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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


メイド募集☆時給1500円

●メイドの憂鬱
「ちょっと、あんた。どーいう教育してるんですかッ!!」
 女は叫んだ。
 昼過ぎの忙しい時間を過ぎた頃とは言え、八幡宮横 和風喫茶【いど】には結構な人数の客が残っている。一様にその客が振り返った。
 イトウヨー○堂辺りで買ってきたであろう服に身を包んだ女の年の頃は三十後半ぐらいだろうか。忙しさに我が身を振り返らない素敵な服のセンスからすると、どうやら主婦のようであった。
 一方、頭ごなしに怒鳴られている女性の方は二十代か十代後半、ないしは十八歳ぐらい。おとなしい雰囲気の可愛らしい女性だ。
 ちょっと珍しいデザインの可愛いメイド服を着ている。
「申し訳ございません…」
「謝ればいいってもんじゃないでしょう! 親はどこなのよ」
「はぁ…旦那様はプーケットの方に商談成立の…」
「またいないっていうの? じゃあ、母親はどこなの!」
「はい。奥様は…エビアン地方のスパに…」
「またなの!」
 エビアンとはミネラルウォーターのことではなく、フランスのアルプス山脈のそばにあるレマン湖の南岸に位置する保養地、もしくは観光地のことである。
 一級の観光地でもあるそこのスパに行くというのだから、相当な金持ちであろう。またと言うからには何度となく行っているのだろうか。これなら、この女性がメイド服を着ているのも頷ける。
「とにかく何とかしてちょうだいよ!」
「はい、申し訳ございません…」
 深深と頭を下げて謝るしかないのか、このメイドさんは頭を上げずにいた。流石に恥ずかしくなったのか、その主婦は鼻息も荒いままに店を出て行く。
 気配を感じなくなった頃、メイドさんは顔を上げた。
「はぁ〜〜〜〜〜」
 溜息をつくと、コーヒーを飲み干す。
「佳苗ちゃん。また、あのお坊ちゃんなの?」
「え? あー…摩耶さん…」
 この店の店長の声に振り返ったメイドさん――小山佳苗はぎこちない笑顔を向ける。
 彼女の働くお屋敷の長男坊は悪戯好きで有名なのだが、その悪戯も半端ではない。徹底した悪戯ぶりで、おまけに知能が高い所為なのか、しっかりとアリバイまで用意している始末。
 本人しかやっていないだろう事はわかっているのだが、アリバイなしには親を呼びつけることも出来ないのだった。おまけに友達には親切なのか、子供達の協力まで得ているようなのである。
「私…このままじゃ倒れちゃいます」
「まあまあ…。仕事仲間と憂さ晴らしにでも行けばいいと思いますよ」
「もう、同僚が減っちゃって…あんな大きなお屋敷なのに、使用人が6人しかいないんです。昨日付けで10人も辞めちゃったから」
「え…」
「誰か知り合いにバイトに来てもらえないかって主任に言われてるんですけど。お坊ちゃまの悪戯が凄いから…呼べないんです」
 そう言って、佳苗は溜息をついた。
「じゃぁ、うちで募集してあげましょうか?」
「え、本当ですか??」
 摩耶の申し出に佳苗は顔を上げた。
「是非ともお願いいたします!」
 そう言うと、佳苗は感極まったのか泣き始めた。

