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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


百鬼夜行〜光〜

◆光の先 繋がる糸◆
 百鬼夜行の起こる街として一躍有名となった空市。行方不明の子供。その解決を任せられた草間興信所。アトラス編集部の手に入れた本。
 枝分かれした糸の先に繋がる様々な情報が、次第に一つになる。そうして最後の糸を結ぼうと、アトラス編集部と草間興信所の間に協力体制が敷かれる事となった。

「――情報、感謝する」
 草間・武彦がやや不機嫌そうに言った。
 それに微笑みを返しながら碇・麗香は、アトラス編集部の協力者達を振り返る。
「お互いに、です。早期の解決がアトラスと興信所の名を広める事は間違い無いですし……」
 それから二冊の分厚い本を持った男を前に出す。
「それでは、この本は草間さんにお渡しするわ。アトラス側は情報収集に尽力させて頂くけど……何人か空市へ入るのでよろしくお願いしますね?」
「……ああ」
「得た情報は、お互いに隠す事なく交換し合う……それで宜しいかしら?」
「問題ない」
 草間が言葉少なに頷いて、それからはたと何かを思い出したように再び口を開いた。
「あんた方がどんな情報を記事にしようが勝手だが、くれぐれも、コチラの人間を撮影したり名前を出したりする事だけはしてくれるなよ」
剣呑な瞳に睨まれながら、碇は肩を竦める。
「アトラスは信用頂けないかしら?少なくとも私は、口約束だからといって破ったりしません。これでも事情は察しているつもりですよ?」
 興信所側には闇で動く存在も多い。能力者と言えど、まだ年若い者も。そんな彼らにとって危険だからこそ、報道が規制されていると言っても過言ではないのだ。それはもちろん、こちらも同じ。その様なモノが無くても、百鬼夜行に関わった時点で得る情報は大きいだろう。
 物言わぬ草間から何かを感じ取って、碇は美麗なる顔貌に笑みを乗せた。
「では、改めて交渉成立ですね?私は一度編集部に戻りますが、お互いにもう少し情報の交換が必要でしょう。後は能力者達にお任せするので、よろしくお願いしますね」
 そういって碇は、振り返る事なく去っていった――。

 後に残された草間は、深い溜息を漏らした後にやっと協力者達を振り返った。
「って事だ。後は任せる」
 そうして少し離れたソファーへと腰を落ち着けてしまった。


◆二つの道 二つの心◆
 アトラスと興信所の面々は今、近隣の市に存在するホテルに居る。彼らはこれから各々の行動を取る為、活動拠点が必要になる。その為に、アトラス側のセレスティ・カーニンガムが財閥総帥の地位を活かしてホテルの1フロアを貸し切ったのだ。
 色々な面から大変効率の良い状態だといえる。

 アトラスの一人としてその場に立つ火宮・ケンジは、手にした二冊の本を、見知った女性へと手渡す。草間興信所の調査員である、水上・操だ。これ以後火宮の得た情報は直接彼女に通す事も伝えておく。早い話が、お互いの連絡役だ。
「術の解き方と言っても――俺、そういうのはカラキシなんで、それは興信所の方々で読み解いて頂いた方が確実かと思うんですけど」
「それが確実か。……やっぱり、陰陽術とも違うな」
 法衣の男がそう言って、興信所の面々が各々の意見を交えていく。草間の得た情報とを統合していくと、様々な事がわかった。
 まず第一に、空市に掛かった術と百鬼夜行の理由。人を狩りし異界の化け物を異界に封印した術師、古河切斗とその彼の術が弱まった今、仮説だが彼の生まれ変わりを求めて夜行す異形。異形達にかけられた「不殺」という呪い――故に、異形は己の世界に連れ帰った子供を殺す事が出来ない。実際に異界に入った草間の者達の話では、『子供は捨てた』という話なのだが。
 術に関しては、やはり現場に向かう興信所の方で解いて貰うしかないだろう。調査が主のアトラスが調べる事は、古河切斗なる術師の生まれ変わり、あるいはその一族を探す事。また、百鬼夜行で子供が攫われた折、すぐに全てを遮断した組織の事。行政機関にまで、果ては総理大臣まで操る――といっては語弊があるが、それさえ簡単に動かしてみせた。それだけの事をしてみせるのなら、空市の百鬼夜行について知る事もあるだろう。それから、異形達の事。狼を恐れるらしい異形共の女王がいるらしい。それらしい妖怪がどこかに伝承として残っていないか等。
「火宮、これ碇と草間が纏めた資料だそうだ。一度目を通して置く様に、だと……」
 物思いに耽っていたケンジの肩を、叩く者があった。振り返るとファイルらしきものが肩の上に乗っている。声の主は龍ヶ崎・常澄と名乗ったか。
「あ、はい。有難うございます」
 ファイルはやけに分厚い。開いた先には攫われた子供のリストと市民全ての家系図がある。更に攫われた位置を記す地図。
「それから、家の中、結界内にいる物を異形は認識出来ないようですね」
 草間興信所の面々を前に、先日潜り込んだ空市での出来事を綾和泉・匡乃が話しているのが聞こえてくる。自分の調査に関する事は大まかに理解出来たので、ケンジはその輪からは少し離れている。
 ファイルの中に、古河の姓に連なる者は居ない。古河切斗、その名前が本名であったならだが。
 そうこうしている間に、話は纏まった様だった。

