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<あけましておめでとうパーティノベル・2005>


初日の出はみんなで

□ 初泣き
除夜の鐘が鳴り終え、神社には沢山の屋台と人がひしめき合う。
年に一度、神社が最も活気づく瞬間だ。
人ごみの中で飛び交う笑い声と新年の挨拶。
だが、その片隅に1人暗い影を背負った者がいた。

 シオン・レ・ハイ、その人である。

彼は、除夜の鐘が鳴り始めるその前から神社へと来ていた。
そして、懐に全財産と兎を忍ばせて初詣に来たのだ。
今年が良い年であることを祈る為に。
だが・・・。

「・・・シオンさん?」

落ち込んだシオンに、光が差した。
顔を上げるとそこには見慣れた顔があった。
いつもと違うしっとりした和服を着込んではいたが、人目を引く容姿は間違えようもない。

「シュラインさん・・・」

「どうかしたの? 誰かとはぐれたとか・・・ってそれは私なんだけど」
苦笑いしたエマの見慣れた顔に、シオンは思わず涙ぐんだ。
「お、お財布を・・・」
「お財布が・・・どうしたの?」
心配げに覗き込むエマにシオンは遂にボロボロと泣き出した。

「・・・お賽銭箱にお財布ごと投げ入れてしまいました・・・」

「そ・・それは・・・」
あまりに衝撃的な告白にエマは掛ける言葉を失った。
シオンの人柄を知るエマなればこそ、彼がそのような失態をおこすのは容易に想像が出来た。
「お腹も空きましたし、でもお金は無くてこうして兎さんと・・・」
そう言ってシオンは兎をエマに見せようと懐へと手を入れた。
だが・・・
「・・ない・・」
「え? 何が無いの??」
エマがキョトンとしてシオンの蒼白になっていく顔を見つめる。

「兎さんが・・・いないんです・・・!」


□ 初みそぎ
「う、う、う、兎さーーーーん!!」
動揺で声が上ずり、わたわたとシオンはまず辺りを見回すが、白い兎は見当たらない。
「も、もしかしたらこの人ごみにふ、踏まれて・・・!?」
「落ち着いて、シオンさん!」
エマが慌てて、シオンを落ち着かせようと声をかけた。
「そ、そうですね・・落ち着かないと・・・」
エマの言葉に少し冷静になったのか、シオンは何を思ったか手水舎に走っていく。

と、そこにあった柄杓に水をすくい、シオン自身の頭へと掛け出した。

・・・よく冷静になることを『頭を冷やせ』とは言うが、まさか本当にやる人間がいようとは・・・。
思わぬ事態にどよめく初詣客、動揺するエマ。
そんな時、彼は現れた。

「うわあ、シオンさんだ〜!」

振り返ると、ブカブカな羽織袴姿の三春風太(みはるふうた)が目をキラキラさせて立っていた。
「鍛錬してるの〜? かあっこいい! ボクもやる〜」
「ちょ、ちょっと待・・」
エマが止めるのも聞かず風太はシオンの隣を陣取り、手近にあった柄杓でシオンの様に頭へとその冷水をかけた瞬間!
「うわぁ寒いよ〜! ボク、もうだめだぁ!」
掛けるのが早かったのか、言うのが早かったのか。
その場にいたものにはわからないほど早いその身のかわり様。
そして、「うぁあっっつ〜!!」という奇妙な叫び声がシオンの口から発せられた。

「やっぱり、温泉が一番だよね〜」

先ほどまで確かに外気にさらされ凍る寸前まで温度の低かった水からは、ホカホカと湯気が立ち上る。
そしてそんな水を被っていたはずのシオンは、温泉の温度すら熱く感じてしまったようだ。
「あぁ、もう! こんな時武彦さんたちがいたら、こんなことになる前に止められた・・のかしら?」
エマがシオンにハンカチを渡し、和服に合わせて羽織ってきたショールをシオンの肩に乗せた。
そんなエマをジーッと見つめる風太。
エマはその視線に耐えられなくなって、先に謝っておくことにした。
「・・ごめんなさいね、三春くん。私ショールはこれしか持っていないのよ」
「え、いや、別に・・・」

