 |
おめかし・しましょ♪
０．零からのお願い
「突然なんですけど、このチラシ見てもらえますか？」
と、唐突に言った草間零は１枚の広告を差し出した。
その広告にはこう書いてある。
『おめかし講座・新規会員募集！
来たれ、宝石の原石たち！
あなたの美しさはまだまだ無限大！
今なら受講料は無料。
どんな人でも『マドモアゼル』が、きっとキラキラと光らせます！ 』
「・・・あの、お兄さんから『女っぽいことを学べ』と仰せつかったので、ちょっと気になっているんですが・・・」
零は言葉を切った。
酷く不安そうな顔で、次の言葉を言うべきか迷っているようだ。
「あの、この教室・・・一緒に行ってもらえませんか？」
１．講師登場
もっともっと綺麗になったら、あの人が振り向いてくれますように・・・。
鈴璃（すずり）は席に着くと、真剣なまなざしを前方に向けた。
右隣にはシュライン・エマが座り、その隣には零、学校帰りの海原（うなばら）みなもが談笑している。
そして、左隣にはただ１人の男性参加者、シオン・レ・ハイが座る。
その他の席は全て空だ。
つまり零とその付き添い４人以外に参加者は居ない。
化粧には自信があったが、それでも意中の人に振り向いてもらえなければ意味がない。
今回、鈴璃がここに来たのは零の心細い気持ちの助けになることが第一だとは思ってきたが、鈴璃も乙女なので綺麗になれれば尚良いかな・・・なんて思っていた。
と、ガチャリと扉が開きピンクの毛皮に身を包んだ怪しげな人物が入ってきた。
「イラッシャーイ！ ようこそ、アタクシのビューティー講座へ！」
「・・・何？」
鈴璃は怪訝な顔をした。
どう反応していいか、少し考えたがどう見ても怪しい人物だ。
「悪い予感的中ね」
「え・・・と、お知り合いですか？」
エマの呟きにみなもが不安げな声でそう聞いた。
そんな不安そうな人々をよそに、シオンは入ってきた人物に駆け寄り深々と礼儀正しく頭を垂れた。
「よろしくご指導、お願いします！」
「よろしくなのデ〜ス！ あ、申し遅れましたのデ〜ス。アタクシ、本日の講師を務めます『マドモアゼル・都井（とーい）』と申しマ〜ス」
「・・・大丈夫なんでしょうか？」
零がそう呟いたが、その答えに誰一人答えられるものは居なかった・・・。
２．まずは基礎から
不安を隠しきれないながらも席に着いた生徒５人に、マドモアゼルは意気揚々と講座を開講した。
見た目で判断するなんて、失礼よね。
きっと、とんでもなくすごいテクニックを持ってるんだわ！
そう自分を納得させつつ、鈴璃はマドモアゼルの話に耳を傾ける。
「まずは、基本中の基本。日々のお手入れの事から始めまショ〜。『洗顔』『化粧水』この２つの他に肌に合わせて『乳液』や『美容液』などもお使いくだサ〜イ」
そう言いながらマドモアゼルは、鈴璃達の前にサンプルと思われる小さな小瓶のセットをワンセットずつ置いていく。
置かれたサンプルを手にとって見ると、無添加をウリにした市販の商品だ。
「あの〜・・・」
おずおずとみなもが手を上げた。
「そんなに高い化粧品は買えませんから、安くて済むようなやり方をお願いしたいのですが・・・」
そんなみなもの発言に、マドモアゼルはウンウンと頷くとこういった。
「化粧品といいますのは、高ければよいものではなく肌に合った物を使ってこそのものデ〜ス」
みなもはその言葉にホッと安堵し、お礼を言った。
・・・ウン、やっぱり私の目に狂いはないんだわ！
「あの人見た目に反して、中々いいこと言うね♪」
コソリとエマに耳打ちした鈴璃は、再び真剣な眼差しで前を向いた。
隣にいるエマも、中々綺麗な女性だ。
そういった女性のメイクは勉強になる。
例えば、青いアイラインはどことなくクールな印象でエマに理知的な印象を与えている。
「あの〜・・・私、男なんですが・・・」
