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<あけましておめでとうパーティノベル・2005>


謹賀新年あけましてアフロ


 ――プロローグ

 草間・武彦は冷たいコンクリートの上にダンボールを敷き、その上にビニールシートを敷いて、胡坐をかいている。隣には襟巻きを二重に巻いた老婆だ。そしてその後ろには……。とにかく大勢の人間が並んでいる。草間がこの場所へ来たのはなんと前々日、つまり三十日の午後だった。
 木枯らし吹き荒れる師走の空の下、草間・武彦は鼻水をすすりながら、デパートの初売りの最前列に座っている。老婆を相手に話がもったのはたった五時間ほどで、草間の根も葉もない武勇伝は早々に底をつき、残りの時間は老婆の長い長い四方山話に花が咲き、草間の鼻は垂れる一方なのであった。
 言ってしまえば、やっていられない。さらに言えば、今年は散々だった。
 と……そう思いたくもなる、年越しだった。
 
 
 ――エピソード
 
 草間が最後のマルボロをちまちまと吸い終わろうとしていたとき、ようやく連れがやってきた。シュライン・エマはレザーのコートにあたたかそうなふわふわのマフラーを巻きつけていた。隣の背の小さな梅・黒龍は藍色のダッフルコートを着ている。
「遅いぞ……へっくし」
 口を開いたらくしゃみが出た。草間は鼻の下をさすりながら、目をあげた。
 神宮寺・夕日がスウェードの短いコートを着て立っている。
「やっぱり風邪ひいた?」
「やっぱりたぁ……どういう」
 へっくし、またくしゃみが出た。夕日が苦笑をする。彼女の後ろに立っている、寒いというのにさらしに着流し姿の雪森・スイが眉をひそめる。
「物真似か?」
 くしゃみを加藤茶の物真似ととったらしい。
 草間が立ち上がって抗議をしようとしたところへ、シュラインが肩を押し返した。
「まあまあ座って。温かい物持ってきたから」
 彼女はそっと保温性の水筒を取り出した。
「一人足りなくないか?」
 大人しくビニールシートに座りながら、草間が訊く。たしか人数は、草間を抜かして六人だった筈だ。シュラインは水筒の中身を蓋であるコップに注ぎながら目を瞬かせた。
「そうなのよ。北斗くん、急に行かないって」
「へぇ、そりゃ、なんでだろうな」
 草間はシュラインからコップを受け取り、一口すすってからぶっと吹き出した。
「なんじゃこりゃあ!」
「なにって……おしるこよ」
 シュラインはにっこりと笑った。
 
 
 その頃デパートの側面では……。
 忍である特製を生かした守崎・北斗が縄を伝って屋上をひた目指していた。
 彼は卑怯もとい知恵者であった為、建物の側面をダイレクトに昇り、誰かが着く前に夢福袋をゲットしようという作戦だ。彼は一人するすると縄を上りながら、にやりと笑った。奸智に長けるとはこのことなり。
 これで兄にもたくさんの土産を持って返ることもできる。運がよければ、デパートの企画である『77.7万円』のお年玉を掴むことができるかもしれない。グッバイ貧乏幸せよこんにちは!日の丸弁当よさようなら、幕の内こんにちは! と言った心情である。育ち盛りのこの年代、食う物ぐらい豪勢にいきたい。
 そういうわけで縄を上りきった北斗は、係員にバレないように、辺りを見回した。
 すると、大きな舞台装置が目に入ってきた。
 ここの影なら誰にもバレまい。そう思い、北斗は舞台装置の袖にそっと身を隠した。
 
