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<幻影学園奇譚・ダブルノベル>


PRESENCE ―存在―
●対峙【14B】
(誰かに呼ばれているような気がする)
 そう思いながら、クミノは屋上へ続く階段を昇っていた。科学部の喫茶店を覗いて清掃などしてきた後、どうも何かを感じて屋上に足が向かっていたのである。
 やがて屋上に出るクミノ。遠く、フェンスの前に人影が見えた。
「呼んだのはあなた……詠子さん?」
 クミノは人影をしっかりと認識していた。こちらに背を向けているが、それが詠子であると。
「ボクは呼んだ覚えないけど。どうだろう、無意識に誰か呼んでいたのかな……」
 詠子がそうつぶやき、クミノの方へ向き直った。
「でもおあいこだよね。そっちもボクのこと見てたでしょう。海キャンプの時や、ほら開会式の時だって」
 くすっと笑みを浮かべる詠子。
「……0だった」
「うん、何がだい?」
 クミノのつぶやきに、詠子が聞き返す。
「調査範囲内で、詠子さん……月神詠子を知らない生徒は0だった。確率でなら、全員が知っているとみていい。……確率などあまり信用出来ないのだが」
「今回は信用出来たの?」
「出来過ぎていて、信用が出来ない。意味があるのはいつもイレギュラー……出来過ぎた物事は、十分それに当てはまる」
 クミノはここまで言うと、大きく息を吐き出した。
「ここまで幾度か対処もしてきた。が、何をどうするためなのか、答えを聞く必要があるのかもしれない……そろそろ」
「どうしてボクに言うの?」
 じーっとクミノを見つめ、詠子が言う。
「イレギュラーの中心に居る者に、直接聞いた方が早い。それによく、『楽しむ』と言っているのが気にかかる……」
「ふーん。気になるんだ……」
 悪戯っぽく詠子が微笑んだ。
「大丈夫、深い意味はないよ。ボクは色々と楽しみたいだけだから。本当に楽しいよね……皆、色々と動いていて……」
 夜空を見上げる詠子。クミノは無言で詠子を見つめていた。
「皆、楽しそうに過ごしている。あ、ボクが見てきた範囲ではね。その中にボクも居るんだ。楽しいよ。知らないことも色々と知ることが出来た。皆、ボクのことを受け入れてくれた。不思議だね、こんなこと。いつまでも楽しい時が続けばいい……と思ってた」
 詠子は改めてクミノに向き直った。
「でも、もうすぐ終わりかな。誰かさんが許してくれないみたいだから」
 苦笑する詠子。
「終わる……?」
「大丈夫、皆は元の生活に戻るだけだから。何にも悪影響はないよ。ボクの楽しい時間が終わるだけ……かな」
 詠子はそうクミノに説明すると、寂し気な笑顔を見せた。
「残り時間も少ないんだ。出来れば、このまま放っておいてくれないかな。大丈夫、皆には絶対迷惑かけないから」
「…………」
 思案顔になるクミノ。さてどうしたものか、悩んでいるのだ。
(嘘を吐いているようには見えないが……)
 考えてみれば、事件発生頻度が上がっているものの、詠子が事件を意図的に起こしている様子は見られない。迷惑をかけないと言うのなら、現状のままであっても特別害もない。
「……巻き込むなら、私みたいな者まで存在させてしまうのは問題だな」
 少しして、クミノが詠子に言った。
「だが、迷惑もない状態で私が動く必要もない。学園祭も残り2日、しっかりと楽しめばいい」
「……うん、ありがとう」
 クミノに礼を言う詠子。クミノは詠子を放っておくことに決めたようである。
 そのまま屋上から立ち去ろうとするクミノ。ふと足を止め、振り返ることなく詠子に言った。
「そういえばまだ礼を言っていなかった。シーフードカレー、ありがとう。……美味しかった」
「お礼なんていいよ」
 詠子は立ち去るクミノの背中に向かって、そうつぶやいた。けれども、続くつぶやきまでは残念ながら聞こえなかった。
「……1人って寂しいんだって、よく分かったから」

【PRESENCE ―存在―・個別ノベル 了】


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■   登場人物                  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                 / 性別 / クラス / 石の数 】
【 1166 / ササキビ・クミノ(ささきび・くみの)
                  / 女 / 2−C / ☆00 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談・幻影学園奇譚ダブルノベル』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全31場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・OMCイラストのPC学生証やPC学生全身図などをイメージの参考とさせていただいています。
・『幻影学園奇譚』の本文において、高原は意図的に表現をおかしくしている場合があります。
・大変お待たせし、申し訳ありませんでした。ここにようやく、学園祭5日間の模様をお届けすることが出来ました。
・今回……といいますか、『幻影学園奇譚』における高原のスタンスは、流れに身を任せつつ『存在』についてをテーマとさせていただきました。ここで言う『存在』は詠子だけに限りません。全員の存在です。高原自身も執筆しながら、『存在』について色々と考えさせていただきました。
・余裕があればもう少し色々と依頼なども出していたかと思いますが、残念ながら時間切れ。『石』についても中途半端で終わってしまったのは非常に残念に思います。ですが、高原の『幻影学園奇譚』はこれで終了です。この約半月後、エピローグに繋がってゆく訳です。
・なお今回のタイトルの元ネタは、今年デビュー20周年を迎えた某3人組ユニットの曲名となります。今回の執筆もその曲を聞きながら行いました。
・ササキビ・クミノさん、ご参加ありがとうございます。思うに、詠子が一番心情を吐露したのはクミノさん相手ではないかなと思います。今回の学園祭、楽しんでいただけたのであれば幸いです。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、またお会いできることを願って。