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<東京怪談・PCゲームノベル>


バイバイ・ベイビー


 ――プロローグ

 ジャス・ラックシータスはある日少女を連れてきた。チャイナ服を着た女の子で、名前はメイリンというらしい。
 少女は頭をおだんごにしている。中国人らしいのだが、流暢な敬語を使う女の子だ。
「お兄さま、お食事の用意ができましたわ」
「お前妹なんていたのか、しかも黄色人種の」
「いないよ、メイリンの人違いなんだってばぁ」
 メイリンは台所からたくさんの飲茶を持ってきた。つい「おお」とうなって覗き込むと、彼女は深町・加門の前に白いご飯にかつお節のかかった物をドシンと置いた。
「あんたはそれを食ってな」
「は?」
 加門が唖然とする。しかしメイリンはジャスの方を向いてまたニッコリ笑い、やわらかい口調で言った。
「お兄さま冷めないうちにさあさ、食べてください。私とっても腕によりをかけて作りましたの」
「……いや、俺は」
「黙れ犬畜生」
 加門はネコまんまを前に茫然自失である。イマイチ受けている仕打ちが理解できない。
 深町・加門がジャスの少女の正体をいぶかっていると、突然携帯電話が鳴った。
「あんたたち、アメリカの賞金稼ぎに追われる覚えはない?」
 聞こえた電話の声にジャスがぽつりと答える。
「うーん、あるような……」
「バカ、この女じゃねえのか!」
 加門が弾かれたように少女から飛び退く。それから携帯に話しかける。
「なんだ、なにがきてる」
「アメリカでも五本の指に入る傭兵部隊があんた達の寝床へまっしぐらよ。なんか軍部の秘密でも握ってるんじゃないの」
 ゴクリと唾を飲み込んでから、加門が少女を指してまた叫んだ。
「こいつだ、こいつを捨てて来い!」
「何言ってるんだよ、カモン、そんなひどいことできないよ」
「バカこくな、軍隊相手だぞ、ありえないだろ普通!」
「ありえないのはカモンの方だよ。どうしてそんな人達のところに女の子一人を突き出せるのさ」
 ジャスはプリプリと加門を睨む。
「しかもその傭兵の一人ゴーゴリーが実は賞金首でね、ドルで言うと一千万なのよ。換金は向こうでしかできないんだけど」
「一千万ドルだあ?」
 麗子が「耳元で怒鳴らないで、気持ちはわかるけど」とうめいた。
「僕は五千万ドルの賞金首なんだからね、僕はメイリンを守るんだから」
 ジャスが子供のように言った。加門は一千万賭けられる恐ろしい傭兵に半ば昇天しそうな表情だ。
 そして力なく言った。
「麗子……なにかわかったら、また連絡頼むわ」
 力なく加門が言うと、麗子は軽い口調で言った。
「オッケイ、あんたが生きてたらね」
「笑えねえジョークだぜ」


 ――エピソード
 
 反射光が気になるのは、自分の職業が暗殺屋なんていう物騒なものだからだろうか。
 チラリと見えたなにかの反射光へ進みながら、リオン・ベルティーニは考えていた。今は昼間、反射角度からするに光ったのはビルの屋上でだろう。なんとなく、直感のような胸騒ぎのようなものを感じて、リオンはそのビルのエレベーターの中にいた。最上階まで上がり、非常階段をのぼって屋上へ出る。
 現れた黒い影は、リオンの勘通りに片手にライフルを持っていた。突然の来訪者を予期していなかったのだろう。スコープをはめた銃をリオンへ向けず、戸惑った表情をしている。
 なんとなく……こういった街内での暗殺に手馴れているわけではないのだと、リオンは感じた。
 不意に入ったリオンの足音はけしてプロのものには聞こえていないだろうし、男は明らかに困惑している。その顔は少し、母親にオモチャを取り上げられた子供に似ている。そんなことを考えながら近付いて行くと、男は困った顔を強張らせて言った。
「止まれ」
 英語だったので、つい聞き逃すところだった。
 ただしほとんど聞いていない顔をして、男がライフルを構える隙がないうちに、リオンは男の一歩手前まで走り出していた。それからその物騒な武器を叩き落す。簡単には落ちなかったので、男の身体を大きく蹴り、自分の体制を立て直しながら男が目を光らせる前に横っ面を叩くように顎を殴った。
 男はおそらくプロなのであろうが、街中での突然の奇襲に一瞬だけ倒れこんだ。すかさず右手を踏みつけ、離れたライフルを足で蹴り飛ばす。スコープだけが、コロコロと転がっていた。
「東京のど真ん中で、こんなもので殺しはできないよ」
 いや、可能だろう。
 リオンの感触からするに、立ち上がって苦笑いをしている男は兵隊か元兵隊である。
「おせっかい屋か」
「そんなところかな」
 男はリオンではなく遠くの道を見ている。
 彼がスナイパーなのだとしたら、標的を肉眼で見つけるのは不可能だろう。スナイパーは本来三百メートル以上近くの敵を狙うことはしない。しかし、ここはゴミゴミした東京だ。見渡せる景色は限られてくるし、遮蔽物に弾をかすらない軌道も決まっているだろう。
「仕事ができないのなら俺は帰ろう」
 スナイパーであろう男は静かに言って、スコープを拾った。それからライフルを回収し、大きなアタッシュケースにしまった。リオンは片手をホルスターが吊ってある左胸に突き挿しながらじっと横目で眺めていた。
 そして男は本当に背を丸めて帰って行った。
 おそらく現役の軍人だろう。個人のプライドよりも作戦失敗撤退の意思が働いたのだと思われる。
 リオンは煙草を取り出して口にくわえながら、白衣のポケットへ片手を突っ込んで双眼鏡を取り出した。
「ここから、見える人ねえ」
 しばらく道を洗っていると、金髪を頭の後ろで結った見たことのある顔が飛び込んできた。
「あ、ジャスさん」
 ジャス・ラックシータス、深町・加門の相棒である。
 ジャスは隣に小さな女の子を連れていた。頭に二つのお団子ののった、中華風の娘だった。
「誘拐か?」
 つぶやいて煙草を噛む。
 さっきの男がビルの出入り口から出る頃だろうと踏んで、リオンは下を双眼鏡で覗き込んだ。するとアスファルトの黒に溶け込むように男が立っていて、男は口許を軽くあげて笑い、リオンの双眼鏡へ向かって手で鉄砲を作ってみせ
「バーン」
 そう口を動かして手を上下に振った。
 リオンは煙草をポロリとその場に落とした。
「嫌だね、ああいう奴とはあんまり関わり合いたくない」
 有能な兵隊は脅威である。暗殺者の手合いならば、少しぐらい関わりあっても回避する可能性を見出せるが、兵隊は作戦次第で簡単に死にさえする。そして、作戦実行が行われる。部隊に狙われれば、自分ならばほぼ未来を絶望したくなるに違いない。
 少しの間軍隊にいた経験のあるリオンだからこそ思うことだ。
 リオンは双眼鏡をしまい、胸のポケットからもう一本煙草を取り出してライターで火をつけながら肩をすくめた。
「ああ、嫌だ嫌だ」
 正体がわかっていたら止めに入るつもりもなかった。
 もしかしたら、ここで殺されていたかもしれないな。ちらりと、そんなことを考えた。
 
