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<幻影学園奇譚・ダブルノベル>


PRESENCE ―存在―
●スクランブル【6A】
「慌ただしいですねえ……」
 きょろきょろと興味深気に辺りを見ながら、体育館の中を移動するさくら。
 ギターやキーボード、はたまたドラムや管楽器などの生音に混じり、ラフな歌声も聞こえてくる。ステージに向かって色々とピンライトの効果が試されていたりもして、まさに今はリハーサル真っ最中といった雰囲気だ。
 やがてさくらはステージ裏に辿り着いた。ステージ裏はさらに慌ただしく、多くの者たちが走り回っていた。
「あ、居ましたね」
 さくらはリハーサルの順番を待っているSHIZUKUの姿を見付け、そそくさと近寄っていった。
「雫ちゃん」
 バックバンドのサポートメンバーに囲まれているSHIZUKUに声をかけ、手を振るさくら。SHIZUKUもさくらの存在に気付いて、手を振り返してくれた。
「やっほー☆ 来てくれたんだ?」
「ええ。弓道部の出し物が交代の時間となったので、綾霞の所へ行く途中だったんですけれど。ステージが間近だとお聞きしましたから寄ってみたんです」
 にこと微笑み答えるさくら。その時ふと、SHIZUKUが何かに気付いて尋ねてきた。
「あれっ? そういえば途中で止められなかったの? リハ中は関係者以外入れないのに」
「いいえ。止められませんでしたよ?」
 さくらがきょとんとして答える。
「警備のスタッフ何やってんだよ……」
 近くに居た別のスタッフの生徒が、苦笑しながらつぶやいた。普通は途中で止められてしかるべきなのだ、こういう場であっても。
「お忙しいでしょうから用件を手短かに。ステージが終わったら、ご一緒に綾霞の所へ行きませんか? よろしければ皆さんも」
 さくらはSHIZUKUだけでなく、サポートメンバーの者たちにもそう言った。
「いいの? たぶん全部終わるの8時過ぎになると思うけど」
「ええ、構いませんわ。綾霞のお茶は美味しいんですよ」
 笑顔で言うさくら。そこに慌てて別の生徒が駆け込んできた。
「た、大変だよっ! キーボード担当の娘が貧血で倒れちゃって、要安静だって!!」
「ええっ!?」
 驚くSHIZUKU。突如緊急事態である。
「どうしよっ。シーケンサーがほとんどだけど、今日演る3曲とも手弾きの部分が必要なんだよっ?」
「そうだよなあ。揺らぎの意味合いで手引きにしてんのに、打ち込むとなあ……」
「いっそ絶対に外せない部分だけ、ギターで代わりをするか?」
 SHIZUKUを中心に、対応策を協議する面々。さくらは皆の顔をきょろきょろと眺めていた。と、不意にSHIZUKUと目が合った。
「……あのね、さくらちゃん」
「はい?」
「一応聞くんだけど」
「はい」
「キーボードなんか、出来たり……する?」
「はい。多少でしたら……」
「出来るのっ!?」
「はい? 出来ますよ」
「みんなっ、さくらちゃん確保!! 背丈も同じくらいだから、衣装そのまま使えるよ!」
「はいっ?」
 いくつもの手が、SHIZUKUの声と同時にさくらの肩をつかんでいた。
「代役お願い! 今からリハだからっ、覚えてもらう部分だけやるねっ!! 出番は最後だから、それまでにとにかく弾くフレーズ覚えて!! 腕前は問わないからっ!!」
 両手を合わせ、必死にさくらへ頼み込むSHIZUKU。こうまで言われると、断ることが出来るはずもない。
 あれよあれよという間に、さくらはSHIZUKUのステージに駆り出されることになったのだった……。

●巻き込まれたあなたが悪いんです【9】
「遅くなりました」
 さくらが綾霞の前に姿を見せたのは、コンサートが終わって30分ほどした頃であった。
「姉さん……遅いっ!」
 さくらの顔を見るなり、びしっと言い放つ綾霞。とりあえず、言うべきことは言っておかねばならない。
「すみません。ちょっとお手伝いをしていたものですから。あ、どうぞ遠慮なさらず入ってください」
 外に居る誰かに向かって声をかけるさくら。
「姉さん1人ではない……あっ」
 入ってきた者たちの姿を目にし、綾霞の言葉が途中で止まった。何とステージを終えて間もないSHIZUKU、いや雫が居るのだ。
 雫だけではなく、サポートメンバーも一緒である。
「さくらちゃんに誘われたから、みんなできちゃった☆」
「そ、そうなんですか……」
 綾霞はそう言いつつ、じっとさくらに視線を向けた。
(……どういう『お手伝い』を……?)
 この時点で綾霞、さくらがステージに立ってきたことなどまるで知らなかった。
「やあ」
 そこへ詠子がひょっこりと顔を出した。
「遅くなったけど遊びに来たよ。結構人が居るね」
「いらっしゃいませ。ちょうど今から、お疲れ様のお茶会を催す所でしたから……ご一緒に。姉さんたちも」
 綾霞は目の前に居る全員に対して言った。
「そうなのっ? もう喉からっからなんだ〜」
 『お茶会』と聞いて、嬉しそうに言う雫。けれども雫は、決定的なことを1つ忘れていた。ここが茶道部主催の出し物であることを。
「それではあちらへ」
 そう言い、綾霞が皆を案内したのは本式の茶席コーナー。そう、本式で茶をご馳走するつもりだったのだ。
 ……そこ、『お仕置きじゃないの?』とは言わないように。そうだとしても、決して言ってはいけない。例え雫が絶句していても、だ。

【PRESENCE ―存在―・個別ノベル 了】


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■   登場人物                  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                 / 性別 / クラス / 石の数 】
【 2336 / 天薙・さくら(あまなぎ・さくら)
                  / 女 / 2−C / ☆01 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談・幻影学園奇譚ダブルノベル』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全31場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・OMCイラストのPC学生証やPC学生全身図などをイメージの参考とさせていただいています。
・『幻影学園奇譚』の本文において、高原は意図的に表現をおかしくしている場合があります。
・大変お待たせし、申し訳ありませんでした。ここにようやく、学園祭5日間の模様をお届けすることが出来ました。
・今回……といいますか、『幻影学園奇譚』における高原のスタンスは、流れに身を任せつつ『存在』についてをテーマとさせていただきました。ここで言う『存在』は詠子だけに限りません。全員の存在です。高原自身も執筆しながら、『存在』について色々と考えさせていただきました。
・余裕があればもう少し色々と依頼なども出していたかと思いますが、残念ながら時間切れ。『石』についても中途半端で終わってしまったのは非常に残念に思います。ですが、高原の『幻影学園奇譚』はこれで終了です。この約半月後、エピローグに繋がってゆく訳です。
・なお今回のタイトルの元ネタは、今年デビュー20周年を迎えた某3人組ユニットの曲名となります。今回の執筆もその曲を聞きながら行いました。
・天薙さくらさん、ご参加ありがとうございます。さてさて、突然のステージサポートの方はいかがだったでしょうか。今回の学園祭、楽しんでいただけたのであれば幸いです。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、またお会いできることを願って。