●依頼…バイト?
 数日後のこと。
 天薙・撫子は和風喫茶【いど】に向かって歩いていた。
 先日、おやつに豆かんを食べたのだが、今日もそこへ行こうとしていた。
 ゆっくりと歩きながら、今日は何にしましょうか、蕨餅か胡麻うどんのほうが良いのでしょうかと考えていたのだった。
 馴染みゆえに殆どのメニューは食べ尽くしていたが、やはり食べに行くとなると悩んでしまう。とりあえず店長にお勧めを聞いてからにすることにした。
 丁度、そんなことを考えていたら、店の前につく。肩に掛けたショールを外して扉を開ければ、店長さんの声が聞こえてきた。
「いらっしゃいませー…あ、撫子ちゃん」
「こんにちは」
「今日はお買い物?」
「いいえ、祖父の代理で深川八幡宮へのお遣いです」
「ああ、そうだったわ。実家が神社関係だったのよね。もう終わったのかしら?」
「えぇ…先日、豆かんをいただきましたから、今日は何にしようかと…」
「そうね〜、今日は新しくメニューを考えてみたの。それはいかがかしら?」
 にこりと笑って摩耶が言った。
「じゃぁ、今日はそれをいただきますね」
 穏やかに笑うと撫子は置くのお座敷の方へと向かう。ふと、目に付いた張り紙を見て立ち止まった。
「あら? アルバイトの募集ですか?」
 撫子の声にお茶を持ってきた摩耶が目を瞬かせる。
「えぇ、頼まれたのよ。メイドさんの募集でしょ…えーっと、撫子ちゃんは三丁目の持永さんご存知かしら? 結構大きなお屋敷だし、何て言うのかしら…マナーとかも厳しいし、なかなか見つからないらしいのよ」
 実際本当の事なのだが、摩耶は言い難そうに言った。そして、悪戯なお坊ちゃんがいることも撫子に話す。圧力釜にパチンコ玉詰めて即席クレイモアを作ろうとしたり、中等部の化学室からナトリウムを持ち出して、公園の池にぶち込んだりとかなり過激なのだが、頭が良いために尻尾をつかませないことも撫子に教えた。
「まぁ…」
「結構な悪戯でしょ?」
「最近、入り用な事が増えまして…家事も得意ですからお手伝いさせていただきたいと思いますが」
「えっ、撫子ちゃんが? そうねぇ…撫子ちゃんならおしとやかですもの…似合うとは思うのよ…でも…き、危険じゃ…」
 さすがにそれ以上言い辛い摩耶であった。
 それでも気にせず撫子は微笑むばかり。余裕の表情に摩耶はしょうがないわねとでも言ったような、優しい笑みで言った。
「じゃぁ、撫子ちゃんを私から推薦したいと思うの」
「まぁ、助かります」
「いえいえ、こちらこそよ…撫子ちゃん」
 摩耶は頭を下げると、撫子の電話番号を聞いた。そのうちに持永さんのところから電話が来るからと言ってメモをとった。
 そこに、カウンターでお茶をしていた田中・裕介が声を掛ける。どうも気になっていたらしく、そちらのほうをそっと見ていたようだ。
「えっと…俺も何かお手伝いできるといいのですが…」
「え?」
 男性から声がかかって、摩耶は吃驚したように言った。
「あのぅ…男性でメイドさんをするんですか?」
 摩耶は驚きを隠せないままボソボソと言う。祐介は微妙な表情をしてから首を振った。
「いや…もしも、手が少ないなら男手も足りないんじゃないかと思って…」
 実は居候させてもらっている家主からこんなバイトがあると聞かされて来た。それは、どうやら家主としてはいい加減に自立すべしとの思いからだったようだ。
 最近は店も構えたことだし、ここは足元を固めておきたい所でもある。
「そうねぇ…じゃぁ、貴方のも連絡しておきましょうね。ところで、お名前と電話番号をいただけないかしら?」
「はい」
 摩耶は祐介にメモを渡した。二人には、写真つきの履歴書と、職務経歴書を作成して欲しいと頼んだ。勿論、佳苗の上司に送るためだ。
 連絡先などを二人に聞いていると、店の扉が開く。反射的に摩耶は顔を上げると「いらっしゃいませ」と声を掛けた。
「あの…」
 随分とおっとりした雰囲気の青年がやってきた。摩耶のほうを見る。
「はい?」
 思わず小首を傾げると、摩耶は返事をした。
「外の電柱に…貼ってあった…。…これは…ここの…ことか?」
「はい、そうですけれども」
 摩耶の言葉を聞くと、青年は表情をふと和らげた。店の前を通りかかったら、思わぬ高給のバイトが目に止まったので自分もバイトがしたいと言う。摩耶は考え込んだが、ここにも一人バイトしたいと言う青年がいるし断る理由は全く無い。むしろ、撫子もいることだし、きっと上手く調整を取ってくれるに違いないと摩耶は思った。
「えーっと、貴方のお名前とご連絡先を教えてくださらないかしら?」
「名前は…せ、セバスチャン」
「「…………」」
 その青年の言葉に祐介と摩耶は凍りついた。何か激しく勘違いしているらしい。それでも青年は冗談を言ったつもりは無いようで、じーっと摩耶を見つめていた。無論、撫子は楽しそうに微笑んで眺めていただけだった。
「えーっとね…偽名はダメなのよ」
「そうなのか?」
「所得税とか、年末調整とか、そう言うのが必要だから偽名はだめよ」
「分かった…名前…五降臨…時雨」
「えーっと、『ごこうりん』さんね。確かにメイドって聞くと、執事さんって思うわよね〜、うん」
 摩耶はクスクスと笑うと、メモに五降臨の名前を書いた。それから希望するシフトと勤務日数を三人に尋ねる。それをFAXで持永邸に送ると、少々待たせていた撫子に特製『コーヒークリーム寒天』を奢り、祐介と五降臨にコーヒーを奢る。
 明後日辺りに電話が入るはずだと伝え、その後三人はそれぞれに帰っていった。

