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<PCシナリオノベル(シングル)>


『Eメール黙示録 蝶』


 ――――わたしは絶対に許さない。
 欲という感情に溺れた人間という種族を。
 だからわたしはすべての人間に恨みの花を咲かせてやろう。
 このわたしの左胸に咲く、花と同じ花を。
 それがこのわたしの復讐だ。
 そう、わたしがわたしをこんな風にした人間どもに手を下すのではない。
 人間が人間に手を下すのだ。
 それ故に人間はわたしよりもさらに深く絶望し、そして深く哀しむ。
 あはははははは。
 ザマァ、ミロォ!!!



 ――――――――――――――――――
【Begin Story】

【T】


 1999年七の月――――
 キミはこの有名なノストラダムスの予言を覚えているであろうか?
 かの大預言者ノストラダムス。彼が残した数々の予言はほとんどが的中し、何でもその数ある予言の中のひとつはローマ教皇をも失神させ、ローマ教皇は世界人類のためにその予言を隠したというものまでもある。
 ちなみにこの七の月の予言とは、学者たちの間では、あの数年前の9月11日に起きたテロの事をさしているのだという見解でほぼ一致しているらしい。
 では、私の元にこのメールを送ってきた者も、そんなノストラダムスのような大預言者なのであろうか?
 私のパソコンと携帯電話のメールアドレスに送信されてきたメール。
 そのメールには、日本の飛行機が墜落するとあった。しかも何時何分何秒、どの会社のどの便が何処に落ちるとまで……まるで見てきたように。
 それを私が一笑に伏せなかったのは、そのメールが送られてきたのが私だけではなく、メールアドレスを持った全ての人に送られてきたからだ。
 ――――そう、普通ではない。
 そんな非日常の出来事が起こったその日に、そのメールに書かれていた通りに、飛行機は墜落した。
 …………。
 その日より、世界において平和は消えた。
 宗教団体はこぞって、神々の終末論を唱え出したし、
 世界各国のリーダーたちが衛星回線を使ってのサミットを始め、
 そして初めてこの異様な現実…そう、現実と言う名の非現実にひとつにまとまった人類に対し、またその後も何通もメールが届き、それが世界規模のテロリストの反抗では無いと証明しようとするかのように、地震や火山の噴火などが起きる時刻なんかも報せてきたりした。
 そう、それはまさしく神であるか、悪魔であるか…。
 そしてその現実と言う名の非現実の日常に国家はまともに機能はしなくなり、人間はただ国、人種、という枠にはめられたモノから地球という枠にはめられた無力で愚かな生き物と成り果てて、どうにかそれでも国家としての矜持を見せんとする政府の頼りない指示に従っていた。
 ――――それが楽であるからだ。
 この気の狂いそうな状況では。
 しかし人とは数種類に分類できる。
 ―――こういう状況に絶望するだけの者。
 ―――こういう状況にすべてに投げやりになる者。
 ―――そしてこういう状況に挑む者。
 政府からの指示によって、全てのネットの使用は禁止されたのだが、しかしいくつかの雑誌社、または地下組織、学者、盲神者、正義の味方、など等は使用を禁止されているだけで生きてはいるネットを使い、その後もそのメールを受け取り、それを自らの使命として雑誌などの情報媒体で民衆に報せたり、独自の捜査をしていて、そしてこの私もまた、その中のひとりであった。
「セレスティさんはどうして、このメールの件を調べるのですか?」
 例の如くやはり彼女もまた、この怪奇事件に首を突っ込んでいた。さしずめ正義の味方に分類されるであろうか? こういう表現をすると、彼女はひどく顔をしかめるであろうが。
「不思議な事象を調べるのは趣味でしてね。それに今回のこれはあまり面白くない。この事象を起こしているモノはどうやらひどく性質の悪い輩の様です。それもまた、私がこの事件に触れさせる要因のひとつでしょう。つまりが嫌がらせですよ。これを起こしている者に対してのね」
 彼女はくすりと笑った。
「それではあたしと同じという事かしら?」
「ですかね、まあや嬢」
 そして私は、彼女の隣でソファーに腰を下ろしながら珈琲を口にしている青年に視線を向ける。彼は何やら渋い表情で珈琲を口にしていて、その彼の表情があまりにも面白いので、私はつい意地悪を口にしてしまう。
「珈琲が口に合いませんでしたか?」
 三柴朱鷺。新進気鋭のジャズピアニストである彼はもう一つの顔を持つ。それがピアノを武器とした【闇の調律師(見習い)】だ。
「いえいえ、これを起こしている犯人への意地悪で、また今回も師匠に扱き使われるのかと想ったら、少々と不満でしてね」
 彼は疲れたような溜息を零し、そして隣のまあや嬢に腿をつねられていた。
 ―――話に寄れば彼は幼い頃からまあや嬢の父親代わりとして彼女に接してきたそうで、そんな彼に接するまあや嬢の雰囲気もいつもとは違って少し和らいで見えて、あのささくれだった娘を心配していた私は、その彼と彼女の様子に安心もしたりするのだ。
「わたしは正義の味方として、ここにいるでし。そして犯人に怒ってやるでしよ。何のつもりでしか、って!!!」
 胸を逸らして鼻息も荒くそう言ったスノードロップの花の妖精に私はくすりと笑った。
「何を偉そうに」
 スノードロップはまあや嬢に指で弾かれてどこかに飛んでいって、それを見てまた私はくすくすと笑ってしまう。
 現在の世界の状況は針でほんの少しでも突けば割れる限界寸前にまで膨らんだ風船のように緊張を孕んだ空気で覆い尽くされた状態で、人々の精神の疲労も最高潮に達しているというのに、しかし私が居るこの場所は実に空気が和んでいた。
「まあ、何が起ころうがセレスティさんとあたしが居るんです。大丈夫ですよね」
 他の二人の存在を完全に無視したまあや嬢の言葉に私は笑う。
「そうですね。それに三柴さんもスノーもいるのですし」
「そうです」
「そうでし」
 二人は満足げに頷いた。
「さてと、それでまあや嬢たちをお呼びたてしたのは、私の調査に協力してもらうためです。キミたちの所にもこのメールは送られてきていると想いますが…」
 私はキーボードを素早く叩いて、ウインドウにそれを出す。


