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【ばれんたい〜ん】野郎どもの宴
「兄貴、本当にやったんだな」
必要以上に派手に飾られた部屋を見上げて、大地は長いため息をついた。
「当然だ弟よ。この日を派手に祝わずして、何をしろと言うのだ。さあ、宴の始まりだ。同士達よ、この聖域に集うのだ!」
空雄が天高く拳を突き上げているのを見て、大地はさらに長いため息をついた。
フレイ・アストラスは、Y・Kシティの小さな小道を歩いていた。
「何か依頼があればいいのですが、最近めっきりで、暇ですねえ」
フレイの本業は退魔士であったが、なかなか依頼が来ないので、ささやかな趣味であるコンビニの新商品をチェックしに、こうして外へ出ているのであった。
「何だか賑やかですねえ?」
フレイの視線の先に、一見変哲もない家が見えてきた。中から人の声が絶えず聞こえ、窓からピンクや蛍光といった、ハート型の提灯が見えている。あれは何でしょうねーと考える前に、フレイの体は無意識のうちに、その家に吸い込まれていた。
「こんにちは〜。ちょっと通りかかったんですけど、楽しそうですね〜。僕も参加していいですか〜?」
「またもや同士が来たぞ!」
奥の部屋から、大柄の青年が出てきて、フレイを迎える。
「初めまして〜。僕は、フレイ・アストラスと言います〜。今日はバレンタインですからね〜。ほら、バレンタインになると、コンビニにチョコの新商品が出たりするでしょう?色々なコンビニを渡り歩いていたら、ここから楽しそうな声がするので、伺ってみたんです〜」
「なるほどな。勿論だ。私の名は井上空雄。今日は、存分に楽しんでくれ」
空雄がフレイの手を取り、勝手に握手をする。
「有難うございます〜。ところで、同士って何の事ですか?」
「敢えて聞いてくれるな。女が何だ、チョコなんか何だ、そんなのちっとも羨ましくないぞ、という思いを持った者達の集まりなのだ」
何となく、フレイをパーティー会場へ案内する空雄の背中が泣いているような気がする。「ああ!つまり、もてない人々の傷の舐め合いですかね?あれ、どうしました、空雄さん〜?」
ドアノブを握る空雄の動きが硬直し、肩がブルブルと震えている。
「僕、何か変な事言いましたかねえ?」
「よお!また外人さんかい?」
会場に入ったフレイは、いきなり威勢のいい声に迎えられた。声のした方向を見ると、扇子を腰に差して、会場の菓子類を食べまくっている若い日本人の青年がいた。
「あんたも暇なのか?ま、俺もだけどよ。俺、志羽・翔流ってんだ。ネットでサイト見てたら、ここのパーティーの事知ったんで、暇だから来ちまった」
翔流がフレイに元気の良い笑顔を見せる。
「僕はフレイです〜。たまたま通りかかったんですけど、賑やかそうだったので、来てしまいました〜」
「私もネットで今日の事を知りました。何かご馳走があるとのことで、参加させて頂く事にしました。シオン・レ・ハイと申します。よろしくお願いします」
黒い髪に青い瞳、がっしりとした体型にすらりと高い男性がフレイを見て挨拶をした。
「お邪魔させて頂きますので、空雄さんと大地さんに何か手土産をと思いましてマフラーを作りました。色違いの物です。趣味で作りましたので、よろしければ」
シオンは、そう言って赤と青の、色違いのマフラーを、空雄とそばにいた少年に渡す。シオンが言った言葉からして、その少年が大地と言うのだろう。
「女性の方からの方が良かったでしょうか?」
心配そうに、シオンがマフラーを差し出す。
「いや、とんでもない!こんなバカ兄貴の遊びに付き合ってもらった上に、お土産までもらえるなんて、思ってもいなかったから」
大地が、嬉しそうに青いマフラーを受け取る。
「空雄さん?」
シオンがもう一度呼びかけると、空雄が滝のような涙を流してシオンに抱きつく。
「パーティーを開いて本当に良かった!こんな素晴らしい贈り物をもらえるなんて!」
赤いマフラーを握り締めて男泣きをしている空雄を見て、大地が引きつった笑みを浮かべているのを、フレイは見逃さなかった。
「さてと、ご馳走も沢山食べたしな!そろそろ宴会芸を初めていいか?」
翔流が、腰に挿していた扇子を取り出し、部屋の中央に踊り出た。
「こう見えてもさ、俺、日本一の流離い大道芸人なんだぜ?宴会芸なら任せておけって!」
そう言って翔流は、囃子に合わせて扇子を動かし、その先から水を噴出させる。
「わあ、どうやっているんでしょうね〜!」
フレイは初めて見る手品のような芸に、感動の色を見せた。
「扇子だけじゃねえぜ?」
今度は衣服の先から、水が噴出している。
「素晴らしいです。水だけでなく、お酒も出せるのでしょうか」
シオンがフレイの横で、変な事を呟きながら翔流の水芸を眺めている。
「お次は傘回し!」
開いた傘の上に、すぐそばのテーブルに置いてあった茶碗を投げて、ぐるぐると見事な手さばきで茶碗を回してみせる。