 それから、編集部の面々は情報収集へと、興信所の面々は今一度空市へと、それぞれ行動を別った。

 ファイルの最後に、どこかの記事の切抜きが入っていた。タイトルは大きく、『百鬼夜行』。異界への門に封印が施してある事実は、二度目に子供が攫われた翌日に、草間武彦がテレビで説明していた。「簡単に解ける封印ではない。だから、子供達を捜しに誰でも、何時でも入れるというワケでは無い」というような内容だったと思ったが。
 その記事の下方に書かれた文字に、ケンジは目を止めた。『俺が、空市を封印した奴の子孫だ!!』というタイトル。履歴書サイズの写真は目の部分が黒く塗りつぶされ、金色の長髪といういかにも軽薄そうな笑みを浮かべた青年が、友人達と共にVサインを作っている。某日、友人宅にて等と書かれた、まるで心霊写真のように見えるソレ。
 それと一緒にホチキスで止められた家系図では、その青年――A.K――安部孝太に赤線が引かれ、それからその五代前、阿部家に嫁いだ由紀子という女性の名にも赤線。更に次のページを捲れば、攫われた子供の写真が一枚とその家系図。家系図の中に「阿部家」に嫁いだ由紀子の名があった。
 それは孝太の先祖が空市に住んでいた事実を指す。あながち間違いでも無いのかもしれないが。
 ホテルのソファーに身を沈ませながら首を傾げたケンジに、同じようにファイルに目を落としていたシュライン・エマが視線を向けてきた。
「最後の記事、見ました?」
「ええ」
「どう思います?」
ケンジは肩を竦める事で、わからないと示す。項で結った黒い髪の毛が肩先から滑り落ちる。
「この記事の雑誌、三流もいい所なのよ。それをわざわざファイルにする位なのだから、どうなのかしら。麗香さんだったら確証を求めて動きそうな気がするんだけど……」
「確かに、おかしいですね。碇さんならば、調査済みの結果をファイルに残すでしょうに……」
ホテルにノートパソコンを持ち込んだ匡乃が、言葉を挟んだ。
 言われてみれば。安部孝太なる男には何も感じないのが事実だが、もしかして何か手掛かりがあるのかもしれない。
 アトラスの人間は、皆それぞれが行動に移っている。セレスティは、規制へと素早く動いた組織へと。常澄は古田・緋赤という女性と共に、三下の護衛として空市へと向かったし、目の前のシュラインは異形や術者について書物を探すという事だ。匡乃は既に、百鬼夜行の起こる条件を探し始めている。
 ケンジは一度小さく頷くと
「じゃあ、俺その安部孝太に会って、話聞いてきますよ。ガセでも何でも、もしかしたら何か知ってるかもですし。年頃も近いし、話易いでしょう」
そう言って立ち上がった。


◆炎宿す青年 困惑の中◆
 安部孝太の住まうは、大阪。某法政大学所属――大学二年生、三度目。大学に着いたケンジが彼の名を出すと、知らない者の無い程の有名人ぶりだった。が、それは何も雑誌に載った効果では無い。彼は元々、ある種のカリスマ性を持って学生達の憧れの的だとか。
 快活な生徒達に案内された食堂で、ケンジは容易く安部孝太を見つける事が出来た。彼も彼で気さくに笑いかけてくる。
「俺に用やって?」
 金髪にサングラス。耳には幾つもピアスがぶら下がり、派手な出で立ちの青年。ある時は地元ロックバンドの天才ギタリスト。またある時は大学首席。ジュニア水泳大会銀メダリスト。アメリカ留学経験に柔道・剣道の有段者。そして極め付けに霊能力者。
 それだけの肩書きを持つ故に名前は有名らしいが、この姿とトータルで知る者はそれ程多くも無いという事なのだが。
「ちょぉっと、外出ましょっかね?」
 彼の一挙一動に視線が集まる。居心地の悪さを感じながら、ケンジは孝太の言葉に大きく首を振った。