●持永邸
 撫子は大学の関係の用事があって週半分の勤務になった。祐介と五降臨は住み込みだ。
 大きな邸宅に慣れている撫子はお屋敷を見ても全然驚いたりはしなかった。祐介は少々驚いた風だが、五降臨は分からないのか気にならないのかポーカーフェイスだ。いや、もしかしたらボーっとしていただけかもしれなかった。
 三人がやってくると、主任と小山佳苗の二人が歓迎した。事情を知っていてもバイトにきてくれるだけ有り難い。手放しで大喜びしていた。
「いらっしゃい! 私が主任の生島雅夫です」
「天薙撫子です」
「はい、摩耶さんから聞いていますよ。家事が得意だそうですね、仕事ぶりが楽しみですよ」
 そう言うと生島は、「制服は可愛いし、天薙さんはきっと似合うね」と微笑んだ。新しい同僚が出来た事に喜んだ佳苗はメイド服の入った袋をそっと撫子の方に見せて笑う。
 すでにメイド服姿になっている佳苗の姿をそっと眺めつつ、祐介はなにやら考えているようだった。じ〜っと、じーっと、熱い視線を佳苗に…いや、メイド服に注いでいる。思わず五降臨はその視線を追ったが、何を考えているのかは分からなかったようだ。
「??」
 佳苗は意味がわからずに首を傾げていた。
 それから、各自、制服を渡され、仕事の内容と給料の振込先や業務契約書を交わした後解散した。
 次の日から三人は働き始めた。
 問題のお坊ちゃまにはその日に会ったが、小生意気そうとかいったような感じは見受けられない。少々、体が小さいぐらいで、見た目には可愛らしい少年というだけだった。
 朝は庭の掃除、洗濯、配膳などからはじまった。祐介と五降臨は力仕事中心に動いている。テーブルセッティングや生け花などのセンスを求められる仕事は佳苗と撫子でこなした。
 仕事の終わった後は祐介達も一緒にお茶を楽しんでいる。今日もお茶を飲みながら、午後の休憩に入っていた。
「うん、やっぱり誰かと仕事すると楽しいわ」
 嬉しそうに佳苗が言った。
 つい、おしゃべりに花が咲いて手を止めてしまうが、随分と今まで辛かったのだろう、何かにと撫子に仕事を教えては話し掛けてくる。辛かったのだろうと思うと、撫子は労わるようににっこりと笑うのだった。
「そんなに長い間一人だったのか?」
 祐介はふとそんな事を聞いた。
「えぇ、お坊ちゃまの悪戯に手を焼いて辞めていってしまうんです」
「へぇ…」
「最近は旦那様と奥様が外国に行ってしまっているからパーティーも無いし、そうそう困ることは無いんですけど…つまらないし」
「確かに…そうだと…思う」
 五降臨はボソッと言った。
「私、不謹慎かしら…ここの制服が気に入ってバイトはじめたから…罰かしらねぇ」
「そんなこと無いですよ!」
 思わず祐介が力説する。メイドさんがいっぱいの仕事場に来たいなんて良い選択ではないか。実に、その人数が多かった時に来てみたかったものだ。
「旦那様たちが日本にいた頃はパーティーが毎週あって楽しかったんですよ。忙しい仕事だからって旦那様と奥様がわざわざ制服を新しくしてくださったり、慰安旅行に連れて行ってくれたり…お仕事が忙しくなったら、お坊ちゃまも悪戯をはじめて…」
 佳苗はスカートの端を抓んで広げ、ちょっとふざけて可愛らしくポーズをとってみる。目の端には涙が浮かんでいた。
 茶色のロングワンピースに少し胸を強調したベスト付きのエプロンはとても佳苗に似合っていた。きっと、今までいた同僚と女の子らしい会話をしながらバイトしていたのだろう。そう思うと不憫に思えた。
 その瞬間、庭の方からぼしゅぅ〜〜〜〜〜〜ん!!と音が聞こえ、一同は振り返える。窓の向うに見えた光景はすごい事になっていた。池から巨大な水柱が立ち上がり、飛ばされた池の鯉が庭でびちびちと跳ねている。その光景を見た佳苗は眉を顰めた。
「またですぅ〜…」
「…鯉を…回収…すればいい…。それだけの…ことだと…思う…」
 五降臨は別に何の感慨も無さそうに庭を見て言った。
 えっ?と言った感じに佳苗は目を瞬かせる。別に冷たいというわけでないことは、撫子にはわかっていたので、それについては何も言わなかった。
 四人で庭の鯉を回収すると、池に水を張って鯉を戻す。道具を片付けると、四人は再びお茶をしに部屋に帰ろうとした。
「……あれ?」
 ふと何かを見つけて祐介は振り返った。そこには和海坊ちゃまがいる。どうやら、片付けている自分達の姿を観察していたようだ。
 ふいとこちらから視線を外すと走って行ってしまった。

