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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


家族ごっこ

1.
「これ・・・このドールハウスなんだけどね」

そう言って、アンティークショップ・レンの店主・碧摩蓮(へきまれん)は大きなドールハウスを取り出した。
精巧な作りのドールハウス。
中には細々とした家具が綺麗に配置されており、とても手の込んだ物だとうかがえる。
「あたしんとこにくる物が曰く付きな物だってのは承知の通りだろうけどね。今回のコレはちょっと厄介でね」
蓮はそう言うと軽くため息をついた。
「それを気にいってお客が触ると、全員その中に吸い込まれちまうのさ。で、吐き出されたお客が言ってたんだけど、中には8歳くらいの女の子がいてこう言うんだってさ。『ママたちはどこ?』・・・ってね」
キセルをふかした蓮は一旦言葉を切り、こう言った。

「で、お願いなんだけどね。
 あんたたち、このドールハウスの中で家族ごっこをやってもらえないかね?」


2.午後4時
今回碧摩蓮より依頼された人々と少しの打ち合わせをした後、それぞれドールハウスへと手を置いた。
手を触れると、蓮の言うようにあっという間にドールハウスに吸い込まれた。
庭に佇んでいたジュジュ・ミュージーは己の手の内に携帯電話と持ち込んできた食料があることを確認した。
この携帯さえ持って入れるなら外部との連絡は可能だ。

家族ごっこをし、少女から事情を訊き出すのが先決ネ。

ジュジュは手に力を込めると、玄関へと歩き出した。
玄関では、パパ役のシオン・レ・ハイとメイド役の初瀬日和(はつせひより)、そしてママ役であるシュライン・エマがすでにターゲットの少女と接触していた。
ジュジュは極力明るい声で駆け寄った。

「ミーのシスター! やっと見つけたヨ! そして、ユーがミーの可愛い姪っ子ネ〜?」

ジュジュはそういうと、エマに抱きついていた少女をエマもろとも抱きしめた。
「ジュジュさん! ちょ、ちょっと!!」
「感動の再会ですね〜」
慌てるエマに、なぜか本気で感動するシオン。

「あの、ご、ご主人様も、奥様も玄関先ではなんですから中にお入りください」

日和がそう言わなければ、ジュジュはきっと2人をまだ抱きしめたままだっただろう・・・。


3.午後5時
「お茶はいかがですか?」
にっこりと笑い、日和がソファーに座った一同に紅茶を渡した。
その飲み物はジュジュが調達してきた食料の一部だ。
「お嬢様はオレンジジュースです」
「うわぁ、ありがとう!」
ニコニコと笑う少女にジュジュはわざと悲しげにそういうと、少女へと言った。
「ミーは実は記憶喪失になってしまったのデス。やっとシスターのことだけ思い出してここに来たのネ」

「だからユーの名前、思い出せないのヨ。教えてくれる?」

少女の事を1番怪しまれずに知るにはこれが一番だと判断した。
そしてその思惑通り、少女は軽く縦に首を振ると自己紹介をした。

「永草直子(ながくさなおこ)! 直ちゃんでいいよ♪」

「永草・・・直子チャンね。OK。では、家の中案内してくれる?」
「うん!」
元気よく立ち上がり、直子はジュジュと手を繋いで先を歩き出した。
小さく冷たい手。
「あ、私も行くわ」
エマが、直子とジュジュの後を追いかけてきた。
「私も行きます〜!」
それに続いて日和もジュジュたちに追いついた。

家の中はドールハウスだけあって、簡素だが温かみのある家具が揃っている。
だが、直子の身元がわかりそうなものは見当たらない。
「ここがね、私の部屋なの」
そういって開けた部屋には、小さなベッドとテーブルセットがぽつんと置かれていた。
当たり前だが生活の匂いというものが全くしない部屋。

こんな場所で、1人で家族を待っていた・・・?