「さてさて、んで、何の用やの。アトラス編集部のちょーさいんさん」
 一人暮らし中の彼のマンションに案内されて、やっと一息ついたケンジに孝太が本題に入れとばかりに言った。――が、ケンジはまだ自己紹介もしていない。
「なん……」
「あはは、だって来ると思うてたもん。ま、あんたみたいな若いんが来るとは思ってへんかったけど?昨日来た奴等、いかにも〜な能力者のおっちゃんだったし」
 ケンジの言葉を遮って、孝太は続ける。
「毎日毎日電話はうっせぇし、せやから電話線抜いてんや。もう、ごっつ迷惑なんやけど」
 と言いつつも、声も顔もけして起こってはいない。むしろ楽しそうでさえある。
「そこまで事情が筒抜けなら、じゃあズバリ聞きますけど、阿部さん術者の子孫なわけですか?」
「ちゃう」
 ごくりと唾を飲み込んでの問いには、簡潔な答えが返った。
「俺の先祖に古河の姓持つんは居いへんよ。ただ空市に住んどったらしい先祖と、ちぃっとばかし事情に詳しいだけや」
 ニッと白い歯を輝かせる彼に、ケンジは脱力感でソファーへと突っ伏した。
 期待持たせてこれか。
「何や、そないショック受けんでもええやん。俺、古河切斗の子孫はちゃんと知ってんで?」
「え!?……っていうか、事情に詳しいって!!」
「――反応遅いで?」
 苦笑を漏らしながら、孝太が緑茶を入れてくれる。この形で渋い等と思った事は口に出さないでおく。どうも彼を前にすると思考がギャグへと寄ってしまう気がする。ケンジは何度か息を吐き出し、ゆっくりと尋ねた。
「まず、古河切斗の子孫を知っている……って本当ですか?」
「ほんとー」
「じゃあ、何故貴方はこの記事で、こんな事言ってるんですか!!?」
 ファイルを広げて見せる。そうすると孝太は肩を竦めて、小首を傾げた。
「頼まれたから?だあって本物出すワケにいかんやん?やから俺が身代わりや。俺ってちょっとばっかし有名やしなぁ、他の記事騙すんには打ってつけやろ」
「頼まれた?誰にですか?」
「古河切斗に。ついでに彼の一族に頼まれて、草間興信所の報告を聞いてたんも、実は俺やし。せやから、そっちの事情は筒抜けって事」
 今回草間興信所はあくまで依頼を受けての調査。依頼元は空市村長となっているが、それは表向き。バックについているのは古河切斗の一族だと孝太は話す。もちろん、草間は様々な機関を介して依頼を受けたので、その事実には気付いていない。
「まあそんなわけでな。お話は長うなるんで、続きは車ん中で話しましょか」
「は?」
 ケンジが問うのと同時に、孝太が指を鳴らす。すると何時の間に現れた、黒服の、隙の無い男が二人現れた。引き締まった体と雰囲気から、感覚が訴えてくる。こういう輩は、既に馴染み深い。
 等と思っている間に、己の体がその二人に担ぎ上げられた。
「なっ!!」
「怒らんでな、えぇっと……火宮さん?あんた古河一族に会いに来たんやろ?せやから、な。そん人があんたに会うって言っとんのや」
「だからって、チョ……おい、何のつもりだ!!」
しゅるりと何か布が落ちてきたかと思うと、それで目隠しをされてしまう。小さなパニックを起こしながらも必死に抵抗を見せるケンジの腕が、足が縛られる感覚。
「あんたに暴れられるんは、御免やで。止められんし……それにな、道覚えられたら適わん」
「だからってな、これ犯罪――」
「今更そないな事怖くないわ。あんたらが命懸けの様に、こっちも命張ってんのや。そん変わり知っとる事教えるで、勘弁な」