 
 イタリア料理のレストランで、神宮寺・夕日とシュライン・エマは夕食を食べていた。夜のディナーは四千円からだった。コースは品数が同じ同じコースの方が楽しめる。二人は同じコースを頼み、マリネやパスタを楽しんでいた。
 給料日後だからと夕日は料理に合わせて白ワインを頼んだ。白ワインが氷の入った容器に埋まって、テーブルへ置いてある。
「シュラインは買い物上手なのよ」
 口を拭きながら夕日がすねたように呟く。シュラインは苦笑をした。
「無駄な物は買わないだけよ?」
「それが、買い物上手って言うの」
 冬に向けて洋服を買いに出た二人は、それぞれ冬用の物をいくつかずつ購入した。
 はたと夕日が気が付いてみると、シュラインの買い物は値段を落とした物が多い上、シュライン自身の物でもない場合があった。
「その、草間さんと零ちゃんに?」
「あの二人は買い物に出ることさえ思いつかないから」
 シュラインが困ったように微笑する。
 手元だけが明るい店内でも、笑った気配が伝わってくる。夕日も誰かの分の買い物を思いつけばよかったと考えた。しかし、彼女の身内は兄と居候の兄の弟子だけであったし、恋人……候補には物を渡せる関係ではない。素直にシュラインを羨ましく感じながら、夕日は今日買った物を思い返す。
「ブーツ……買わなかったよね」
 一足買った夕日が言うと、シュラインは視線を宙に浮かせた。
「あのー、ブーツって全身ガラッと変えないと合わなかったりするでしょう」
 その通りなのだ。夕日もおかげで全身買い込んだ。
「私はあんまり毎日ガラッと服装を変えるタイプでもないし、まだ去年買ったブーツも使えそうだし、今年はいいの」
 毎年ブーツを買ったところで、チマチマした流行の違いこそあれほとんど形は変わらない。ロングブーツになってしまえば、それこそ変わらない。今更買い物の後悔がやってきて、夕日はげんなりしてきた。
 顔に出ていたのか、シュラインがおかしそうに笑う。
「いいじゃない、予算内のお買い物だったんでしょ」
「……一応」
 嘘、実は予算オーバーの買い物だった。
 こうなったら飲んでやるわ、とグラスを空けるとすぐにウェーターが飛んできておかわりを注いでくれた。
「飲みなさいよ、あなたも」
 夕日が言うと、シュラインは首を小刻みに振って断った。
「帰り夕日さんの車運転しなくちゃだから」
「平気よ、少しぐらい」
 警察関係者とは思えない一言だ。
 それでもゆったりと食事は進み、デザートに取りかかろうというとき、夕日の電話がバイブのまま鳴った。鞄の中でジイジイと音を立てている携帯に気付き、夕日は顔をしかめる。
「仕事じゃないでしょうね」
 そう言って鞄を探ると、出てきた携帯電話は彼女の心臓を高鳴らせた。
 着信は、深町・加門からだったのである。
 
 
 CASLL・TOはホットドック三昧の毎日を加門が嘆いていたのを思い出して、吉野家でソースとんかつ丼を自分と加門とジャスの三つ分買った。それから、おそらく足りないだろうと見越して、豚丼を二つ追加した。
 仕事が空くと、CASLLは二人の賞金稼ぎの元に行くことが多かった。
 加門は大抵退屈しているか留守で――その場合は獲り物を手伝いに行った。ジャスは呑気にテレビや映画を観ていた。行ってお手合わせを願うと、どちらも気軽に引き受けてくれる。加門の流れるような動きを見ることはできるようになったし、ジャスとやればジャスがたまに拳銃を構えるほどになった。
 アクション俳優もこれで夢ではないだろう、などとCASLLは思っている。
 今度ジャスに拳銃の扱い方も教えてもらおう、なにせ彼はガンマンらしいし、拳銃を構えるときは緊迫感が違う。
 吉野家の強盗騒ぎに凹むのはよして、CASLLはいつも通りの顔をしているだろうキャンピングカーの連中に、生野菜も買っていかなければと考えた。
 あの二人はホットドック以外の栄養補給をほとんどしない。
 森林公園の入り口にバイクを停めていると、見たことのある背の高い人物がふらりと中へ入って行くところだった。
「こんばんは」
 CASLLが荷物を片手に声をかけると、その人物は首をすくめ驚いたようにCASLLを見てから、三メートルほどずささささと遠のいた。
「こ……こんばんは」
 こんな夜更けに白衣を着たバンダナ姿で歩いていたのは、リオン・ベルティーニである。リオンは瞬きをたくさんして、CASLLを眺めていた。
「加門さんのところですか」
「え、は、はい」
 リオンはあからさまにCASLLにびびっている様子だ。
 驚かれ慣れているCASLLは気にも留めず、持ってきた吉野家のビニール袋を掲げて嬉しくなって笑った。
「たくさん買ってきてよかったです」
「え。CASLLさんだっけ、聞いてない? なんかトラブってるって」
「トラブル? ですか、また」
 すっかり「また」である。
「私には連絡はきませんでしたが」
 少ししょんぼりして言うと、リオンは首をかしげて眉を寄せた。
「とにかく、至急だそうですよ、行ってみましょう」
 急ぎの割りに二人はのんびりと歩き出した。
「お仕事はなにをなさってるんです? 賞金稼ぎですか」
 CASLLがリオンに訊くと、リオンは即座に否定した。
「いや、喫茶店のオーナーです」
「喫茶店のオーナーに至急がかかるんですか」
 CASLLが目を丸くする。リオンは苦笑をして、CASLLへ問い返した。
「あなたは……?」
「私は俳優をしております。かたわら賞金稼ぎも少々」
「俳優さんですか」
 話している間に二人の間にあった三メートルの溝は埋まったらしく、キャンピングカーへつく頃には二人で仲良く談笑していた。