今度は反対側からシオンが手を上げた。
「最近は男性用基礎化粧品などもございますガ〜、本日は男性用は用意しなかったので女性用をお使いくだサ〜イ」
マドモアゼルの話を聞きながら、鈴璃はエマのメイクを分析していた・・・。
３.次にベースを
「・・・基礎化粧品の説明は以上デ〜ス。何かご質問はありますカ〜？」
一通りの基礎化粧品についての説明を聞いたところで、特に誰からも質問は出なかった。
それくらいキッチリとまともな事を説明していた。
「では質問もないことですシ〜、次はメイクの方にうつりまショ〜♪」
にっこりと笑ったマドモアゼルは、なにやらガチャガチャと道具を取り出し、３つのメイクセットと鏡を机の上に並べた。
「これより先は２人１組となってお話を進めていきたいと思いマ〜ス」
「よろしくお願いするわね」
鈴璃の前には、エマがにこりと笑い向かい合った。
零はみなもと向き合い、シオンは・・・。
「シオンさんはお相手がいませんカラ〜、アタクシが直接ご指導しますのデ〜ス♪」
そういって、シオンの目の前にはマドモアゼルが腰をかけた。
心なしか、シオンの顔は嬉しそうだ。
「では、まず鬢（びん）付け油を顔全体に塗るのデ〜ス」
「・・・え？」
聞きなれない単語に、先に反応したのはエマだった。
「お分けしたメイク道具の中の金色の蓋のものデ〜ス」
ふふんっと鼻歌を歌いつつ、マドモアゼルは何事もないように鬢付け油をシオンの顔へと塗りたくっていく。
「普通はリキッドファンデーションか、下地クリームよね？」
「う、うん。そうだと思うけど・・・プロのメイクって一般とは違うのかもしれないし」
そうエマに聞かれ、鈴璃も半信半疑にそう答える。
ふと後ろを見ると、みなもと零が楽しげに何の疑いもなくマドモアゼルの指示に従っている。
「とりあえず、やってみようかな」
そう言うと、鈴璃は鬢付け油を手に取ると顔に塗り始めた。
ペタペタと塗った感触は、いつも使っているものとあまり変わらないようだ。
塗り終わった後に容器の成分表を見ておかねば・・・。
鈴璃はそう思いながら、鬢付け油を塗っていた・・・。
４.本格的メイクへ
「それでは次にこちらの『練りおしろい』を『刷毛』で顔全体に塗りマ〜ス！」
そう言ってマドモアゼルがシャキーン！ と出した刷毛。
それはチークブラシなどという生易しいものではなく、まさに『刷毛』の名がふさわしいブラシだ。
「・・・」
エマが言葉を失っている。
「これって普通のお化粧と違いません？」
「でも、先生が言うんですからきっとこれが正しい方法なんですよ！」
みなもの疑問に零が必死でフォローを入れるが、零自身がその言葉で自分を納得させたいかのようにも聞こえる。
「キラキラ光りたいです。それはもう、輝いて眩しいほどに！」
力強くそう言ったシオンに、マドモアゼルも力強く答える。
「アタクシにお任せアレ〜！」
筆を高々と掲げ上げ、マドモアゼルはシオンの顔に練りおしろいを塗りたくっていく。
その姿を見て、鈴璃は今までにない化粧の方法に希望の光が見えていた。
「おもしろそ〜♪ うふふ、私もやろっと！」
鈴璃はそう言って、大胆に練りおしろいを顔に塗っていく。
みなもや零もワタワタとしながらも顔に塗り始めている。
少し間をおき、エマも塗り始めた。
さすがに、プロ級を自負するだけあって鈴璃の手付きは実に綺麗に均一に塗っていた。
どんな風になるのかしら？
あの人は気に入ってくれるかしら？
５.そして最後に紅を差す
「眉毛は自然に、ポイントはほのかに紅色を足すことデ〜ス」
白塗りしたシオンの顔に墨で眉毛を書き入れつつ、マドモアゼルは指導する。
そっか、紅色か〜。
ちょっとキュートな感じになるのかも。
「シュラインさん、眉ってこんな感じでいいんでしょうか？」