◆車の中 語られる事実◆
「さてさて、何から話したらええんかな」
 額に押し当てられているのは、銃の筒先だろうか。誘拐所か殺人容疑だぞ、これ。思いつつもケンジは黙す。
「まずは俺ん事。俺が古河一族に協力する理由やな。何でか言うたら、惚れた女が古河一族やから。アメリカ留学中に出会ってな、フォーリンラブっっちゅうかな?んま、そういう理由やな。近々古河に養子入りする事実もあるしで、協力してんの」
 ああ、そう。不機嫌を露に唸れば、苦笑が返る。
「――んで……と、携帯鳴ってんで」
 自分の携帯のメロディーが瞬間大きくなった事で、孝太が自分の荷物を勝手に漁っているのがわかった。
「おいっ!!」
 そして、機械音がするのは彼が携帯を覗きみているからか。孝太の犯罪が増えていく。
「あぁっと、切れた。ん、何々?恋人?」
「は?」
「水上・操――女やろ?」
「違う、草間の調査員だ!!つか、携帯返せ!」
「何や、つまらん。邪魔やから電源切っておくな〜」
「勝手な事すんな!!」
「てか、あんた五月蝿い」
 ゴリ。不機嫌な声と共に、今度は顎先に固い感触。
「いくら温厚な俺でも、怒るで火宮さん?今重要な話しとるて、わかっとる?」
 物の怪よりも怖いのは、人間だ。等と良く言うものだが。こう平然と銃器を使われては世も末というか、妖怪の類よりはるかに性質が悪い。この孝太という青年、かなりの場数を踏んでいるのかもしえない。明朗な性格の下に危険があると気付けなかったのは迂闊だった。
「そう、大人しく話聞いてな〜。ちゃんと全部話せんと、俺が怒られてまうし……」
何やったっけな。そう呟いてから、孝太が再び話し出した。
「次、切斗の事な。稀代の術師様はな、実は二人居たって知っとる?」
「――は?」
「せやから、古河切斗って名乗る術師が二人居たって事。いや、違うか。二人で一人の古河切斗……やな。あんたらの見つけたっていう本、あれな、改正版なんや。本物は生き残った古河切斗が自身で書き残したもんなんやけどなぁ。生憎、燃えちまってねぇ。でな、切斗の孫が話を改変して書いたのがあれやの。真実は文字通り闇の中。闇に生きる古河一族にのみ伝わってる真実の歴史」
 では、自分たちはあの時手に入れた本を、真実とするにはまだ早かったのでは無いのか。実際、違う。
「古河切斗は二人で一人。天才術師と無意識化という性質以外に何も出来ない双生児の男女や。まあ、異界を閉じようと古河切斗が封印を張ったのは事実やけどなぁ。そんで、死んだんも事実」
 ケンジは脳をフル活動さえて、孝太の言葉を追う。
「天才術師である姉が異界の世界へ入り、異形を殲滅し戻る。そうして念を入れて封印を張る――って手筈やったんや。なのに異形は以外と強うて、姉さんはもう虫の息ってとこまで追い込まれて。数える程度の異形が残るばかりやのに、運悪くも他に異形を退治出きるもんは居ない。だって弟は何の力も無い無能。術の一つも使えんのやさかい、しゃあないんやけどな。……で、どないなったかゆうと」
 窓が開いたのか、涼しい風が吹いてくる。その中に孝太の声が木魂するように響いた。
「予定通り。姉ちゃんが最後の力振り絞って封印張ったんや。……中から、な。そんなワケで異界に取り残された姉ちゃんは、もちろん死んだやろ。これで古河切斗は一人になった。残った弟が何したか言えば、姉の残した封印を無意識化させた事位や。――無意識化って、わかるか?多分馴染みないやろ。何千何万の確立で生まれてくる、稀有なる性質。それ一つではまったく意味がないけどな。だが彼は姉ちゃんと組む事で最強だった。姉ちゃんの封印を、結界を、術を無意識化させる――誰も、そこに術が成された事に気付かない。だから古河切斗は二人で一人の「稀代の術師」。そしてだからこそ、空市は今まで無傷なんやけどな〜」
 開け放たれた窓の外は静か。他に車の排気音は無い。生活の音、気配、匂いも無い。あるのは静寂。
 静寂の中で、ただ――ケンジは言葉を失う。