 キャンピングカーの中では、黒・冥月がメイリンに説教を食らわせていた。
 中国語で続く説教に、メイリンは無反応である。
「お兄さま、この女性はどなたです?」
「影使いの黒さんだよ」
 メイリンは冥月を振り返り、冷たい眼差しで言った。
「根暗なわけ」
「なんでそうなるんだ」
 冥月がイライラと突っ込む。しかしメイリンは彼女の言葉をスルーして、ジャスにべったりくっついている。
「ともかく、狩りを知っている奴等だ。守りきれるかどうか」
 散々忠告したにも関わらず、メイリンに無視をされ、腹を立てながら冥月は言った。加門とジャスはいつも通り緊迫感のない顔をしている。
 メイリンは邪気のない顔でジャスに繰り返す。
「知りません、私、追いかけられてなんていませんわ」
「えーと、でもね、皆がそう言うんだよ」
 加門は煙草を口にはさんだまま、はあと深い溜め息をついた。冥月は中国語がわからぬふりをしているメイリンに、日本語で言う。
「いいか、草食動物は身体能力の差で肉食動物に捕まるんじゃない。狩りの方法で捕まるんだ。今の場合、完全に傭兵部隊が優位に立っている」
 ジャスがコーヒーをいれようとキッチンへ立つと、メイリンは顔から笑顔を消した。
「うるせえ、根暗女」
 冥月が瞬間的に固まったところで、メイリンはジャスのいるキッチンへと去っていった。
「お兄さまお茶ならば私がご用意いたしますわ」
 加門が憐憫の眼差しで冥月を見ている。冥月は少女相手に、拳を震わせていた。
 ぼんやりと加門が言った。
「ともかく、逃げなくちゃならない」
「差し出したらどうだ」
 冥月が腕組をしながら言った。
「そういうわけにもいかないらしい。リオンが着き次第車で逃げる」
「リオン? なにか特別な能力があるのか」
「軍隊経験者だ。それと」
 加門は片手でピストルを作ってみせた。「これ、だな」
 キャンピングカーのドアがノックされて開くのと、加門の携帯が鳴るのは同時だった。
「なんだ」
 加門が着信も見ずに電話に出ると、麗子だった。
「あんた最近妙に変な能力者とつるんでるけど」
「好きでつるんでるんじゃねえよ」
「なんでもいいけど、今回は巻き込まない方がいいわよ。ゴーゴリーの能力は特殊能力の無効化と生命反応による位置の測定だから。ゴーゴリーの通称名はマスター、半径一キロを支配するフィールド能力保持者よ。あっちはゴーゴリー抜きにして八人部隊、全員ベテランの傭兵ね」
 加門は冥月を見て、口許をひきつらせた。
「それマジか?」
「大マジ」
「だよなあ」
 加門は立ち上がった。
 電話を切ってリオンとCASLLを見た加門は、困った顔でよおと片手をあげた。
 
 
 キャンピングカーの中は少しむしていたし、いくら最大六人までは過ごせるという車の中でもそれだけの人数が集まると鬱陶しいものだ。全員緑溢れる外に出ていた。
 加門は手足を回して準備体操をしている。
 リンリンと虫が鳴いていた。そういえば、鈴虫は肉食だそうだ。そんなことを考えて、少し嫌気が差した。
 この森林公園は正規のルートでは車は入れない。キャンピングカーのような大きな乗り物を、どうやって突っ込んだのだろう。リオンは考えてこの辺りの地理を思い返した。
「そもそもなぜ追われている」
 冥月が腕組をして言う。メイリンは何も聞こえないような顔をして、ジャスの腕にしがみついている。
「理由もわからず助けてやる謂れはない」
 彼女はふんとそう言ってきびすを返した。
 加門がぼんやりと呟く。
「そうした方がいいかもしんねえ……CASLLお前も帰れ」
「だって大変なんですよね、加門さん達は今。私よくわからないんですけど」
 加門は煙草の煙を吐き出しながら、呟くほど小さな声で続けた。
「今回の相手はフィールド能力者だ。フィールドを形成させてゴーゴリー以外の人間の特殊能力は封じられるらしい。身体能力が落ちないのは、フィールド内の味方の能力値を下げない為だろう。つまり、冥月の影は使用不可能だ。渡り合えるのはリオンとジャスの拳銃だけだと考えていいだろう」
 頭数に入れられているリオンは、ゲンナリしながら答えた。
「俺、まだやるとは言ってませんよ」
「やれとも言ってねえよ」
 頼みもしないでやらざるを得なくする加門のやり方は卑怯だと思う。
「相手は八人なんですよね」
 CASLLが怖い顔を歪めて言う。加門は煙草をフィルター近くまで吸って、足元でもみ消した。
「ああ」
「じゃあ私も戦います。私だって足止めぐらいの役には立てますから」
 ジャスはメイリンを見てCASLLを見て、困った顔で固まっていた。
「相手が何を狙ってるのかわかるまで、ともかく逃げる」
 冥月が眉根を寄せて加門へ言った。
「私が特殊能力がないと脆弱だとでも言いたげだな」
「そんなこたあ俺の知ったこっちゃねえが、相手が現役の傭兵だってだけで、お前はこっちがどんだけ不利かわかってるだろうからな」
 車の停まる音がした。ジープではない、加門が呼んだ救援だろうか。
 リオンは観念したように言った。
「わかりました、相手は極めて特殊な傭兵部隊で相手の目的が捕獲か殲滅かは不明」
「そうだ」
 ジャスがメイリンを見て心配そうに言う。
「平気? 怖くない?」
「私、お兄さまが一緒ならなにも怖くありませんわ!」
「……どこまで本気なんだか」
「うるせえ、この天パ男」
 加門が二本目の煙草を取り出した。彼は怒りをぶつけるように肩を回している。
 リオンは昼間出会ったスナイパーのことを考えていた。あそこにジャスとメイリンがいたのは偶然ではないだろう。そして、スナイパーが狙っていたことから考えて、目的は捕獲ではなく殲滅に違いない。
「プロ相手に市街戦は不利だ。開けた場所を提案する」
 冥月がしらけた口調で言った。
 リオンははあと一つ溜め息をついた。
「俺の考えだと、傭兵部隊をぶつけてくる自体で捕獲の可能性は低い。その場合、相手の火力はこちらとは比べ物にならないでしょうね。開けた場所なんかに行ったら、どんなに小さな火力だとしてもアサルトライフルかサブマシンガンで蜂の巣決定ですよ」
 リオンはシュミレーションを頭の中で組み立ててから、手を握ってから開いてみせ
「パアです、全員ね」
 そう付け足した。
「それから作戦成功まで奴等は何度でもやってくるでしょうから、街内を逃げ回っているだけでもいつかは捕まります」
「どうする?」
「市街戦へ持ち込んで、一人ずつ何かしらの方法で殺していくしかないでしょう。その為には、いい目と耳が必要です」
「目は、私が」
 尋常ではない動体視力を持つCASLLが手をあげる。そして草叢の中から、女の声が静かに答えた。
「耳は、私が」
 そこにはいつもより緊張させた表情のシュライン・エマと神宮寺・夕日が立っていた。
 ジャスが垂れた目の奥を静かに光らせて、揺るぎのない声で言った。
「いくら傭兵が相手だからって、殺したら許さないよ」
「……無茶言わないでくださいよ」
 リオンは苦笑する。殺さずどうしろというのだろう。
「フィールド内では位置が特定されるし、メイリンだけを逃がして戦うことは不可能です。目的がメイリンである以上、彼女をフィールド内に留まらせなくてはなりません。フィールド内では一箇所におらず、必ず動き回っていることが必要です」
 シュラインは少し手をあげた。
「私達の聞いてない情報もありそうね」
「そもそも――お前等話に加わらねえ方がいいだろうが……。俺はメイリンの保護に神宮時を呼んだんだぜ」
 シュラインの耳の特殊性をよく知っているリオンは、加門を無視した。
「詳細は車の中で話しましょう。運転に自信のある奴……」
 誰も手をあげなかったが、リオンは加門と自分を指して
「二手に分かれて移動します。メイリンの乗っている方が標的でしょうから、違う側は武器の調達に向かいましょう。俺とジャスさんと冥月さんとCASLLが武器の調達に行くんで、加門さんは死ぬ気で逃げてください。あっちも人込みではおそらく戦闘に入りません……どこか適当な場所に誘い込む手筈だろうから、分かり次第合流ということで」
 全員うなずいたが、メイリンだけが不服そうに言った。
「お兄さまと離れてしまうのは嫌ですわ」
 誰か一発殴れ、と考えた。
 