「最後は南京玉すだれ!あ、それ、あ、それそれそれそれ!」
鮮やかなすだれを取り出し、様々な形を作り出していく翔流を見て、シオンが立ち上がり、懐から箸を取り出して見せた。
「私も何か芸をしなければいけませんね?お箸でなら、何でも掴む事が出来ます」
台所にあった胡麻塩を取り出して、その胡麻を鮮やかにつまんでみせるシオン。
「そういうのは、芸って言うのでしょうかね?」
フレイは首を傾げて見せた。
「あと、お金限定ですが、見たらすぐに暗算して計算する事が出来ますよ?」
「では、早速やってみて下さい〜!」
財布から小銭を取り出し、フレイはビシっと机に置いて見せる。
「650円!私が昨日やったアルバイトの1時間辺りの時給と同じですね」
「何だそりゃ」
翔流が傘やすだれを片付けながら、シオンに呟く。
「正解です〜!凄いですね、答えるのに1秒かかりませんでしたよ〜?」
「フレイは何か芸は出来ないのかい?」
翔流がフレイに尋ねた。
「そうですね〜、僕は芸は皆さんの様には出来ませんが、代わりに、皆さんに良き出会いがあるように、僕が祈って差し上げますよ〜」
フレイは目を閉じて、ここにいる全ての人達に素敵な出会いが訪れますように、と祈りを捧げた
「俺、義理チョコしかもらった事ねえけど、来年はもっといいもん、もらえるかな」
翔流がそういった時、後ろから声がかけられた。
「そろそろ、プレゼント交換を始めよう」
空雄がプレゼント交換用のテーブルを部屋の真ん中に出していた。
「ルールは簡単だ。このテーブルの上にプレゼントを置き、歌に合わせてテーブルを回る。私がストップって言ったら、一番近くに置いてあるプレゼントをもらえるってわけだ。じゃ早速やろうか」
空雄が、何の歌だかよくわからないが、歌を歌いだした。フレイ達はその歌に合わせて、テーブルのまわりをグルグルと回りだす。男の野太い声に合わせて、グルグルまわっている男達。こんな光景を見たら、何をやっていると思われるかな、と思いつつ、フレイはテーブルを回った。
「ストップ!」
部屋に空雄の声が響く。フレイは足を止めて、テーブルへと目をやった。
「僕はこれですね〜。あけていいですよね〜」
箱の中には、沢山物が入っており、ギフトセットのようだった。フレイは少しだけ、お得な気がした。
「そりゃ俺が持ってきたのだな。俺の故郷の富山の薬だろ、フェイスタオルにキーホルダー、ストラップ。あと、小っちゃいチョコも30個ほどな」
翔流の手には、兎の柄の可愛らしいチョコレートが握られていた。
「そのチョコは私が持ってきました。バレンタイン用に手作りしたチョコレートが余っていましたので。私は女性にもチョコをあげる事が多いのですが、喜んでもらえればよりです」
「シオンさんには、僕のプレゼントがいったんですねえ!」
シオンは、綺麗な透明の石を見つめていた。
「この前、道で拾った石なんです〜。とても綺麗ですし、きっと価値があるに違いありませんよ〜!僕の予想では、ダイヤモンドかもしれません」
「ええ、きっとそうに違いありませんよ。こうまで美しい石ですし。磨けば、もっと光るかもしれません」
シオンは石が、すっかりダイヤモンドだと信じている様子だ。
「さて、プレゼント交換も終わったし、そろそろお開きにするか。名残惜しいが、また来てくれ、同志達よ」
目を滲ませて、空雄が皆に最後の挨拶をする。
「またやる気じゃないだろうな、兄貴。まさかホワイトデーとか」
そう言って、肩からため息をついている大地と、涙を流しながら手を振る空雄にフレイ達は別れをつげた。
「たまには、こういうバレンタインもいいですよね〜。日本のバレンタインって変わってるんですね〜」
フレイは微妙にバレンタインを取り違いしながらも、交換したプレゼントを手にして、それぞれの帰り道へと着くのであった。
◆◇◆ 登場人物 ◆◇◆
【2951/志羽・翔流/男性/18歳/高校生大道芸人】
【3356/シオン・レ・ハイ/男性/42歳/びんぼーにん(食住)+α】
【4443/フレイ・アストラス/男性/20歳/フリーター兼退魔士】
◆◇◆ ライター通信 ◆◇◆
フレイ・アストラス様
初めまして。新人ライターの朝霧青海です。発注頂き、本当に有難うございました!
今回はバレンタインという事で、本当はバレンタインに合わせて納品したかったのですが、間に合わずに申し訳ないです(汗)ちっとも色気のないバレンタインですが、フレイさんのような美形キャラの登場で、少し色気が出たんじゃないかと(笑)フレイさんがオトボケキャラでしたので、その辺りをセリフに表現させて見ました(ちょい毒舌も(笑))。少しでもフレイさんらしいセリフが話せてたら嬉しいです♪
視点がPC別になっていますので、一緒に参加された方のノベルで、また楽しめるかもしれません。今回は本当に参加頂き、有難うございました!
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