「あたしのを貸してあげるでぇす!」

唐突に声はした。
見ると・・・

「りんご飴が喋ってる!?」

地面に落ちたりんご飴が風太に何を貸すと言うのか!?
シオン、エマ、風太が驚きおののいていると、りんご飴はさらに喋った。
「失礼でぇすね! あたしはりんご飴じゃなぁいでぇす!!」
ひょこっと、小さな黒いローブを羽織った身の丈10cmほどの少女が現れた。


□ 初捜索
「八重ちゃん!」
エマがそう呼ぶと、少女・露樹八重(つゆきやえ)はにっこりと笑った。
「シュライン姉ちゃ、こんばんわでぇす。で、これでよかったら貸しますでぇすよ?」
ちょいっと八重は黒いローブをつまむと風太にそう聞いた。
「うわ〜・・・嬉しいけどちょっと小さいかな〜」
風太はニコニコとそう言って、羽織の袖で自分の顔を拭いた。
「そういえば、シオンのおじちゃやシュライン姉ちゃは何してたのでぇすか?」
八重がそう聞くと、放心していたシオンがハッと厳しい顔をした。

「そうなんです! 兎さんを探さなければ!!」

そう言って駆け出したシオンは、参道の石灯籠にタックルをかけそこね、そのまま参拝客の壁に突進し見事玉砕した。
「にゅ・・・うさしゃんがいなくなったでぇすか?」
倒れたシオンを風太が介抱しているのを眺めつつ、八重はりんご飴をなめながらエマにそう聞いた。
「そうなの。シオンさんの兎さんがいなくなってしまったのよ」
フゥッとため息をついたエマに八重がむむむっと眉間に皺を寄せた。
「誰かにつぶされると『のしうさぎしゃん』になっちゃうでぇすね。・・・あたしもさがしてあげるでぇす」
そう言うと、八重がキョロキョロと辺りを見回すと屋台の方へと走っていった。

「『のしうさぎ』? ・・・あ、のし餅みたいになるのか〜」
八重の残した言葉に風太が納得した・・・と。
「・・え、うささんがいなくなったの? たいへんだぁ!」
「理解が遅いわ、三春君・・・」
騒ぎ出した風太にエマの心に不安がよぎる。
「・・・とにかく、私も探すから早く保護してあげましょう。ね? 大丈夫、きっと見つかるわ」
にっこりと笑ったエマは足早に参拝客の中へと消えていった。

エマの笑顔に勇気付けられたシオンは立ち上がると、服の埃を叩き落した。
「私がきっと探し出してみせます、兎さん!」

「うささん何が好きなのかな? とにかく探さなきゃ!」
シオンと大混乱を起こしている風太もそれぞれ、兎さん保護の捜索へと向かったのだった・・・。


□ 捜索 エマの場合
「見なかったよ」
兎の事を尋ねると、人は一様に首を横に振った。
人ごみの中にそれらしい兎の話は一向に聞こえてこない。
エマは少し参道から離れ、生い茂る木々の根元を覗き込んだ。
もしかしたら兎が避難しているのではないかと思ったのだ。
小さな穴を見つけては、ため息をつく。

「・・・いないみたいね」

ため息をつくと、白い息が風に流された。
途端に夜の寒さで自分の体がとても冷えていたことに気がついた。
「そういえば、ショールをシオンさんに貸したんだったわ」
フーっと自分の息で手を温める。
冷たい指先は少しだけ温かさを取り戻したが、すぐにまた冷たくなった。

「シュライン? なにやってんだ?」

唐突に、聞き覚えのある声が聞こえた。
「武彦さん! どこに行っていたの!?」
「それはこっちの台詞だ。何でショール羽織ってないんだ? ・・・まぁ、いい」
草間興信所所長・草間武彦はそう言うと、自らの着ていたコートを脱いでエマの肩に掛けた。
「なにか探してるんなら、一緒に探してやるから、それを着てろ」
コートのぬくもりが、エマの体にじんわりと伝わってきた。
「でも、それじゃ武彦さんが寒いんじゃ・・・」
「俺はいい。新年早々おまえに風邪引かせたら、洒落にならんからな」
少し照れたように後ろを向いている草間に、エマは事の成り行きを話した。