 1000年に1度咲く花に蝶が目覚める。その蝶はどんな願いごともかなえてくれるだろう。その花は、東京のどこかに**年**月**日に咲くだろう。ただし、その花は、1時間で枯れ、枯れる間際に蝶は生まれ30秒で死ぬ。


「今までは詳しく日時、場所などが書き込まれていたのに、しかし今回はそれが無い」
「ええ、そうです。ですから気にいらないのですよ。今までのはこのメールのための布石であったのでしょう。飛行機が墜落するとは、各会社も点検などをして安全を図っているのでしょうから、何らかの力が働くと考えるしかない。故に人々は恐慌し、そこへ来てこのメールを送りつけてくる。予言内容ばかりのメールが届く中、調査も未だ不明な中では花と蝶もそれもまた真実だと考えるしか無いですからね」
「ええ、そうですね。セレスティさん」
 頷く皆に私も頷いて、そして私は口を開く。
「テレビON」
 転瞬、テレビにスイッチが入り、画面に映るのは、私の部下たちが録画してきた映像だ。
「これはこのメールが届いてからの空港、港の映像です。今まではひとつとなっていた世界がまた散り散りになりました。当たり前です。あれだけの預言者が口にした事なのですから、その花も蝶も事実。ならばそれを手に入れれば、その者は世界の王となれるでしょう」
「そうですね。世界各国から秘密工作員…しかも特殊能力を秘めた者たちが入り込んできているし、この日本でも今まで息を潜めてきた特殊能力者たちが動き出している。この東京を舞台にして、戦争が始まったと考えていいでしょうね」
「ええ、そうです。故にこの花も蝶も何とかせねばなりません」
 私はそう言って、そして次に皆に皮肉げな表情を浮かべて見せた。
「ですが、その事も又踊らされていると考えると、気持ちの良い物では無いですけどね」
 でもやらねばならない。
 私たちは頷きあった。
「しかしどうやって?」
「ええ、ですからね、予言であるかのように現象が起こる場合は、現象を調査するのも必要ですが、その大元を調査するのが真実への早道でしょう。ですから、メールを調べる班と、花を調べる班に別れましょうか」
 そしてその班の組み合わせは、メールがまあや嬢と三柴氏。
 花が私とスノーとなった。



 ――――――――――――――――――
【U】


「朝比奈先生」
 大学の教授棟一階にある談話室に入ると、大学長がそこで私を待っていた。
「何でしょうか?」
「ああ、実はね、来年の3月で溝口教授がおやめになるのでね。それに伴い、助教授の誰かを教授にしようという事になったのだよ。その選考会が夏休み明けの教授会で行われる事になった。そこで我が大学の教授として相応しい研究成果を見せられた者を教授にしようという事になって。だから今日2月2日から9月30日まで、その間に10月の教授会で良い研究結果を発表できるように頑張ってくれたまえよ」
「あ、はい」
 私は拳を握った。これはチャンスだった。私が助教授から教授になるための。
 私の家は貧しく、まともに高校にも通えなかったのだ。その私が大学の教授に…それは本当に夢のような話であった。
 しかし、それを実現するためにも、誰もが私を認める研究結果を出す必要があった。その題材をどうしようか?
 私の研究は蝶だ。
 私のライバルは、深い雪山の氷に閉じ込められていた蝶の細胞を使って、クローン作りを始めており、そしてそれは成功に近づいているという。ならば私はそれを越えれる研究をしなければならないのだ。
「だがしかし、それをも越えれるような研究対象になる蝶などとは……」
 そんな時であった、その蝶の羽根が私の所にもたらされたのは。
 私の研究室を訊ねてきたのは、ひとりの探偵と、そして女性であった。



 +++


「それでセレスティさん。お花と蝶々はどうやって探すんでしか?」
「そうですね。私はネットなどで調べてみようと想います。ですからスノーは、他の花や動物たちにそれの事を聞いてくださいませんか?」
「わかったでし!」
 両の拳を握り締めて頷くと、彼女は外へと飛んでいった。
 そして私は部屋にクラッシク音楽をかけると、パソコンに向かい、ネットに繋げた。
 例のメールによるこれ以上の混乱、及び宗教などの集団自殺を防ぐべく各国の政府はネットを禁止としたが、しかし我が屋敷のシステムでネットは存続していたし、各国の政府も組織した調査組織が調べるためにもネットは残しており、結局は世界各国の個人、組織、など等はあのメールを変わらずに受けていた。
 そうして今回のこの騒動だ。
 

