 |
PRESENCE ―存在―
●気になって仕方がないから【6B】
「どうもありがとう。すぐに放送かけるから」
校舎6階の生徒会会議室。迷子の男の子を連れていった雄一郎は、応対した風紀委員にそう言われた。
「じゃ、後よろしく」
と風紀委員に言い、帰ろうとした雄一郎。その前にちょっと足を止め、男の子の方へ振り返った。
「よかったなー。もうすぐママが迎えに来てくれるぞー」
「……おにーちゃんありがとー」
半べそをかいた状態で、男の子が雄一郎に礼を言う。雄一郎はうんうんと頷いて、そのまま帰ろうとしたのだが――。
「お、そうだ」
何か思い出したのか、また足を止めて今度は風紀委員の方へ振り返ったのである。
「どうかしたかい?」
不思議そうに雄一郎のことを見る風紀委員。
「うーん……ま、いいか。何でもないよ」
苦笑いを浮かべ、今度こそ雄一郎は生徒会会議室を出ていった。
(どうせ分からないだろうしなー)
などと思いながら雄一郎が階段へ向かうと、ちょうど陽一郎が昇ってくる所に出くわした。
(いいタイミングだ)
雄一郎は陽一郎が階段を昇り終えた所で声をかけた。
「繭神、ちょっといいか?」
「……何です」
雄一郎は3年、陽一郎は2年。雄一郎は先輩の風格を前に出して、疑問を投げかけた。「どうも巡回する風紀委員会の姿が多い気がするんだが……何かあったのか?」
雄一郎が出し物を色々と回っていた時、あちらこちらで風紀委員の巡回姿を目にしていた。迷子を生徒会会議室まで連れてゆく途中でも同様である。それが妙に不思議だったのだ。
「何だ、そんなことですか」
さらっと言う陽一郎。
「近頃物騒ですからね。念には念を入れて、巡回するのも無駄じゃありませんから。何かが起こってからでは遅いですよね?」
今度は逆に陽一郎が尋ねる番だった。
「……それはそうだな」
一応納得する雄一郎。陽一郎の言っていることは、別に間違ってはいない。
「もういいですか? 忙しいんで、これで」
雄一郎の答えを待たず、すたすたと歩き出す陽一郎。雄一郎は頭を掻きながら、階段を降り始めた。
(それでも何か気になる……。何故だ?)
首を傾げ、時計を見る雄一郎。時刻は午後5時20分過ぎである。
「そろそろ行けばちょうどいいかな」
ぼそっとつぶやく雄一郎。その足は、体育館の方へ向かっていた。SHIZUKUのステージを見るために。
●演劇に関する2つの模様【10B】
『大声コンテスト』がある意味面白いことになっていた頃、体育館の中から雄一郎が大泣きしながらハンカチを握り締めて出てきた。
「ううっ……うおおっ……うああ……」
未だ涙おさまらぬ雄一郎。さっきまで行われていた、演劇部による演劇の内容にやられてしまったのである。まあ、雄一郎が涙もろいせいもあるのだが。
「パ●ラッシュが……パトラッ●ュがぁ……ううう……」
あ、これだけで何の劇をやったか分かったような気がする。そりゃ泣いて当然だ。
「うわー……号泣してるー……」
入れ替わりに体育館へ入ろうとしていた圭織は、泣いている雄一郎の姿を目の当たりにして、ほんの少し後ずさっていた。
いやまあ実際問題、学ラン姿のがっしりした男子生徒が大泣きしていると、圭織でなくとも多少近付き難い訳で……。
「ま、いいわ。それより、ヒーローショー、ヒーローショーっと♪」
とことこと体育館の中へ向かう圭織。これから『ヒーローアクションショー』が行われるのだ。体育館で僕と握手、である。
ちなみにこの『ヒーローアクションショー』、飛び入り可ということだったのだが。後に伝え聞く所によると、ジャージ上着に黒スパッツ姿の女子生徒がステージ下から飛び入りしてきたとのことである。
え、内容? それについては何故か皆、一様に口を閉ざすのだが……いったい何があったのだろう。
●やっちまった……【16B】
「ん? 何か悲鳴が聞こえたような……ま、いいか」
道場に来ていた雄一郎は、改めてパンチングマシーンに向き直った。場所は道場、『パンチ力選手権』のスペースだ。ちなみに今、『異種格闘大会』の真っ最中のため周囲は非常に騒がしい。
「3発殴れますからねー。よーく狙って、叩き込んでください」
男子生徒がそう雄一郎に話しかけてくる。
「分かってる。明日のためにその1……打つべし打つべし!!」
シュシュッとその場でシャドーボクシングをして見せる雄一郎。どこかで聞いたような台詞だが、気にしてはいけない。
「はいっ、どうぞ!」
準備完了、男子生徒が雄一郎にパンチを促した。
「おりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
腰をぐっと落とし、しっかりこぶしを握り締め、大きく1歩踏み出すとともに雄一郎は全体重をこぶしへ乗せた!
……これで的のど真ん中に命中していたのなら文句はなかったのだが、少しずれてしまったのだろうか。雄一郎のこぶしは、的の端の方に叩き付けられてしまったのである。
妙な感じでパンチを叩き付けられてしまったパンチングマシーン。その影響なのかどうなのか、ビープ音とともに『ERROR』という文字が、画面に表示されてしまった。
「ああああっ! 壊れたぁっ!?」
叫ぶ男子生徒。次の瞬間、雄一郎は脱兎のごとく駆け出していた……。
【PRESENCE ―存在―・個別ノベル 了】
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ 登場人物 ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【 整理番号 / PC名(読み)
/ 性別 / クラス / 石の数 】
【 2072 / 藤井・雄一郎(ふじい・ゆういちろう)
/ 男 / 3−B / ☆00 】
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ ライター通信 ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
・『東京怪談・幻影学園奇譚ダブルノベル』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全31場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・OMCイラストのPC学生証やPC学生全身図などをイメージの参考とさせていただいています。
・『幻影学園奇譚』の本文において、高原は意図的に表現をおかしくしている場合があります。
・大変お待たせし、申し訳ありませんでした。ここにようやく、学園祭5日間の模様をお届けすることが出来ました。
・今回……といいますか、『幻影学園奇譚』における高原のスタンスは、流れに身を任せつつ『存在』についてをテーマとさせていただきました。ここで言う『存在』は詠子だけに限りません。全員の存在です。高原自身も執筆しながら、『存在』について色々と考えさせていただきました。
・余裕があればもう少し色々と依頼なども出していたかと思いますが、残念ながら時間切れ。『石』についても中途半端で終わってしまったのは非常に残念に思います。ですが、高原の『幻影学園奇譚』はこれで終了です。この約半月後、エピローグに繋がってゆく訳です。
・なお今回のタイトルの元ネタは、今年デビュー20周年を迎えた某3人組ユニットの曲名となります。今回の執筆もその曲を聞きながら行いました。
・藤井雄一郎さん、ご参加ありがとうございます。色々と出し物を回られてましたが、突くべき所は上手く突いたのではないかという印象です。今回の学園祭、楽しんでいただけたのであれば幸いです。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、またお会いできることを願って。
|
|
 |