コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


家族ごっこ

1.
「これ・・・このドールハウスなんだけどね」

そう言って、アンティークショップ・レンの店主・碧摩蓮(へきまれん)は大きなドールハウスを取り出した。
精巧な作りのドールハウス。
中には細々とした家具が綺麗に配置されており、とても手の込んだ物だとうかがえる。
「あたしんとこにくる物が曰く付きな物だってのは承知の通りだろうけどね。今回のコレはちょっと厄介でね」
蓮はそう言うと軽くため息をついた。
「それを気にいってお客が触ると、全員その中に吸い込まれちまうのさ。で、吐き出されたお客が言ってたんだけど、中には8歳くらいの女の子がいてこう言うんだってさ。『ママたちはどこ?』・・・ってね」
キセルをふかした蓮は一旦言葉を切り、こう言った。

「で、お願いなんだけどね。
 あんたたち、このドールハウスの中で家族ごっこをやってもらえないかね?」


2.午後4時
今回碧摩蓮より依頼された人々と少しの打ち合わせをした後、それぞれドールハウスへと手を置いた。
手を触れると、蓮の言うようにあっという間にドールハウスに吸い込まれた。
2階に佇んでいた初瀬日和(はつせひより)は自分が今回メイド役を買って出たことを思い出した。

まず、蓮さんの言っていた女の子を探さなきゃいけませんね。

階段を見つけ下りていくと、どこからか声が聞こえてきた。
「・・パパ? パパなの? 帰ってきてくれたの!?」
小さな女の子の声。
これがきっとこのドールハウスの中に居るという少女の声なのだろう。
とすると、もうすでにパパ役を買って出たあの人が少女との対面を果たしたということか。
日和はパタパタと声のする方向へと急いだ。

「おかえりなさいませ・・・ご、ご主人様」

少し恥ずかしそうに日和はパパ役のシオン・レ・ハイを出迎えた。
メイド役ならやはり『ご主人様』と呼ばねばならないと思ったが、それでもすこし恥ずかしかった。
「あら、パパ。おかえりなさい」
そして、その後ろからエプロン姿が似合うママ役・シュライン・エマが現れた。
「ママ・・ずっと、ずっと居たんだね!」
満面の笑みの少女はそういうと、エマに抱きついた。
なんの違和感も無く、少女に家族として受け入れられたようだ。
・・・と。

「ミーのシスター! やっと見つけたヨ! そして、ユーがミーの可愛い姪っ子ネ〜?」

ママの妹役・ジュジュ・ミュージーがどこからとも無く現れ、エマもろとも少女を抱きしめた。
「ジュジュさん! ちょ、ちょっと!!」
「感動の再会ですね〜」
慌てるエマに、なぜか本気で感動するシオン。

「あの、ご、ご主人様も、奥様も玄関先ではなんですから中にお入りください」

日和は機転を利かせて、皆に中に入る様に言った。
かすかに、エマがほっとしたような顔をしていた・・・。


3.午後5時
「お茶はいかがですか?」
にっこりと笑い、日和がソファーに座った一同に紅茶を渡した。
紅茶はジュジュから持ってきた食材の中から使うようにと指示された。
どうやらドールハウス内は電気はあるものの水道やガスは使えないようだ。
そうなると、風呂も無理ということになる。
「お嬢様はオレンジジュースです」
「うわぁ、ありがとう!」
ニコニコとジュースに口をつける少女に、日和は微笑んだ。
日和たちがここに来るまでの間の寂しさは、既に忘れてしまったようだ。
それほど日和たちがここに居ることが嬉しいのだろう。
そう思うと、すこし切なかった。
「ミーは実は記憶喪失になってしまったのデス。やっとシスターのことだけ思い出してここに来たのネ」
ジュジュがわざと悲しげにそういうと、少女へと言った。
「だからユーの名前、思い出せないのヨ。教えてくれる?」
そして、少女は軽く縦に首を振ると自己紹介をした。

「永草直子(ながくさなおこ)! 直ちゃんでいいよ♪」

「永草・・・直子チャンね。OK。では、家の中案内してくれる?」
「うん!」
元気よく立ち上がり、直子はジュジュと手を繋いで先を歩き出した。
「あ、私も行くわ」
エマが、直子とジュジュの後を追った。
「私も行きます〜!」
それに続いて日和もジュジュたちに追いかけた。

ドールハウスの中は簡素で、生活感が無い。
当たり前といえば当たり前のことだが、直子が1人で家族を待つにはあまりにも寂しすぎる家だ。
「ここがね、私の部屋なの」
直子がそう嬉しそうに案内した部屋ですら、温かみのかけらも感じられない。

