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この異界における草間零とその他
飛行機雲が、青空に線を描いていく。
三年前にも、見られた風景だ。
草間零は、ツギハギだらけのぬいぐるみを何時も背負ってる彼女は、
夕食の、買い物を。魚屋さんへ、
「お、今日はいい鯵はいってるよー、十匹で150円、どうだい」
「小鯵でしたら、南蛮漬けとかでしょうか」
「あーそれだったら開きにしてやらぁ、ちょっと待ってな」
草間零は、正確には、草間興信所は、随分と知られている。そして、笑顔でオマケしてくれる。一つは兄が居なくなったから、
もう、一つは、
「……幸男」
魚屋の主人が魚をさばいてる手を止めて、草間零の後ろを見てる。振り返る。
そこには、
日常が有りました。
子供が、化け物に襲われる、日常です。
肉が、飛び散ってる。空は青い、血は赤い。
草間零は迅速――背に羽根を、手に剣を、全てを霊で作り出し、
その悪魔のような悪魔に向かって、力を、(魚屋さんがおまけしてくれる理由)
悲しいと思う、悲しさを教えた人は、今は何処に居るのだろうか。姿を思い浮かべながら、
殺し合いを、今日も始める。
飛行機雲が、青空に線を描いていく。
三年前にも、見られた風景だ。
◇◆◇
【世界の舜蘇鼓は父の命により知ろうとする】
◇◆◇
山海経。
鼓。
知識を貪る物として、人間の世界に派遣された、――中国の妖怪で通りはいいか。
なればこそあの異界では、不条理なる歪な異界では、その《変》に適応した、即ち疑問を持たなかった事で、知らず知ろうとせず、己の《存在意義》に適応出来ず、異界の彼は異界が生まれたその直に、
土塊に融けてしまつたらしひ。
つちくれに、とけて、しまつた、らしひ。と、
――そんな話を父から聞いても、例え、それが己と鏡のやうでも、
所詮は他人で他人事だから、「んでー?」ダルそうにめんどくさそうに、仰向けになって答えるのは、
父の背中に転がって。
巨人、では無い、巨龍、である。舜蘇鼓は大陸の妖怪である、父も、人間では無い。西洋の竜とは違う龍、名を呼べば燭陰と発音される。巨大な龍。――だが今の雲海を泳ぐ姿は、夢か、現か。ただ会話の運びの演出、幻の中に入れただけかもしれなく、そうじゃない、かもしれなく。
とにもかくにも、それを寝台にしてる舜蘇鼓、ギンギラジャラの銀のアクセを含む、白い肌を埋め尽くすようなドにハデな服に比例した外見、赤髪からしてツンツン頭。ひとつ間違えば下品な扮装であるけど、それでも乙女がキャーと鳴く超絶美形の若者であるが、紀元前五世紀が生誕、此処までの人生を(主に楽器と歌により)暇潰しとした、長生き、である。
暇潰し、例えそれが完全自発の意思で無くとも、つまり親の敷いたレールであろうとも、面白そうなら構わない、無知は空腹、欲望への第一歩だ。だから、
父の指示を聞いて、オーケィとのんべんだらりと答えた後、蘇鼓は身を転がして、父の背中から落下した。幻か現かの雲海に身が浸る、その中で、言われた事を反芻する、
オレの死んだ異界に行け、って、オレと親父の精神は繋がってる、って――
――オレが行くだけで親父は知れる、って、その為の一切は手配する、って
「ま、面白そうだし?」
ふるいにかけられた小麦粉のよう、雲から蘇鼓が落ち切った時、
群集の中に、佇んでいる。
人口が半分になったと言うけど、買い物などが目的か、ビルの狭間に蟻が如く行進している。世界と大して違わない異界、不条理が見当たらぬ異界、
今ここで間違い探しとすれば、身体精神能力のカテゴリに分類される、舜蘇鼓の力は半分になっている。
それを補う道具も手配されている。
◇◆◇
別に蘇鼓の性質にあやかって語る訳じゃ無いが、生きるという事はある意味知る事だと。朝日を知る事で寝床から這い出て、空腹を知る事で朝食を作る。ならば、
探偵調査の真似事よりも、牛丼屋がいの一番だったのは、空腹を知ったからである。腹ペコは健康の証。世界と違って牛の問題があったか定かでは無いが、蘇鼓には関係ない。何故なら彼は菜食主義者、そもそも牛肉の味とは縁が無い。だったら何故に牛丼屋なのかは、豊富なサイドメニューにうどん定食があったから。別段世界と違わない、通常の事。
だがそれは異常であった。世界と変わらずに、変わっていない所が、(変わってッよナァ)そううどんをすすりながら感じた。
普段ノリで生きている彼でも、それぐらいは《考えて》知る前に、牛飯を喉でかっ食らいながら《感じて》知る事が出来た。父はこの異界が不条理と最初に言っている。
仮に人口が半分も減ってしまったなら、それぐらい世界が死にかけているのなら、恐竜と同じような人類全体の寿命という概念が芽生えていてもおかしくない。だが、彼らにそれは無いように思える。例えば奥に居る店員は、極自然に器を洗っている。
この異常なる異界の最も異常なる部分があるとすれば、それは殺しあう事よりも、それを受け入れてしまってる彼等だと、飯を半ばに入れてから味噌汁を口に含み思う。その理由あるとすれば、まだ確認していないが日本だけ被害が薄いから? 遠い国に冷たいのか、鈍感なのか、開き直ってるのか、自分達に手一杯なのか?