どこか自分の昔と重なってジュジュ自身、自分が動揺したことに気がついていた・・・。


4.午後6時
一通り、家の中を回ってジュジュとエマ、そして日和と直子はリビングへと戻ってきた。
エレガントに腰をかけたソファーで、シオンが逆さまに持った新聞紙を一生懸命読んでいた。
「それじゃ、そろそろ夕飯の支度でもしましょうか。直ちゃん手伝ってくれる?」
「はーい。ママ!」
部屋に入るなり、エマはそういって直子を連れてキッチンへと入っていった。
「シスター! ちょっと話があるデス」
ジュジュはエマを追ってキッチンへと入っていった。
「なにか?」
エマが振り返り、ジュジュの言葉を待った。
ジュジュは直子に聞こえないように、エマにこそこそと告げた。
「蓮サンに確認したんだけど、電気はきてるけど水道やガスはさすがに通ってないって。食材持ち込んできたからそれでサンドウィッチ作って欲しいのヨ」
「ドールハウスだもの、当然といえば当然よね。わかったわ。食材ありがたく使わせていただくわね」
エマがそう微笑み、直子とともにキッチンへと向き合った。
「ミー、ちょっと電話してくるヨ」
ジュジュはそう言うと、キッチンを後にして玄関で携帯を取り出した。

「あ、蓮サン? ジュジュだけど、ちょっと調べて欲しいんだヨ」

手短に用件を話すと、ジュジュはキッチンへと引き返した。
バリバリとレタスを手でちぎる音が聞こえていた・・・。


5.午後7時
「できましたよ〜」と、エマがサンドウィッチの山を大皿に乗せて持っていく。
どうやらエマはダイニングではなく、リビングで食卓を囲むことにしたようだ。
ジュジュはもう1つのサンドウィッチの山を持ってリビングへと移動した。
「水道工事中で水が出ないので外からもって来たのヨ」
「こんなにいっぱい食べれるんですか?」
二つのサンドウィッチの山を目の前に、日和がエマとジュジュにそう聞いた。
「それは大丈夫。いつもお腹空かせている人がそこに1人・・・」
とエマが指差した方向には既に目をキラキラ輝かせているシオンの姿があった。
「お、おいしそうですね〜・・・」
「あ! ミーの分は取っちゃダメ!!」
ジュジュの持ってきたサンドウィッチの山に手を出そうとしたシオンの手を、ジュジュはペチッと叩いた。
「このお皿はミーの分ね。シスターが持ってきたお皿がユーたちの分。OK?」
「1人で全部食べるんですか!?」
日和の驚いた声にジュジュは口の端に笑みを浮かべ「大人の事情ヨ」とだけ言った。
「ママ、食べてもいい? 私、お腹すいちゃった!」
「あ、そうだったわね。じゃあ頂きましょうか」
大人たちの会話に、直子が待ちきれず言った。
手を合わせ「いただきま〜す」と言うと、パクパクと食べ始めた。

直子は、サンドウィッチが本物だというのにパクパクと消化していく。
「サンドウィッチ食べたの久しぶり♪」
「・・・ユーはそんなにサンドウィッチ食べてなかったの?」
「うん。だって、パパもママもずっと帰ってこなかったし、いつもは・・・」
直子の言葉が止まった。
「どうしたの?」
エマがそう訊くが、直子は固まったままだ。