 1000年に1度咲く花に蝶が目覚める。その蝶はどんな願いごともかなえてくれるだろう。その花は、東京のどこかに**年**月**日に咲くだろう。ただし、その花は、1時間で枯れ、枯れる間際に蝶は生まれ30秒で死ぬ。


 本当に効果的な方法だ。
 このメールの主は実に狡猾で、そして人間を強く憎んでいる。
 一体何者なのだろうか?
 まあ、そちらはまあや嬢たちに任せるとして私は、花と蝶を調べる。
 ネットに存在する情報すべてを対象に検索をかけて、同作業で数々の所蔵する博物館や、著名な学者、又は企業の研究対象として何処かにあるその花を探そうというのだ。
 パソコンには我がリンスター財閥の開発チームと私とが協力してプログラムした超電脳知性が積み込まれており、それの情報処理能力は現時点でのどのそれをも抜いている。故に私が指示したその作業もほんの数秒で終え、ウインドウには検索にかけた花と蝶にヒットした情報が表示されている。
 そしてその情報の中に私の興味を引くモノがあった。
「ふむ。**大学の朝比奈助教授ですか」
 それは7月27日の新聞だった。
 **大学の朝比奈助教授が娘と共に重体で発見されたのだ。
 その近くには炎上している車が発見されており、その車からは朝比奈助教授の妻方の父親の遺体が発見されている。
 尚、重体ということだが、その傷がなんともまた不思議なモノで、小動物の大群に襲われて、噛み付かれたらしい。
 朝比奈助教授はその数時間後に死亡。
 そして朝比奈助教授の娘は今も意識不明。
 何よりも私の興味を惹いたのは、朝比奈助教授が蝶について研究しているという事であった。
「これは調べる価値はありますかね?」
 私は口元で微笑を形作りながらパソコンの電源を落とした。



 ――――――――――――――――――
【V】


 **県**群**村の山奥でそれは起こった。
 一発の銃声が鳴り響き、辺りの木々の枝から息を潜めて隠れていた鳥たちが飛び立ち、そして落ちた獲物目掛けて走っていった二匹の犬たちがしかし、獲物をくわえて戻ってくる事は無いし、それどころか何かどうすればいいのかわからずに迷っているように、いや、何かを怯えているように吠えていた。
 彼ら二人は顔を見合わせると頷きあって、犬の吠える声が聞こえる方へと向った。
「なっ…」
 そしてそれを見た彼らは絶句した。なんとそこにある血の湖に沈むのは…
「こ、子どもを撃ち殺したのか、我々は…」
「い、泉谷先生…」
「と、とにかく容態を、ひょっとしたら生きているかもしれん」
「な、何を馬鹿な事を。代議士の貴方が禁猟区で猟をして、そのうえ子どもを撃ち殺したとなったら…」
「そ、その時は秘書の君に臭い飯を喰ってもらう」
 そのあまりもの無茶苦茶な発言に秘書は絶句し、そして、とにかく二人はそちらに走っていった。
「な、なんだこれは?」
「せ、先生、これは?」
 二人は大きく口を開けた。
「これはなんだ、一体?」
「先生、と、とにかく逃げましょう」
「お、おう」
 二人はその場から逃げ出そうと身を翻し、そしていつの間にかそこに立っていた人々を見て、固まった。
「いいや、逃がさんよ。ここは禁猟区だ。しかしまあ、その禁猟区で猟をしていたのは許してやろう。だが、大切な童神さまを殺したのは許さんぞ、貴様らぁー」
 数発の銃声が鳴り響き、そして犬の吠える声………人間があげる断末魔の叫び………。



 +++


「ダメですね。サーバーを調べて、そこからこの送信者のメールアドレスを調べようとしたのですが、どういう訳かこのメール、ネット、という存在自体から送られてきているんです」
「ネット?」
「ええ。まるで小説の世界ですよ。ほら、ネットの中に心が生まれ、人間に牙を剥くって、そういう小説があったんですが、それみたいです」
 両手を開いて気だるげに肩を竦めた彼女に私は苦笑し、
「それでセレスティさんの方は?」
「ええ。ひとつ面白いモノを見つけました」
 私はプリントアウトしたそれを彼女に手渡した。
「なるほど、これは面白いですね」
「ええ。それでね、この朝比奈助教授が事故に遭う前に滞在していた妻方の実家がある村についても調べてみたのですが、これがまた面白くってね」
 そう、その村は地方の不便な山奥にある村にもかかわらずにひどく運に恵まれた豊かな村であった。ここ数百年は然したる干ばつや土砂崩れといった災害にも見舞われず、またこの村から出身した代議士が知事となって随分とこの村は優遇されているらしい。
 そして………
「この村の近くを流れる川で数ヶ月前に県の代議士とその秘書が水死体で見つかっています。念のためにと**県警のパソコンをハッキングして、その捜査資料を見たのですが、その代議士の手には蝶の羽根が握られていたそうです」
 まあや嬢も三柴氏も驚いたような顔をした。
「あれからもこの花と蝶についてのメールがいくつも謎めいた暗号で送られてきていますが、今聞いたその話、これに当てはまるかもですね。いえ、かもじゃなくって当てはまっている。それなら…」
「ビンゴですかね、セレスティさん?」
「ええ。そうです」
 私は二人に頷いた。
「これからどう動きますか、セレスティさん?」
「そうですね。朝比奈助教授と、その娘さん、村、その三つを調べましょう。役割分担は三柴氏は**村を。まあや嬢は朝比奈助教授の娘さんを。可能なら貴女の音色で彼女の意識を。彼女の意識が回復すればより事がわかりますから。私は朝比奈助教授が勤めていた大学に行きます」
「はい」
「ええ」
「ああ、それと、私の他にもどうやら**県警のパソコンに進入していらっしゃる方々がおりました。それに異能の力によって標を得ている者たちもいるでしょうから、戦いになる可能性もあります。充分に気をつけて」
 そして私たちはスノーは私の屋敷にお留守番にし、それぞれ動く事にした。



