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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


【 お友達になって下さい 】

平和な世界
いや、平和というより何もない世界という方が正しい
ただ、何故自分がこんなところにいるのか
スウィーパーの仕事で負った傷が痛む
確か、自分はビルの裏路地に隠れて
もたれた壁には穴があいていた
そこに私は落ちていって――
「にゃ〜にゃ〜」
突然、猫の鳴き声が耳に入ってくる
咄嗟に振り向くと、一つの建物を見つけた
「にゃ〜にゃ〜」
門の所に【黒猫荘】と書かれた建物
門、塀、屋根、庭、いたるところに猫が座ったりのんびりしていた
周りを見回すが、この荘以外、何も建物は見つからない
「にゃ〜にゃ〜」
誘うように猫は鳴いてくる
『どうぞ、いらっしゃい、ここはいいところですよ』
脳に直接呼びかけられるような感覚
ただ、不思議と恐い感じがしない
痛む体を引きずる
その声に導かれるまま、その荘へと入っていった
「だ、大丈夫ですか!?」
女?女が、いる
ただ奇妙な格好をしていた
「人、ですね?」
何を当たり前のことを言っているのだろう
私は頷く
「あの・・て、手当てしますから、こちらへ!」
そっと私の手を握った
私は何の抵抗もしなかった
いやできなかった
「すま、ない」
やっと絞り出せた声
「いえ、いいんです・・そ、そのかわり・・」
あぁ、もう、目の前が暗く――
「おとも・ちに・・なって・・くだ・い」
最後の声は、よく聞こえなかった

「んん・・・」
うっすらと目を開ける
見たこともない部屋
された覚えの無い手当て
「にゃ〜」
そして、いつのまにか枕元にいる黒猫
「ココは――?」
ガチャリ
「あ、おはようございます」
「・・・おはよう」
扉を開き、部屋へと入ってきたのは見知らぬ女
しかも、目隠しに手枷足枷という奇妙な格好をしていた
「あなた、は?」
「あ、俺は、夜木・幸(やぎ・こう)といいます。あなたは?」
聞き覚えのある、声
そうだ、私は、倒れて、拾われたんだ
この女に――
「私は――東坂・香津美」
「香津美さんですね、あの・・その」
何かを言いかけては止め、そして何かを言いかける
どうしたのだろう?
「どうしたの?」
「あ、あの!?えっと、お友達に、なって下さい」
何をいっているのだろうと思った
しかし、彼女の顔を見てみると冗談とも思えなかった
「――いいよ」
どうせ、まだ体も自由に動かない
わざわざ危険な道に進むことも無いだろう
「ほ、本当ですか!?ありがとうございます!」
彼女は笑う
パァッと部屋が明るくなったような感覚
とても、華やかに、彼女は笑った
「いや、別に・・お礼を言われるほどでも――」
なんとなく目をそらす
何故だか後ろめたいと思ってしまった
「どうしたんですか?」
「いや、何でもない」
目のやり場に困り、枕元にいる黒猫を見た
「この猫は――?」
「あぁ、勝手に住み着いちゃって。と、とても人懐っこいんですよ」
その言葉を受けて、そっと黒猫に手を伸ばす
「にゃぁ〜」
ゴロゴロと自分から手に擦り寄ってくれた
可愛い、凄く、嬉しい
「本当だ、人に慣れてるね」
「えぇ♪そうだ、少し包帯替えますけど、いいでしょうか?」
「あ、あぁ、ごめん、手間かけさせて――」
「気にしないでください。す、好きでやってることですから♪」
また彼女はニッコリと笑いながら、私の頭に巻かれていた包帯を外した
「そういえば、なんでこんな怪我を――?」
「・・少し、仕事に失敗してね」
言葉を濁す
穢れを、教えてはいけないような気がした
「そうなんですか。気をつけてくださいね?怪我は、痛いし、悲しいです」
「――悲しい?」
「えぇ、悲しいです。だ、だって痛いと泣きたくなりません?」
同意を求めるように、小首をかしげる
その仕草が、とても幼く見えて少しだけ笑ってしまった
「あ!?な、何で笑うんですか〜!?」
「いや、なんでもな・・あはは」
スッと何かが軽くなったような感じがした
警戒するのが馬鹿らしくなったとも言える
だって、彼女はこんなにも綺麗で、純粋で
「あはははは!」
「わ、笑わないでください〜!」
とても、変で、面白いヤツだと、思った
今、私は本気で彼女と友達になりたいと、そう思った


「そろそろ動いてもいいかな」
一日たっぷりと寝たら、大分体力が回復してきた
これなら動いても支障は無いだろう
「あ!か、香津美さん!もう大丈夫なんですか!?」
幸が、私を見るなり走りよってきた
「あぁ、大丈夫。それで、幸にお願いがあるんだけど?」
「ふぇ?お、お願いですか?なんです?」
「ココ、案内してもらえる?勝手に出歩いていいのかも分からないし」
「は、はい、いいですよ♪」
彼女はにっこりと笑って私の手を握った
「迷子になりやすいですから、気をつけてくださいね?」
手を繋いでちゃ、迷子になりようも無いと思うが
「分かった」
私は素直に頷いた
ソレを見て、彼女は嬉しそうに笑った
それが、なんとなく、嬉しかった


