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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


◆指輪と瞳と約束と◆


 □オープニング

 ないの・・・どこにも、ないの・・・。
 何度も探したけれど、どこにもないのよ。
 絶対にあそこに置いたのに、それなのにないのよ。
 ねぇ、お願い、嫌わないで。
 絶対にアレを探し出すから。
 『お願い・・・・・・・・』

*************************************************************

 『ねぇ、そこの貴方・・・。小さいコレくらいの指輪を見なかった?』
 夕方の校舎内、後ろから呼びかけられた女生徒が振り返る。
 冷え切った廊下に、女生徒と『彼女』以外に人影はない。
 『ねぇ、コレくらいの指輪よ・・・』
 彼女が女生徒に向かって手を突き出す。親指と人差し指で大体の大きさを示す。
 女生徒は、下を向いたままの彼女に首をかしげながら「知らない」とだけを伝える。
 『そう、仕方ないわ。それなら貴方・・・』
 彼女がゆっくりと顔を上げる。
 右目は灰色に濁り、左目は・・・。
 『私の左目を知らないかしら・・・?』
 暗くくぼんだ瞳を見て、女生徒は叫ぶことなく意識を手放した。

 「それでね、その生徒が言うには指輪と瞳を見つけ出さないと呪われるんだそうですって。」
 響カスミはそう言うと、身震いをして肩を抱いた。
 暖かな部屋の中、一気に温度が下降している気がした。
 「その女生徒の他にもその子を見た生徒がいるんだけど・・やっぱりみんな一様に口を揃えて『呪われる』って。怯えてるのよ。」
 カスミはそう言うと、傍らにおいてあった茶色のバッグから白い紙を取り出すテーブルの上を滑らせた。
 そこには、黒髪の綺麗な女生徒の写真とプロフィールが書かれている。
 「生徒達に確認を取ったから間違いないわ。彼女が、夕方校舎内を練り歩いて瞳と指輪を探している張本人。」
 名前は『環下 マドリ(たまきもと まどり)』。
 入学した年は今を遡る事10年前だ。
 「彼女ね、高2の時に亡くなったのよ。交通事故でね・・・。最近の出来事だから、図書館に行って新聞なんかを調べれば載ってると思うわ。結構騒がれたから。」

 「え?なんで騒がれたのかですって?なんでも、その子の体内から多量の睡眠薬が検出されたんですって。だから自殺じゃないかって。でも、運転手が言うには自分の前方不注意が起こした結果なんだって。」
 カスミはそう言うと、こちらの方に身を乗り出した。
 「ね、これ以上被害が出るわけには行かないのよ。被害にあった子達も学校に来れなくなってるし・・・。どうにかしてくれないかな??」


 ■発端

 手を合わせて頼むカスミを、坂原ルキアと修善寺美童はチラリと見ただけで特に何も言わなかった。
 黙々と手に持った書類を読み進み、内容を記憶していく。
 「あ・・あの・・。依頼、受けてくれないかなぁ〜??」
 カスミが少々眉をピクリと動かしながらも、猫なで声で美童とルキアの様子を伺う。
 美童は、書類をパサリと机に投げると言った。
 「なんだかグロイ事件だけど・・。良いですよ。・・面白そうだ。」
 「僕も、友達に頼まれたから。」
 ルキアもそう言うと、書類を机に投げた。
 「そう?それじゃぁさっそく今日の放課後から来てもらえるかな?」
 「えぇ。良いですよ。それまでに色々と部下を使って調べてみます。」
 美童はそう言うと、すっと立ち上がった。
 何の合図を受けたのかは知らないが、バタン!と勢い良く扉が開き黒服の10数人の男達が美童に近づく。
 「あぁ。そうだ。良ければ神聖都学園の制服を用意してもらえます?・・もちろん、女生徒の。」
 「え・・えぇ。良いわ・・。手配しておく・・。」
 カスミはそう言うと、頷いた。
 黒服の男達が、コートを美童の肩にかける。
 サングラスで黒服。一見するとなんの組織かと思われる彼らは、美童のボディーガード達だ。
 アルビノで体力が無く病弱な彼には必要不可欠な存在だった。
 「キミ・・。坂原ルキアさんって言ったっけ?放課後まで時間があるし・・・手を貸してくれないか?」
 「良いけど。」
 ルキアは席を立つと、美童の方に歩んだ。
 ボディーガードの人達が、ルキアを恭しく手招く。
 「それじゃぁ、頼んだわよ!制服は用意しておくから・・。」
 カスミの声に、美童は片手を上げて答えた。ルキアは、少しだけ目でお辞儀をした・・。


