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PRESENCE ―存在―
●綾霞さん、直球ど真ん中【7】
午後6時過ぎ、体育館では在校アイドルによるコンサートが始まっていた頃。綾霞は切らした物の補充に出かけていた。客足がある程度引いたのを見計らっての行動であった。
(結局まだ姉さんは姿を見せないし……)
また、さくらを待ちくたびれたということもあり、ついでにさくらを探してみるつもりでもあった。
その途中、綾霞は学園祭の巡回に出くわした。生徒会の役員1人に率いられ、風紀委員や生活委員やらが3人ほどくっついていた。何とも物々しい光景である。
(……はて……?)
綾霞が不意に足を止めた。そして巡回の一団が徐々に近付いてくると、目の前まで来た所で声をかけた。
「お疲れさまです」
ぺこっと頭を下げる綾霞。すると向こうも会釈を返してきた。そこへ綾霞は次の言葉を投げかけた。
「張り切ってらっしゃいますね。生徒会をあげての何かお探し物ですか?」
意味ありげに、しかも少し挑発するかのごとく綾霞は言った。巡回の物々しい様子に妙な物を感じ、探りを入れてみたのだ。もっとも、探りにしては直球過ぎる気がしないでもないのだが。
ところが、そう言われた巡回の一団の方は、奇妙な反応を返していた。どうにも複雑な表情を浮かべているのだ。まるで『探し物って何だ?』と言いたげに。
ともあれ、巡回の一団は何も答えることなく通り過ぎてゆく。綾霞はそれを見届けてから、再び歩き始めた。
(今の反応は……)
どうにも判断しかねる反応であった。明確に何かを探しているのではなさそうだが、物々しい様子で動いている以上は何らかの指示があってのことと考える他にない。
別の言い方をするならば、下っ端にいくら聞いた所で綾霞が求める答えが返ってこないであろうということだ。
綾霞はやがて切らした物の補充を終え、来た道を引き返していった。その戻り道、前方から詠子がてくてくと歩いてくる所に遭遇した。
「こんにちは」
自分から詠子に声をかける綾霞。
「やあ。それ、何持ってるの」
詠子も挨拶を返し、綾霞が持っている物を尋ねてきた。
「茶道部の出し物に必要な物で……あ、そうだ。よかったら、お茶でもいかがですか?」
綾霞が詠子を茶道部の出し物へと誘った。せっかく会ったのだから、という感じであろう。
「今すぐに?」
「それは後でも結構ですけど」
「それじゃあ後で行くよ。ありがとうね」
詠子はそう言い、綾霞に手を振ってどこかへ歩いていった……。
●巻き込まれたあなたが悪いんです【9】
「遅くなりました」
さくらが綾霞の前に姿を見せたのは、コンサートが終わって30分ほどした頃であった。
「姉さん……遅いっ!」
さくらの顔を見るなり、びしっと言い放つ綾霞。とりあえず、言うべきことは言っておかねばならない。
「すみません。ちょっとお手伝いをしていたものですから。あ、どうぞ遠慮なさらず入ってください」
外に居る誰かに向かって声をかけるさくら。
「姉さん1人ではない……あっ」
入ってきた者たちの姿を目にし、綾霞の言葉が途中で止まった。何とステージを終えて間もないSHIZUKU、いや雫が居るのだ。
雫だけではなく、サポートメンバーも一緒である。
「さくらちゃんに誘われたから、みんなできちゃった☆」
「そ、そうなんですか……」
綾霞はそう言いつつ、じっとさくらに視線を向けた。
(……どういう『お手伝い』を……?)
この時点で綾霞、さくらがステージに立ってきたことなどまるで知らなかった。
「やあ」
そこへ詠子がひょっこりと顔を出した。
「遅くなったけど遊びに来たよ。結構人が居るね」
「いらっしゃいませ。ちょうど今から、お疲れ様のお茶会を催す所でしたから……ご一緒に。姉さんたちも」
綾霞は目の前に居る全員に対して言った。
「そうなのっ? もう喉からっからなんだ〜」
『お茶会』と聞いて、嬉しそうに言う雫。けれども雫は、決定的なことを1つ忘れていた。ここが茶道部主催の出し物であることを。
「それではあちらへ」
そう言い、綾霞が皆を案内したのは本式の茶席コーナー。そう、本式で茶をご馳走するつもりだったのだ。
……そこ、『お仕置きじゃないの?』とは言わないように。そうだとしても、決して言ってはいけない。例え雫が絶句していても、だ。
【PRESENCE ―存在―・個別ノベル 了】
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■ 登場人物 ■
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【 整理番号 / PC名(読み)
/ 性別 / クラス / 石の数 】
【 2335 / 宮小路・綾霞(みやこうじ・あやか)
/ 女 / 2−C / ☆01 】
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■ ライター通信 ■
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・『東京怪談・幻影学園奇譚ダブルノベル』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全31場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・OMCイラストのPC学生証やPC学生全身図などをイメージの参考とさせていただいています。
・『幻影学園奇譚』の本文において、高原は意図的に表現をおかしくしている場合があります。
・大変お待たせし、申し訳ありませんでした。ここにようやく、学園祭5日間の模様をお届けすることが出来ました。
・今回……といいますか、『幻影学園奇譚』における高原のスタンスは、流れに身を任せつつ『存在』についてをテーマとさせていただきました。ここで言う『存在』は詠子だけに限りません。全員の存在です。高原自身も執筆しながら、『存在』について色々と考えさせていただきました。
・余裕があればもう少し色々と依頼なども出していたかと思いますが、残念ながら時間切れ。『石』についても中途半端で終わってしまったのは非常に残念に思います。ですが、高原の『幻影学園奇譚』はこれで終了です。この約半月後、エピローグに繋がってゆく訳です。
・なお今回のタイトルの元ネタは、今年デビュー20周年を迎えた某3人組ユニットの曲名となります。今回の執筆もその曲を聞きながら行いました。
・宮小路綾霞さん、ご参加ありがとうございます。本文中では旧姓の方で表記させていただきました。どうも陽一郎、詳しくは話していなかったようですね。今回の学園祭、楽しんでいただけたのであれば幸いです。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、またお会いできることを願って。
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