●坊ちゃまの悪戯
 それからというもの、毎日毎日坊ちゃまの悪戯は続いた。
 オーブンに発煙筒は入れるわ、目覚ましは壊すわ、箒は丸坊主にするわ、散々、悪戯の限りを尽くしていく。再び水柱を上げさせて困らせた挙句、裏庭で特製クレイモアの実地実験をしたりと休まず悪戯していた。
 それにもめげず、佳苗は仕事をこなしていけたのは、他の三人がいたお陰だろう。他の使用人は自分の仕事だけに専念してしまっていて、結構態度は冷たいものだった。まあ、お坊ちゃまの悪戯で仕事が増えるのが嫌なのだろう。それも仕方の無い事だった。
 だが、祐介や撫子たちは和海坊ちゃんに対して、何があっても優しく接した怒る事は無い。どんな悪戯されても怒らず、撫子はただ優しく「いけませんよ」と言っている様な雰囲気で見つめるばかりだ。そうなると和海の方は、ちょっと眉を顰めて何か言いたそうな顔をして何処かへと走っていってしまう。そのくせ、撫子の名前を何度も呼んだり、祐介や五降臨に纏わりついたりしてくる。本当は寂しくて仕方が無いのが分かっているから、怒る気がまったくしないのだった。

 ある朝、祐介は毎朝朝早く起きて毎日寄ってくる小鳥達に餌を与えていた。それを見て楽しんでいた時に、和海がそっと木の陰から覗いていたのだ。
「興味があるなら餌を与えてみませんか?」
 祐介の誘いにちょっと戸惑った後、和海は近付いてくる。
「……うん」
 朝食用のパンを拝借して餌を与えていた祐介はパンの切れ端を和海に渡した。
 寒い空の下で鳥達が小さな泣き声を交し合っているのを二人で聞く。
「坊ちゃまは何で悪戯するんですか?」
「悪戯…してない」
 ふんとそっぽを向いて話す仕草を見ると、悪戯してますと言っているようで、祐介は微かに笑った。和海はパンを祐介に押し付けると走り出す。
 寂しいと認めるのにも、まだ不器用で正直になれない年頃のようだ。祐介は追及することをするのはしばらくやめておこうと思った。

●友達≦使用人?
 和海の悪戯は日に日に減っていったが、無くなるというわけではなかった。五降臨が遭遇する事が、実は多かったのだが、少々どころか何が起こっても全然動じない。
 それが気になって仕方ないらしく、和海は何度も何度も挑戦しているようだ。
「ぁああああッ! くそぉっ…どぉーして引っかからないんだよーっ!」
 隣の部屋でじったばったと地面を踏み鳴らす和海。
 そんな姿を撫子は何度となく発見していた。直接巻き込まれそうになれば、無論、直前に回避して片付ける。周囲への大掛かりな悪戯は被害を最小に抑えて迅速な対処をしていた。
「じゃぁ…次はこうやって…あーやって…」
 そんなことを言いながららノートを広げてトラップ配置図作りに夢中になっているのだが、今までその姿を見られることが無かった。しかし、五降臨を引っ掛けるために夢中になっていたら、こっそりやることも忘れてしまったようだ。
「よしっ! これで完璧だぁ☆」
 意気揚々とトラップを仕掛けて、すぐに敗退。悔しくなった和海は五降臨を困らせるために…というか構ってもらいに仕事の邪魔に行くのである。
「あらあら…」
 撫子は苦笑すると、また掃除をしに行く。
 今日は坊ちゃまの為にお菓子を用意しておいてあるのだが、きっと五降臨から離れないのは分かっていた。今日のお茶会は坊ちゃまとすることになりそうだ。
 しばらく仕事に熱中する。そして終わると道具を片付けた。
「さて…お茶の用意に行かないと…あら?」
 微かな物音に気がついた撫子は音のする方に歩いていく。キッチン近くのガラス窓を開けると、塀寄り木の根元に置いたダンボールの前に和海坊ちゃまがいた。
 今朝、撫子がお屋敷へ来る途中の道で足にケガをした子猫を保護していた。もちろん、手当を終えてはあったが、仕事前もあって一段落終わるまで子猫さんには待っていてもらったのだ。
 和海坊ちゃまはお皿と牛乳を手にダンボール箱を覗いている。
「わぁ〜…お前、可愛いなぁ…ほら、ミルクだぞ〜」
 和海の声に答えるように子猫が「にー」と鳴くと、和海は嬉しそうに笑って子猫を抱きかかえて頭を撫でた。
 ぽや〜んとした表情になっている和海坊ちゃまの様子に、クスクスと撫子は笑う。
 よく考えてみれば、跳ね上がってしまった池の鯉は別として、人が怪我をしたりするような事は坊ちゃまはしてはいなかった。悪戯をするなら近所の猫にだってできる。つまり、和海坊ちゃまは人を怪我をさせたり小さいものを虐めたりするような子ではなかったのだ。
 きっと、大事にしてくれるだろうと思い、撫子はしばらく見守るとその場を離れた。