 ――――――――――――――――――
【W】


 あたしは大学院に入院すると、バイトとして朝比奈先生の助手を始めた。
 助手と言っても、先生の研究のお手伝いというよりも小学校三年生の娘さんの子守りだ。まあ、それはそれで楽しく充実した日々であった。
 しかしその生活ががらりと変わってしまったのは、あの代議士の娘さんと彼女に雇われた探偵さんが先生を訪ねてきたのがきっかけであった。
「先生、どういう用件でいらっしゃっていたんですか、あの方々は?」
 そう言ったあたしが眉根を寄せたのは先生の顔に浮かぶ表情がとても鬼気迫るような表情であったからだ。
 そして先生は唾を飛ばしながらあたしに内容は絶対に秘密とする事を条件に、彼の身に起こった事を教えてくれた。
 なんでも先ほどの女性の父親である代議士さんは秘書と猟に行き、そして次の日に川で水死体となって発見されたのだという。警察は事故と他殺の両方で調べていたが、その警察が出した答えは事故という事になった。
 それに納得できなかった娘さんは探偵を雇い、捜査し、何やら上の方から警察に圧力がかかったらしい事を調べ上げた。
 しかし捜査はそこで手詰まり。
 そこで娘さんは父親の身に一体何が起こったのかを知る事に焦点を絞り、父親が川に落ちた場所を調べる事にした。
 その手がかりとなるのが彼女の父親が持っていた蝶の羽根だ。
 その蝶の生息地域を調べれば、場所がわかるはずだと想い、それで先生を訊ねてきた。
「この蝶は新種だよ」
「新種ですか?」
「ああ。この大きさの羽根を持つ蝶はいないはずだ。だから私がこの蝶を捕まえれば」
「すごいですね、先生」
「ああ。しかも幸運な事にこの代議士の水死体が見つかった川沿いには私の亡くなった妻の実家がある村があってね。しばらくはそこに泊り込んで、それでこの蝶を探してみようと想うんだ」
 子どものような顔をしてそう語った先生にしかし、あたしは慌てた。
「でも先生。奥さんに言われていたんじゃないんですか? 実家には絶対に行かないでくれ。間違っても子どもをそこに連れて行くことだけはよしてくれと?」
「ああ。でも、私だけが行く事はできないだろう。だから娘も連れて行く事にする。孫の顔も見たいだろうし、ひょっとしたら上機嫌で向こうの親御さんたちの口添えで村の人の強力も得られるかもしれないからね。君にはここで、この蝶の羽根を調べてもらうよ」
 ――――それが先生と話した最後の会話であった。
 その後、先生は帰らぬ人となって、
 だけど先生はあたしに置き土産を残していってくれた。
 先生が奥さんの実家に行った後、一枚の葉が送られてきたのだ。その葉には芋虫がかじった後があり、それと一緒に送られてきた先生からの手紙にはその葉を調べるようにとあった。
 あたしはその葉を調べていたのだが、その過程で驚くべき事が起こった。
 実験の一つとして葉の一部を水を入れた試験官の中に入れておいたのだが、その葉の一部から根が生え出したのだ。
「そんな馬鹿な。何よ、これは?」
 現実では考えられない事だった。
 そしてそれを先生に連絡しようとした矢先に先生は亡くなられた。
 そうしてあたしはこれをあたしの研究として引き継ぐ事を決めたのだ。
 そう、あたしだって学者となりたい。野望はいくらでもあるのだ。だからそれを育てる事にした。
 その根が生え出した葉の一部を土に埋めて、水をやった。するとそれは芽を出し、順調に成長し出して、そして蕾をつけたのだ。
 そう、言う間でもないでしょう?
「この花が、そう、この花があのメールの花なのだわ。だったらあたしが…」


 あたしがあたしの願いを叶える事ができる。


 あたしは歓喜した。
「あと少し。あと少しで花が開く。そしたらあたしが…」
「いいや、悪いがそれは俺の物とさせてもらうぜ」
「え!?」
 いきなり男の声が耳朶を叩き、そして突然に目の前に見知らぬ男が現れた。