異界、だからか。
それで説明は成立する、所変われば常識が変わる事は、世界であっても同じだ。ましてや国単位のすれ違いで無く、世界単位のすれ違いとなれば。
だがもしそれが結論だとしても、
父がここに放り込むだろうか? と、大柄の茶碗にごはんが半ばになるまで食ってから、紅生姜を乗せ湯のみの茶をかけ茶漬けにして掻き込み、完食しながら思う。
補足すればこの考えに至るまでの過程、ここまできっちりと順序だてて出した訳で無く、本人の思考の中の言葉借りれば、"しっかしまんま変わんネェ、なんでなんだか"だけであり、あとの細かい事は言葉にする前に感じ取っていた。
食い終わって、独り言を始めた。
「しかしどうすっかねぇ」
音量がデカくないから、店員や他の客は別に注目しない、「とりあえず腹一杯なった事だし」独白は続き、「んじゃごっそ」
そう言ってポケットの中のサイフを取り出し、中から小銭を、
「ゲッ」
この音には店員も反応し――
舜蘇鼓は暫しみつめた後、親指たたせて無駄にチャームに笑っておいた。軽く会釈して無表情で仕事に戻る店員。舜蘇鼓は再び腰を下ろす。
(どうっすかね)
彼にとっては打ち出の小槌に匹敵する、路上の客に金を投げさせるギターは、無い。ああここが有り体の牛丼屋と同じく、券売機での前払いシステムならば良かったのだ。こんな所で世界と異界の違いを知るとは。いや、そもそもこの牛丼屋事態聞いたことも無い店舗だったからか、まぁ、
仕送り前の学生なのか、あるいは以前経験したパチンコ屋の前の彼なのか、サイフが空っぽの舜蘇鼓、なのである。
旅路とは言え、わざわざ親父は小遣いをくれる訳が無い。だからそう恨むのはお門違いだ、今ここで恨むべきは、
もう一つ精神が繋がってる、その者との意思疎通を考えようとした時、隣に、若者が居た。容姿を判断するとかそこらあたりは一瞬で省き、
そっちの方が楽そうだった、ので、そうした。視線は厨房を見つめながら、
蘇鼓の手は燕よりも早く、若者のズボンからサイフを抜き取る。
そしてその侭片手で器用に指をいれ、(恵まれないオレに世界中の愛を)異界に居ながら紙のお金を手の中に、と思ったが、
空、である。
予想外の事であったが、一時停止は頂けない。片手だけで、サイフを抜き取り札を抜き取りまた戻す、この動作は五秒以内を持って完了しなければならない。それが、蘇鼓のスリ技が神と呼ばれる所以。利益が零と解っても、その流れを絶つ訳は無く、
ゴツン、と、
流れが途絶える。「………」「………」
沈黙はデュエットである、舜蘇鼓はスリには関係ない相手の顔をその時まじまじと見る。銀髪の黒目、肌は土気色。だが何より目立つのは、船長のコスプレかセコンドのコスプレか、右目を眼帯で隠している事と、(ゴツンと音がしたのは蘇鼓のサイフを戻す手と、彼の手がぶつかったから、その手は、いや腕は)
右腕が生身じゃない、黒に赤が施されてる、明らかなからくり仕掛けである事。
その証明に指先が細く変形し、蘇鼓の空のサイフをつまんでいる事。
沈黙は続く。
男達はみつめあう、だが、瞳で語る訳じゃない。蘇鼓とこの眼帯銀髪の精神は繋がっていない。
けれど結局、拳で語り合う事になった。切欠は蘇鼓で無く、眼帯であった。
奇声をあげながらサイフを真上に放り投げ、空いた手を黒いナイフに、まさに手刀にしてチョップッ! U字テーブルに片手をつけ、腕力を足の筋肉のように使い、身をすぐ後ろの店の壁へ飛ばしかわす蘇鼓。「てめぇっ!」と一声吠えた後、
得物を取り出す、武器だ。
それはチャクラムと言って、ドーナツ状の刃、
父の、龍の鱗を加工した。