 
 デパート入り口では、アルバイトで雇われていたシオン・レ・ハイがわたわたと仕事をして……いるようにみえたが、仕事を錯乱させていた、に近い。あっちからこっちへ物を持って移動すれば転び、年始用のお飾りはぶっ壊し、こけた拍子に女子社員のスカートに手をかけパンツ丸出しにさせてしまったり、立ち上がったときには何故かズボンのベルトが壊れていて、自分までトランクス姿だったり……。
 年始から相変わらずだった。
 ともかく時間が押していたので、着替えるだけ着替え、シオンはドアの前に立った。
 隣でデパートの偉い人がマイクを使って挨拶をしている。
 それを見ていたシオンは、なんだかうずうずしてきた。
 目の前には三百人の客が、開場は今か開場は今かと待っている。そう、待っているのだ。
 にも関わらず、なぜかこのマイクを持った男の謎の小話は妙に長い。
 シオンは、うずうずしている。
 そしてついに――!
 シオンは偉い人からマイクをぶん取った。
「あけましておめでとうございます! 開幕です!」
 偉い人は訳がわからずシオンを見上げている。シオンは力いっぱいそう叫んで、デパートのドアを押し開けた。
 唖然と立っていた偉い人と、やり切った感慨に浸っているシオンは……草間達含む三百人の客にワヤクチャにされることとなる。


 走り出しながら、方々が言った。
「私は……耐えられん」
 人酔いをしたらしいスイが戦線離脱を宣言して消える。
 涼しい顔で小走りをしていた黒龍が言った。
「ボクはデパートのどこかにあるお年玉狙いだから別れる」
「がんばってね」
 夕日が手を振った。
 草間一行は口を開けているエレベーターの前で立ち止まった。草間と夕日は我が一番と駆け乗る。だが、シュラインは入らない。
「え? シュライン」
 夕日がつぶやいたのと同時に、エレベーターは即座にいっぱいになった。
 そしてシュラインは頃合いを見計らって、エレベーターに乗り込んだ。彼女の次に乗った中年女性は、無情にもブーという定員オーバーのブザーを食らった。
 エレベーターは屋上直通である。いくら早く着いたからといって、一番奥に乗ってしまったらそのエレベーターの最後に降りることになるのだ。夢福袋が欲しいのならば、エレベーターの最後に乗るのが一番効率的だ。
 シュラインは口許をふふりと笑わせた。
 
 
 スイは非常階段を駆け上がりながら、謎の人工的な匂いを発している多くの中年女性達について考察していた。あれは、オスを誘う香りなのかそれとも、天敵を近づけない防御策なのだろうか。……おそらく、こちらの世界でいうスカンクと同じなのだろう。
 などと間違った憶測をしながら、それぞれの階に群がるスカンク達に顔をへしゃげていた。
 このままでは、あの動く箱に乗り込んだ人間達に夢福袋とやらは獲られてしまうに違いない。それでは、家主に申し訳がたたぬ。切腹……はする気はないが、なんと申し開きをすればよいものか。
 スイは時代劇風にそんなことをつらつら考えながら、ふと、気がついた。
 デパートのどこかにあるお年玉……とあの眼鏡の少年が言っていた気がする。お年玉とは、正月にもらえる黄金色の菓子……つまり金一封らしい。お宝探しはシーフであるスイの得意とするところである。それを探し出せば、家主も鼻が高い上お宝は自分の物だ。
 スイは降って涌いた一攫千金、徳川埋蔵金話にニヤリと笑い、広いフロアーを見渡して、一体どこにそのお宝が隠されているのか、シーフの威信をかけて考えた。
 スカンク共と草間興信所の者どもには負けられん、だがしかし、一体どこに?
 
 
 黒龍は化粧品の匂いにケホケホと咳をしながら、猟犬座を両手の光る玉によって召還し、どこにあるかわからないお年玉を探し出す方法に出た。
 猟犬座は走り出した……!
 だが!
 黒龍の目の前には群れをなした、オバタリアン軍団が化粧品をあれでもないこれでもないと漁っているところだった。突っ切ろうにも、突っ切れない。大きく迂回をするしかないと方向を変えてみるも、そちらは香水のバーゲンをやっているらしい。そっちはなんとか動けそうな混み具合だったので、飛び込んでみたものの。
 クサイ!
 何よりも臭かったのだ。様々な香水の匂いがごった返す、その場はまさしく鼻が曲がるどころか、鼻を水洗いしたい衝動に駆られた。黒龍は目に涙をし、鼻を両手で覆いながらなんとかその場を切り抜けた。
 抜けたから、つい油断して大きく深呼吸をすると、辺りに立ち込めていた嫌というほどのファンデーションの粉と香を吸い込んでしまい、大きく咳き込み大きくくしゃみをし、そして涙した。
 お正月デパート戦線恐るべし、である。
 だが猟犬座は放ったままだ。位置はわかっている、急いで追わなければなるまい。
 
