コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<幻影学園奇譚・ダブルノベル>


PRESENCE ―存在―
●ラグビー部に挑戦してみました【12】
「うふふっ、賞品もらっちゃった〜☆」
 白い紙でラッピングされた小箱を手に、ほくほく顔の圭織。場所は校庭、圭織はラグビー部主催の『ラグビー部に挑戦!』という出し物の1つに参加してきた直後であった。
 参加したのはキャッチングゲーム。これで好成績を上げて、賞品を手に入れたのである。
「ん?」
 と、圭織が校庭から立ち去ろうとした時、少し離れた所でシュラインが仰向けに倒れている所を見付けた。
「シュラインさん、本当に大丈夫ですか?」
 裾の部分を結んだラグビーシャツを着ていた深雪が、心配そうにシュラインの顔を覗き込んでいた。手にはしっかり、魔法のやかんを握り締めている。
「はふぅ……ごめん……もうちょっとこのまま……」
 力尽きた様子のシュライン。きっと起き上がる気力も今はないのだろう。
「あー……タッチフットって運動量激しいんだ」
 ぼそっとつぶやく圭織。確かにそういう面はあるのだが、シュラインの場合はちと事情が違うかもしれない。
「……あうぅ……」
 お腹に手をあてるシュライン。未だに腹痛は治っていないようである……。

●DIVE INTO YOUR BODY【16A】
「うおりゃあああああああっ!!」
「はあっ!! せいやぁっ!!!」
 道場内に作られた特設リング、その上で男たちが激しくぶつかり合っていた。片方は柔道着に、もう一方は空手着に身を包んでいる。柔道対空手という試合のようだ。そう、『異種格闘大会』の会場である。
「何でもありなのか……」
 リングサイドの良席から試合を見て、草間がつぶやいた。
「うん。バーリ・トゥードなんですって」
 頷くシュライン。ちなみに『バーリ・トゥード』とはまさしく『何でもあり』の意である。
「出てたら死ぬな」
 草間が遠い目をする。それは絶対に間違いない。興味本意で出ていたなら、確実に大怪我していることだろう。
「そういえば……傷、大丈夫?」
 小声でシュラインが草間に尋ねた。
「傷? ああ、これのことか。大丈夫だ、もう」
 胸元を押さえる草間。残念ながらシャツの上から傷は見えないが、先日草間はここに傷を作ってきていたのである。
「何をしてきたのよ、チョコ」
「……別に」
 草間はシュラインの質問に短く答えた。
「爪が伸びてたんだろうな……」
 ぼそりとつぶやく草間。が、シュラインの耳はそのつぶやきをしっかと捉えていた。
「へーえ。爪ねえ……。おもてになるのね、本当に」
「何か言葉に刺がないか?」
「別にー?」
「たく、昨日送っていってその言われようか……」
「あ……。チョコ本当に昨日はありがとうね。おかげで助かったわ」
 ぺこっと頭を下げるシュライン。昨日帰る時、あまりにもの腹痛で自転車が漕げなかったので、草間に代わりに漕いでもらって送ってもらったのである。
「もう大丈夫なのか」
「うん。お薬飲んで一晩寝たら治ったみたい」
「そうか……」
 ほっと安堵の溜息を吐く草間。
「お礼に、後で『ロシアンたこ焼き』を」
「絶対やめろ」
「え、そう? じゃあ、『異種格闘すくい』なんかは……」
「そういう妙なのから離れろ。普通にお茶って発想はないのか」
「んー、なら……茶道部の和風喫茶コーナーで」
「よし、それで手を打とう」
 と、何やら商談(?)がまとまった時、実況アナウンスが大声で叫んだ。
「おおーっとぉーっ!! 柔道部が空手部を場外へ投げ飛ばしたーっ!!」
「チョコ危ないっ!!」
 はっとして叫ぶシュライン――逃げながら。
「あ?」
 きょとんとなる草間。だが時はすでに遅かった。気付いた時には、空手部員の身体がぐんぐんと草間に近付いてきていて――。
「うわあああああああああああああっ!!!」
 草間の絶叫が辺りに響き渡った。哀れ草間は、パイプ椅子をなぎ倒しながら空手部員の下敷きとなってしまったのである……。

●何故こんな所で?【22】
「うあ……人酔いって、あるのねえ……」
 壁にもたれかかり、溜息とともに言葉を吐き出すシュライン。シュラインが居るのは、何故か機械室であった。
 『学園探訪ウルトラクイズ』参加者の人波の激しさに、人酔いしてしまったシュライン。人の居ない所、居ない所と探しているうちに……機械室へ来てしまったのである。確かにここは人が居ないのだが、休憩に適しているかと言われるとちと難しい。
 でも休憩出来ないこともないので、機械室でしばしの休憩を取っていたシュライン。と、そこに足音が近付いてきた。
(ん……何か覚えのある足音……?)
「何をしている」
 聞き覚えのある声までした。見れば、陽一郎がすぐそこに立っていた。
「ちょっと休憩を……」
 ぐてっとした状態で答えるシュライン。
「それはまた、変な所で休憩をしているものだね」
 くすっと笑う陽一郎。
「……人が居ない所ってないのよ」
「まあいい。休憩もほどほどにするんだね。学園祭の時間も、もうあと少しなんだから」
 陽一郎はシュラインにそう言い残し、機械室を後にした。
 シュラインは陽一郎が居なくなってからしばしぼうっとしていたが、やがてあることに気付いた。
(あれ? そういえば……何で生徒会長はここに?)
 まさか、ただ機械室を見に来たとでも言うのだろうか?

【PRESENCE ―存在―・個別ノベル 了】


□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物                  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【 整理番号 / PC名(読み) 
                 / 性別 / クラス / 石の数 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
                  / 女 / 2−A / ☆01 】


□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
・『東京怪談・幻影学園奇譚ダブルノベル』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全31場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・OMCイラストのPC学生証やPC学生全身図などをイメージの参考とさせていただいています。
・『幻影学園奇譚』の本文において、高原は意図的に表現をおかしくしている場合があります。
・大変お待たせし、申し訳ありませんでした。ここにようやく、学園祭5日間の模様をお届けすることが出来ました。
・今回……といいますか、『幻影学園奇譚』における高原のスタンスは、流れに身を任せつつ『存在』についてをテーマとさせていただきました。ここで言う『存在』は詠子だけに限りません。全員の存在です。高原自身も執筆しながら、『存在』について色々と考えさせていただきました。
・余裕があればもう少し色々と依頼なども出していたかと思いますが、残念ながら時間切れ。『石』についても中途半端で終わってしまったのは非常に残念に思います。ですが、高原の『幻影学園奇譚』はこれで終了です。この約半月後、エピローグに繋がってゆく訳です。
・なお今回のタイトルの元ネタは、今年デビュー20周年を迎えた某3人組ユニットの曲名となります。今回の執筆もその曲を聞きながら行いました。
・シュライン・エマさん、ご参加ありがとうございます。どうして陽一郎が機械室へやってきたのか、他の方の個別ノベルやエピローグも含めて読んでいただけると、見えてくるのではないかと思います。今回の学園祭、楽しんでいただけたのであれば幸いです。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、またお会いできることを願って。