コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


因幡恵美がスーパー三下に殺されてから


 因幡恵美が、
 スーパー三下に、
 殺されてから。

 世界の何が変わったのだろう、今日も雀は朝に鳴き、鴉が夕焼けを知らせてる。青い空に青い雨、狐の嫁入りだ、ああ、そんな、それさえ日常。
 因幡恵美は殺されたのだけど、
 それが随分と悲しい人も、たくさん居たのだけど。
 畳の上で血溜まりになっていた。そこは、仏壇のある部屋。彼女と生きた彼女達に手を合わせる場所だった。
 そういえばその人達も、S三下に殺されたんだっけ。
 、
 座敷童の居る家は栄え、
 座敷童の消えた家は、没落する。
 伝承通りと言えるのだろうか、この仕打ちが。けど確かにもうあやかし荘は存在しない、あるのは、無駄にでかい建物、何処か寂れてしまった建物、住居人もたくさん減って、もしここに地震が起きたら、いいえ、嵐如きで、こんな不思議な館も、
 殺されそうな――

 スーパー三下が、
 因幡恵美を、
 殺してから。

 この異界の日々は、それと、三下は、何を思っているのか。
 青い空に青い雨、狐の嫁入り。


◇◆◇


 友峨谷・涼香/女/27歳/

◇◆◇

 何を、間違った。

◇◆◇

 己の身肉を分け与え、この世でたった一つの意思を宿らせた、我が子を産み、絶望の世界で希望の存在を、暖かく抱きしめて。
 その希望を、絶望に、くびり殺され、
 片目も穿られ、片目でしか泣けずに、怨嗟の声を絶望に向ける。
 スーパー三下という道化に向ける。残りし片目を供にして、凶り目なる、全てを捻じ曲げる瞳を以って、
 殺そうと、誓った。

◇◆◇

 何を、間違った。
 友峨谷涼香は、走っている。

◇◆◇


 それは月日が流れてからも、青い空から青い雨が降ろうとも変わらぬ、彼女の刀のような紅い、紅い宿命。
 ほら今日も、血の降雨。
 その名を負うのがとても相応しい彼女の刀、紅蓮、
 刀身の輝きし赤よりは、ずっと、黒い、

 黒い、黒い、人間の血の色。
 魔では無い。

 それは殺しあう異界での日常では有った。だが人にとっては、惑うばかりの日常である。太陽の下、雨に濡れながら、まだ血も薄まらずにどくりどくりと湧き出すその躯から、刀を抜くのは、涼香。
 斬ったのは、かつての仲間だった。いいや仲間というよりは、
「……あいつに言うとけ」
 唯同じ組織に、居たというだけ、そう、
 それは、退魔組織白神である。友峨谷涼香の所属である。かつての、
 裏切り、であった。古来より続く絶対的勢力に対しての。今の彼女の身の置き場所は、歴史浅き癖に世界中で幅を利かせる心霊組織IO2、だから、
 この躯は、数多くの追っ手の一人だった。
 飛び掛ってきた追っ手は、まず空中で首が折れ、手足が折れ、不細工なマリオネットみたいな有様に成ってから、空中に落ちる速度の何倍も速く、一刀両断する。斬った音が後から聞こえるような、まるで音速を突破したかのような、剣速。精鋭たる追っ手が、案山子の群れになるには十分過ぎる威圧、
 そして、涼香もこれ以上斬る理由は無く、「あいつに」無表情で、
「おのれらの大将に、言うとけ」
 あの男が、その立場に着いたからで無く、
 かつてその立場に居た人が、その人の長男が陰謀により座を奪われたゆえに、彼女は裏切って、だから、もう白神の犬では無い。駒では無い。彼女は彼女の意思で動く、
 だから、だからこそ、
「あの鬼に手を出すな」
 鬼の名を、
 、
 鬼という、心という意味で無く、身体ごとそう成り掛けている、親友の名前を、呟く。自分よりももっと早く、白神に追われるようになった彼女、それをしとめる事は、白神からの命によった。
 だが彼女は彼女の意思により、
「もし手出したら、おのれらまとめてぶち殺す」
 脅しで無い、絶対的な現実を言って、その仕事すら奪い、
(神社で話をした事を、居酒屋で騒いだ事を、思い出しながら)
 もう戻れない関係に、自分の手で決着を付けると。他に、譲ってたまるか。
 ――あいつを裁く権利はうちだけが
 IO2所属の彼女はそう言って、もうけして歯向かってこない相手に背中を悠々と見せ、もう一つの目的地へ。
 その足取りは、今までの足取りとは確実に意味が異なる、それが、
 彼女の選択した新しき物で、