 
 車はほどなくして別れて行った。
 リオンの運転するクーパーは、新宿の骨董屋を営んでいる武器商人の元へ向かっている。一方加門達は、多摩地区の細い道を撹乱するように走っていた。
 しかし、問題はすぐに起きた。
 傭兵部隊のジープは新宿に現れたのだ。
 電話越しにジャスが大慌てで説明する。
「ジープが二つ、……僕達が追われてるみたい」
「はあ?」
「麗子に一応メイリンの写メ送っておいたから、メイリンの身元はすぐわかると思うけど」
 加門がステアリングを切る。彼は頭の中の地図の範囲を広げた。
「役割交換だ、俺達が武器を調達する。お前等は死に物狂いで逃げろ」
 夕日のフィットはこれまでにないほどのスピードで細かい路地を抜け、街へ向かった。
 後ろで夕日がメイリンの身体検査をしている。彼女のどこにも発信機がつけられていないのを確認して、夕日は困ったように言った。
「どういうことよ」
「こっちが聞きたいよ」
 加門がグシャグシャの頭をひっかいた。
 運転で忙しい加門から、隣に座っているシュラインが携帯電話を取り上げる。
「もしもし? その傭兵部隊の武器なんかわかるかしら」
 声が変わり、リオンが答える。
「八人の部隊の場合……火炎放射器や衛生兵通信兵は必要がないのでいないと思う。あるのは小銃とサブマシンガン、スナイパーライフル、それからグレネードランチャーじゃないかな」
「生死を問わず、の理由は?」
 シュラインは窓の外を見ながら訊いた。
「今日の昼間スナイパーが、誰かをライフルで狙っているのをみたんだ」
「昼間?」
「たぶん、メイリンだろう」
 話しを聞いていた夕日が途方に暮れたように呟いた。
「なに? ぐれねーどらんちゃーって。なんのこと?」
「武器の種類だ。ランチャーは装填に時間がかかるかもな」
 加門が手短に答える。
 シュラインは眉間を押さえて顔をうつむかせながら、小さな声で弱音を吐いた。
「戦争よ、まるで」
「かもな」
 車がスピードをあげる。メイリンは全員のやりとりを興味なさげに眺めていた。
 
 
 曲がり角を曲がり切れずに、クーパーは民家へと突っ込んだ。
 割れたフロントガラスをかぶりながら、リオンは後部座席の冥月と隣のジャスを見た。二人とも一応無事ではあるらしい。そこへ、民家の主が現れた。
「なんじゃこりゃあ!」
 三人が外へ出ると、彼はまた言った。
「お前等何してくれんだよ!」
 雪森・雛太である。リオンは突っ込んだ外のことを気にかけながら、謝りもせず雛太に訊いた。
「車ない? 今すぐ出れるやつ」
「はあ?」
 ジャスがケホケホ咳をしている。
「ないとこのまま死ぬよ」
「意味わかんねえし」
「ともかく、車! 死にたくなかったら車用意しろ」
 リオンはプッツンと切れて雛太を恫喝した。反論する前に驚いた雛太は、片手に小刀片手に鉛筆を持ったまま、車のキーを持って全員をシトロエンまで案内した。
「お前等、今度はどんなのに頭突っ込んでんだ?」
 雛太はハンドルを誰かに譲る気はないのか、自分で運転席へ乗り込んだ。
「出せ」
「うるせえなあ、出しゃいいんだろ、出しゃ」
 リオンに押し切られる形で車を外へ出す。すると、後方にジープが二台見えた。
 不機嫌な音をあげてシトロエンがスタートする。アクセルを踏みながら、雛太は他人事のように言った。
「性能が違いすぎねえか、すぐ追いつかれるぜ」
「追いつかれたら終わりだ、裏道使いまくって逃げ切れ」
 トロトロ走り出した車の後方にジープが近付いてくる。リオンは窓から顔を突き出して、左胸に吊ってあるホルスターに片手を差し込んだ。古いワルサーを構えて、パンッと音をさせて銃を撃つ。雛太が驚いてリオンを見た。
 それを見ていたジャスが、同じように窓から身体を乗り出して、リオンの物とは比べ物にならないほど大きなハンドガンを取り出した。ドン、という音はしたが、ジープが止まる気配はない。
「どうやら防弾タイヤみたいだねえ」
 ジャスは困った笑いを浮かべる。リオンは色めきたって言った。
「そんな悠長な! そもそもなんで俺達が追われてるんっすか!」
「さあ……ねえ?」
 ジャスは困り顔で冥月に振ったが、冥月は肩をすくめてみせただけだった。
 
 
 骨董屋へ加門達が顔を出すと、主人は嫌そうな顔をした。
「よお、世話になるな」
「……今日はどういったご用件で」
 加門はにやりと笑った。他の者はきょろきょろと骨董の品を見ている。
「大量に武器関係が今すぐ必要になったんだ」
「……加門の旦那、すぐ売れってぇ言われたって在庫がないことぐらい知ってますでしょう」
 加門は煙草の火をカウンタに押し付けて消し、じろりと骨董屋を睨んだ。
「いますぐだ」
 主人は加門を見返して、眉をあげすごすごと店の中へ入って行った。
 CASLLが不思議そうに訊く。
「どうして無理がきくんです?」
「あいつが小額の賞金首だからさ。たった十五万ぽっちのな」
 飾ってあった花瓶から目を離して、聞き捨てならないと夕日が加門に近寄った。
「ちょっと待ちなさい、非合法に武器を手に入れるわけ?」
「なに聞いてたんだよ、今までお前」
 加門は耳の穴に小指を突っ込んで夕日を見た。
「だってあなた賞金稼ぎでしょ、正規の店で買えばいいでしょうが」
 はあと加門が深く溜め息をついたところへ、シュラインが的確に説明をした。
「正規のライセンスだと武器の申請に時間がかかる上、殺傷能力の高い武器をいくつも持ち歩くことは不可能なんじゃないかしら」
「だ、だからって……」
 夕日が憤慨する前に、主人が大きな木箱を持ってきた。中には様々な武器が入っていたが、加門は中から大小さまざまなハンドガンを取り出し、防弾チョッキをその場にいる全員に手渡した。
「あんたは着ないの」
 夕日が不服そうに訊く。
 加門は笑った。
「重たくて柄じゃないんでね」
 CASLLがメイリンにチョッキを手渡した。
「着てくださいね」
「黙れ、悪党面」
 CASLLの笑顔が固まった。
「通信機が四つしかねえなあ」
 加門はメイリンの発言をきれいに流して、ぼんやりと呟いた。
 