 
 シオンは見た。二階の吹き抜けの向かいにアフロが、あの国宝級アフロを所有するアフロの兄貴、セブンの姿を! 彼は顔の黒い茶髪の女の子と歩いていた。ナナちゃんだ!
 三百人の客に踏みつけられ、ボロボロの体であったシオンには、ラッキーの王者セブンが神様のように思えた。吹き抜けの向かい側にいたので、走っていくのがもどかしく、ちょうど電飾の線が頭上に見え、シオンはあるシーンを思い浮かべた。電飾をターザンのように使って、向かい側へ辿り着く、あれである。
 シオンに戸惑いはなかった。シオンは力強く飛び上がり、赤や白く光る電飾を掴み、そしてその重みによって電飾はきしみ天井に張り付いていた箇所ははがれ、そしてシオンは見事に電飾をつかって……
「アーアアー」
 そう叫んでデパートの吹き抜けを飛んだ。
 その声は、セブンに届いた。セブンがシオンを見た。
 シオンは、電飾と共に一回へまっ逆さまに落ちていった。
 ゆっくりではない。あっという間に、である。シオンは一階のおばちゃん群がるバーゲン会場へ、ドスンと音を立てて落ち、その上商品を漁っていたおばちゃんに
「なにすんのよ!」
 と怒られて頬を引っかかれ、むなしく下からセブンを見上げていた。
「セブンさーん」
 か細い声はセブンに届かない。
 
 
 開場もした。そろそろ……夢福袋へ誰かが辿り着いてもよい時間帯である。
 先に忍び込んでいたとは、おそらくバレないだろう。
 北斗はニヤリと笑って舞台袖から一歩を踏み出した。
「あ、いたいたいたいた、びっくりしたよー! どこ行ってたの」
 突然謎の男が舞台の前に現れた。そして北斗の元へ寄り、ほっと嘆息して北斗の手を引いて歩き出した。
「もう困るなー、来ないのかと思ったよ。赤レンジャーがいないとショーにならないからさ」
「いえ、あの」
 北斗がその手を振り解いて、言葉を継ごうとするとなにやら赤いヘルメットと赤いユニフォームを渡された。
「これね、着て着て」
「だから!」
「……なになに! あんた着ないっていうの、子供達の夢を壊すっていうの。あんた大人にそんな権利があると思うってえわけ」
 その男はなんだかカマっぽくそう恫喝した。
 北斗はぐうの音も出ず、ぽかんと男を見ていた。
「夢はね、たしかに夢でしかないけど、私たちゃ夢売って食ってんの。粗悪な夢もあるかもしんないわ、だけどね、私達が売る夢ぐらいは、子供達が心の底から楽しめる、そんな夢にしたいとは思わないのかい!」
 早口にそうまくし立てられて、北斗はこくりとうなずいていた。
 そして……なぜどうしてそうなったのかさっぱりわからぬまま、赤いユニフォームに袖を通した。


 スイは四階の階段で黒龍と会った。
 スイは素知らぬ顔で、彼に訊いた。
「お年玉は見つかったのか」
「いや、まだだ。今追跡中だ」
 黒流は五階の踊り場ではあはあと息を整えた。あまり体力のある方ではないらしい。スイは彼の背を撫でながら訊いた。
「どの辺りだ? 一緒に探してやる」
 そして見つけたら早いもの順だ、という腹積もりである。
 黒龍は疲労してか……スイの無表情が勝利したのか、疑いもせずに言った。
「七階の辺りだと思うんだが、猟犬座が追っている、見ればわかる」
 それを聞いたスイは何も言わず、無言で上を目指して駆け出した。探す手間は省けた。あとは回収するだけだ。
 ふふふ、つい口許を笑わせて格言を一つ。
 憎まれっ子世に憚る。
 憎まれても世に憚ることは可能なのだという格言だ。
 悪いがこのお年玉、私がいただく! スイは心の中でつぶやきながら、七階フロアに躍り出た。
 