●和海のお願い
「ねー、ねー、ねー、撫子!」
 和海はお茶を運んできた撫子に纏わり付いてくる。今日も皆でお茶をする事にしていた。
「何ですか?」
 寂しがりの少年が名前を呼びつけても撫子は何も言わない。にっこりとするだけだ。午後のお茶用のティーポットを置いて撫子が笑う。
「撫子は動物に詳しい? お裁縫できる?」
「えぇ…どうなさいました?」
「僕ねー、子猫飼いたいんだ。今日ね、うちのダンボールに猫が入ってたんだよ」
「それはわたくしが連れてきたんですよ」
「えー! 撫子のなの? なんだぁ…。ねぇ、撫子。僕にちょうだい」
「まぁ、どうしましょう?」
 クスッと笑って撫子が言うと、和海は地団駄を踏んで強請りはじめた。
「ねー、ねー、ねー、撫子。ちょうだい! 子猫、僕にちょうだい」
 じたじたじたじたと和海が足で地面を蹴る。
「そうですね〜?」
「ちょうだい、ちょうだい。子猫、僕にちょうだい〜〜〜〜〜」
 じたじたじたじた…と、また和海坊ちゃまが地面を蹴る。
 眉を八の字にして地面をバタバタと蹴る仕草が妙に可愛いので、撫子はすっかり可笑しくなり、そっと笑いを堪えていた。
「大事にしてくださるなら構いませんよ?」
「本当?? わぁ〜い、撫子大好きー♪」
「そうですか?」
「うん♪」
 スカートごと撫子に抱きついて、和海はピョンピョンと跳ねる。
「ねー、時雨〜。あとで猫の場所、一緒に作ろう♪」
「あぁ…構わない…」
「やったぁ」
 そう言って喜ぶ和海は早くお茶の時間が終わらないかとワクワクしていた。仕事に疲れた撫子たちの休憩時間を邪魔しないように待っている姿がいじましいので、早めに三人は休憩時間を切り上げた。

 しばらくして、祐介が居候先に戻ることにしたことを聞くと、しばらく和海の悪戯はぶり返した。だが、元居候先に恩を返していないので、とりあえずは一旦帰り、また働きに来る事にしていたのを告げると和海は悪戯しなくなった。
 また来ますと言った祐介に、和海は「来なかったら悪戯する」との返事をして撫子の後ろに隠れ
る姿が和海らしくて、祐介は見えなくなるまで手を振って別れた。
 かくして、和海の悪戯はなりを潜め、五降臨と遊んだり、撫子に甘えたりと子供らしさが戻っていったという。

 ■END■

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 職業 】

 0328  / 天薙・撫子/女/18歳/大学生(巫女):天位覚醒者
 1098  / 田中・裕介/男/18歳/孤児院のお手伝い兼何でも屋
 1564  / 五降臨・時雨/男/25歳/殺し屋(?)

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、朧月幻尉です。
 はじめての異界依頼『メイド募集☆時給1500円』はいかがでしたでしょうか?
 きっと、和海の悪戯の片づけが大変だったのではないかと思う朧月でした(^^;)
 皆さんのキャラはきっと、高給でリッチになったことだろうと思います。
 一体、☆がいくつ買えたのでしょう? ちょっと羨ましい気分になってしまいました。
 それではまたお会いいたしましょう。

 朧月幻尉 拝