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<幻影学園奇譚・ダブルノベル>


PRESENCE ―存在―
●追いかける理由【3】
(……分析は間違っていなかったはずであるのだが)
 微妙に疑問を抱きながら、サークル棟を移動するすばる。その手には先程買ったたこ焼きの容器がまだあった。
 結局あの後すぐ客が立て続けに来て、十三に体よく追い払われてしまった訳である。
 すばるがサークル棟に居る理由は簡単だ。詠子の後を追いかけていたからである。だが先程、詠子は先に立ち去ってしまったというのに、すばるに慌てた様子は微塵も見受けられない。
 でもそれは当たり前の話。だって、すばるは詠子の行方を見失ってはいなかったのだから。いや、この場合は詠子がすばるに行方を見失わせなかったと言うべきなのだろうか。
 というのも詠子は、片っ端からサークル棟の出し物に顔を出していたからである。片っ端から顔を出していたのなら、当然足止めされる時間がその分だけ発生する。すばるがたこ焼きを分析していた時間を差し引いても、十分にお釣りがあるのだ。
 これで見失ってしまったならある意味才能だが、失敗の多いすばるではあってもさすがにそこまでのことはなかった。
 それにそういう場合のことも考えて、すばるは対応可能な装備を用意していた。遠隔撮影アイズと、遠隔操作出来る小型カメラのセットである。現に今は、少し離れた場所より詠子の行動を撮影しているのだ。
(ごく普通に、知らない物事を少しでも知ろうとしているようにしか見えないが……)
 ここでの詠子の行動パターンは決まっていた。知ってる物事には嬉しそうに触れ、知らない物事は興味津々の様子で質問をする。この繰り返しだった。
 ちなみにこの詠子の行動パターン、通常時でも見受けられていた物だったが、ここに来て一気にそれが顕著になっていた。
(通常の超自然現象と判断されるのも、当然であるか)
 文武火学省よりの指示を思い返すすばる。その内容は、管轄外の可能性が高まってきたので警戒レベルを一気に引き下げるというもの。すばるは常駐であるが、ここ神聖都学園で活動する特命生徒はその指示を受けて極少数となっていた。すばるたちが上げた報告から判断されたことである。
(けれども、確定された訳ではないのである。ゆえに、調査は継続されなければならない)
 通常の超自然現象と判断されたものの、異常は明らかに存在している。事実今日の早朝、資料室に他何人かと閉じ込められる事態が起こったのだから……。

●清掃です【14A】
「あ」
「お」
 別々に動いていたすばるとレイベルは、校舎から出てきた所でばったりと顔を合わせていた。
「今からどこへ?」
「サークル棟へ移動するつもりである。回った範囲では、特に大きな異常は見られなかった」
 レイベルの質問に、淡々と答えるすばる。
「……同じく。それは喜ばしいことなのだろうが……」
 レイベルはその後の言葉を飲み込んだ。思うに続く言葉は『手持ち無沙汰でもある』だったのかもしれない。実際、校舎内ではそんなに『治療』は行わなかったのだから。
 そして連れ立ってサークル棟へ移動しようとする2人。そこへ――声がかかった。
「そこで何をしている」
 突然の声に、足を止めはっと振り向く2人。目の前には陽一郎の姿があった。
「む。君は……」
 すばるに気付く陽一郎。ニヤリとして、こう尋ねてきた。
「ホエールウォッチングかい?」
「清掃である」
 あ、素直に答えた。確かにそうだから、何も間違っていない。その通りである。
「……こんな時間に、か」
「こういう時間だからこそ、必要なのだ」
 こう言ったのはレイベルだ。レイベルの言葉はまだ続く。
「学園祭も半分が過ぎた。喜ばしくないものが混じっていたりすれば、『治療』や『修繕』をすべきだろう? 運営側としても助かるだろうしな」
「ふむ。なるほど」
 陽一郎はじろじろとレイベルとすばるの姿を見ていた。まるで2人の真意を推し量るかのように……。
「まあいい。見なかったことにしよう。清掃が終わったら、すぐに帰ることだ」
 陽一郎は2人にそう告げると、くるっと後ろを振り向いた。
「そういうあなたは、ここで何をしていたのだ?」
 すばるが素朴な疑問を口にした。確かに……そうだ。何故陽一郎は、この時間にこんな所に居たのだろうか。見回りにしても、ちょっと妙だ。
「……知りたいのか?」
 陽一郎が顔だけを2人の方へ向けた。ややあって、すばるの疑問に答える陽一郎。
「しいて言うならば。悔いのないように……かな」
 そう言い残し、陽一郎が2人の前から立ち去った。
「妙だ」
 レイベルがぽつりつぶやいた。
「何か悟ったような雰囲気を身にまとっている気が私にはするのだが……」
「妙である」
 すばるもレイベルの言葉に頷く。
「過去の映像データと、表情が微妙に食い違っている」
 すばるは過去のデータと突き合わせた結果、陽一郎の異変に気付いたようである。
 これがいったいどういうことなのか、全てを知るのは半月ほど後のことになるのだった……。

【PRESENCE ―存在―・個別ノベル 了】


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■   登場人物                  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                 / 性別 / クラス / 石の数 】
【 2748 / 亜矢坂9・すばる(あやさかないん・すばる)
                  / 女 / 2−A / ☆00 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談・幻影学園奇譚ダブルノベル』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全31場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・OMCイラストのPC学生証やPC学生全身図などをイメージの参考とさせていただいています。
・『幻影学園奇譚』の本文において、高原は意図的に表現をおかしくしている場合があります。
・大変お待たせし、申し訳ありませんでした。ここにようやく、学園祭5日間の模様をお届けすることが出来ました。
・今回……といいますか、『幻影学園奇譚』における高原のスタンスは、流れに身を任せつつ『存在』についてをテーマとさせていただきました。ここで言う『存在』は詠子だけに限りません。全員の存在です。高原自身も執筆しながら、『存在』について色々と考えさせていただきました。
・余裕があればもう少し色々と依頼なども出していたかと思いますが、残念ながら時間切れ。『石』についても中途半端で終わってしまったのは非常に残念に思います。ですが、高原の『幻影学園奇譚』はこれで終了です。この約半月後、エピローグに繋がってゆく訳です。
・なお今回のタイトルの元ネタは、今年デビュー20周年を迎えた某3人組ユニットの曲名となります。今回の執筆もその曲を聞きながら行いました。
・亜矢坂9すばるさん、ご参加ありがとうございます。さて、このようなレポートを出して、どのように判断されるかは気にかかる所ですが……。今回の学園祭、楽しんでいただけたのであれば幸いです。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、またお会いできることを願って。