 
 店を出たところで、目の前の交差点にデコトラが停まっていた。
「おう、おう、お前等」
 声をかけられて運転席を見上げると、知った顔が運転している。黒髪を後ろで結った帯刀・左京だった。
「左京さん、お仕事されてるんですか」
 シュラインが不思議そうに訊くと、左京はからから笑って手を振った。
「違う違う、コンビニへ腹が減ったから買い物に入ったら、捨ててあってよぉ」
「それ、捨ててあったんじゃなくて、置いてあったんだと思います」
 夕日ががっくりと下を向きながら小さな声で呟く。左京はそんなことまるで気にしていない様子で、交差点が青信号にも関わらず(後方に車がいないのが幸いだった)動かずに会話を続けていた。
「皆さん揃ってなんなんだ? また物騒な山か?」
「ビンゴ」
 加門が人差し指を立てる。
 それからゆっくり聞いた。
「お前さ、特殊能力以外の能力って持ってる?」
「ああん? どういうこっちゃそりゃ」
「ようわからんが、なんか特殊な感じはダメらしい。身体能力は有効だそうだ」
 本当によくわかっていないのか、加門は言いながら頭をかいた。
「そうだな、じゃあ本来俺なんかは刀なわけだから、硬化は特殊能力じゃねえなあ、たぶん」
「よし、わかった。左京、お前ついでだから付き合え」
 加門は路上に停めてあるフィットへ歩いて行き、交差点の前に出て左京のトラックを引き連れて車を出した。
「ついででもなんでもいいけどよお、面白れぇ話なんだろうな」
 はなはだ面白くない話なのだが。
 加門は黙ってやり過ごすことにした。車に乗り込んですぐに、携帯電話が鳴った。助手席のシュラインが電話を取る。
「もしもし、麗子さん」
 電話に出たシュラインが麗子の電話の内容を告げる。
「ジープはおそらくまだ無人のラフランス吉岡ニュータウンへ向かってジャスさん達を追い込んでいるそうよ。至急そちらへ向かって、準備を」
「了解」
 車がニュータウンへ向かって走り出す。


 冠城・琉人はポンコツカーが走り回るのを見下ろしながら、情報を聞いていた。
「加門さんもジャスさんもお忙しいですねえ」
 ほっと一息ついて、お茶をすする。
 車はあちこちの路地をグルグルと抜け、そしてまたサイドミラーを飛ばしながら路地へと入って行った。
「雪森さんの運転技術もまあまあですね」
 そんなことを考えつつ、平和にお茶を飲む。
 それにしても……ゴーゴリーの特殊能力が厄介だ。ジャスの乗る車には冥月が乗っているので、ジープ側が例のフィールド能力を使ってさえいなければ、彼女の能力で相手を倒すことは可能な筈だ。それをしないということは、ゴーゴリーは今現在もフィールド能力を使っている。
 琉人のいる場所は随分離れているので、影響下ではないらしい。残念ながら影響下のジャス達の情報は得られないが、まったく違う方向にいる加門達の情報は手に入る。
 加門達は無事武器を入手し、おそらく戦線になるであろうラフランス吉岡ニュータウンへ向かったところだ。
 しかし――どんな能力でも本当に封じられてしまうのだろうか。
 琉人は呑気に思いつつ、ニュータウンの一番高い建物の一番上に席を取っておこうと立ち上がった。
 ゴーゴリーの一千万ドルの賞金、横からかっさらっても今回は誰も文句は言うまい。
 言ったところで、関係はないけれど。
 あのメイリンとかいう娘、彼女は何者なのだろう。
 東京の街をいくらさらって見ても、あの娘の正体は掴めそうもない。本当に大陸からやってきたと考えるべきか……。ゴーゴリーを賞金稼ぎと捉えるのならば、メイリンは多額の賞金首でなくてはならないのだが、どうも違うらしい。
 どこかで情報が、食い違っているような……?
 
 
 サイドミラーが吹っ飛ぶのを見送った雛太は、アクセルを踏み通しでハンドルにしがみ付きながら怒鳴った。
「誰か弁償してくれんだろうな」
 リオンは知らぬ顔で携帯電話に耳をそばだてている。
 後部座席に座っているジャスが、のんびりと雛太に答えた。
「うーん、でもさあクーパーもおしゃかになっちゃったからね」
「……それもだ、あの家の修理代も出してもらわねえと!」
「うん、だからねクーパーの修理代も出してもらわないと」
「寝ぼけたこと言ってんじゃねえよ!」
 雛太が叫んで急にステアリングを切る。キキキキ、とアスファルトとタイヤがすれる音がした。そして方向を変えてシトロエンは走り続ける。騙し騙し使ってきた車だったが、こんなことの後では動かなくなるのではないかと雛太は眉根を寄せた。
 リオンがシートに捕まりながらジャスを振り返った。
「ジャスさん、麗子さんの情報収集能力はどんなもんなんです」
 突然振られたジャスは、一瞬ぽかんとしていたが自分の腕を自慢するように胸を張って答えた。
「そりゃあ、加門が強くないかって訊かれるのと同じだよ。麗子の場合、敵に回したら最後だと思った方がいいけどね」
「その麗子さんが、メイリンの過去が、ほぼまっ白だと言っているということは」
「え? まっ白?」
 リオンは金髪の髪を押さえながら、ジャスへ続けた。
「三歳のときに孤児院から忽然と姿を消したあとの足跡がまるでないそうです」
 ほぼ十秒から二十秒の感覚で激しくステアリングが切られるので、乗っている方はまともにしゃべれない。
「へえ、じゃあ日本にいたかもしれないんだね。日本語きれいだし」
「そういう問題じゃねえよ」
 リオンがプッツンと切れた。
「そんな得体の知れない女の子庇ったっていいことないっすよ。何者かわからないんですよ!」
 隣で聞いていた冥月が静かにうなずいた。
「その通りだ」
「つーか、そのメイリンって誰だ。かわいくなかったら殺す」
 雛太が意味もなく切れている。
「皆おかしいよ。隣の人がお腹が減ってたらパンを分けてあげようよ」
 ジャスは泣きそうな顔でそう言った。
 傭兵部隊は雛太の土地勘とハンドルさばきのお陰でもう後方には見えなくなっていた。麗子の考えに基づいて、加門達が向かったラフランス吉岡ニュータウンへ向かう。誰もいない街は脅威でしかないように思えたが、誰も巻き込まないで戦闘を繰り広げるにはそこで戦うしかない。
 連絡通り一番奥の崖下の角部屋まで行くと、デコトラとフィットが停まっていた。
 中から派手な着物姿の左京が顔を出して、満身創痍のシトロエンへ言った。
「よ、おつかれ」
 疲れるのは……本当はこれからだ。
 