「ココは黒猫荘といいます」
「黒猫荘?」
「えぇ、何故その名前なのかは、俺も知りませんが――」
広い庭、そしていたるところに猫、猫、これまた猫
猫の王国のようだ――
「あら、行き倒れてた人、元気になったのね」
頭上から声
咄嗟に顔を上げると、ソコには金色と赤色
輝く金髪に、血のように赤い瞳
そして、ほんの少し口から突き出た、牙
「吸血鬼!?」
「あら、ご名答♪」
「レ、レオナさん、怪我人にちょっかいかけたら、だ、駄目ですよ!」
幸が慌てて私を遠ざける
どうやらあの吸血鬼はレオナという名前らしい
「ほぅ、人のお客人か♪」
「なっ!?」
背後から声
何時の間に回り込まれた!?
「ず、ずましさん!驚かせないでください!」
「おぉ、すまんのぉ♪」
ずましさん、と呼ばれたこの少年はほがらかに笑った
少年の目には包帯、目が見えてないのだろうか?
「お客人、ようこそ黒猫荘へ♪他の住人も、歓迎しておるぞぃ♪」
そんなことを思われているとは露知らず、ずましは(何故か)油瓶を持っている手で、壁のほうを指し示す
その方向を目で追うと、そこには――
「ななっ!?」
傘を被った少年に、青髪青目の女性、モサモサした毛が生えた狼男に着物の少女
異様な光景だった
「もう、豆腐君にザンさんにコルフさんに枕ちゃんまで〜」
幸は、苦笑して手を降った
手を振られた住人は、皆笑って手を振り替えしている
「なんだ、何の騒ぎだ?」
また頭上から声
見上げてみると2階の窓から女が顔を覗かせていた
「おぉ、人間か、珍しいな」
ニヤっとその女は笑うと、窓から飛び降りる
「フィ、フィラさん――!?」
スタッ
フィラと呼ばれた女は、あまり音もたてずに平然と地面へと着地した
「ん?どうした?」
「いや――」
もう何があっても驚くまい
私は心の中でそう誓った
「も、もう、みんな面白そうなことがあると、すぐちょっかいかけにくるんだから」
幸は拗ねたように言いながらに笑っている
もう慣れてしまっているのだろう
「あぁ、紹介しますね。コチラは東坂・香津美さん。悪戯しちゃ駄目ですよ?」
『は〜い!』
住人達は声をそろえて返事をした
仲がいいのだろう、住人達と話しているときの幸は楽しそうにしていた


それから、いろいろなところを見せてもらった
と、いっても荘の外には何も無かったけど――
「ココが、空間の出入り口です。多分、香津美さんはココから来てしまったのかと――」
幸が指し示す先には、人並みの大きさの黒い穴
ワープホールとでも言うのだろうか
私はここからこの世界に来てしまったという事はまず間違いないだろう
「ココの空間はいつでも出入りできます。だ、だから、今すぐ帰りたいと思えば・・帰れます、けど・・?」
幸は、少し不安そうに私を見た
その表情に私は苦笑する
そんな顔をされたら、帰るに帰れないじゃないか
「まだいるよ、怪我が完治するまではココでのんびりさせてもらう」
そういうと彼女は、嬉しそうに笑った


もうホトンド怪我は治ってきた
怪我が治る間、私は幸や住人達と色々話した
何故、ココにすんでいるのか
何故、ココに居続けるのか
何故、人間を警戒しないのか
その答えは様々で
でも、どの答えも私には心地が良かった
ココの住人達は、とても、純粋で
人間のことが、本当に、好きで
動物のことが、本当に、好きで
自分たちの事が、本当に、好きで
とても、素敵だと、思った――


「そろそろ、帰るよ」
私は、言う
「そう、ですか――」
幸は、寂しそうな顔をした
正直に言うと、帰りたくない
でも、この人達を見ていると自分の居場所に帰らなきゃ、と思う
私はココの住人たちとは違う
汚いことも、穢れたことも、全て知ってしまった
だから戻らなければ
充分ココで私は綺麗になったと思う
怪我とは違う所を、癒してもらったと、そう、思う
だから――
「ま、また、きて、下さい」
彼女の言葉に、心が、揺らいだ
駄目だと思ったのに
私はココにいるべきではないと思ったのに
「また、行くよ。約束、するから」
彼女は、笑う
ただ、それだけで私は
「いってらっしゃい」
彼女はそう言ってくれた
彼女の後ろにはいつの間にか住人達が集まっていて、手を振ってくれていた
あぁ、私は戻ってきていいんだ
「いってきます!」
そういって私は空間の出入り口へと飛び込んだ

「また、行くから、ね」
変わらないビル
変わらない裏路地
変わらない風景
また私は銃を撃つのだろう
でも、黒猫荘の住人達がいる限り
私は、帰る場所が、あるのだ

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【4502】 東坂・香津美 (あずまざか・かつみ)/23/スウィーパー

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■         ライター通信          ■
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どうも黒猫です。
今回が初の受注ですので、少し緊張してしまいました(汗)
スウィーパーということで、何かしら大変な目にあってるだろうな、と思いつつ書いたので少し変になっていたらごめんなさい!
そして、発注ありがとうございました!