不安だったよね。淋しかったよね・・・。

日和は気付かれないように、自分のこぼれそうになった涙をぬぐった・・・。


4.午後6時
一通り、家の中を回ってきたジュジュとエマ、そして日和と直子はリビングに戻ってきた。
エレガントに腰をかけたソファーで、シオンは逆さに持った新聞を悪戦苦闘で読んでいた。
「それじゃ、そろそろ夕飯の支度でもしましょうか。直ちゃん手伝ってくれる?」
「はーい。ママ!」
部屋に入るなり、エマはそういって直子を連れてキッチンへと入っていった。
「シスター! ちょっと話があるデス」
ジュジュがエマを追ってキッチンへと入っていった。

「シオンさん。あの子のこと、どう思いますか?」

タイミングを見計らい、日和はシオンに話しかけた。
「どう・・・って、とてもいい子で・・」
「いえ、そうじゃなくて。何故ここにいるんでしょう? どうしてあの子のママたちはいないんでしょう?」
「わかりませんが、彼女はとてもいい子です。この家族ごっこが終わったら、彼女はまた独りぼっちですから・・・」
シオンは、そこで言葉を切った。
なにやら思案しているようだ。

せめて、私が居る間だけでも笑っていてもらえるように。
でも、本当は・・・。

「・・私たちで、何とかしてあげられるといいですね」
日和はそう言った。
そう。1番いいのは本当の家族の元に戻してあげることなのだから。
「そうですね。頑張って何か見つけましょう」
シオンはそういうと笑い、キッチンにいる直子を呼んだ。
「なぁに? パパ〜」
「これをどうぞ。私が作った兎のぬいぐるみです」
シオンはそういうと、目の大きなぬいぐるみを直子へと差し出した。
「うわぁ〜! パパありがとう! ・・・でも、さっきね。ママからもウサギのぬいぐるみ、貰っちゃったの・・・」
直子はしゅんっと申し訳なさそうにそう言った。
「一緒に並べてあげてください。そうしたらウサギさんも寂しくないですよ」
シオンはそういうと、微笑んで直子の頭を撫でた。
「そっか! じゃあ並べてくる!」
直子はそういって部屋を出て行った。
「シオンさん、子供の扱い慣れてるんですね。・・・もしやお子さんいらっしゃるんですか?」
感心した日和は思わずそう口にした。
が、シオンは焦ってこう言った。

「い、いないと思いますよ! ホントに!!」

・・・疑惑は残るが、プライベートなことに口を出すのも悪い。
日和はシオンに一礼すると直子の後を追った。
「ぬいぐるみ、1つお持ちします」
今にも落ちそうなぬいぐるみの1つを日和は直子の腕から抱き上げた。
「ありがとう! お姉ちゃん」
ニコニコと自分の部屋に向かう直子に日和は訊いてみた。
「お母さんは、いつから居なかったんですか?」
「・・・いいの。わかんないけど、もうおうちに帰ってきてくれたから」

すこし曇った直子の表情に、日和はそれ以上訊くことが出来なかった・・・。


5.午後7時
リビングに戻ると、丁度エマとジュジュがサンドウィッチをリビングに運んできたところだった。
ダイニングではなく、リビングで食卓を囲むことにしたようだ。
2人ともお皿いっぱいのサンドウィッチを持っている。
「水道工事中で水が出ないので外からもって来たのヨ」
「こんなにいっぱい食べれるんですか?」
2つのサンドウィッチの山を目の前に、日和はエマとジュジュにそう聞いた。
日和だけでは3日かかっても食べ切れそうに無い量だ。
「それは大丈夫。いつもお腹空かせている人がそこに1人・・・」
とエマが指差した方向には既に目をキラキラ輝かせているシオンの姿があった。
「お、おいしそうですね〜・・・」
「あ! ミーの分は取っちゃダメ!!」
ジュジュの持ってきたサンドウィッチの山に手を出そうとしたシオンは、ジュジュにペチッと手を叩かれた。
「このお皿はミーの分ね。シスターが持ってきたお皿がユーたちの分。OK?」
「1人で全部食べるんですか!?」
日和の驚いた声にジュジュは口の端に笑みを浮かべ「大人の事情ヨ」とだけ言った。
何が大人の事情なのか、日和によくわからなかった。
「ママ、食べてもいい? 私、お腹すいちゃった!」
「あ、そうだったわね。じゃあ頂きましょうか」
大人たちの会話に、直子が待ちきれず言った。
手を合わせ「いただきま〜す」と言うと、パクパクと食べ始めた。