◆一族の戦い 術師の魂◆
「はい、着いたで〜」
 そう言われて戒めが解かれた時、ケンジの中の時間間隔は狂っていた。案内された先は、窓一つない十畳程の部屋で、天上には電気も無く、暗い。ある物といえば、出入り口の鉄の分厚い扉と、大きなパネル画面。真ん中に椅子があるだけ。
「それじゃ、思う存分話し〜」
 孝太はそれだけ言って去ってしまうし、ケンジはただ椅子に座るしか無い。
 数分待つとパネル画面に電気が入り、一人の男の姿が映った。表情は顎で切れて窺えないが、思いの他若い。組んだ足の上に載る指には皺一つ無く、座すその姿勢にはどこか貫禄さえ感じる。
「――あんたが、古河切斗の子孫なんだな?」
 ケンジはパネルを見上げてい言う。確かめるように紡がれた言葉は、静かながら何かを潜ませている様に思えた。
『そうだ。私が彼の子孫だが……残念ながら、何の能力も無い。一族全員がね』
不謹慎にも、面白そうに弾む声が部屋に設置されたスピーカーから響いてくる。
『それから、切斗の生まれ変わりも、ウチの一族にも居ない。何故ならこの二十年の間に生れ落ちた子供は居ないからな』
「……とにかく、あんたを見つけて連れ帰る。一緒に来てもらえるでしょうね?」
『冗談じゃない』
「――っな!!あ、あんたなぁ、今の状況わかってて――」
『分かっているつもりだよ。だからこそ、迅速に報道を規制してやっただろう。それから政府への働きかけと――自分で言うのも何だがな、尽力してやった』
「あんただったのか……」
『そう。正しく言うと、私達一族全てがな。この時の為に政府機関、そして様々な分野で要職についている。……君達とは違う。これが私達の戦い方だ。――それに、話なら既にお仲間に話したよ。リンスター財閥の総帥には、私達とて逆らえない』
驚きに目を見張るケンジに、男は微笑を浮かべる。そういえばセレスティは、行政機関のその後ろを調べると言っていた。今の話で彼等がその背後だというの だから、セレスティがそれを見つけていてもおかしくない。
『もし、何か知る者があるとすれば……その屋敷に住む、盲目の娘だろうな。彼女が切斗の直系だ』
生まれてこの方、一度も口を開いた事がないがな。そう続けて、一方的に始まった映像のみの会話は、一方的に打ち切られた。

「話終わったって〜?」
 ぎぃと耳障りな音を上げて、鉄の扉が押し開かれた。眩しい光に映える金髪の人物が笑う。
「早かったな。十分てとこ?」
「あれが話か?それより、盲目の娘っていうのは――?」
 孝太を剣呑な瞳で睨み吸えながら、言う。彼のした行為は絶対忘れられそうに無い。
「ああ、彼女か。うん、こっちこっち。地下にいるで〜」
 そう言って糸も簡単に案内役を務める彼に、ケンジは此処に来てやっと違和感を感じた。
「これだけの事を知っていて、何で今まで興信所に言わなかった?全てが簡単に解決してたかもしれないんだぞ!!」
「ええ〜?せやかて、切斗が許さなかったんやもん。ここでは切斗の言葉が絶対。もしお許しが出んかったら、サッキの山さんやって、例えリンスター財閥のお偉いさんだろうが何だろうが、何も話さへんよ」
 更も違和感。
「ちょっと待って。さっきから思ってたんだが、あんた、古河切斗が生きているような話し方をするな」
「だって、生きてるで?」
「……は!?」
 即答する孝太が、不思議そうに首を傾げた。それから、何かに思い至った様に手を叩く。
「ああ、火宮さん、切斗を探しに来たんやなくて、生まれ変わり探しとんのやったな。――うんうん、わかった。えぇっと、正しく言うと霊やな、古河切斗の霊。弟の方やけど」
「――は!?」
 眉根を跳ね上げる。額を押さえて歩みを止める。突拍子の無い孝太の言葉に思考が追いついて来ない。
「えぇっと、つまりは、古河切斗(弟)が絶対の発言権を持っていて、その彼が許さなかったから今日まで事実が流れて来なかったと。それで許しが出た――と?」
「そうそう。ついでに古河切斗(姉)の生まれ変わりもおるにはおんのやけどなぁ」
 はいはい、歩いて〜とケンジの腕を掴み、孝太が矢継ぎ早に続ける。
「さっき聞いたやろ?古河一族に能力者は露程も居ない。だから切斗の言葉を代弁する為に俺がおんのやけどな?まあ大事なのは、姉の生まれ変わりと弟の魂がここにおるって事。そんで、異形の探し人がコレって事やろ?ややこしいし、とりあえずな」
 乱暴に階段を駆け下りる孝太に腕を引かれたまま、ケンジは窓一つない木造の床を走った。今自分がドレ程の階層にいるのかはわからない。長い廊下を行き、階段をくだり、また長い廊下、階段――その繰り返し。やっと歩みを緩めた孝太に顔を上げると、そこには鉄の格子があった。


