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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


切夜の拾い物 〜幸福?のお守り

■ ゴミ捨て場から宝物?(オープニング)

 まだ日も明るく店員の朱居優菜が本業である高校に通っている秋の日差しがこの裏路地すらも照らす、そんな時間。
 バーである『BLUE』店内には副店長である萩月妃と、たまたまこの店が開いているのを見つけた常連客の切夜が彼の手に握られた妙な物について睨み合っていた。

「切夜、また変な物を持ち込みましたね?」
 美人だが少々吊り上がっている萩月の目がさらに上がり、目の前に居る人畜無害そうな、よれよれサラリーマンといった格好をしている切夜に突き刺さる。
「変な物とは失礼だなぁ。 これこれ、幸運のお守りだってさ!」
 手にしているのは何かの石で出来た虫のような形の小さな置物だ。
 お守りと言うには少し重いかもしれないが、それでも小指の第一関節程の大きさのそれは、今占いブームな高校生や中学生に流行りそうである。
「それが変な物なのですよ。 どこで拾ってきたのですか」
「うー、拾って来たとは失礼だな。 あっちの物置き場で箱ごと落ちてたから勿体無いなー…ってねぇ?」
 ねぇ、ではない。切夜の言っている物置き場とは、とどのつまりゴミ捨て場だ。
 路地裏のこの狭い場所でゴミ捨て場なる場所が確保出来ない為や、元々町内会などしっかりとした団体が設けられていないため、結局何か溜まっている所にゴミを放置している。
「いいから捨ててきてください。 何かあったらお客様に失礼です」
「えぇ…可愛いじゃないか」
 つまらないと言った雰囲気で切夜は口を尖らせ、スカラベという小さな虫型の石をぐりぐりと手のひらで回すとその光の反射を見ては満足そうに微笑んだ。
「ねぇ、そのお客様だけどさ。 配ってみない? 良い事あるかもしれないよー」
 箱には何匹かのスカラベお守りが入っており、なかなか綺麗な光を様々な色で発している。
「やめてください。 ただでさえ客入りが少ないというのに、悪い評判を立てるつもりですか!」
 見向きもしない妃に切夜はまた唸り、いつも座るカウンター席から離れると入り口付近の席を陣取ると、今度は誰か来ないかと目を凝らしているようだ。

(来た人に選んでもらってあげちゃえばいいんだよね)
 私って頭良いと、子供のような発想を持ちながら切夜はボロボロになった箱をテーブルの上に置き、仕事でこちらを見ていない妃をいい事にお守りを握り締めるのだった。

■ 琥珀色のお守り

 その日、湊・リドハーストの通う高校は午前で終了。
 神聖都学園とは時間が合わないが、彼女の学校の生徒達が帰りに寄る店に走るのを見送りながら、湊は真っ直ぐに自分の家へ向かうと、私服のタートルネックやスカートに着替えた。
「ううーん、ちょっと短いかなぁ」
 ニーソックスを履き終えて姿見の鏡を覗けば、少しだけ背伸びをしたような短さのスカートがひらひらと揺れている。
「ま、いいよね。 変な所に行くわけじゃないし」
 湊の行こうとしている場所は裏路地のバーであり、十分変な所と言えば変な所なのだが、その経営者も客も、どちらかと言うと彼女よりも子供のような性格だ。
「こんなもんでいっかなぁ」
 ある程度自分の格好をチェックし、赤と茶色という秋を意識した私服に満足をすると、少し薄いベージュのパーカーを着、ポケットには財布を忍ばせて玄関を出る。
 学校時とは違い、革靴という動き辛い物は履かず、スニーカーでまずは店に行く前の手土産にワッフル屋に走った。

 向かった店、バー『BLUE』は何度か入り、店長である暁という子供のような関西弁の青年となかなかにして気が合い、今日は手土産片手にお喋りや、以前彼の言っていたテレビ番組でも観ようかと、ワッフル屋で練乳やはちみつの入った特大の激甘ワッフルをかなりの量で注文すると、その大きな袋を胸に抱きながら裏路地へ向かう。
「ううーっ! 良い香り!」
 袋の中から湊が走る度に甘い香りがふわふわと漂ってきて、今すぐ食べたいという衝動にかられる。
 湊が抱きかかえているお陰で、秋の冷たい風に触れる事無くワッフルは作りたての暖かいまま、彼女が店につくまでふわふわと湯気を出していた。