 
「クイックアンドファイヤーって知ってるかい?」
 リオンは自分の白衣を脱ぎながら言った。暗闇の中で目立つ色は着てはいけない。市街戦の基本である。
「なんの標語だ?」
 雛太が重たい防弾チョッキを着ながら言った。言ってから、ブツブツと口の中で呟く。
「……ってぇかどうして俺、こんな目に遭ってんだ? 防弾チョッキをなんで着てんだよ」
 雛太の嘆く気持ちがよくわかるのか、夕日が雛太の肩を叩いた。
 メイリンが雛太を見て一言言う。
「チキン野郎」
 ペキペキと雛太が固まった。「いまなんつった、いまなんて……」
 身体を乗り出す雛太のおでこに手を当てて押さえながら、加門はリオンに話の続きを促した。
「動いた物を見たら即座に撃て、が市街戦の基本だ。動いていたら殺される、その上向こうにはこちらの動きを読む力があるから、止まっていても殺される。俺達は逃げ回りながら、相手と絶対に対峙することを避けなければならない」
 リオンは指で自分の位置を指し、それから入り口付近の南に向かって指を動かした。
「ここがA―1地点、南へ行くほどBCとアルファベットが増える。東へ行くほど数字が増える。ここは小さなブロック都市だと思えばいい。耳のいいシュラインさんと目のいいCASLLさんは始終逃げ回りながら、敵の位置をいち早く察知して、戦闘組に正確に知らせること。察知ができない環境では俺達に勝機はない」
 左京は退屈そうにつまようじをくわえている。
 リオンは煙草を取り出して吸おうとして、やはり控えることにしたのか手を止めた。
「一つだけ向こうに弱点がある。無線を使ってることだ。ちょうどここにあるデコトラの無線を使えば、近付いたときだけ無線を妨害できる。ゴーゴリーがこちらの位置を知っていても、部下に知らせることができない状態になるわけ」
 ぺっとつまようじを吐き出して、左京が笑った。
「俺が運転手、と」
「運転手は必ず最終的に蜂の巣になる。それを見越して、左京さんならなんとかなるか、と」
「通信機は、ジャスさんシュラインさんCASLLさん俺の四つだ」
 シュラインが外を大きく振り返りながら言った。
「相手はスタンバイオーケイよ」
 CASLLも眼帯を外して少し窓から外を覗く。
「敵の現在地はわかるわ、皆頭に叩き込んで」
 冥月が目をつぶったまま言った。
「ただし相手が位置を変えることを忘れるな」
 巨大ニュータウンは三キロに渡って広がっている。
「まず前線で俺達を狙ってくるのが」
 リオンはあの時のことを思い返した。スコープの反射光を。
「スナイパーだ」
 今加門達はスナイパーの射程距離内にいることになる。遮蔽物を使って、どれだけ逃げ切れるのか……。
 全員がそっと動き出した。
 
 
 トラックが静かにオープンエリアを走り出した。
 その影に沿うようにして、深町・加門とジャス・ラックシータスはマンションに近付いた。ジャスは向かいのマンションの屋上へ向かう。加門は音を立てぬよう気を付けながら非常階段を駆け上がった。マンションの側にトラックは張り付いている。そしておそらく、電波妨害をしている。今ならば、気付かれていないと思うしかない。
 リオンの説明によると、スナイパーは本来三人行動を常としているらしい。シュラインの音の解析では、スナイパーはスナイパーライフル以外の武器を持ったもう一人と行動しているそうだ。三対二では分が悪いが、二対二ならばなんとかなるかもしれない。
 希望的観測は嫌いではない。屋上へのドアを開けた瞬間に、後ろを守っていた小銃へ組みついた。小銃の先には銃剣が取り付けてある。近付いた加門は、即右肩を小銃の先で刺された。男の腹へ膝蹴りを繰り出しつつ、小銃を強引に肩へめりこませてトリガーから指を外す。途端二人の距離が離れたので、加門はそのまま足を振り顎を蹴り上げた。
 ジャスが向かいのマンションからスナイパーの腕を撃ち抜いたのが見える。
 ジャスに向かって一発銃弾を発射したスナイパーはすぐに加門へ向き直り、一発弾丸を打ち出した。腹に鈍痛が走る。足がもつれる。
 スナイパーの男と加門の距離は詰まっていたので、倒れこむ拍子にスナイパーの横っ面を殴った。
 スナイパーのもう片方の腕がジャスの弾に撃ち抜かれる。
 加門はスナイパーからライフルを取り上げて、腹を押さえながら男の上に乗り何度か顔を殴った。しばらくしてジャスがくる頃には、スナイパーは気絶していた。
 ジャスは困惑したように加門に手を貸した。
「撃たれたの」
「ああ」
 加門は右肩と腹から大量の出血をしている。
 ジャスは加門の左に回って彼をそこから引きずり上げた。
「逃げないと。歩ける?」
 加門は乾いた笑いをした。
「まず、二人だ」
「うん、ねえカモン、君病院へ行かないと今度こそ死んじゃうよ、痛いだろう」
「バカ言え、痛いうちは生きてんだよ」
 トラックが移動を始める。
 加門がふとジャスの背中を探った。背中には小さなゴミみたいな物がついている。
「おい、ジャス」
「痛い?」
「いや……これ、発信機じゃねえか?」
 加門は右手で腹を押さえながら言う。ジャスは素っ頓狂な顔で目をまたたかせた。
「そういえば、ゴーゴリーはもぐりの賞金稼ぎだっつう情報だったよな」
「うん」
「お前、確か五千万ドルの賞金首じゃなかったか?」
「え?」
 ジャスはきょとんと足を止めた。
 
 
 ゴーゴリーは背の高い筋肉質の男で、頭は剃っている。
 冠城・琉人はゴーゴリーが監督する後ろにずっと座っていた。ゴーゴリーはまるで気付いていないかのようにしているが、気が付いていない筈はない。如月・麗子の情報からすると、ゴーゴリーから生体反応を隠蔽するのは無理なのだ。
 そしてゴーゴリーのテリトリー内では、特殊と言われる攻撃が不能となる。
 彼はしばらく無線に向かって話しかけてから、じっと黙り込んだ。
 それから屋上のドアの上に座ってお茶を飲んでいる琉人に話しかけた。
「お前の仲間か」
「え? なんです?」
 英語で聞かれたので、同じく英語で聞き返す。
「今アクシデントが起きた。スナイパーとの連絡が不能になった。お前はあいつ等の仲間か」
 琉人はタンと屋上へ降りた。
「その質問は難しすぎます。ですが、的確な答えを私は持っています」
 ゴーゴリーがかすかに後ろを振り返った。
「賞金首ゴーゴリー」
 琉人は人の良さそうな笑顔を消して、じっとゴーゴリーを睨んだ。
「その首貰い受けます」
 ゴーゴリーはおかしそうに笑って、下げていた小銃を首から外し置いた。
 ファイティングポーズをとって、琉人の攻撃を待っている。こういった肉弾戦に霊力を付随させて戦うスタイルの琉人にしてみれば、それがなかろうと、普通の人間が相手ならば問題はない。
 すぐに懐へ入って拳を繰り出したところに、膝蹴りが飛んできて琉人は慌てて身を引いた。そこを、横から片腕で薙がれる。飛んだ身体を支えようと足をついた瞬間に、ゴーゴリーの体重がかかった両手拳を頭に振り下ろされ、琉人の身体は下へ落ちた。
 落ちたまま、足に手を伸ばしゴーゴリーを倒す。
 能力が使えないままでは、決定力不足と琉人は判断した。おそらくジャスかリオン辺りの銃火器で倒すのが一番手っ取り早い筈だ。ゴタゴタと戦うよりは、そちらで処理をしてもらった方が早い。
 琉人は体制を立て直し、ゴーゴリーに背を向けず屋上から後退るように消えた。
「なるほど、一千万ドルは伊達じゃないですね。退かせていただきます」
 ゴーゴリーが鼻で笑ったのが聞こえた。
 
