コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談・PCゲームノベル>


『お見舞い日記 〜美少女編〜』



「まあ、女の子が病気で大変な思いをしているのですね。わかりましたわ、わたくしもお手伝いに参ります」
 艶のある美しい黒髪に、今時の大学生とは思えないほど清らかで可愛らしい容姿の天薙・撫子は、対照的なほど派手な格好の女子高生、西野・皐月の話を聞いて、にっこりと微笑んで見せた。
 決して大口を開いて笑ったりはしない、しとやかで落ち着きのある仕草。撫子はその名の通り、「大和撫子」という言葉がまさに相応しい女性であった。
 今回、友人の看病をと話を持ち出してきた皐月とは少し前に、撫子が神社である家の遣いでY・Kシティを訪れた時に、皐月に道を尋ねた事がきっかけとなり、二人は知り合いとなった。
 その後も、撫子は皐月とたびたび連絡を取り合い、お互いの出来事やたわいのない会話などをやりとりしているのであった。
「良かった、なかなか一緒に行ける人がいなくて。あたし料理とか駄目だしー」
 皐月が軽く肩をすくめて見せる。
「明日は丁度用事がありますので、その後ででしたらお手伝いに行けますわ」
「ええ、了解よ。じゃあ、あたしも明日行くから、当日は現地集合って事で。これは美鈴の家の地図ね。ここからそんなに遠くはないわ。じゃあ、明日よろしく」
 皐月はそう言って地図を渡すと、撫子に手を振って大通りに向かって歩いった。おそらくは、またどこかへと遊びに行くのかもしれない。
「さてと、わたくしも明日の準備をしないといけませんね。お料理の材料を買いに行くとしましょうか」
 皐月の後姿を見送った後、撫子もY・Kシティのショピングモールへと向かった。



 翌日、撫子は寝床から起き上がると髪を整えて、シックな色合いの着物を選んだ。
「確か、家事が溜まっていると言ってらっしゃいましたわね」
 昨日買い込んだ野菜や果物を入れた紙袋持ち、さらに三角巾やたすきをたたんで袋に入れると家を出て、先に用事を済ませてから、皐月からもらった地図を片手に、目的地である住宅街へと向かった。