 □調査

 「それじゃぁ、キミはマドリについて、キミはこの事故について、キミはマドリの交友関係を。探偵とか情報屋を動かしてつかんできて。」
 美童がテキパキと黒服の男たちに指示をする。その姿は良い所のお坊ちゃまと言うよりは社長のようだった。
 「なるべく早くね。全部の資料を集めて、策を練ってから学校に行きたいから。」
 黒服達は恭しく頭を下げると、大急ぎで部屋から出て行った。
 多分・・今頃は探偵社や情報屋に電話越しに怒鳴り散らしながら調査をするように言っているのだろう。
 「それで、僕達はここで何をすれば良いの?」
 「推理。」
 美童はそう言うと、クスリと微笑んだ。
 「何故マドリが瞳をなくしたのか、誰に許しを請うているのか、どうして指輪を探してるのか・・。」
 「指輪は良いとして、なんで瞳を捜してるんだろう?」
 「さぁ・・。事故の事を調べてみないと分からないけれど・・。事故のせいで左目を探しているとは考えられないな。」
 「なんで?」
 「事故のせいで左目をどうかしてしまったのなら、普通事故現場を探さないか?学校にはあるはずがないのだから・・。」
 美童がそう言った時、勢い良くドアが開いた。
 あまりにも元気すぎるその登場に、美童が肩眉を跳ね上げる。
 「どうしたの、そんなに慌てて。」
 「えっと・・。」
 黒服の男は美童に近づくと、耳元でゴニョゴニョと何かを囁いた。
 「あ、そう。ご苦労様。」
 黒服の男は一礼すると、今度は静かにその場を後にした。
 「なに?」
 「事故の事について詳細が分かったらしい。直ぐにFAXで届く・・。」
 言っているうちに、備え付けられたFAXから白い紙が吐き出された。
 美童はそれを取ると、ルキアに渡した。すぐに、もう一枚紙が吐き出される。
 「ふぅん。別に変わったところは無いね。」
 「あぁ。でも、やっぱり睡眠薬が引っかかる。」
 「目撃者もいるし、事故って事は間違いないようだけど。」
 ルキアと美童はじっとFAXを眺めた。
 何故睡眠薬が多量に検出されたのか・・?
 マドリは事故にあう前に睡眠薬を飲んでいた。けれど、事故は偶然が重なった不運な事故で・・。
 再び扉が開く。 
 「美童様・・。探偵が環元マドリと交友関係のあった人をつかみました。」
 「そう、誰?」
 「えぇっと・・。マドリが亡くなる前まで交際していた方です。」
 「連れてきて。」
 「かしこまりました。」
 それから数分後、どうやってココまで呼び出したのかは不明だが、マドリと当時付き合っていたと言う男が美童とルキアの前に連れてこられた。
 「初めまして。ボクは修善寺美童。こっちが坂原ルキア。いきなり呼び出して悪かったね。」
 美童はそう言うと、人のよさそうな笑みを浮かべた。
 その笑顔を受けて、弘人が所在無さ下に視線を左右に振る。
 「あ・・俺は、北方 弘人(きたかた ひろと)です・・。それで、俺にききたい事って・・。」
 美童はパサリとFAXとカスミから手渡された書類を投げた。
 弘人はそれをチラリとだけ見ると、表情を曇らせた。
 「見て分かるように、9年前に亡くなった環元マドリさんの事だけど・・。」
 「お・・俺、何も知らない・・何も知らないです。」
 そう言う弘人の挙動はおかしかった。
 ・・なんて顕著に表情に現れる人なのだろう。美童とルキアは視線を合わせると、小さくため息をついた。
 「付き合ってたんだろ?なにか、マドリが亡くなった原因について知らないの?」
 「なんで俺にきくんですか?それも、9年も前の事を・・。」
 「9年も前の事だと思ってない人がいるからだよ。」
 ルキアはそう言うと、弘人の目を真っ直ぐに見た。
 弘人がフイと視線を逸らす。
 「そ・・その事でしたら、警察とかの方がよっぽど詳しいんじゃないですか?事情聴取とか、クラスのやつまでとられてましたし。話はそれだけですか?」
 明らかに、弘人は動揺していた。
 なにかある・・。
 しかし、ルキアも美童も弘人の問いかけには答えなかった。
 「それだけでしたら、俺は用事があるので失礼します。」
 立ち上がり、一礼だけすると扉をあけた。
 その背中に、美童がポソリと呟く。
 「北方さん、指輪と瞳と約束ってなんでしょうね・・。」
 弘人の肩がビクリと上下した。
 「な・・なんでそれを・・。」
 ビンゴ。
 美童は少しだけ俯いてニヤリと微笑んだ。しかしそれは、近くにいたルキアだけにしか見えていなかった。
 顔を上げて、ニッコリと微笑む・・。
 「どうしてだと思います?」
 とどめだった。
 弘人は観念したように俯くと、小さな声で呟いた。
 「全て・・。お話します・・。」