 
 シュラインの計画は完璧だった。屋上へ出た途端飛び出したのは一番前、扉近くにいたシュラインだった。シュラインは並み居るおば様方をすり抜け、たまに無言で肘鉄を食らわせながら、一着で夢福袋を購入した。
 デパート主催の夢袋は一袋千円の七万円相当の夢福袋と、一袋一万円の十万円相当の夢福袋があった。一万円の方は先着百名様と大盤振る舞いだったので、夕日はそちらを買ったようだ。
「中身確認するのが楽しみね」
 夕日とシュラインは寒空の屋上で、ほくほくな顔をして嬉しそうに微笑み合っていた。
 草間が疲労困憊といった様相でつぶやく。
「もう用事終わったんだろ、さっさと屋内へ入ろうぜ」
 寝不足の上寒さも堪えているのか、草間の顔色は真っ青である。
「七階に大きな喫茶店があったわ、そこで草間さんは休ませてあげましょうよ。シュライン、他のお店の福袋、見に行くでしょ?」
 夕日は嬉しそうに続ける。
「福引がね、特賞はペアー旅行券なのよ」
 二人はもらった福引券を見つめた。
「いいから、さっさと喫茶店へ行かせてくれ」
 草間に言われて、三人は今度は非常階段から下へと降りた。
 
 
 赤レンジャー! オー!
 ……というポーズの練習を、夢福袋がなくなっていくのを眺めながら、北斗は切なくなりながら続けている。
 しかも繰り返すうちに、巧くなっているところがあまり笑えない。さすがの運動神経だ、俺!
 と褒める気もしない。
 相手方の怪獣との息もぴったりだった。
 右足を繰り出す、怪獣が派手にこける。そこを正拳突き! 怪獣もだえる、一度引いて怪獣を眺める。怪獣立ち上がる。そこを赤レンジャービームを胸から放射。するとどこからともなくビビビビと音がする。赤レンジャービームに怪獣は全身を震わせて倒れる。
 そして赤レンジャー勝利のポーズ!
 ……という一連の行動を完璧にこなしている北斗なのだった。
 そこへ、知らぬ若い男が青い顔で走ってきた。
「すいません、お腹くだしちゃって、遅れました」
 オカマ言葉の演出家が男を見ながら首をかしげる。
「なによ、あんた」
「え、俺、赤レンジャーの……」
 北斗はいよいよ我慢ならなくなって、ヘルメットをはずして叫んだ。
「俺は関係者じゃねえんだよ!」
 その叫びは夢福袋のなくなった屋上に空しく響いていた。
 
 
 シオン・レ・ハイはしぶとい男である。
 シオンはなぜか化粧品コーナーできれいにお化粧をしてもらい、……途中までは黙って座っていたのだが、気に食わなかったらしく
「もっと頬は赤い方がいいです。もっと目元は青い方がいいです」
 色々ないちゃもんをつけたせいで、元々は端正な顔立ちだったシオンの顔はコケシ人形のような顔立ちになっていた。
 この席に座ったのにはわけがあった。
 この席の隣の机に飾ってある、造花が欲しかったのである。
 シオンはその旨を伝え、造花を一本頂いて、マスカラでバサバサになった目をバサバサ瞬かせながら、エスカレーターを上がった。
 目指すは国宝級アフロ、そのアフロに花を活けるのがシオンの夢なのである。
 