そういってエマに聞いてきた零とみなもに、鈴璃も手助けしつつメイクは進む。
「アイラインに紅色を少し濃く入れて、粋な感じを出すのデ〜ス！」
マドモアゼルの手元を見ると、鈴璃がいつもつけているようなアイラインの入れ方ではなく、少し目じりを強調したようなアイラインの入れ方をしている。
どうやらこのアイラインも眉に入れた紅色と同様にキュートさを出す為のようだ・・・と鈴璃は解釈した。
紅色のアイラインを引き終わると、最後にマドモアゼルはこう叫んだ。
「水溶き紅をシッカリくっきりと塗り、サァ！ 出来上がりなのデ〜ス！！」
水溶き紅とは、古来日本で用いられた紅花を主とした口紅のことである。
そして、そんな古来日本の化粧方法で出来た顔というと・・・
「なんか・・・舞妓さんみたいです♪」
零がエマや鈴璃、みなもの顔を見てポツリと言った。
「舞妓さん・・・あの京都に今尚住み続けるという伝説の大和撫子！？」
そういって感激しているシオンの顔は、髭があまりにも異様な、それでもやはり舞妓メイクなのであった。
鈴璃は鏡を見た。そこにはいつもの鈴璃とは違う、和風な鈴璃がいた。
「そう、メイクといえばやはり舞妓なのデ〜ス！ 皆様、すンばらしい！ たった一度、しかもアタクシが直接手取り足取り教えなくてもこんなに素晴らしくできるなんて・・・」
なにやら１人感激しているマドモアゼルを尻目に、エマがカメラを取り出して構えた。
「記念写真だから。皆、笑って？ ハイチーズ！」
カシャリと音がしたその写真の中にはちゃっかりとマドモアゼルも写っていたり。
「あの〜、できればこのお化粧に合わせて服も変えてみたいと思うのですが」
少し恥ずかしげにそう言ったシオンに、マドモアゼルは笑みを浮かべた。
「そういうと思っておりましたのデ〜、沢山衣装を用意してきましたのデ〜ス！ さぁ、どれでもお好きなのをお選びくだサ〜イ！」
ドンッと大きな箱を取り出し、中を開けて見ると舞妓の衣装は基より、キラキラと金色に光るサンバの衣装にいたるまで様々な衣装が入っている。
鈴璃は１着の服を手に取った。
「これ、借りていってもいいの？」
鈴璃が目を輝かせてそう聞くと、マドモアゼルはウンウンと頷いた。
着付けを何とか自分でやって軽く髪を結い上げ、鈴璃は姿見鏡の前に立った。
鏡には舞妓の化粧を施し、そして舞妓の衣装を来たいつもとは違う鈴璃が立っていた。
「ねぇ、似合ってるかな？」
そう聞いた鈴璃に、マドモアゼルとシオンは「スんバラシイのデ〜ス！！」と褒め称えた。
そのまま、鈴璃は外に出た。
あの人は、なんと言ってくれるだろう。
綺麗だといってくれるだろうか？
心躍らせ、足取りも軽く歩く鈴璃。
東京の街はそんな舞妓姿の鈴璃に、少しだけ華やいだ・・・。
−−−−−−
■□ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） □■
0086 ／ シュライン・エマ ／ 女 ／ 26 ／ 翻訳家＆幽霊作家＋草間興信所事務員
3356 ／ シオン・レ・ハイ ／ 男 ／ 42 ／ びんぼーにん（食住）＋α
1252 ／ 海原・みなも ／ 女 ／ 13 ／ 中学生
4745 ／ ー・鈴璃 ／ 女 ／ 140 ／ 異次元世界から来た旅人＆恋する乙女
■□ ライター通信 □■
鈴璃様
初めまして、とーいと申します。
この度は『おめかし・しましょ♪』へのご参加ありがとうございました。
メイクアップ講座ということで、今回は皆様に快く舞妓さん顔になっていただきました。
クールビューティーに見えて、その実キャピキャピ（？）な恋する乙女・・・という素敵な設定で、小躍りさせていただきました。
意中の方に振り向いてもらえるといいですね♪
それでは、またお会いできる日を楽しみにしております。
とーいでした。
|
|
 |