 ■過去
 
 マドリと弘人は高1の時からの付き合いだった。
 周囲が羨むほど仲の良いカップル。
 そして2人にはそれぞれ親友がいた。
 マドリの小学校からの大親友の“中野 真子”(なかの まこ)と、弘人の親友の“立川 信”(たてかわ のぶ)。
 4人は何時も一緒にいた。どこに行くにも4人グループ・・。
 そんななかで真子と信が付き合ったのはごく自然の事だった。
 「婚約とか言って、はしゃいで・・。本当に楽しかったんですよ、毎日・・。」
 弘人はそう言うと、遠くを眺めた。
 楽しかったあの時を呼び寄せているかのような視線に、ルキアと美童は口をつぐんだ。
 「それがおかしくなり始めたのは・・高2の春です。丁度マドリが亡くなる3ヶ月くらい前ですかね・・。なんだか急にマドリと真子の仲がギクシャクし始めて・・。理由を聞いてもただ首を振るばかりでした。」
 弘人の前に置いてある紅茶は既に冷えていた。
 まだ温かかった時に数個角砂糖を入れていたのを見た・・。
 もう飲めはしないだろう。
 「それからマドリが情緒不安定になり始めて・・。最初は、真子と喧嘩でもしたのかなって思ってたんです。けれど・・そうではなかったみたいで・・。」
 弘人がブルリと震える。
 部屋の中は十分な温かさだった。けれど、弘人からしてみれば寒かった。
 そう・・雨の夜のように・・。
 「あの日・・マドリの母親から俺のところに電話があったんです。マドリが帰ってきてないって・・。もう、夜中の11時過ぎでした。だから、俺は信に電話して一緒にマドリを捜す事になったんです。・・雨が降っていました。」