理由は、今、力が半分になってるからである。だからこれを形態している。単に武器としての能力か、或いは補った力を埋める為か、
とにもかくにもそれを用い無軌道で仕掛けたが、あの黒いからくり仕掛けの腕につかまれそうになって、慌ててそちらを下げ蹴りを頭に放つ。結果的にフェイントになったのか鮮やかにへこむ奴の頭、蘇鼓の手をミンチにしようとした芝刈り機型の手を唸らせながら、厨房に吹っ飛んだ。ダメージは無いみたいだ、すぐ立ち上がる。
「あああっ!ふざけてんじゃねーかっ!?」
若者とか関係ない、別次元の意味で《キレた》叫びだった、返答するもう一人の若者、といっても実は紀元前五世紀からの長生き、「そらぁこっちのセリフだよッ!」
獣のように目で睨みつけ、U字テーブルの中と外で殺気を込めあい、
同時に叫んだ。
「「なんで金持ってねぇっ!」」
その場に居合わせた不幸は語る、とても良く似てる二人だったと。
戦闘は続く、「お前何処の無職な訳っ!」チャクラムによって空になった器は割れ、「愛の歌売りって言ったネ!」右手が扇風機になった所為で紅生姜は散乱し、「きーこーえーまーせーんー」割り箸真っ二つ、「きーこーえーローッキックっ!」割り箸真っ二つ、「寒っ! あんた死んだ方がいいじゃね?」割り箸真っ二つ、「うわーただの冗談にいちいちマジんなって」割り箸、
「ちょ、ちょっとお客さぁんッ! やるんでしたら店の外でやってくださいよぉっ!」
割り箸の早すぎる運命に嘆いたのか、唐突に響いた第三者は店の隅でガタブル震えてる店長だった。意外にも、このお願いを聞いて、椅子の上で立ち止まる二人。
やがて、椅子から飛び降りて、壊れたスピーカーのように騒がしく店を出て行った二人、ようやっと静寂が取り戻される店内、であったが、
それを破る言葉を、店長は吐かざるを得なく。
「……食い逃げ?」
◇◆◇
それよりも店の修理代はどうしたという感じだが、
とりあえず駅前まで逃れた二人は、さっきまでのファイトはどこへやら、腹を抱えて笑い合ってる。大成功という文字が頭の中で回ってるんだろう。
「ひゃー、コントみてぇに上手くいくとは思わねぇよ、いやマジで」
笑いすぎて目じりに涙を浮かべる蘇鼓に、黒い片手は「コント? 何それ?」と、
「あれ? 知っててやってたんじゃねぇの? こう八時に全員集合する奴でさぁ」さっきのような手で食い逃げする芸人のコント、長い人生の中でいちいちそれに執心してた訳じゃないが、覚えていたのである。
だが、片目を隠した男はさっきまでの爆笑は何処かへ飛ばし普通の顔で、「へー、俺あんたが頭いいと思ってただけだぜ? 人真似かよー」
「真似っつうかなんつうかー、ああ」
その時になってようやく、「そいやてめぇの名前は? オレ、舜蘇鼓」
そう聞いた訳である。すると突然、また爆笑し始めた。
「俺の事知らねーの!? どこのモグリよあんた!」そう言って腹を抱えてくの字に折れた姿勢で顔を見上げられて、確かに世界から潜ってきたけど、という言葉は引っ込めて、
「知らねーって、お前芸能人? その割にゃ近寄ってくる奴ぁいねーしなぁ」
単にこの男のハイテンションが壁になってるだけである。視線は集まるが目が合うと殺されそうなのですぐそらすのである。
大口を開けたまんま、彼はこんな風に言った。
「俺って有名と思ってたけどよー、いや、ほらあんた強いし」「ん? まぁ確かにオレ最強っぽいですけど」自慢じゃなく、認識であった。すると彼はにやりと笑い、
「ギルフォード」「ギル」
名前の後即座に、略称を決めた後即座に、
「人殺しの間じゃチョー有名」
ポケットに手を突っ込んで、
ギルと呼ぶと決めた男は、そう語る。
だがそれ以上を問いただす前に、パトカーのサイレンが聞こえた。