 +++


 大学には人気は無かった。
 私は教授棟の出入り口の前に立ったが、しかし自動ドアは開かず、ロックがかけられているようだった。
 溜息を吐きつつ私は、キャンパスの真ん中にある噴水に手を向けて指を鳴らす。転瞬、そこより飛来した水はドアの隙間から中に入り込み、そしてその水が中から鍵を開けて、ドアを開いてくれた。
 私は教授棟の中に入り、エレベーターの前に立った。
「電気は生きているようですね」
 エレベーターのケージを呼び出し、中に入って3階にある朝比奈助教授の部屋へと行った。部屋の鍵は先ほどと同じ方法で開けた。
 私はデスクトップパソコンとノートパソコンを立ち上げる。
「では、始めましょうか」
 パソコンのキーボードを操り、中の情報を素早く読んでいく。
 今回の事件にまつわる内容はノートパソコンの中の日記にあった。それには例の代議士の娘と探偵が自分を訪ねてきて、そして蝶の羽根を見せられ、しかもその蝶は未知の蝶であったという事が記されていた。
「そして朝比奈助教授は妻の実家に行った、か」
 私はデスクに書類の山と一緒に置かれていた写真立てを手に取った。そこにある写真には朝比奈助教授とその娘、そして若い女性が写っていた。
「この女性が日記にあった助手ですか」
 私は彼女の情報を知るべく大学事務局のパソコンに彼のパソコンから侵入し、そしてそこにある情報を閲覧し、彼女の住所を知ると、私はそこを後にした。



 +++
 

 **病院にて朝比奈恵子と綾瀬まあやは接触。
 しかし、朝比奈恵子は未だ意識不明で、そして彼女の身体異常回復の旋律でも、朝比奈恵子の意識を回復させることはできなかった。
「かわいそうに」
 様々な機材のチューブを付けられて眠っている恵子を見つめながら綾瀬まあやは呟き、そして両目を細めた。
 スカートと腰まである髪を翻らせて振り返った彼女の視線の先には、顔に鬼の面をつけた男たちが居た。
「やれやれ、女の子の寝込みを襲う気? 最低ね、あなた方」
 いつの間にか彼女の手にあったリュートをまあやは奏でた。



 +++


「やれやれ、一歩遅かったようですね」
 私は溜息を吐いた。
 荒れ果てた部屋の中には血溜りがあって、その血溜まりの中に沈むのは数人の男女で、そして唯一立っているのは怪異であった。
「この花はあたしが育てたの。朝比奈先生から送られてきた葉を使って。だからこの花はあたしのモノよ!!!」
 彼女が叫び、そして彼女の足下に広がる血の湖に波が走ったかと想うと、いきなりそれは蠢き出し、スライムかのように私に襲い掛かって来たのだ。
「なるほど。得意能力を持ったのか。しかしこの程度で」
 私は指を鳴らした。瞬間、キッチンの方でパン、と水道が破裂する音が鳴り響き、そこから噴き出した水がそのスライムを包み込む。
 だが…
「へっ」
 彼女は笑った。
 その瞬間、血のスライムが中で爆発し、それはそれで終わらずに血の弾丸となって、私を襲った。
 しかしそれは…
「この程度で得意になったのですか、キミは? このセレスティ・カーニンガムを相手にして」
 水による防御壁を展開した私には然したる脅威とはならないが。
 そしてそれを見て、彼女はあっさりと私に背を向けて走り出した。
「中々に良い判断ですが逃がしはしませんよ」
 私は防御壁を展開させた水によって鞭を作り出す。そしてそれを一閃させたのだ。
 鋭い水の鞭が彼女の体を微塵に切り刻んだ音と共に上がった断末魔の悲鳴、その余韻が漂う中で、むせ返るような血の香りを孕んだ空気を震わせて落ちた肉塊を杖で撥ね退けて、私はそれらと一緒に転がっていたそのカプセルを手に取った。
 カプセルの中ではもう直に開きそうな花の蕾があった。
「これがあのメールの花ですか?」
 彼女のパソコンの中にはこの花に関する研究データ―もあり、しかしそれらからはこの花の事も、蝶の事もわからなかった。
「と、それどころではないですか」
 髪を掻きあげながら私は軽く舌打ちする。
 そして水の刃で床を切り裂いて、下の階に下りたのと同時に私の居た部屋に数人の人間たちが飛び込んできた。