 
 トラックによって通信が途切れている路地に、サイレンサーをはめたハンドガンを構えたリオン・ベルティーニと黒・冥月が控えていた。
 丁度そこは十字路になっており、右の側面にリオンが左の側面に冥月が立っている。その中央をグレネードランチャーを構えた男と小銃を構えた男が歩いてくる。
 リオンは半分神に祈るような気持ちでセーフティを外した。
 静かに狙いを定めていたリオンが、シュポ、と男達が左右確認をする前に足を撃ち抜いた。それと同時に、冥月がランチャーを持った男に飛びかかっている。しかし、彼女と彼等とは体格差が歴然としていた。ランチャーのトリガーが引かれ、いたずらにミサイルが飛び出す。ドォーンという音がして、どこかの家が壊れる音がした。
「退け」
 リオンが言っても冥月が退く気配はない。リオンは小銃を持っていた男の手を踏んで小銃を落とし、そのままの体勢でランチャーを持っている男の足を撃ち抜いた。グレネードランチャーがリオンの方向を向く。つい反射的に引き金を引くと、腕に組みついていた冥月の肩に当たった。
 連続して他の部位を撃ち抜く。
 シュポという音と共に、男達が崩れ落ちる。リオンは息を整えて、ハンドガンを握り直した。それからもう一方の男の腕を撃ち抜いていなかったことに気が付いて、あえぐ男の両腕を撃ち抜いた。
「大丈夫ですか」
 その場に片膝をついている冥月にリオンが駆け寄る。
「かすっただけだ」
「すいません」
「いや……思った以上に体格差が大きいのかもしれない」
 リオンはトラックにゴーサインを出した。これで四人、部隊はあと半分だ。
 
 
 追われる恐怖は味わいたくないものだ。それも、戦災はもう嫌だ。
 シュライン・エマはあちこちで聞こえる爆音を聞きながら現実逃避しようとしている自分を発見して、頭を振った。
「姉御、少し休もう」
 雛太が心配そうに見上げてくる。シュラインは一度かぶりを振ってから、まだ夜は長いのだからという考えが湧いた。グレーゾーンの建物の影にへばりつきながら、建物の中に入る。
「奴等はまだ近くにいないんだろ」
 雛太は窓の近くにいた。
「雛太くん、窓の近くはやめた方がいいわ……」
 リオンのありがたい講釈ではそう言っていた。
 雛太は腰に挿したハンドガンを取り出して、両手で構えてみせた。
「怖いわね」
「今までで一番怖いかもしんねえ」
 シュラインは腰を下ろしたまま、ふうと深い溜め息をついた。
 二人は一度傭兵に遭遇している。シュラインの探知能力と左京のトラックのお陰で逃げ出すことができたが、あの影の中で銃口を向けられた恐怖は拭い去れない。
「姉御さ、猫好き?」
 雛太がカツカツ膝を指先で叩きながら訊いてきた。一瞬何を悠長なことを言っているのだろうと思ったが、自分の気を紛らわせる為に言っているのだとわかったので、シュラインは少しだけ笑った。
「好きよ、ちょっとした思い出もあるわ」
 捨て猫を拾った思い出がある。もっとも、それは猫の幽霊だったのだけれど。
「俺ん家、猫の溜まり場でさ、今は……壊れてるけど」
「そういえば雛太くん、どうして巻き込まれたの?」
「うちにクーパー突っ込んできやがって。車出せっつうから、それで」
「……災難ね」
 シュラインは嫌な予感がして顔を上げた。
 座っている雛太の腕を引っ張って奥の部屋へ進む。隣のリビングへ二人揃って入ろうとしたその時、窓を突き破って中へ入ったミサイルが爆発した。爆風に煽られてリビングの中へ二人は転がり込んだ。
 二人は音を立てるのも気にせずに、大慌てでリビングを抜け裏口から外へ出た。
「生きて……帰れるのか?」
 雛太とシュラインはその家を離れ壁伝いに逃げた。
「帰りたいわね。こんなことに巻き込んだ深町さんを一発殴りたいわ」
 二人は会話を止め、また静かに影に潜んで移動をはじめた。
 
 
 小さな声で夕日がメイリンを励ましている。
「きっと大丈夫よ、きっと助かるから」
 CASLLはそれを横目にしながら、微笑んだ。きっとこの小さな口の悪い女の子も、怖いに違いない。自分が守ってやらなければ誰が守るというのだ。そう言い聞かせる。最初夕日を完全無視していたメイリンだったが、時間が経つにつれて夕日にはうなずくようになっていた。
 影を伝って逃げるにしても、連絡を取って敵をやっつけるにしても、既に頭の中はブロック名がわからなくなっていた。ここは、アルファベットで言うといくつなのか、見当もつかない。それは夕日も同じようだ。
 暗がりで移動をしている上、来たこともない場所では仕方ないだろう。
 CASLLの目は透視はできない。いくら気をつけていても、建物の影から出てくる敵は避けられない。
 夕日とメイリンを引き連れて進んでいたCASLLは突然、マシンガンを持った傭兵に出会ってしまった。
 瞬間の出来事だった。
 CASLLはそのとき、目の前の敵を自分以下に攻撃させないことを即座に選んだ。マシンガンの銃口に腹を当てた状態で上から傭兵に掴みかかる。
「きゃあっ」
 夕日の悲鳴が聞こえる。
 CASLLの腹には鈍い痛みが絶え間なく続いていた。
 何度か死闘と呼ばれるものに出会ってきたが、今度こそもうだめかと思った。
 次のとき、なにが起こったのかわからないが銃口からCASLLは外れた。そしてそのまま後ろへ倒れた。夕日がさっとCASLLを守るように覆い被さる。
 傭兵の足元を、メイリンが素早い動きで蹴ったのだとわかるまで時間を要した。
 メイリンは三発足を蹴りだして、マシンガンを叩き落しそれから片手で顎を突き上げるように殴り、飛び上がって上から思い切り両腕を振り下ろした。傭兵はそれをふらりと避け、メイリンの一撃は彼の肩に当たった。トンと足をついたあと、メイリンは傭兵の横っ腹を薙いだ。
「たかがボーンだろうが」
 メイリンは吐き捨てるように言って、マシンガンを取ると男の足に向かって撃った。
 CASLLは我が目を疑いながら、通信機に向かって言った。
「五人目です」
 夕日がCASLLの顔を覗き込んでいる。
 