 雨の振る中、弘人と信は真夜中の道を走った。
 マドリの行きそうな所全てをまわったつもりだったが、マドリはいなかった・・。
 「おい・・弘人。マドリちゃん、もう家に戻ってるんじゃないか?」 
 「それはない。そうだった場合、おばさんから電話が来る。」
 「あと・・マドリちゃんが行きそうな場所って・・。」
 弘人は考えた。
 マドリとの思い出のある全ての場所を・・公園、映画館、遊園地・・。
 「なぁ・・弘人。学校にいるってことはないか・・?」
 「学校・・?なんでだよ・・。まさか、有り得ないだろ・・。」
 「でも、今うちの学校耐震工事中で・・夜中でもセキュリティー解除されてるだろう?」
 「馬鹿言うなよ・・。作業してる人がいくらなんでも気付くだろう・・。」
 「そうだけど・・・。」
 時計を見る。
 既に時刻は12時を回ろうとしていた。
 「行ってみるか・・一か八か・・。」
 「あぁ。」
 弘人と信は走り出した。
 途中で傘をたたむ。傘があると速く走れないから・・・。
 着いた学校は真っ暗だった。いつだったか家で見たホラー映画を思い出させる。
 確かあのオープニングはこんな感じだった。
 肝試しに来た高校生2人が真っ暗な学校に入っていく・・そうするとカメラはひいて、学校の全体図を映し出す。
 その時、丁度2階のある一室が明るく光るのだ。そして、窓には女の子の・・・。
 「あ!!」
 弘人はその声にビクリと飛び上がった。
 早鐘になる心臓を必死で押さえる。
 その様子を信が怪訝な顔で見つめると、学校を指差した。
 「ほらあそこ、電気がついた。あそこに誰かいるって事だろ?もしかしたらマドリちゃんかもしれないし、違った場合でもその人に聞けばすむ事じゃん。」
 弘人は視線の先を見た。
 丁度2階・・そこには誰かの影があった・・。
 「ほらな、もしかしたらマドリちゃんかもしれないだろ?行ってみようぜ。」
 「あ・・あぁ・・・。」
 弘人は脳裏にあの光景を掠めながら、校舎の中に入って行った・・。
 中は暗く、見通しが悪かったがそこは勝って知ったる学校内だ。
 視界が利かなかったところで、不自由はしない。身体が学校を覚えているのだ。
 そして、着いた所は美術室前だった。
 オレンジ色に光る灯りが、心を落ち着かせる。
 廊下には一人の少女の姿があった。窓の外をじっと見ているため、誰だか分からない。
 「マドリちゃん・・?」
 信が少女に近づくと、その肩をクイっと掴んだ。
 「マドリ・・・。」
 弘人も少女の顔を覗き込む・・。
 「うわぁっ!!!」
 弘人はそう叫ぶとその場に尻餅をついた。
 確かのその少女はマドリだった。しかし・・その顔は真っ赤に汚れていた。
 左側に・・べったりと・・。
 「マドリちゃん、これ・・・。」
 信が急いでその頬に手をあてる。
 「これ・・絵の具・・?」
 弘人はばっと美術室の中を振り返った。
 彫刻やら絵やら・・全てのものがズタズタに壊れていた。
 「な・・なにやってんだよマドリ・・。」
 「・・いの・・。」
 「え・・?」
 「・・いのよ。ないの。真子と、信君の・・わ・・。」
 「マドリちゃん、どうしたの、俺と真子がどうしたって?」
 「ないの、指輪・・。私が悪戯で隠した指輪・・・。」
 信が、何かを思い出したようにはっと目を見開いた。
 「真子が指輪なくしたって言ってたの・・。」
 「うらやましかったの・・婚約指輪・・だから、私思わず隠しちゃって・・!!でも、ココに隠したはずなの!隠したっ!」
 マドリはそう言うと、美術室の中を指差した。
 だから・・こんなに何もかもがめちゃくちゃに・・?
 「だけど・・ないの!どこにもないの!真子に正直に言ったら、悲しそうな顔で言ったの!」

 『左は目・・。』

 弘人はそこまで話すと、大きく息を吐いた。
 婚約指輪が羨ましかったマドリはどう言う経緯かは知らないが指輪を美術室に隠した。
 そして・・なくした。
 それを真子に話したところ、真子は『左目にある』とだけを言った・・。
 「つまり、真子は指輪の行方を知ってるって事だろう?」
 ルキアはそう言うと、ソファーに体をうずめた。
 「そう思って、俺も真子に聞いたんです。そしたら、意味深な笑みを残した後で小さく言ったんです。」

 『耳は右ね』

 耳は右・・目は左・・。
 「多分、真子はマドリが指輪を隠したのを知っていて、それを後から別の場所に隠したんだと思うんです。」
 「そう考えるのが無難でしょうね。」
 「でも、理由は?」
 「マドリの手で・・返して欲しかったからじゃないんですか?」
 弘人の呟きが木霊する・・。
 そこにどう言う感情があるのか、ルキアも美童も理解できなかった。
 「なんか、複雑な感情が絡んでるんでしょうね・・。どうもありがとうございました。お引止めしてすみませんね。」
 美童はそう言うと、ニッコリと微笑んだ。
 「それで・・その事を誰から聞いたんですか?」
 「マドリからだよ。」
 ルキアのその答えに首をひねりつつ、弘人は修善寺邸を後にした・・・。


 □現在

 ルキアと美童は放課後神聖都学園まで来ていた。
 美童が用意されていた神聖都学園の制服に身を包む・・。
 「なんか・・意外と似合うんだ。」
 「そ?ありがとう。」
 何処からどう見ても、神聖都の女生徒だ・・。
 美童は腰まで伸びたウエーブがかった髪を肩から払った。
 「それじゃぁ、キミは指輪を探して来て。多分あそこにあるはずだから。ボクは、マドリと接触してみるから。」
 ルキアは頷くと、美童と別れた・・。