 +++


 アパートの外に出ると、そこには黒の戦闘スーツを着込んだ人間たちがいた。
「アメリカ海軍ですか」
 私がそう言ってやると、指揮官が前に出た。
「そうでよ、セレスティ・カーニンガム総帥」
「ほう、素直に認めますか」
「ええ。沖縄も今頃は我らが仲間が占領していますし、横須賀からも別部隊が展開し、今頃は国会議事堂も落ちているはずです」
「良いのですか、そんな事をして?」
「ふん。世界は世界のリーダーたるアメリカのモノになる。ですから、問題ありません」
「やれやれ。所詮は侵略者どもの国ですからね、アメリカは」
「それをアメリカ大統領の下に持って行くのが大統領から下された命令。渡してもらいますよ」
「いいえ、拒否させていただきます」
 私がきっぱりとそれを口にすると、彼は舌打ちし、そしてそれが合図であったように周りの人間が私に向かい構えていた銃を発砲した。
 しかしそんなモノは無論、
「効きませんよ、そんなモノは」
 薄らいだ硝煙の帳の向こうにいる彼らは、怯んだ。
 そこに私は水弾を撃ち込み、そこに居る全員を戦闘不能にする。
 しかし指揮官は立っていた。
「ほう、あれを防ぎましたか?」
「ふん、知りませんか? 水は火によって蒸発する事を」
 転瞬、彼の全身が炎に包まれる。
「能力者ですか」
「YES。死んでもらうぞ、セレスティ・カーニンガム」
 彼が手に持つ炎の刃が私に迫る。しかし私はそれを水の剣で受け止めた。
 すぐそこにある彼の顔に怪訝そうな表情が浮かぶ。
「なぜ、受け止められる?」
 その疑問に私は鼻を鳴らした。
「簡単ですよ。水は確かに火で蒸発しますが、しかし同時に水は火を消します」
 私はそれを普通に口にした。酷薄にでもなく、誇るでもなく、鉛筆は手で折れるよ、と言うぐらいにさりげなく。そう、それぐらいの事だったのだ、それは私にとっては。
 そして私は水の刃で、彼の炎の剣を折り、炎に包まれた彼を一刀両断の下に斬り倒した。
 だが、その私をも戦慄させる事が起こった。そこに居た者たちの死体が消えていて、そして、
「ぐぅお」
 地中から飛び出してきた無数の手に、私の体が掴まれた。
「これは?」
 ――――そう口にしながら私は思い出す。先ほどの怪異となった彼女の事を。
「彼らも怪異となった」
 そして私の前に斬り殺した指揮官が立ち上がる。
 いや、指揮官だった怪異が。
 それは炎の猿だった。
「くしゃぁー」
 炎の猿が大地を蹴って、私に襲い掛かる。その手には炎の爪があった。その爪の炎に私の体が焼き尽くされて焼死するのが先か、爪によって私の体が切り裂かれるのが先か?
「いいや、どちらともならない」
 笑う私。その時には私の体を掴む手は切り裂かれている、水の鞭によって。
 そして私は視線を炎に包まれた猿にくれてやり、
「怪異になろうが、キミに私を殺す事はできませんよ」
 私は髪で操っている水の鞭によって、その炎の猿を微塵に切り裂いた。
 だがそれで安心する暇はもらえない。
 空はステルス機能を搭載したヘリや戦闘機に覆われ、そして地上も蟻も通さぬほどに陣を引いたアメリカ海軍の部隊に囲まれているのだ。
 当然、それらを操っているのはもはや人間ではない、怪異だ。
 その状況にさすがの私も苦笑を浮かべた。
「やれやれ、最新鋭の武装をした怪異ですか。さすがにこれは骨が折れますかね」



 ――――――――――――――――――
【X】

 
「大統領。沖縄の占領、及び国会議事堂占拠完了したと報告がありました」
「そうか。それで花は?」
「はい、ただいま戦闘中との事です」
「戦闘中か。あれを得るために各国が特殊部隊や能力者を出しているそうだし、それに個人で動いている能力者、宗教団体、テロリストども……我が国が花を得て、蝶に我がアメリカの永久の繁栄を願えればいい。しかし他の者にそれが渡り、その者がアメリカの平和を乱すような願いをした場合は…」
「………大統領」
「核の用意はできているな?」
「はい。いつでも日本の東京に向けて撃てる状態です」
「そうか。私にはアメリカを守る責務がある。そのためならば日本に核を撃とうではないか。そう、アメリカの平和とはアメリカ大統領である私の政治家としてのバロメーターなのだから。それに核の用意をしているのは我々だけではないであろうがね」



 ――――もしも核保有国すべてが自分たちの国の特殊工作員、軍隊が花を得られなかった時に東京に核を撃ち込んだのなら、それならばおそらくは地球は核の冬に見舞われるだろう。
 一時は国、人種、そういう枠を超えて、正体不明の予言メールに対して人間としてまとまった人であったが、もはやこうまで決意してしまった人はまとまることはできないだろう。


 だが望みのすべてが絶たれた訳ではない。
 そう、まだセレスティ・カーニンガムがいるのだから。


「やれやれ。ようやく片付けられました」
 自分に向かってきていたアメリカ海軍の部隊を全滅させたセレスティはすっかりと埃塗れになってしまった髪を指で梳きながら憂鬱げな溜息を吐いた。
「さてと、こうまでしてきたのだから、アメリカは蝶を得られなければ東京に核を落とすかもしれませんね。いや、それは核保有国のすべてが考える事ですか? 中国は日本に含むところもありますし。これは急がねばなりませんね」
 セレスティはアメリカ海軍が体勢を整える前にと、花が入ったカプセルを手に、その場を後にし、彼を裏から監視していた者たちをもまいて、完全に消息を断った。



 ――――――――――――――――――
【Y】


 **県**村。
「どうして、我々の村を救ってくれたんじゃ?」
 そう聞く村長に三柴朱鷺は肩を竦めた。
「弱い者苛めは嫌いでね」
 気だるげにそう言った彼の周りには自衛隊員が転がっている。
 そう、この村の事実に気がついた政府は自衛隊員の中から選抜された者たちをこの村に出動させ、彼らは村を占拠し、花についての秘密を探ろうとしていたのだが、朱鷺にあっさりと全滅させられたのだ。普段は【闇の調律師(見習い)】として怪異を相手にしている彼にとってみれば、人間など敵ではない。
「さてと、少しでも恩義を感じてもらえるのなら、花と蝶について教えてもらえるかな? 朝比奈助教授の助手が例の花を持っていた事はわかっている。そしてそれを彼女に送ったのも朝比奈助教授だと」
「ふん。すべてはあの代議士が悪かったんじゃ。童神さまを殺しよるから」
「童神さま?」
 眉を寄せた朱鷺に、村長は訥々と語り出した。
「あの代議士も私らが殺した。あいつが猟銃で撃ち殺したのは童神さまだったのだ。童神さま、それは1000年に1度生まれ、そして寿命である30秒の間に子を産む幻の蝶の守り手じゃ。童神さまの中には怪異のままいるものもおれば、人の姿を取る者もいて、そうやって蝶を守っているのじゃ。そしてその蝶の卵は…」