そして、草間もシオンの兎捜索に加わったのだった・・・。


□ 捜索 風太の場合
「うわ〜ん、走りにくいよ〜!」
従兄弟に借りた羽織袴はあまりにもブカブカで、風太は裾を踏みつけては何度か転びそうになった。
そのたびに堪えては走ってきたが、耐えきれなくなって風太は参道脇に座り込んだ。

「やっぱり大きすぎたかなぁ」

そう呟いて風太は袴の裾をつまみ上げた。
実際には大きすぎたのではなくて、着方を間違えていただけなのだが今の風太にそれを気付くすべは無い。
既に土埃にまみれ、このまま走ると裾が破れるのではないかと思った。
脳裏に従兄弟の怒った顔が浮かんできて、風太はちょっとだけ考えた。
それは困る気がする。
殴られるのは痛いし、直せと言われても多分出来ないだろう。
「困ったな〜・・・」
ふむっと風太は腕を組んだ。
何かいい手立てはないだろうか・・・?

「そうだ! 裾を折り曲げればいいんだ!」

ニコニコとそう言って、風太は袴の裾を折り曲げる。
ズルズルと引きずっていた裾を、今度はちんちくりんな丈まで曲げてしまった。
「これでもう大丈夫だよ〜」
満足げにそう言って、風太はまた走り出した。

クスクスと笑い声が沸き起こっていたが、その笑い声が風太に向けられたものだとは風太は思いもよらなかった・・・。


□ 捜索 八重の場合

「うさしゃんの好きな物はずばり、『キャベツ』でぇす」

そう思った八重は時々人に踏まれそうになりながらも、屋台に沿って兎を探していた。
大きなりんご飴はその大半が既に八重の体に収められている。
「屋台の食べ物はどれも美味しそうで、目移りするでぇすね」
ワイワイと騒がしいながらも楽しそうな人々の合間で、八重はそう呟きながら兎の姿を探す。
綿飴、チョコバナナ、ベッコウ飴にクレープ。
どれもこれもがおいしそうだったが、八重はハッと我に返った。
「うさしゃんは甘いものは食べないでぇす」
だが、少し歩いてふと思った。
「シュライン姉ちゃが居るという事は、くさまのおぢちゃも居るということでぇすね? あとで買わせるでぇすよ」
にやりと内心ほくそえみ、八重は目的の屋台を見つけた。

そう、キャベツが置いてあるのはお好み焼き屋台である。

八重はまず屋台の周りを歩いてみた。
だが、兎の姿は見当たらない。
しょうがないのでキャベツ本体が乗っているであろう屋台上部へと視線をやるが、いかんせん背が低い八重からではその場所を覗き見ることが出来ない。
「・・・ここには、いないでぇすか・・・」
そう呟き、次の場所へ向かおうとした八重の耳に怒鳴り声が聞こえてきた

「お待ちなサ〜イ!!」


□ シオン・悲劇の主人公
「あ!? す、すいません!」

と、よろめきぶつかったのが木だと気がつかぬまま走り去るシオン。
兎を見失った動揺は未だに抜け切らないらしい。
どこを探したらいいのかわからないが、とにかくジッとしてはいられない。
そう、今まさに兎が自分に助けを求めていたとしたら!?
「あぁ〜! どこに居るのですか〜!!」
つい大きな声で呼んではみるものの、兎だから返事が返ってくるはずもない。
木の根を飛び越え、参道をひた走る。

そして、何もないところで足がもつれてコケてみる。

「こ・・こんなところで倒れている場合ではないのです!! 私の、私の兎さんが〜!!」
倒れたシオンを助け起こそうとした心優しき人が、そのシオンの気合の声に一瞬で身を引いた。
そんなシオンの前方から、声が聞こえてきた。

