックが終わった今、十三も彼女が待っている場所へ行くだけだ。
 十三は機材の山を後にして、サークル棟を出てゆこうとした。と、不意にその足が止まった。
「そういや……」
 何か、思い浮かんだことがあるらしい。
(……大丈夫かね? 我が後輩は。頑張った褒美に全部アタリのたこ焼きを渡したはいいが……)
 どうやら十三の頭に、深雪の姿がよぎったようである。
 深雪も何だかんだで、5日間『ロシアンたこ焼き』を手伝ってくれていた。よく働いてくれていたのだが、十三は知っていた。客足が途切れた頃に時折、何やら思い詰めたような表情を一瞬ではあるが見せていたことを――。
「送り出す前にああ言ッたはいいが……意味を履き違えてくれなきゃいいけどよ」
 ボリボリと坊主頭を掻く十三。
 深雪に対して言った言葉、それは『涙を溜め込む場所も吐き出す場所も誰かの中に求めるな。あくまでも自分で探せ』というもの。
 けれども深雪がこの言葉をどう捉えたか、今の十三は知るよしもない。
「……信じてンぜ、我が後輩」
 ぽつりつぶやき、十三はサークル棟を後にした。

【PRESENCE ―存在―・個別ノベル 了】


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■   登場人物                  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                 / 性別 / クラス / 石の数 】
【 0060 / 渡橋・十三(とばし・じゅうぞう)
                  / 男 / 3−A / ☆02 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談・幻影学園奇譚ダブルノベル』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全31場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・OMCイラストのPC学生証やPC学生全身図などをイメージの参考とさせていただいています。
・『幻影学園奇譚』の本文において、高原は意図的に表現をおかしくしている場合があります。
・大変お待たせし、申し訳ありませんでした。ここにようやく、学園祭5日間の模様をお届けすることが出来ました。
・今回……といいますか、『幻影学園奇譚』における高原のスタンスは、流れに身を任せつつ『存在』についてをテーマとさせていただきました。ここで言う『存在』は詠子だけに限りません。全員の存在です。高原自身も執筆しながら、『存在』について色々と考えさせていただきました。
・余裕があればもう少し色々と依頼なども出していたかと思いますが、残念ながら時間切れ。『石』についても中途半端で終わってしまったのは非常に残念に思います。ですが、高原の『幻影学園奇譚』はこれで終了です。この約半月後、エピローグに繋がってゆく訳です。
・なお今回のタイトルの元ネタは、今年デビュー20周年を迎えた某3人組ユニットの曲名となります。今回の執筆もその曲を聞きながら行いました。
・渡橋十三さん、ご参加ありがとうございます。『ロシアンたこ焼き』、最終的には今回のノベル全編を通してのネタになったような気が……。好評と悪評、思うに7:3か8:2の比率なんでしょうかねえ? 今回の学園祭、楽しんでいただけたのであれば幸いです。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、またお会いできることを願って。