 +++


「大丈夫ですか、セレスティさん?」
「ええ。大丈夫ですよ。でも久々に冷たい海の水に身を浸からせたい気分ではありますがね」
「だったらこの件が終わったらごゆるりと」
「ええ。まあや嬢もいかがですか? キミも疲れたでしょう。これだけの相手をしたのだから」
 私は廊下に転がるおびただしい数の気絶した人間たちを見回しながら肩を竦めた。
「そうですね。あ、でも海もいいですけど、あたしは海の幸と海の見える温泉がいいかな?」
「そうですね。だったらこれが終わったら慰安旅行とでもいきましょうか」
 口元に微笑を浮かべながら彼女は私が手にしているカプセルの中の花に視線を向けた。
「それが例の花ですか?」
「ええ。もう直に咲きます」
「蝶はどこに?」
「それはもう知っているのではありませんか?」
 私がそう言うと、彼女は肩を竦めた。
「ではやはり彼女の中に?」
「そうです。三柴氏から連絡がありました」
「でもそうなると、あのメールは誰が?」
 私は肩を竦める。
「それも彼女でしょうよ」
「え?」
「あの蝶は神です。三柴氏が村長に聞いた話では、あの蝶は寿命である30秒の間に卵を一つ産む。その卵の守り手が童神さまで、そしてそれらは同時に花が咲く時期に合わせてその卵を人に植え付けるそうです。今の彼女はようするに神にも等しい存在。ならば簡単でしょうよ。そして…」
「そして?」
「そしてその能力を使って、自らの意思をネットに解放したのでしょうね」
「え?」
「現代の医療はネットにカルテの情報を置いておくし、それに彼女に取り付けられた電子機器が得た彼女の生体情報もネットへと送られる。それを使ったのでしょう、彼女は。その電子機器の回線を使って、生体情報と一緒に自分の意識もネットに送った」
「ああ、だからあたしの旋律でも彼女の意思を取り戻せなかった」
「そうです」
「でもならばどうすればいいんですか? 彼女を殺す? それとも彼女から蝶の卵を回収するのですか?」
「いいえ、それは無理でしょう。蝶は神なのだから」
「だったら…」
「まあや嬢。この地球上には数億の命が存在します。しかしその命の中でも、蝶に願いを願えるのはひとりのみです」
「セレスティさん…」
「まあや嬢、貴女にお願いが。貴女の旋律で、私の意識をネットに送ってください」



 ――――――――――――――――――
【Z】


 わたしはお母さんのおばあちゃんとおじいちゃんの家がある村が怖かったの。
 それをお父さんに言ったら、お父さんは馬鹿だなーって笑った。
 だけどわたしのその意見は正しかったのだよ。
 あのね、お父さんは蝶の研究をするためにおばあちゃんの家に行ったの。蝶の研究が終わったら帰るつもりだった。
 だからおばあちゃんとおじいちゃんはずっとわたしたちが村に残ってくれるのなら、お父さんの研究に手を貸すって言ったの。
 それが始まりだったの。
 おじいちゃんはお父さんに葉を渡した。その葉には青虫が居て、おじいちゃんはそれを育てればわかると言って、お父さんはそれを育てて、葉の一枚をお姉ちゃんに送って、
 それでね…
 それでね…
 青虫はとても気色の悪い変化をしたの。
 さなぎの中から出てきたのは、
 妖精だったの。
 わたしもお父さんも驚いて、
 おじいちゃんもおばあちゃんも知ったからには、もうわたしたちはこの村から逃げられないって。
 でも悪夢はそれで終わらなかったの。
 童神さまはわたしを襲って、
 わたしは蝶の子宮とされたの…。
 そしてわたしを救おうとしたお父さんもおじいちゃんも童神さまに殺された。
 村長さんが保有する里山にあった花園を童神さまを餓死させるために燃やしたお父さんとおじいちゃんを、わたしを村の人たちは見捨てた。
 ………。
 許さない。
 許さない。
 許さない。
 絶対に許さないんだから!!!
 皆不幸にしてやるわ。
 お父さんの悲しみを、
 わたしの絶望を、恐怖を、皆にも味わせてやるんだから!!!
 そうだ、皆絶望しろ!!!
 周りを恨め。
 嘆き苦しめ!!!
 ザマァ、ミロォ。



