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芸能演芸大舞台!
グランドピアノ3台を広い校内から探し出し、それを体育館まで運んだ玲於奈の手首にはトレードマークともいえるあの封力鉄鎖がなかった。グランドピアノを運び出すことなど、あの力を解放すれば何の問題もない。しかし、怪力を発揮すると思わぬ副作用が働いてしまうのだ。それはまるで欠食児童のようにお腹を空かせてしまうことだった。それも普通にお腹が空くのならいいのだが、彼女の場合は極端でおよそ10人前食べてもまだ足らないという恐ろしい事態に陥ってしまう。ジャグリングの準備を済ませて控え室に戻る玲於奈はお腹に手をやって苦しそうにしていた。
「うう、もう耐えられないよぉ……ボク、お腹空いた〜。」
彼女はそのセリフをそのまま部長に伝え、詳しく事情を説明した。聞いてる方は冗談かと思ったが、玲於奈は本気で泣き出す寸前。その表情にウソはないだろうと、部長は特別に出演料を先に渡すことにした。喜ぶ彼女は控え室には戻らず、そのまま模擬店に食料を買いこみに行ったのだ。
ところがそれを食べても全然足りない。演芸部員が観客を盛り上げている頃、玲於奈は信じられないことをお願いしていた。それは同じ出演者であるCASLLやイツルに食べ物を恵んでもらうという聞くも涙、語るも涙のお願いだった。紙容器に入ったポップコーンを食べていたCASLLはそれを聞くと哀れな顔をして彼女にそれを手渡す。彼女はお礼を言うとうれしそうにそれを頬張り始めた。あげた方も相手がうれしそうに食べるのならあげた甲斐があるというものだ。CASLLは玲於奈がムシャムシャとポップコーンを食べている音をしばらく聞いていた。が、すぐにその音は止んだ。おかしいなと思って振り向くと、またさっきと同じ顔をした彼女がそこにいるではないか。その傍らには空っぽになった箱が無造作に置かれていた。
「ねぇーねぇー、ボクに食べ物ちょうだーい……」
「……ウソでしょ?」
「お腹空いたっ!」
「わかりました。じゃあ、俺が持ってる模擬店お食事券をあげます。これで満足して下さい。」
「やったーっ! ホントにありがとね! じゃあさっそく食べてくる〜!」
「出番までに帰ってきて下さいよ。」
駆け足で出ていく玲於奈を見送ったCASLLは不安げな表情を浮かべながらイツルに言った。
「どうするですか、本当に帰ってこなかったら。私、自分のネタしか仕込んでないですよ?」
「それくらいなら俺がなんとかします。幕間をごまかすくらいのネタならありますから。」
「ならよかった。でもホントに帰ってこなかったら……どうするかな。」
そんなことを口にした時だった。話の主役である玲於奈がまた控え室に駆け込んできた。また悲しそうな顔をしている彼女を慰めるようにイツルは声をかける。
「どうしました? もしかしてチケット持っていくの忘れてましたか。それとも落としたとか?」
「違うの……」
「まっ、まさかぁ……! 龍堂さん、まさかあなたもう……!」
CASLLの予想は正しかった。
彼女はすでにチケットを使い果たした後だったのだ! さすがのイツルもこれには開いた口が塞がらなくなってしまう……
「お腹空いたの〜!」
「もうチケットは一枚もないですよ……」
「お腹空いたっ!」
「龍堂さん、さっきも聞きましたよ。そのセリフ。」
「もーっ、誰か何とかしてよ〜っ!」
その声は演技中のステージにも響かん勢いで明らかに運営に支障をきたす恐れがあった。その声を聞いた副部長がすっ飛んできて、玲於奈にギャラ以上の食事を食べさせる約束をして静かにさせることにしたのだ。
「わぁ、うれしー! これ、いくらでも食べ物頼んでもいいの!?」
「ちょっとは遠慮してください。」
副部長の額には青筋がうっすらと立っていた……
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / クラス】
0669/龍堂・玲於奈 /女性/3−C
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■ ライター通信 ■
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こんにちわ、市川智彦です。今回は幻影学園奇譚ダブルノベルをお届けします!
夏キャンプでも個別ノベルは食い物ネタでしたが、今回は本格的に食い物ネタです。
しかもご希望通り、本当に周囲にたかっちゃってます。あとで謝るように(笑)。
実は今回、助っ人に来てくれた方全員ジャグリングを希望されてましたね〜。
けど玲於奈ちゃんのお手玉は最強でした(笑)。その結果は本編をご覧下さい!
今回は本当にありがとうございました。また本編や別の作品でお会いしましょう!
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