◆光の先 始まりと終わり◆
「……な……」
「目的の盲目の娘。古河手鞠嬢35歳」
「……35歳……?」
「そ。聞いたやろ?一族に二十未満の子供はおらんて」
 鉄の格子の向こう、寒々とした空間に椅子一つ。それに腰掛けるのは、市松人形の様な格好をした、どう見ても小学生前後の子供だった。
「まだ、聞く?」
 相変わらず頭は混乱したままだが、ここは聞く他無いだろう。ケンジは大きく目を見開いたまま、頷いた。
「もう随分前から、古河家には能力者と呼べる様な奴はおらんかった。古河切斗は遺言で『封印は必ず解ける。そを守りや』と残した。でも困った事に術師は生まれず、年々弱くなる封印をどうする事も出来なかった。――せやから、今の様な要職につく道を選んだんだけどな。まあ、そんなワケやったんだが、35年前に、そのな、手鞠が稀代の術を持って生まれたんや。それこそ、古河切斗の生まれ変わりと思える程に」
 だが。
 手鞠は病弱だった。故に十二になる前に、病に斃れて死んでしまった。そう、死んだ筈だった。それなのに身体は朽ちず、魂だけが抜け落ちて永遠に衰えない。古河切斗の能力を持った器だけが残った。 古河一族は彼女のこの状態を「病」故と信じている。植えつけられた教育は、そう信じさせる。古河切斗とは、不可思議な存在だからと。そして弟の魂は、姉が転生しない限り己の魂を現に繋ぎとめると。
「切斗は腹を括った。例え辛い現実があろうと、終わりにするのやと。――ああ、ほら」
 孝太が手鞠を指差す。その体がビクリと跳ねる。痙攣を繰り返し、もう一度大きく跳ねる。
「姉の器と弟の魂で、古河切斗の生まれ変わりや……」
 驚愕の張り付いたケンジの顔を、美しい顔が見据え微笑んだ。
「って事や。火宮さん、切斗頼んだで?」
「え、ちょ、な……」
「鈍いお人やな。異形にとってもあんたらにとっても、切斗はキーマンやで?」
 白い歯を出して軟派な笑みを浮かべる孝太が、振り返り様、何かを投げてよこした。慌ててそれを受け取り、気付く。
 それは、ケンジの携帯電話。
「綾和泉――って兄ちゃんから電話あってな?迎えに来てくれてるで。駅まで送ってやるから、早よついてこ〜」
「あ、あんたまた、人のモノ勝手に!!」
 孝太の後をとてとてと駆け出した手鞠――いや、古河切斗に、ケンジも続く。
 頭の中の渦はしばらく消えそうに無い。ただ、とても重要なモノを得た事はわかった………。

 きっと。
 そう。

 次が最後――。




【to be continue…】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【3462 / 火宮・ケンジ(ひのみや) / 男性 / 20歳 / 大学生】
【1537 / 綾和泉・匡乃(あやいずみ・きょうの) / 男性 / 27歳 / 予備校講師】
【1883 / セレスティ・カーニンガム / 男性 / 725歳 / 財閥総帥・占い師・水霊使い】
【0086 / シュライン・エマ / 女性 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【4047 / 古田・緋赤(ふるた・ひあか) / 女性 / 19歳 / 古田グループ会長専属の何でも屋】
【4017 / 龍ヶ崎・常澄(りゅうがさき・つねずみ) / 男性 / 21歳 / 悪魔召喚士、悪魔の館館長】

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■         ライター通信          ■
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ライターのなちです。この度は大変お待たせ致しまして、申し訳ございませんでした。遅くなりましたが、「百鬼夜行〜光〜」を納品させて頂きます。
三部の二作目、一番重要な場面だったのでは無いかと思っております。
長い上に個人行動が多いので、内容が判り難い事が多いかと思います。が、参加者様各位の物も見て頂ければ大丈夫かな……などと思っております。それでも尚判らなかった場合は、私の力量不足です。スミマセン。
この作品を少しでもお楽しみ頂ければ嬉しく思います。

それでは、またケンジさんにお会い出来る日を祈って!有難うございました。
ご意見・苦情等ありましたらぜひご一報下さいませ…。