 +++


「それがキミの理由ですか」
 ネットの中で私は肩を竦めた。
「あなたは誰?」
「私はセレスティ・カーニンガム。キミが送りつけたメールを手がかりにここまでやってきたものです」
「そう」
 彼女はせせら笑った。
「だったら直ぐに現実世界に戻らなきゃ。もう直に花が咲くわ。そうすれば、わたしの中にいる蝶が目覚める。その寿命は30秒だけ。その間にあなたは願いを唱えなければ」
 彼女は酷く残酷で、そしてとても楽しそうな笑みを浮かべた。しかしその彼女の眉根が寄る。
 なぜなら私が首を横に振ったから。
「残念ながら私は蝶などに頼らずとも、自分の願いは自分で叶えれられるだけの力を持っているのでね。それに私はささやかな願いしか持ってはおりませんし」
「ささやかな願い…それは何?」
 それはひどく幼い少女の表情と声であった。
 その彼女に私は頷く。
「私のささやかな願いとはね、私の大切な人たちがいつも幸せに笑えてるように、ってそれだけなのです」
 彼女は顔を両手で押さえて激しく頭を振った。
「それはわたしだってそうよ。わたしだって今でもお父さんの優しい笑顔を見たい。お姉ちゃんがわたしのお母さんになってくれればいいのにって想う。だけどもうそれは叶わないんだ!!!」
「おや、果たしてそうですかね?」
 私は肩を竦める。
「え?」
「キミは蝶によってすべてを奪われた。そのキミだからこそ、蝶に願いを願う権利が一番にあるのだと想います」
「わたしが…」
「そう、キミが。私が花と蝶を守ります。キミが蝶に願いを願うまでは、蝶の寿命が尽きるまで私がキミを守ります。後の事はキミ次第だ」
「わたしは…」



 ――――――――――――――――――
【[】


「大統領。我が軍はたった三人に全滅させられました。中国が核を撃つ準備に入ったようです」
「気が早いな。しかしこの核を撃つという行為は悪の行為ではない。故にそれは我らアメリカがせねばならない事だ」
「核はいつでも発射かの…」
「ど、どうし…う、うわぁー、おまえは何だぁー」
 ホワイトハウスにてアメリカ大統領が童神さまに襲われ殺されたのと同時期に、核発射準備をしていた核保有国のトップに立つ者、その施設で働く者全てがやはり童神さまに襲われ、殺された。
 そしてそれはセレスティたちも同様であったのだ。
「彼らの食料である葉は朝比奈助教授たちに燃やされたといいますから、彼らには私たちが最高の食料に見えるのでしょうね。空腹の時は何でも喰らうのは人間と一緒ですか。例え神の眷属でも」
 セレスティは水の鞭で襲いくる童神さまたちをすべて切り刻む。
「師匠を喰らったら、絶対に数週間は食中毒でのた打ち回りそうですけどね。なんせ師匠、腹黒だから」
「言ってくれるわね。セレスティさん。慰安旅行は二人と虫一匹で行きましょう。こいつは置き去りにして」
「って、何ですよ、その慰安旅行は? 後でじっくりと聞かせてください」
 そんな事を話しながら三人は余裕で童神さまを倒していく。
 もちろん、中には能力者としての力を持った者が怪異となって、襲ってくるが、それすらもセレスティの敵ではない。
 病院の廊下には死屍累々、屍の山が築かれていく。
「花が開きます」
 集中治療室の中に置かれたベッドの上に横たわる少女の傍らで、カプセルの中の花が蕾を開かせた。
 そして花が咲くと同時に、
 少女の左胸にも花が咲き、
 その花から、蝶が飛びたつ。
 ひらひらとひらひらと、蝶は飛ぶ。
 ――――あと28秒。
「セレスティさん、彼女は?」
「信じましょう。彼女を」
 ――――あと19秒。
「そう、彼女の願いは、人類の願いですよ。それを彼女が願えば、そうすればすべては上手くいく」
 ――――あと8秒。
 最後の童神さまがセレスティを襲う。
 しかしそれを彼は水の剣で一刀両断にし、
 そして………
 ――――あと残り1秒。



 その瞬間、ベッドの上の少女の瞼が閉じられた目の端から涙が零れ落ちた。
 蝶に生命力の全てを奪い取られ、死ぬ間際の少女は、その最後の力を使って、唇を動かせた。



 ――――――――――――――――――
【ラスト】


 彼女の願いは、蝶など最初から存在しなかった、だった。
 故に今回の事件も無かった事になり、しかし人々の心にはその記憶は無くっても、違和感や不安のようなモノが澱のように残っていた。
 でも今回の事で一つ良かった事がある。予言された地震などの災害などが回避された事だ。覚えてはいなくっても、でも魂に刷り込まれていたその情報によって人々はその危険を回避し、地震、土砂災害などの死傷者は0であった。
 しかしあの蝶は、童神さまたちは本当にあれだけであったのであろうか?
 私はテレビを付けた。
 そのテレビに映し出されたニュース映像、その映像の隅に、映っていたのは…
「やれやれですね。本当に」
 私は苦笑を浮かべながら紅茶を喉に流し、テレビのチャンネルを変えた。


 ― fin ―


 こんにちは、セレスティ・カーニンガムさま。
 いつもありがとうございます。
 このたび担当させていただいたライターの草摩一護です。
 PCシナリオノベルは初めてで、ものすごく書くのが楽しかったです。(^^
 しかも書かせていただけるのがセレスティさんですし。
 指定してくださったシナリオもものすごく面白くって、シナリオとセレスティさんのプロットとを見比べて、話を考えるのが本当に楽しくって。^^
 本当にありがとうございました。^^
 これでセレスティさんに今回のお話をお気に召していただけたら、大万歳です。(^^


 それでは今回はこの辺で失礼させていただきますね。
 本当にありがとうございました。
 失礼します。