彼らの無銭飲食器物破損の仕置きの為じゃなく、どこか別の事件の為か、走り去っていく。
すると、それがギルとの別れであった。「おー! 何よ何っ! 何かあったんじゃねーかっ!」「っておい、ギルー!」
声をかけても彼は無視して、ヘリコプターを追いかける子供のように、パトカーを追跡し始める。ただし、車の速度に引けをとらないで。
どうせあの義手を車輪に変えてるのだろうと思いながら、蘇鼓はさっきのセリフをリピート。人殺しの間じゃチョー有名。
紀元前後世紀からの人生だ、色々あってそうゆう事に手は染めた。それが完全に人間か、幽霊かはともかく。だが何故それが見抜かれたか、まぁさっき暴れたから当然か。
何よりも知りたいのは、あのギルって奴は何者か――
最悪の男みたいだぜ、と聞こえた。
それは発声では無い、心に直接響くものだ。だが、親父では無い。親父では無い別の物、
この異界に訪れる為の手配、
舜蘇鼓は二人居る。
この異界の法則に沿って、
父は蘇鼓を二つに分けた。
……今舜蘇鼓は、二人居る。世界の自分を二つに分けて、片割れを異界の自分として活動させている。
牛丼を食っていた世界の自分とは別行動を取り、異界の自分は(世界にも存在する)腐れ縁と偶々会っていたようだ。
なんで髪の色が銀色に変わってるだとか、肌が日焼けしてるだとか、お前は格ゲーの2Pからだとかさんざ言われたらしい。三年ぶりというのに、感動の再会という感じでは無かったのは、その相手の縁が薄いからか、異界だからか。
(で、ギルの名前も出た訳?)
それよそれ、聞いた話じゃさー、あいつかなりやばいらしいぜ、と心の中に語りかける異界の自分。寧ろ2P。さっきパトカー追いかけていったけどな、
(あー何、まさか、……ちょっくら殺すって感じ?)
警察の手にかかる厄介事、例えば強盗事件だったならば、拳銃を持つ人間だか怪物だかを玩具にして、
殺すように遊びたいらしい、と。
それを聞いた蘇鼓の感想は、初対面の相手にも関わらず、ギルらしいという事であった。
だが交友関係の相手としてはどうか、彼に母親が居れば即刻付き合いを止められるだろう。だが、ま、
「気、合うしさ」
異界に来て――知った事
ああいう面白い奴が世界にも居るという事、である。
◇◆◇
ちなみにこの後、蘇鼓は2Pと接触するのだが、
「何全財産使ってんだテメェは?」
二つに分かれる時、サイフじゃなく金を持っていた方が、うっかり二万七千円のハーモニカを買った事で、世界に戻る1Pは一足早い冬を感じたのである。
◇◆ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ◆◇
3678/舜・蘇鼓/男性/999歳/道端の弾き語り・中国妖怪
◇◆ ライター通信 ◆◇
――方々のプレイングを見た結果、今回は基本的に全員個別で仕上げております。
菜食主義者である事を、途中で思い出して慌てて訂正したのは秘密です(こら
初めまして、今回はご参加おおきにでした。余り二人に分かれた事が、主として機能せずにすいません; プレイングにギルの名があったので、それをメインにした方がええかと思い……。うちのギルぴょんはこんな感じですがよろしければこれからも。といっても次回あたり死ぬかもしれまへんが(こら
という訳で今回はおおきにでした、機会があればまたよろしゅうです。
[異界更新]
舜蘇鼓、世界と(特殊な)異界のPCとして知る事の為行動。異界の不条理部分は、"殺しあう事より寧ろそれを受け入れてる異界の住人では無いか?"
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