「どいてくださいでぇす!!」

バタバタと土煙を上げ、シオンの眼前めがけ疾走してくる謎の物体。
さらにその後ろからは何か・・・そう、ピンクの塊が追ってくるではないか!
「あ・・・ああああ〜!!」
虚しい叫びが新年の夜空にこだまする。

シオンは、疾走する物体とそれを追うピンクの塊に見事に踏み潰されたのであった・・・。


□ 初日の出
「あぁ! シオンのおじちゃ!?」
疾走する物体に乗った八重は、通り過ぎた瞬間に踏み潰したその物体がシオンであることを知った。
「シオンさん! しっかりして!!」
エマはシオンの気合の声で一瞬身を引いたものの、轢かれたカエルの様になってしまったシオンに再び駆け寄るとシオンの意識を確認し始めた。
その騒ぎに、フラフラと引き寄せられた風太は「あれ〜?」と首をかしげた。

「兎さん、見つかったんですね〜」

「えぇ!? どこに!?」
ガバッと起きたシオンの目の前に、先ほど見たピンクの塊があった。
「オォ! お怪我はございませんカ〜?」
「・・・えーっと、どこかで見かけたことがあるような・・・」
記憶をたどるシオンだが、どこで会ったのか思い出せない。
「このおじちゃにうさしゃんは追いかけられていたのでぇす」
ひょっこりと戻ってきた八重は白い兎にそう言った。
「兎さんはアナタの兎さんでしたカ〜。アタクシの店のキャベツ食べてましたので、ちょっと追い掛けてみたのデ〜ス」
ピンクの塊は、どうやらお好み焼き屋台の店主らしい。
「喧嘩両成敗・・・って事でいかがかしら?」
エマがそう言った。
「そちらもシオンさんを轢いてしまった事ですし、お互い様って事で水に流してもらえません?」
「そうだよね〜。どっちも『ごめんなさい』だもんね〜」
ピンクの塊が、難しい顔をして、その後ため息をひとつついた。
「OK、OK! もう1つお詫びにアタクシの店の特製お汁粉入りお好み焼きご馳走しますヨ〜」

「・・・微妙な味ね」と、エマはお好み焼きを評価した。
そんなお好み焼きを食べつつエマの奢ってくれた甘酒で体を温めた後、再び皆で神社へとお参りした。
「今年1年、皆さんと兎さんが健康でありますように」
そう願ったシオンが草間にせがんで引かせてもらったおみくじは『大福』で、小さな猫の絵が描いてあった。
「ボクの家にも大福が居るの〜。いいな〜、そのおみくじ」と風太が大吉のおみくじを持って笑った。
シオンが草間にせがんだのを見て、八重も負けず草間に綿飴やらチョコバナナやらを買わせようとしている。

次第に、朝の明るい日差しが少しずつあたりを照らし出していた。

「新年早々、手伝っていただいてありがとうございました」
帰り際にシオンがそう言うと、皆ようやく気がついた。
まだお互い、新年の挨拶をしていなかったことに。

 「今年もよろしくお願いします」

朝日の中で明るい挨拶が響いていた・・・。


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┏┫■■■■■■■■■登場人物表■■■■■■■■■┣┓
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┗━┛★あけましておめでとうPCパーティノベル★┗━┛

3356 / シオン・レ・ハイ / 男 / 42 / びんぼーにん(食住)+α

0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

1009 / 露樹・八重 / 女 / 910 / 時計屋主人兼マスコット

2164 / 三春・風太 / 男 / 17 / 高校生

(NPC / 草間・武彦  / 男 / 30 / 草間興信所所長、探偵)
(NPC / マドモアゼル都井(ピンクの塊)  / ? / 33 / 謎の人)

□■         ライター通信          ■□

新年明けましておめでとうございます。
初めましての『八重様』『風太様』、お久しぶりの『シオン様』『エマ様』ご依頼いただきましてありがとうございました。
本年初仕事となりましたノベル、少しでもお楽しみいただければ幸いです。
なお、ピンクの塊こと都井はシオン様、草間氏はエマ様のご希望がございましたので登場となりました。
今年も1年、PC様・PL様にとってよいお年でありますように。
とーいでした。