「白い・・・ベッドの上で・・・」

直子の目から、ポロポロと大粒の涙があふれ出た。


6.午後8時
泣き出した直子に、シオンはワタワタと何を思ったか直子の額に軽くキスをした。
「涙が止まる『おじまない』です」
「それを言うなら『おまじない』じゃ・・・?」
ジュジュがシオンにそう言うと、シオンはハッと恥ずかしそうに手のひらに乃の字を書いた。
「はしゃぎすぎて疲れたんですよ。今日は早めにお休みした方がいいかもしれませんね」
日和が直子にブランケットをふわりと掛けると、そう進言した。
「いや! また皆いなくなっちゃう! どこにも行かないで!!」
直子はそういうとシオンの服をしっかりと握った。
「そうだわ! お布団をここに敷いて、みんなで一緒に寝ましょうか」
エマがそういって、直子の肩を叩いた。
「絵本持ってくるといいヨ。ミーが読んであげる」
ジュジュはそういって優しく笑いかけた。
自分でも驚くほど、その笑顔は自然に出た。
「私、チェロを弾きましょうか。直ちゃんの好きな曲弾きますから、教えてくださいね」
「じゃあ私もマラカスで演奏のお供を・・・」
そう言ったシオンを日和は丁寧に断った。

ワイワイとにぎやかなリビング。
それは家族そのままの姿であり、けれど・・・。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
小さな声で、直子はそう呟いた。

「私のパパやママじゃないのに、こんなところに呼んでしまって・・・ごめんなさい・・・」


7.目覚めの時

「おや、戻ってきたんだね」

蓮の声で、ジュジュは自分がドールハウスの外に吐き出されたことに気がついた。
「どうして、戻って来てしまったのかしら?」
エマがそう呟くと、日和も心なしか悲しそうに俯いた。
ドールハウスに触ってみるが、先ほどのようにドールハウスに吸い込まれはしなかった。
「泣いてましたよね。直ちゃん」
シュンとする2人に、シオンも重い気分を味わっているようで肩を落としていた。
「あぁ、そうそう。ジュジュの電話で調べといたよ。『永草直子』って子の事」
唐突に、蓮がそういうとジュジュは少々過剰に驚いてみせた。
暗い雰囲気が払拭できればと思った。
「オー、サンクス!! 蓮サンなかなか探偵向きな情報収集の上手さネ」
「よしとくれよ。あたしはただの骨董商さ」
ふふっと笑うと蓮は真面目な顔をして話し出した。

「あのドールハウスは元々その子の持ち物でね。誕生日の日に事故にあって、それから意識不明で入院中らしい。どうもね、その誕生日の日に買ってもらったのがそのドールハウスで、どこを間違ったのか市場に流出しちまったらしい」

そこで一旦蓮は言葉を区切った。
「で? どうするんだい?」

「もちろん届けましょう。少し時間が遅いけど今からでもいいわよね?」
「はい! 直ちゃん、きっとお母さんたちのところに行きたかったんですよね」
エマがそう言うと、日和はにっこりと笑った。
「・・・私の所持金、1500円ですけど売ってくれますか?」
シオンはそう言うと、蓮に哀願の瞳を向けた。
「タダで持ってお行き。持ち主あっての持ち物だからね」
「戻れる家族があるのなら、それに越したことは無いネ」
ジュジュは、一瞬憂いの表情を見せたがまたいつもの表情に戻った。

こんな気分は今日だけにしとかないと・・・。
誰にいつ足元をすくわれるかわからないネ。
でも・・・ユーが幸せになれること、祈らせてもらうヨ・・・。

――― それから永草直子の意識が戻ったというのは、まだ少し先の話・・・。

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■□   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  □■

 3356 / シオン・レ・ハイ / 男 / 42 / びんぼーにん(食住)+α

 0585 / ジュジュ・ミュージー / 女 / 21 / デーモン使いの何でも屋(特に暗殺)

 0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

 3524 / 初瀬・日和 / 女 / 16 / 高校生


■□     ライター通信      □■
ジュジュ・ミュージー様

初めまして、とーいと申します。
この度は『家族ごっこ』へのご参加ありがとうございました。
デーモン使いという少しハードな設定とは変わって、優しいプレイングをありがとうございました。
のらりくらりと人を交わしつつ、やることをきっちりこなして尚心揺さぶられてしまう・・・そんな感じで書かせていただきました。
少しでもお楽しみいただければ幸いです。
それでは、またお会いできる日を楽しみにしております。