「こにゃにゃちわー」
 中に入ったワッフルの温かみに、うんうんと満足そうに頷きながら、湊は勢い良くいつもの木で出来た扉を勢い良く開け放つ。
「いらっしゃいませ…湊君?」
「ありゃ、妃さん。 遊ちゃんは?」
 扉に備え付けられた銅の鈴が景気良く鳴ったが、扉の向こうからは以前会った暁という陽気な店長ではなく、堅苦しい副店長の方だ。
「店長なら遊びに出かけてしまいましたよ」
 まったく、困ったものだ、と萩月副店長は自らの長い髪をかき上げながらため息をつく。
「うーん、寂しいなぁ…。 あ、じゃあ何かお紅茶頼めますか?」
 物怖じせずに萩月にオーダーすると、店員は今現在昼間という事もあり、彼しか居ないのだろう。
「わかりました、今日はアールグレイにしましょうか?」
 既に子供のような店長のお陰で未成年の客に慣れつつあるのか、萩月は湊のオーダーをすんなりと受けるとカウンターの奥へと入っていく。
「はーい、それ。 お願いします!」
 萩月の後ろ姿を見送りながら、湊はぶんぶんと手を振ってそれに答えると、手土産に買ってきたワッフルを覗き、落胆する。
「遊ちゃんが居ないのは知らなかったなぁー」
 来るようになってから日にちの浅い湊は、ここの店長が日々遊びまわっている事など知りはしなく、今度は他に遊べそうな人物はいないかと店内を見回し、そしてすぐに自分の隣に居る事を察すると耳にかかった髪をふわふわ浮かせながら喜んだ。

「せーつや、さんっ!」
「湊さん、いらっしゃい。 なーんて、ね」
 いつもカウンターの奥で紅茶を飲んでいる筈の切夜という青年は、今日に限ってドアの近くに陣取り、何かを大切そうに持ちながら湊を見上げている。
「いつもの席じゃないですよー。 どうかしたんですか?」
 同じじゃないのは席だけで、よれよれになったトレンチコートや茶色い色のスーツはあまり変わっていないが、奥の席から前の席というのも妙なもので、湊が『BLUE』に入った当初は気付かなかった程だ。
「うんうん、これ。 妃に配っちゃ駄目―って言われたから、入ってきたお客さんに選んでもらってさっさとあげちゃおうと思って」
「切夜さん、そんな事したら妃さんに怒られちゃいますよー」
 切夜が取り出したのはボロボロの箱に入った石ころ達で、箱には微かに『幸運』という文字と『お守り』という文字だけが途切れ途切れに読める程度で、
「ほら、湊さんも選んで選んで! 何か良い事あるかもよ?」
 ぐいぐいとワッフルを抱えた湊の腕にボロボロににった箱を押し付けると、彼女によく見えるように石達が光りだす。
「あ、これって虫さんの形ですかー?」
「そそ、スカラベっていう虫の形なんだけど、なかなかちっちゃくて可愛いよね」
 差し出した本人は可愛いと言っているが、見た目だけ確かに少しだけ愛嬌があるように掘り出されてはいるものの、湊にはそれが当たりはずれのある物である事が、伝わる雰囲気からわかるような気がした。
「うーん、じゃあちょっと見せてくださいねー…えっと」
 スカラベという虫の形をした石を湊は選別する為、ワッフルを切夜の座る斜め前の席に置きながら自分はその前に座る。
「湊君、アールグレイが入りましたよ」
 途中、妃が2人の間に入り、
「切夜! あれほど配るなと言ったのに!!」
 などと、癇癪を起こしかけていたが、それを誤魔化すような切夜の宙を泳ぎに泳いだ瞳と、湊の妙に真剣に石を選ぶ目に押され、とやかく言うのをやめたようだ。
「じゃあ私にも湊さんと同じものね」
「…わかりました」
 切夜の返答には相変わらず多少の怒気を含んでいたが、それは仕方の無い事であろう。