 
 全員が七階に集まろうとしていた。
 七階は不穏な空気に包まれていた……。お年玉を狙うものが一人、二人、三人……。アフロを狙うものが一人。残りの三人には邪気はないのだが、四人の発する雰囲気に呑まれた七階は、この世のものとは思えない、禍々しい空間になろうとしていた。
 夕日とシュラインは七階の喫茶店の前で、ポツリとつぶやいた。
「あ」
「アフロ」
 草間は何も見ようとせず、喫茶店の喫煙室へ直行したので無言だった。
 七階の猟犬座を追っていたスイも、口の中で言った。
「マリモ?」
 追いついたばかりの黒龍は、困惑している猟犬座に驚きながら叫んだ。
「アフロ? アフロだからわからないって言うのか!」
 赤レンジャーの扮装を解き、お年玉を狙って血眼になっていた北斗は、絶叫した。
「アフロだらけじゃねえか!」
 そう……七階は、アフロが溢れていたのだ。
 
 
 猟犬座はアフロに翻弄されて役に立たないらしい。
「おい、どこにお年玉があるんだ」
 スイが黒龍に訊く。黒龍は渋い顔で口許を結んで、舌打ちをした。
「わからん。くそ、一体どこに」
「私のお年玉が!」
 スイが嘆くように言って首を振る。それを聞きつけた黒龍が、スイをずいと見上げて言った。
「貴様、横取りするつもりだったな」
「うるさい、役立たず。結局手に入らなければ同じではないか」
 そこへ守崎・北斗が現れた。二人を嘲笑うように、彼は言った。
「まあお前等は喧嘩でもしてりゃぁいいさ、俺がいただく!」
 北斗は策があるのか、冬物古着バーゲンでアフロがごった返す中駆け出した。
 
 とは言うものの、北斗には何の考えもなかった。
 ただ、探して探して探して探しまくるのみである。こんな人込み、忍の手にかかれば、なんてこたあな……い……と、思っていたのだが。
 違った。
 背を低くして隙間を通り抜けようとした瞬間、まず後頭部に肘鉄を食らった。よろりとよろけたところ、足を踏まれ、そのうえ喉にチョップ。全てはバーゲンで物を取り合うアフロとおばちゃんが繰り広げた攻撃だったが、全てがクリティカルだった。
 ゲホゲホと席をしながらその場から立ち去り、北斗は壁に手をついて「反省」のポーズをとった。
 こんな状態で、どうやってお年玉を見つければいいのか。
 
 
 黒龍は、目を皿のようにしてアフロ達を眺めていた。棚か、商品の後ろか、一体どこに、どこにお年玉が……!
 そのとき、一際大きなアフロに白く光るものを見つけた。
「あ、あった」
 隣にスイがいるのだから言うべきではなかったのだが、つい口から洩れていた。スイは黒龍の視線を追って走り出している。
 黒龍は光る玉を操り矢座を作り出すと、そのアフロに向かって矢を放った。しかし、なんとそのアフロ、靴紐がほどけてずいと屈みこんだ。そして結び終わる。また矢を放つ。しかし今度は隣の女性の荷物を持つ為に背を屈めた。そしてまた矢を……の繰り返しで、矢はどういうわけか絶対にアフロにかすりもしない。
 どういうわけだ?
 
 そうこうしているとスイがそのアフロの前に辿り着こうと……。
 した瞬間、バーゲンの人員整理をしていた男がスイとアフロ男の前を横切り、長々とおば様方が二人の間にずらりと並んでしまった。その列はどこまでもどこまでも、千里と言っていまいたいほど続いている。
 スイに続いて北斗もそこへ辿り着いた。しかし、北斗は一度このおば様方にえらい目に遭わされている。だが、意を決して彼は飛んだ。飛んだ、飛び越えた。そこには大きなアフロとお年玉があった。
「あらー! 今の見た、すごいわー、この子」
 どやどやと北斗をおばさんが囲む。
「スタントマンなの? 坊や」
「へ? は? ちょっと」
「カッコイイわねー、うちの子にも見習わせたいわ。うちの子ったらね、聞いて」
 北斗を囲んだままうちの子話がはじまってしまい、北斗は身動きが取れなくなった。
 