 ルキアは暗い校舎内を黙々とある場所を目指して進んでいた。
 そう・・左が目で右が耳の場所・・。
 目を連想させる言葉はいくつかある。
 瞳、瞳孔、水晶体・・“見る”・・つまり、視覚。
 それと同様に、耳もいくつかある。
 けれど、目と同様ここで大事なのは“聴く”と言う事・・つまり、聴覚。
 左が目で右が耳なのだから・・“視覚 聴覚”。
 それが指す部屋は一つしかない。
 ルキアはその部屋の前に立つと、扉をスライドさせた・・。
 視聴覚室。
 左に目、右に耳のある部屋・・。
 指輪を何処に隠したのかまでは分らないが、まだこの部屋にある・・。
 真子はマドリから指輪を返してもらう事を願っていたのだから・・。
 10年間も置いておいてばれない場所。つまりは目立たない場所で、移動のしない場所。
 そうなると場所は絞られてくる。
 「・・・そうか・・。」
 ルキアはその場所を探した。
 「あった・・。」
 ひっそりと置かれている指輪をそのままに、ルキアは美童の元へ戻った。
 
 『出して!私・・真子ちゃんの指輪を見つけなくちゃならないんだから!出してよぉっ!!』
 廊下の向こう側から、悲痛な叫びが聞こえてくる。
 「その指輪なら、見つかったよ。」
 ルキアはそう言うと、檻の中に入っているマドリを見つめた。
 その向こうには、美童の姿もある。
 『どこっ!出してっ!早くっ!はやくっ!!!』
 「本当は、自分で見つけたいんじゃないのか?」
 ルキアの言葉に、マドリが目を見開く。
 「正確には、どこにあるのか検討がついたって事だ。だから・・一緒に探そう?」
 ルキアがマドリの方に手を差し伸べた。
 「キミ、左目はあるんだろう。本当は・・しっかりあるんだろう?」
 美童が、檻を解く。そして、ツカツカとマドリの方に近づくと、その顔をグイと上げた。
 「ほら、ある。」
 そこには確かに、灰色に濁った瞳があった。
 「左目って言うのは、そう言う意味じゃないんだ。」
 ルキアは、マドリの手を握ったままある部屋の前までマドリを導いた。
 “視聴覚室”
 左に“目”があり、右に“耳”がある部屋。
 「このなかに、指輪があるんじゃないのか?」
 ルキアが、ドアをスライドさせる。
 「長い間、人の目に付かず・・そして、移動させられない場所。」
 ルキアはすっと映写機を指差した。
 天井に取り付けられた小さな四角い映写機は、見上げない限り視界には入らない。
 そして・・映写機を動かす場面はほとんどない。
 積もった埃の状態から見て、大分前から動かされていないことは確かだった。
 「どうぞ。」
 美童が、マドリのために椅子を差し出す。
 マドリはゆっくりと椅子の上に乗ると、慎重な手つきで映写機を探る・・。
 その指先が、ピクリと止まると・・指に銀色に鈍く光る指輪を持って椅子から降りた。
 「それが、真子の指輪?」
 『そう・・。これが、真子ちゃんの指輪。私が、羨ましくて羨ましくて・・隠した。真子ちゃんと信君の婚約指輪・・。』
 マドリの目から、涙がこぼれる。
 その瞳に・・色が戻ってくる・・。
 『私と、弘人は仲は良かった。けど、真子ちゃんと信君みたいな信頼できる仲じゃなくって・・もっと、子供っぽい恋愛感情しかなくって・・。嬉しそうに将来の事を話す真子ちゃんが凄く羨ましかった。憧れだった・・・。』
 マドリは、手に持った指輪をぎゅっと握り締めると少しだけ微笑んだ。
 それは悲しみを含んだ微笑というよりも、どこか諦めを含んだ微笑だった。
 「一つ、ききたい事があるんだけど・・。なんで睡眠薬なんて飲んだの?」
 美童の言葉に、マドリが琥珀色の瞳を大きく見開く。
 そして・・小さく微笑むと、その手に指輪を乗せた。
 『あれは、夜だったわ。あの日も真子ちゃんの指輪を探そうとして・・交通事故にあった。そう、よく覚えてる。両親がね、夜中になると騒がしくなる私の部屋を不審に思って、睡眠薬をくれたの。』
 つまり・・夜中に眠れないのだと勘違いした両親が飲ませたと・・?
 「でも、それなら何故そう両親は証言しなかったんだ?その部分が警察の調書に抜け落ちている・・。」
 『愛ってさ、いつの間にか冷めちゃうものなんだね。繋ぎとめておくには、なにかしらの理由が必要なものなんだよね・・。』
 マドリの瞳がどこか一点を眺める。
 懐かしそうに・・そして、寂しそうに。
 「それは・・両親の事か?それとも・・弘人の事なのか?」
 ルキアの言葉に、マドリはただ首を振った。
 それが何を意味するのか・・分からなかった。
 『それ、真子ちゃんに返しておいてくれる?私じゃ、もう・・返せないから。』
 「いや、自分で返した方が良いと思うよ。」
 美童がマドリの手に指輪を握らせる。
 『それって・・。』
 「きっと、真子さんも信さんも、待っているはずだから。」
 マドリを、白い光が包み込む。
 それが何を意味するものなのか、ルキアも美童も分っていた。
 だから・・。
 フワリと、光が当たり全体を包み込み・・・そして消えた。
 カツンと、タイル張りの床に指輪が落ちる。
 美童はそれを拾い上げた。
 『ありがとう。』
 その声が、未だに2人の鼓膜に張り付いて温かな温度を感じさせてくれる・・・。