 拾ってきたらしいスカラベの石。中には少々邪悪な念を持った物や、逆に幸運をよび過ぎる物、そして中には何も起きそうに無い物がまばらに入っており、何を選べば良いかは多少の時間を要する。
(幸運を呼びすぎるのもなんだし…マジックアイテムを作るのにも邪悪なのは始めに選びたくないなぁ…)
 湊の中で数々の石を選んではやめ、選んではやめが繰り返され、さながら以前シェーカーを選んだ時のようにいらない物はぽいぽいと箱に戻しつつ、選ぶ事ばかりしていたら鑑定士になれそうだな。と、少しだけ考えてみたりもした。
「湊さん、いいの見つかった?」
「うーん、もうちょっと。 これとこれで悩んでるんですよー」
 手にしたのは琥珀色のお守りと茶色のお守りだ。
 どちらも色的には似ているが、琥珀色の方は透明で些細だが暖かい気を感じ、茶色い方は不透明で強い気を感じる。
(この強い気が良い物か悪い物かわかればいいんだけどな)
 殆ど同じ形のスカラベという虫の形を見比べながら、湊はついに自分用のスカラベを決める事にした。
「うん。 じゃあこっちの琥珀色の方、貰っていいですか?」
 些細でも暖かな気を感じる方が無難で、そしてなかなか透明である石の中で当たる光が反射し、綺麗かもしれない。
「いいよー。 じゃあ、他のは私の知り合いに…」
「あっ、待ってください!」
 まだ明るいうちは人が来ないからと、ボロボロの箱に入った残りの石を椅子に置こうとする切夜だったが、湊はすぐさまそれを止め、また自分の見えるテーブルにその箱を置きなおす。
「ん? 他のスカラベがいいの?」
「いえ、違うんですがー…。 切夜さん、お願いしても良いですか?」
 先程自分のお守りを選別している時、なかなか面白い石が何個か見つかった。
 何度も自分の物にしようかと迷ったが、矢張りお守りといえば一個だけというのが一番で、選びすぎると効力が乱反射し、何が起きるかわからなくなってしまう。
「あたしの知り合いにもあげたいんで、何個か貰っていってもいーでしょうか?」
 半分は本当だが、半分はちょっとした嘘である。
「うん、私は少し残っていればいいから、湊さんの好きなだけ持っていくといいよ」
「ありがとうございますーー!」
 はい、とスカラベの入った箱を湊に渡す切夜に礼を言い、再び物色を続けると、
(やっぱり少しはこういうのも良いよね)
 邪悪な念のこもった黒いスカラベや、コガネムシのようなちょっと気持ちの悪い色のスカラベを拾い上げ、自分の分としてテーブルに分けていく。
(ああ、これなんてマジックアイテムに使えるかもっ!)
 心の中は既にあげるというよりはマジックアイテムなるものに夢中で、何かの念がこもった物を見るとついつい持っていってしまう。

「あっ、お礼に…じゃないですが、ワッフルいかがですかー?」
 散々物色しながらも、置き忘れて少し生ぬるくなったワッフルを湊はスカラベ石の散らばったテーブルに差し出した。
「んっ、ありがとう。 …ってこれ、美味しいの?」
 切夜も甘い物は嫌いではない。寧ろちょっとした甘党に入る味覚の持ち主だと自負しているのか、湊の持ってきたワッフルの袋を開けると一瞬ひるんだように顔をしかめる。
「美味しいですよぅ! 練乳がとろーんとしてて、蜂蜜がワッフルの生地にしっとりと馴染んでて!」
「へ、へぇ…。 そんなに、美味しい…う…」
 スカラベ選びに夢中ではあるが、勧められた物を食べないわけにはという、ある意味大人の社会の意識を持った切夜は、ワッフルを口にして目を見開いた。
「切夜、紅茶ですよ」
「妃! ありがとう!」
 ごくごくと切夜は妃の持ってきた、彼にとっては嫌味で濃くしてある苦い紅茶を嬉しそうに飲み干す。甘い、甘すぎるワッフルの後ならばどんな苦い飲み物でもジュースのような味がするだろう。
「へへ、美味しいでしょう?」
「お、美味しいね…」
 ここで甘すぎるなどと口にしては悪い、それが切夜の心理であり、ようやくスカラベを選び終わった湊は空になったワッフルの袋に選んだ石を入れると、大切に包んだ。
「皆さんで食べてくださいねっ! それじゃ、遊ちゃんによろしくです、あ、出来れば残ったワッフルも皆で食べて欲しいな」
 まさに通常味覚の持ち主ならば爆弾並みの発言を残し、湊は来た時と同じように、
「それでは、またまたー!」
 と、景気良く扉をくぐり、銅の鈴も彼女の心のように軽く鳴り響いた。

(さぁて、このスカラベさんの大群でどんなマジックアイテムを作ろうかなー)
 帰り道、夕暮れ時になりかけた青と赤の混じる空を見上げ、湊はマジックアイテムを考えるという本当に些細な事に心浮かれていた。
 もしかすれば、それが彼女の選んだ琥珀色のスカラベの効力かもしれないし、またもしかすれば別の幸運が彼女を受け入れてくれるかもしれない。

 ―――ただ、追記しておくならば。『BLUE』が後に湊の残したワッフルのせいで味覚が無い妃以外の全員が甘い物が暫く食べられなくなるという災難にあったらしいが、それはスカラベのお守りのせいではない…と、思いたい。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【2332 / 湊・リドハースト / 女性 / 17歳 / 高校生兼牧師助手(今のとこバイト)】

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■         ライター通信          ■
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湊・リドハースト 様

こんばんは、発注有難う御座います!
そろそろ若葉マークが枯れ落ちてきたへたれライター・唄で御座います。
今回、本当はもう一方、そしてまだ窓は開いていたのですが、お2人のプレイングが時間的にも場所的にもあまりにかけ離れているという事で完全個別体制をとらせて頂きました。
ほのぼのと激甘ワッフルオチとなってしまいましたがいかがでしたでしょうか?
誤字・脱字等御座いましたら申し訳御座いません。
また、いつもの事ながらここをこうした方が…等、何か御座いましたらレター頂けると幸いです。

それでは、またお会いできる事を願って。

唄 拝