 
 シュラインと夕日はアフロからは目を離すことにして、かわいらしい雑貨屋を見て回っていた。雑貨屋の新年のバーゲンセールをやっていたので、いつもより三十パーセントも安く買える。
 シュラインは桃色のお茶碗を手に取りながら言った。
「零ちゃんのお茶碗、買ってあげようと思ってたのよね」
 あまり食べ物を口にしなかった彼女だが、最近はよく食卓を囲む。
「かわいくていいじゃない」
 夕日が同意する。
 ふと目を上げたシュラインが手を振った。
「セブンさんじゃない、お買い物?」
 セブンの隣には妻ナナちゃんがいる。
 ナナちゃんは相変わらずのヤマンバギャルルックだった。「ちょべりば」などと一昔前の言葉を使いそうな彼女だが、いたって無口だ。
「バーゲンだってんでさ、ナナちゃんが来たいっていうもんだから。あ、新年あけましておめでとう。今年もよろしくな」
 大きなアフロが頭を下げたので、ひらりと紙が舞い落ちた。
 ナナちゃんがそれを拾う。
「……お年玉」
 彼女はそう言って、大事そうにポケットにしまった。
 突然、おしろいの匂いをプンプンさせたシオンがナナちゃんとセブンの間から顔を出した。
「セブンさん、年始の活花です!」
 そう叫んだシオンに、セブンは「おお?」と口許を引きつらせて
「新年おめでとう、今年もよろしく」
 化粧には触れず丁寧に頭を下げた。その頭に、シオンは持っていた造花をぶっ挿した。しかし、花はアフロの弾力に弾かれて、おばさん軍団の方へ飛んでいった。
「福引、引換所へ行くわ」
 ナナちゃんが低い声で言った。
「わかった。シュラインさんや夕日ちゃんもどうだい?」
 シュラインと夕日は目を合わせて、にっこりと笑った。
「ご一緒するわ!」
 全ての物事がラッキーで回っているラッキーなアフロ兄貴セブンと共に福引をすれば、そのラッキーにあやかれるかもしれないという戦法である。


 ――エピローグ

 福引所の隣でナナちゃんは77.7万円をゲットし、セブンは持ち前のラッキーでペア旅行券をゲット。
 黒龍は二等賞のどうしたらいいのかさっぱりわからない錦鯉を貰い、北斗は三等の二層式洗濯機を受け取った。今時二層式を使っているところなんて、草間興信所ぐらいである。
 四等賞をもらったスイは、ヤクルト一年分だった。これ以上背が伸びたらどうしてくれるのだろう。家主にやればよいかなどと、もっともなことを考える。
 シュラインはハズレで、なぜかシオンのブロマイド写真だった。
 夕日は五等賞のアフロを、何度も何度も何度も何度も、貰い続けた。都合彼女は二十五のアフロと三のブロマイドを持ち帰ることになった。
 ふらりと喫茶店からやってきた草間が、喫茶店で貰ったという福引券で福引をすると、なんと一つしかない筈の特賞ペア旅行券が当たった。
 ――ペア旅行券が二組出てしまったので、草間・武彦とセブン二人のランデブーになったのは言うまでもない。
 
 
 ――end
 

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0086/シュライン・エマ/女性/26/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【0568/守崎・北斗(もりさき・ほくと)/男性/17/高校生(忍)】
【3356/シオン・レ・ハイ/男性/42/びんぼーにん(食住)+α】
【3304/雪森・スイ(ゆきもり・すい)/女性/128/シャーマン/シーフ】
【3506/梅・黒龍(めい・へいろん)/男性/15/ひねくれた中学生】
【3586/神宮寺・夕日(じんぐうじ・ゆうひ)/女性/23/警視庁所属・警部補】

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■         ライター通信          ■
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謹賀新年あけましてアフロ にご参加ありがとうございました。
思わぬプレイングでセブンが登場してしまい、おいしいところをNPCが持っていくという失態。申し訳ありません。
それぞれのプレイングが巧く噛みあわず、個別の箇所も多くパーティノベルにならずすいませんでした。
楽しんでいただければ幸いです。

文ふやか