 □エピローグ

 ルキアは、美童から渡された書類に目を通した。
 マドリが光に包まれた時に、行っていたセリフの意味・・。
 それは数年前の新聞記事の切抜きだった。
 見出しに躍る文字は“居眠り運転、夫婦死亡”。
 亡くなった2人の名前は“立川信”さんと“立川真子”さん。
 マドリの言葉が浮かぶ・・。
 『愛ってさ、いつの間にか冷めちゃうものなんだね。』
 ルキアは、ある店の前で足を止めた。
 小さなアクセサリーショップ・・・。
 美童は、指輪をマドリに返すといって持って行った。
 ルキアは少しだけ考えた後で、店の中に足を踏み入れた。目に付いた“同じような”指輪を買うと、店を出た。
 そして、カスミから渡されていた書類に目を通す・・。
 マドリのお墓はココからそう遠くは無かった。
 家に帰る前に・・よって行こう・・。
 彼女の欲しがっていた約束の指輪を持って・・。
 ルキアは、買ったばかりの指輪をポケットにしまうと・・歩き始めた。

     〈END〉

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 ■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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 【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

  3942/坂原 ルキア/女性/16歳/邦浪人
 
  0635/修善寺 美童/男性/16歳/魂収集家のデーモン使い(高校生)

   
  *受注順になっております。

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 ■         ライター通信          ■
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 この度は『指輪と瞳と約束と』にご参加いただきありがとう御座いました!
 ライターの宮瀬です。
 納品が遅くなってしまって申し訳ありません・・。
 日にちの上乗せ分を引いたらかなりギリギリの納品です。
 実質17,8日くらいかかってしまいましたでしょうか・・??
 さて、この“指輪と瞳と約束と”は友情と言うことをテーマに執筆しようと意気込んだのですが・・なんだか最後は愛のほうに流れてしまったような印象が伺えました。
 更に精進するように努力いたします・・。


 坂原 ルキア様

 初めまして、この度はご参加ありがとう御座います!
 血を見ると能力が発動する・・と言う事で、血は流れておりません・・が、一つだけ気になった点がございます。
 白に関してなのですが・・。美童様が白い肌なのですが・・。大丈夫ではなかったでしたでしょうか・・??
 大丈夫なものとして、今回はお2方一緒に執筆させていただきましたが・・その部分だけがどうしても気になってしまったのです。
 内容に関しましては、ルキア様は推理主体でした。
 視聴覚室の事や、指輪の場所など・・。
 クールなルキア様ですが、最後は温かな優しさを出したつもりなのですが・・お気に召されれば嬉しく思います。


 それでは、またどこかでお逢いしました時にはよろしくお願いいたします。