◇◆◇

 何を、間違った。
 友峨谷鈴鹿は走っている。
 息を切らしながら、息を切らしながら、

◇◆◇


 狐の嫁入りは、まだ続いてる。披露宴の会場への道のりは、随分と長いのか。角隠しを付けた狐を想像して、くだらない、という理由で笑う。戦闘の外だけで見せる、三年前の彼女の表情。その事は、年齢を重ねる事が出来ぬ呪いにかかってる事で、余計はっきり感じられる。
 人の居るべきなのに、人の気が見当たらない場所に着く。
 、
 一部が半壊したアパートに、皆何処へ散らばったのか判らぬ、あやかし荘に、人は居ない。
 あるのは人の形をした生き物。
「犯人は、現場に戻ってくる」
 一人は、彼女、もう、一人は、
 その名は、
「おやおや」
 因幡恵美の死体が運ばれた部屋に立っている、
「えれぇ久しぶりじゃん」

「三下あぁぁぁっ!!」

 その名が絶叫を持って放たれた理由は、殺意と、
 喜び。
 友峨谷涼香は符を取り出す、そして目の前の、輝くオーラを鋼の肉体に纏う黄金存在、漫画みたいな冗談の存在に仕掛ける。雷。
 金の光を発する男も、この神の鳴る音は気に入らない、だから、避ける。そして涼香の背後に回り、型も何も無くぶん殴る。首根っこごと飛びそうになる頭、だが口元から血を零しながら、彼女は、
 笑った。
 仕事ではけして感情の見せぬ女が、笑った。
 喜びで、身体が震えている。そしてこの殺意が、心臓のよりも強く、彼女を生かす。彼女に死ぬ気等さらさらに無い。刺し違える覚悟をすれば、この男を、全てを奪ったこの男を踏みつけて見下ろす事が出来ない。
 ――頭が首根っこごと飛びそうになる。
 ならいっそ、涼香は飛んだ。奴の殺意をジャンプ台のバネとし、翼も無い彼女は、体重移動により三下の視角となる宙へ。そして、紅蓮で斬りかかる、咄嗟で避ける三下、厚い胸板に赤い線が入った。
 それは、その人殺しにとって、随分久方の事。三下は咆哮しながら空へ飛ぶ、馬鹿みたいに高い所に上がる男を、符術、直撃、だが煙吐いてもまだ生きてる、斬ろうとして、だが丸太のような足が鳩尾に入った。吹き飛ばされて、半壊した事によりこの場所にある瓦礫まで叩きつけられて、臓腑を喉から零しそうになった所へ、また奴が、
 かわす、背後を取る、斬る、
 かわされる、下へ潜り込まれた、顎を押し上げるようにして投げる三下、
「うっとおしぃ!」
 彼女は胴体に足を引っ掛けて、空中へ行くのを拒否し、肘で金髪に一撃を食らわした。よろめく彼に斬りかかって、そして、その一撃も、決まらない。
 まるで三途の河を常世に生み出すような死闘は、延々と続くかに、
 見えた。
 だけど、
 そこで、
 ――友峨谷涼香は紅蓮を納める
 空中、で、
 ぽかり、とした様子の三下に、事も無げに告げる。
「ここで終わらせたら、つまらんやろ」
 少しだけの戦闘、少しだけの遣り合い、もう十分だ。機会はこれから幾らでも、だから、
 彼女は隙を見て逃げ出して、それは、
 走り出して、