 
 トラックがまた近付いてきている。
 シュライン・エマと雪森・雛太は追われていた。勘付かれて逃げること三分、道の真ん中に立っている男へ、雛太は家の中から銃口を向けた。
「腕は伸ばして」
 シュラインがゆっくりと言う。
「セーフティーを外して」
 部屋の隙間からはじめて人を狙う。
 ジャスはたしか「手や足を狙ってね」と言っていた。リオンが激昂していた。「素人に手足に当たるわけがない、胴体を狙わせろ」そうだ、胴体だ。ど真ん中を撃つつもりで。
 撃つ? つもり?
 ゾクリ、となにか得体の知れないものが駆け抜けていくのがわかった。当たるように、身体のど真ん中に当たるように。当たったらどうなるんだ? リオンとジャスの言い争いが頭に浮かぶ。撃たなければ殺される、殺されない為には殺せ、そう言ったのはリオンの方だった。
 ジャスの泣き顔と共に、大切な人々の泣き顔が浮かんだ気がして、カタカタと手が揺れた。
 手を引っ込める。
「できねえよ」
 シュラインが自分のハンドガンを片手に構えた。雛太はそれを見て、慌ててその手を止めた。
「撃つな」
「……雛太くん、今ここへあの人が来たら二人とも死ぬのよ」
「姉御は死なせねえよ、姉御が撃つことねえよ」
 狂っている、この場に立つ者はすべからく狂っていくのだ。誰かが誰かを殺すのが当たり前だなんて、ゲームの世界だ。誰も殺させないし殺さないし、そうでなくちゃたった数十年の自分の人生がまるで無駄だったみたいになる。
「だけど」
「姉御、あいつら変だろ。一緒になっちゃいけねえよ」
 そこへトラックがやってきた。
 道路にいた傭兵が端に寄り、停まったトラックを撃ち抜いた。マシンガンは絶え間なくトラックを撃ち続け、爆音はシュラインと雛太の会話を止めた。


 左京はトラックをゆっくり停めて、降る弾丸を硬化で防いでいた。着物に穴が空くのが嫌だったが、この際四の五の言っていられそうもない。トラックのガソリンに引火した匂いがして、左京はゆらりとドアを開けた。
 バン、と音がしてトラックが燃え上がる。
 熱さを感じないわけではなかったが、降り注ぐ弾にわざわざゆっくりと降りてやる。マシンガンは狂ったように爆音を上げ続けていたが、トラックの爆破によってかき消された。後ろからの爆風に少し傭兵へ近付くと、また弾丸の感触が戻って来た。
 左京は面白そうに笑って、マシンガンを撃ち続ける男へ向かって行った。途中でマシンガンの弾はつき、男はなにやら無線機に向かって叫んでいる。察するに、人間じゃないとか銃が効かないとかそういったことだろう。
「人間さまばっかりが生き物じゃねえってことさ」
 左京は笑って、マシンガンを捨ててナイフを持った男と対峙した。
「この俺に刃物向けるつーんは……」
 さっと斬りつけられる。狙いは正確で、男のナイフは左京の袂を切り、手首の辺りを斬った。もっとも、斬られる身体ではないのだが。それを見て取った男は、さっと刃を翻し左京の首元を斬った。それにしても、同じことだ。
「怖いもの知らずてぇ言うんだぜ」
 左京はひらりと両手を広げて、さっと男の腕に手を切りつけた。スパンッ、と赤い血が飛び散る。もう片方の腕も深く斬られている。腰を落とした左京は男の両足も同じように切り裂き、男は成す術もなくその場に崩れ落ちた。
 

 ピピピピピ、加門の携帯が鳴っている。もっとも、本人は気絶してジャスに背負われているので手が出せない。ジャスが取ろうと思ったが、彼も手が届かない。さっと現れた影に銃口を向けると、それは神宮寺・夕日だった。
「夕日ちゃん、ごめんね、僕ね実は賞金首で……」
「CASLLさんが大変なのよ!」
「ええっ」
 ピピピピピ、また加門の携帯が鳴る。夕日が尻のポケットから引っ張り出した。
「メールよ」
 慣れた調子で携帯電話をいじり、夕日はメールの内容を見た。
「ゴーゴリーは撤退しました。本日はおつかれさまでした。ゴーゴリーは特殊効果の効かないてだれの軍人です。一般的な軍人と弱点は似通っていますが、その弱点もかなり狭いものと考えられます。では、お体にはお気をつけて。お茶の使者より」
 ジャスが首をひねる。
「お茶の使者?」
 それに反応して加門がかすかに目を開けた。
「冠城だ」
「え?」
「四百万の件でお茶送ってきやがった、あの食えねえ男だよ」
 夕日が納得して加門を見る。ジャスが進んでいるので、加門の後姿を見た。加門の背中は大量の出血をしているようだった。
 夕日は今度は悲鳴を飲み込んだ。
 ジャスの来た方向を見ると、点々と加門の血液が落ちていた。
「皆ぁおつかれさま。ゴーゴリーは一応撤退したそうです。ゴーゴリーの仲間は……そうだ、夕日ちゃんに頼んで留置所にでも閉じ込めておいてもらおう! 早く病院に行かないと加門が死んじゃうので、最初の家に集まって下さーいっ」
 続いて集まってきた冥月とリオンが加門の傷を覗き込んだ。冥月は肩を怪我したようだったが、リオンのシャツで応急手当がされていた。
「……貫通していて、よかったな」
 冥月が静かに言う。
 しない筈がない、あの近距離で五十口径のスナイパーライフルで撃たれたのだ。
 生きている方がおかしい。
 シュラインと雛太がリオンと冥月を呼んでいる。
「CASLLさん運ばないと、誰か来て」
 左京も手伝い五人がかりでCASLLを車まで運んだ。
「ねえ、加門、皆一応無事だったよ。よかったね」
 ジャスは加門に声をかけた。
 しかし、加門からの答えはなかった。


 ――next
 
 
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0086/シュライン・エマ/女性/26/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【2349/帯刀・左京(たてわき・さきょう)/男性/398/付喪神】
【2209/冠城・琉人(かぶらぎ・りゅうと)/男性/84/神父(悪魔狩り)】
【2254/雪森・雛太(ゆきもり・ひなた)/男性/23/大学生】
【2778/黒・冥月(ヘイ・ミンユェ)/女性/20/元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒】
【3359/リオン・ベルティーニ/24/男性/喫茶店店主兼国連配下暗殺者】
【3453/CASLL・TO(キャスル・テイオウ)/男性/36/悪役俳優】
【3586/神宮寺・夕日(じんぐうじ・ゆうひ)/女性/23/警視庁所属・警部補】

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■         ライター通信          ■
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 ゴーゴリーとの決戦もまだ、メイリンの謎も残されたままです。
 どういう形で前後に分けるか悩んだのですが、こういった形になりました。
 後編もご期待いただけると嬉しいです。
 戦争に巻き込まれた方々、本当におつかれさまでした。
 
 今回怪我をされた方々は、後編にも少し支障があるかと思います。
 お身体にはお気をつけて、ご参加ください!
 後編は麗子の情報戦と、ジャスの戦闘編に分かれます。
 どうか皆さん、賞金首のジャスを見逃してやってください。
 
 ではご意見ご感想お気軽にどうぞ。
 
 文ふやか
 
 【後編】は10/06 午後8:30〜窓開けを予定しています。