直子は、サンドウィッチが本物だというのにパクパクと消化していく。
「サンドウィッチ食べたの久しぶり♪」
「・・・ユーはそんなにサンドウィッチ食べてなかったの?」
「うん。だって、パパもママもずっと帰ってこなかったし、いつもは・・・」
直子の言葉が止まった。
「どうしたの?」
エマがそう訊くが、直子は固まったままだ。

「白い・・・ベッドの上で・・・」

直子の目から、ポロポロと大粒の涙があふれ出た。


6.午後8時
泣き出した直子に、シオンはワタワタと何を思ったか直子の額に軽くキスをした。
「涙が止まる『おじまない』です」
「それを言うなら『おまじない』じゃ・・・?」
ジュジュがシオンにそう言うと、シオンはハッと恥ずかしそうに手のひらに乃の字を書いてみた。
「はしゃぎすぎて疲れたんですよ。今日は早めにお休みした方がいいかもしれませんね」
日和は直子にブランケットをふわりと掛けると、そう進言した。
「いや! また皆いなくなっちゃう! どこにも行かないで!!」
直子はそういうとシオンの服をしっかりと握った。
「そうだわ! お布団をここに敷いて、みんなで一緒に寝ましょうか」
エマがそういって、直子の肩を叩いた。
「絵本持ってくるといいヨ。ミーが読んであげる」
ジュジュがそういって優しく笑いかける。
「私、チェロを弾きましょうか。直ちゃんの好きな曲弾きますから、教えてくださいね」
「じゃあ私もマラカスで演奏のお供を・・・」
そう言ったシオンを日和は丁寧に断った。

ワイワイとにぎやかなリビング。
それは家族そのままの姿であり、けれど・・・。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
小さな声で、直子はそう呟いた。

「私のパパやママじゃないのに、こんなところに呼んでしまって・・・ごめんなさい・・・」


7.目覚めの時

「おや、戻ってきたんだね」

蓮の声で、日和は自分がドールハウスの外に吐き出されたことに気がついた。
「どうして、戻って来てしまったのかしら?」
エマがそう呟くと、日和は悲しくて俯いた。
「泣いてましたよね。直ちゃん」
シュンとする2人に、シオンも落胆の表情を隠せないで居る。
ドールハウスに触ってみるが、先ほどのようにドールハウスに吸い込まれはしなかった。
「あぁ、そうそう。ジュジュの電話で調べといたよ。『永草直子』って子の事」
唐突に、蓮がそういうとジュジュは少々過剰に驚いた。
「オー、サンクス!! 蓮サンなかなか探偵向きな情報収集の上手さネ」
「よしとくれよ。あたしはただの骨董商さ」
ふふっと笑うと蓮は真面目な顔をして話し出した。

「あのドールハウスは元々その子の持ち物でね。誕生日の日に事故にあって、それから意識不明で入院中らしい。どうもね、その誕生日の日に買ってもらったのがそのドールハウスで、どこを間違ったのか市場に流出しちまったらしい」

そこで一旦蓮は言葉を区切った。
「で? どうするんだい?」

「もちろん届けましょう。少し時間が遅いけど今からでもいいわよね?」
「はい! 直ちゃん、きっとお母さんたちのところに行きたかったんですよね」
エマがそう言うと、日和はにっこりと笑った。
「・・・私の所持金、1500円ですけど売ってくれますか?」
シオンはそう言うと、蓮に哀願の瞳を向けた。
「タダで持ってお行き。持ち主あっての持ち物だからね」
「戻れる家族があるのなら、それに越したことは無いネ」
ジュジュは、一瞬憂いの表情を見せたがまたいつもの表情に戻った。

もう、寂しくないね。
本当のパパとママのところに行けるんだもの・・・。

――― それから永草直子の意識が戻ったというのは、まだ少し先の話・・・。

−−−−−−

■□   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  □■

 3356 / シオン・レ・ハイ / 男 / 42 / びんぼーにん(食住)+α

 0585 / ジュジュ・ミュージー / 女 / 21 / デーモン使いの何でも屋(特に暗殺)

 0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

 3524 / 初瀬・日和 / 女 / 16 / 高校生


■□     ライター通信      □■
初瀬日和様

この度は『家族ごっこ』へのご参加ありがとうございました。
皆様の優しいプレイングにより、少々センチメンタル(?)なお話となりました。
今回はいつもと比べましてプレイングが反映されて無い部分も多々あると思います。
私の力量不足です。申し訳ありません。
メイドさん・・・とは意外な着眼点でドキドキしました。(笑)
『ご主人様・奥様』などと呼んでいただきましたが、もしイメージと違うようでしたらリテイクかけてくださいね。
それでは、またお会いできる日を楽しみにしております。
とーいでした。