「皐月さん、もういらしていたのですね?」
 待ち合わせ場所の美鈴の家の前に到着した撫子は、皐月の隣にもう一人、黒髪に赤い瞳が特徴的な青年が立っているのに気がついた。
「あ、撫子ちゃんおはよ!」
「その方は、どなたですか?」
 撫子はその青年と目が合ったので、軽く会釈をして見せた。
「俺は谷戸・和真って言うんだ」
「わたくしは天薙・撫子と申します。どうぞよろしくお願い致しますね」
 笑みを浮かべて和真に挨拶を返した撫子は、和真の足元に置いてある紙袋に視線が動いた。この人も何か料理を作るのかもしれないと思い、撫子はその袋の中身には特に気にしない事にした。
「和真もね、手伝ってくれるって言うから。力仕事とかやってもらおうと思って。じゃ、全員揃ったし、中へ入ろうか」
 先頭に立ってマンションに入る皐月と和真に続いて、撫子も中へと入った。
「なかなか広くて綺麗なマンションなんだな」
 和真が呟いた。確かに和真が言うとおり、入り口も広くまるでホテルのようで、セキュリティも万全なこのマンションに、普通なら女子高生が一人で住む事など出来ないだろう。皐月に聞いた通り、美鈴という少女がかなり裕福な暮らしをしているという事が、このマンションを見ただけで想像がついた。
 エレベーターで上の階へと上がり、撫子達は表札のないドアの前まで来た。
「ここがそうなんだな。名前が書いてないみたいだが」
「女の子の一人暮らしだからね。なるべく名前は表に出さないようにしてるんだって」
 皐月が答えるの聞いて、和真が頷く。
「なるほどな」
 皐月がチャイムを押し、少々声を大きくして言った。
「来たよ、美鈴ー!」
 やがてドアが開き、中からパジャマにピンクのガウンを羽織った黒髪の少女が出てきた。撫子に似た、綺麗な髪の毛をしているが、何となく艶を失っているようにも見えた。それに、顔色もあまり良くない。
「ありがとう皐月ちゃん。お友達の方もどうぞ、中へお上がりください」
 部屋の中は聞いた通り、一人で住んでいるにしては部屋がいくつもあり、こんなに広い家に一人では掃除も大変だろうと、撫子は思っていた。
「初めまして。わたくし皐月さんの知人で、天薙・撫子と申します。今日一日、よろしくお願いいたしますね」
「有難う御座います、撫子さん。その着物、とても綺麗ですね。落ち着いた色が、撫子さんに良く似合っていますよ」
 青白い顔に、美鈴が笑顔を見せる。撫子が和風な美少女ならば、美鈴は西洋的な美少女、と言ったところだろうか。
「ええ、わたくし、着物は大好きですから。今日は良いお茶を持ってきましたの。知人から頂いたものなのですが、どうぞお召上がりください。少々、台所をお借りします」
 撫子は席を立つと、自宅から持ってきた茶と急須を持って台所へ向かった。
「あら、結構溜まっていますわね」
 撫子の視界に、ごみ捨て場とは言わないまでも、中途半端に片付けられた食器の数々が飛び込んでくる。一人暮らしだから、そんなに沢山食器が溜まっているわけではないが、この状態を見て、かなり長い事家事が出来なかったのだろうと、撫子は思った。
「まず、ここから片付けないといけませんわね」
 一度3人がいる部屋へ戻ると、撫子はたすきを紙袋から取り出して動き安いように着物を縛り、三角巾を頭につけた。
「撫子、もう始めるのか?」
 きょとんとした顔で、和真が尋ねてくる。
「はい、先にどんどん片付けて、後でゆっくりしようと思いまして。台所に大分食器が溜まっていますので、わたくし、そこから片付けますわ」
 そう答えると撫子は台所へと戻り、流し台に散らかっている食器を集めて水につけて、ひとつひとつ丁寧に洗い始めた。
「これで最後ですわね。それにしても、とても綺麗な食器ですこと。藤野さんはお嬢様でしたから、きっと使う食器も違うのでしょうね」
 最後の食器の雫を布巾でふき取ると、紙袋から昨日買った米を取り出し、それを研ぎ始めた。
「やはり、こういう時は雑炊が宜しいでしょうね。それに、雑炊なら沢山作って、皆で頂けますし」
 和食は撫子の得意料理だが、病人の体の事を考えて撫子は雑炊を作ってあげようと昨日から考えていたのだった。野菜や肉を取り出して、料理に慣れた滑らかな動きで次々と野菜を調理していると、3人がいる居間の方で何やら騒ぐ声が聞こえた。
「少々騒がしいですわね。何か楽しいお話でも、なさっているのでしょうか」
 きっと和真や皐月が、美鈴を元気付けるために賑やかにしているのだろうと、撫子は思った。
 やがて、鍋からほんのりと柚子の香りが漂ってきた。すでに野菜を煮ており、そこに鶏肉を入れてかき混ぜ、飯を入れてしばらく煮込み、一度味見をする。
「なかなかの出来ですわね。これから大丈夫ですわ」