◇◆◇

 何を、間違った。
 友峨谷鈴鹿は走っている。
 息を切らしながら、息を切らしながら、

 走っている。
 もう随分と、雨も止むくらい随分と、長く、、

◇◆◇

 けれど、奴は追ってきていた。

◇◆◇


 それは予想にはしなかった事、
「なんや、あいつ」
 走るたって、やみくもに走ってる訳じゃない、紛れながら、身を隠しながら、振り切るように、振り切るように、なのに、
 執念深く三下は追ってきていた、人混みを砂利のように蹴り散らしながら、無人の空気に己の音を満たしながら、最悪の存在の標的は自分。自分は、言った。ここで終わらせたらつまらない、って、
 何故、追ってくる。何故、
「糞がっ!」
 何を間違った、
 、
 彼女は、
 余りにもその存在を、舐めすぎた。
 強さを謡う彼には許されない行為――

 つまらないからってそんな理由で、
 逃げ出せるとでも思ったのか?

 焦り、という感情を押し殺す。戸惑い、という考えを彼方へ捨てる。唯、逃げる、逃げる、今はまだその時期では無い。復讐は、
「あらあら、ママは弱虫でちゅねぇ」
 復讐、
「仇が居るのに泣いて逃げちゃう」
 復、讐、

「かっこ悪りぃ」
「三下あぁぁっ!」
 殺意が、声届く位置までに近づいてきた三下へと、彼女を振り向かせ、そして、
 片目を奪われた事により発現した、凶り目によって、

 三下の四肢は、身体は、酷く捻じ曲がって。


◇◆◇

 間違った、選択なのかどうか、
 それは、その時には解らない。
 彼女には強さがあった、彼女には、生き残る意思があった、けど、
 それを殺される事も考えなかった。
 友峨谷涼香、
 筋肉の断裂した腕で、骨が粉のように砕けた腕で、
 そして、

 その痛みすら、カッコイイからという理由で、我慢する腕で。

◇◆◇


 彼女の目の前には、暗闇があった。
 暗闇が、《見えている》。
 死んだ訳では無い。ならば、何故、暗闇が見えたか、
 目を閉じているのか、
「はーいはーい、今からあんたの真似するヨーご清聴ぉ」
 それとも、
「ここで殺したら、つまんねぇから」
 ―――震えろ

 目を、潰されたからか。

「あ」
 痛み、という感覚よりも、
「ああ」
 失った、という感覚よりも、
「ああ、あ、あ」
 思い出す、この暗闇に、写る光景、
 全てこの男に、今去って行く男に奪われた光景、かっこいいからという理由で、あるいは、不思議な少女の頭という理由で、傷を治していって去っていく男に、
 奪われた光景、そして、

 また、奪われた。
「ああああぁっぁぁぁっぁあぁぁぁッ!」

 彼女は死んでいない。彼女は死んでいない。彼女は死んでいない。何故叫ぶ、殺意か、悲しみか、あの日を思い出してか、彼女は死んでいない。彼女は死んでいない。彼女は死んでいない。
 友峨谷涼香は、両目を奪われた。





◇◆ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ◆◇
 3014/友峨谷・涼香/女性/27歳/居酒屋の看板娘兼退魔師

◇◆ ライター通信 ◆◇
 こんばんは、突発の参加なのにお入り頂きありがとうございました。
 今回は三下と絡む行動で、どうも不用意な感じなプレイングだったので(逃げ方が無かった)死亡になるかと思ったのですが、あまりにもつまらないからというセリフが、こういう展開を生み出すのが、S三下らしいなという理由で、こういう処理となりました。それが涼香にとって、良いか、悪いかは、わかりませんが。常識で考えるなら事件になると思います。
 これからの本来の予定だとかはあったと思うと、ちょっと自分でもどうかと思う結末なのですが; お気に入りいただけるか、とは聞けません。唯、引き続きご参加いただけるならやっぱり嬉しいです。
 それでは今回はこのへんで。
[異界更新]
 白神の追っ手を一人殺し、鬼の追っ手は続けると誓うが、甘い感情でのS三下との接触で、彼女は凶り目すら奪われた。