 撫子は雑炊が一煮立ちしたところで火を止めた。
「藤野さん、皆さん、食事の用意が出来ました」
 皆のところへ行き、撫子は居間を綺麗に整頓している和真達に声をかけた。
「和真さん達は、ここを掃除して頂いていたのですね」
「そっちが料理作ってるからな」
 ぶっきらぼうな口調で、ごみをまとめていた和真が答えた。
「いい匂いだな。少し休憩するか?」
 撫子は雑炊を椀に盛り付け、盆に載せて和真達へと雑炊を運んだ。撫子は美鈴に食事を食べさせて上げようと思ったが、美鈴はすでにかなり顔色が良くなっており、先ほどよりも笑顔が多くなっていた。
「撫子ちゃん、これとっても美味しいよ!料理超うま!」
 皐月が驚いたように撫子に言う。
「有難うございます。食欲がないと聞きましたので、あっさりしたものを作ったのですが」
「俺はお代わりをもらおうかな」
 和真がそう言うので、撫子は和真の器に雑炊を盛り付けた。
「撫子さんの料理を食べて、少し元気が出たようです」
 嬉しそうな表情で、美鈴は軽く頭を下げた。
「良かったですわ、わたくしもどんなお料理が宜しいかと、あれこれと考えておりましたから。さあ、お茶もどうぞ。これはインドのグリーンティーです」
 と言って、撫子は皆に自分が持ってきた茶の袋を見せる。
「インドのグリーンティーは、カテキン類を豊富に含んでいて、爽やかな飲み心地で人気があるんですよ」
「そうだ、俺、桃と林檎持ってきたんだよ。今、ちょっと切って来るからな。風邪に利くと思うしな」
 茶を飲んでいた和真が、突然立ち上がって台所へ行き、しばらくしてから皿に林檎と桃の切ったものを持ってきた。あまり愛想のない態度から、大丈夫だろうかと撫子は思ったが、果物は綺麗に切られており、なかなか美味しそうだった。
「和真さんも、お料理が出来るんですね?」
 美鈴が驚いたように和真を見つめていた。
「これでも自炊しているからな。こういうことは毎日のようにやってるんだよ」
 和真が持ってきた果物はとても新鮮で、撫子達は茶と果物を口にしながら、楽しく話をした。
「昔、俺の母親が桃と林檎の雑炊を作った事があるんだよ、あれは不味かったな」
 林檎を口にしながら、和真が昔を思い出したのか、懐かしそうな目をしていた。
「ま、さすがにここでそんなびっくり料理は作らないけどさ。ん、美鈴さん、だいぶ元気になったんじゃないのか?」
「そうですね、初めて会った時よりも、血色が良くなってきていますしね」
 和真に続いて、撫子も美鈴の顔を見ながら答えた。
「皆様が色々とお世話にしてくれたり、楽しませてくれたからです。私、すぐに良くなりそうです」
 にこりとして、美鈴は皆に元気な笑顔を見せた。
「まだ洗濯物が残ってるのよ、それも片付けちゃいましょ」
 皐月が部屋の隅に積まれた洗濯物を指差した。
「そうですね、あれだけやったら失礼させて頂きましょう」
 撫子は洗濯物を洗い、皐月は皆が使った食器を片付けた。その間に、和真が溜まっていたゴミを捨てて、部屋はかなり片付いたのであった。
「撫子ちゃん、きてくれてありがと。助かったわ」
「皆さん、本当に有難うございました。今度、私がすっかり良くなったら、お礼をさせてくださいね」
 片付けもすっかり終えて家から出る時に、皐月の言葉の後、美鈴が嬉しそうな顔で撫子達に語りかけた。
「いえ、困った時はお互い様ですものね。それでは、これで失礼します。早く良くなって下さいね」
 にこりとした笑顔で撫子は美鈴にそう言うと、撫子達は美鈴に手を振って、それぞれの家へと戻るのであった。(終)



◆◇◆ 登場人物 ◆◇◆

【0328/天薙・撫子/女性/18歳/大学生(巫女):天位覚醒者】
【4757/谷戸・和真/男性/19歳/古書店・誘蛾灯店主兼祓い屋】
【NPC/西野・皐月/女性/17歳/高校生】

◆◇◆ ライター通信 ◆◇◆

天薙・撫子様
 
 こんにちは。新人ライターの朝霧青海です。発注頂き有難うございました!
 撫子さんが和風美女ということで、おっとりした大和撫子をどう表現しようかと思い、セリフや仕草などで表現してみました。撫子さんのようなタイプの方からの御依頼は初めてでしたので、楽しかったです(笑)
 お茶が好き、という設定を生かそうと、インドグリーンティーを用意している事にしてみました。少し変わったものが良いと思って、サイトを検索していたのですが、こんなお茶もあるんだなと、勉強にもなりました。
 もう一人の参加者、谷戸和真さんとは視点別のシナリオになっており、別視点からの物語りも楽しめると思いますので、宜しければそちらもご覧ください。

 では、今回は本当に有難うございました!