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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


Carnival 〜幸運の御神酒〜


 最近周りが騒がしい。それはアンティークショップ・レンの店主、碧摩・蓮も感じていた。
 そこへ、一人の男性が店へと顔を出す。
「ここに、幸運の御神酒は置いてないだろうか」
「幸運の御神酒?」
 楠木町清比良祭りにて、年男が最後の終着点である清比良神社で祭神と飲み交わす、特別な御神酒。
 一説ではあの土地の不思議性もプラスされ、一種の万能薬的な噂が裏で流れているらしい。
 なぜならば、その御神酒の存在は確認されているが、それを飲む瞬間や、触った人全ての厄を落とす儀式など、全て神社の中で行われ、参加者は神社で振舞われる甘酒やお餅などをほお張りながら待つ事になるからだ。
 年男となった人物も、神社の中で何が行われたかは一切口にしない。
 唯一手に入れられた情報が、御神酒の存在だった事で、噂が真実であると男は確信したらしい。
「幾らでも出そう、その御神酒を手に入れてほしい」
 御神酒は、年男が神社に着いたその瞬間、一瞬民衆にさらされ、神社の中へと運ばれる。
 狙うなら、その瞬間だと。
「そういった、罰当たりな事はしたくないんだけどねぇ」
 まったく乗り気でない蓮の言葉に男は舌打ちすると、諦めたと見せかけて、レンに訪れた人に頼み込んだ。



【御神酒とは何たるや】

 偶然レンに立ち寄ったセレスティ・カーニンガムは、持ちかけられた話の御神酒に宿る不思議性に引かれて、自分もそのお酒を調べてみたいなどという好奇心から、楠木町に赴いた。
 とりあえず今年の年男を確認するために出水川へと赴くと、年男としての行水の儀を行おうとしているのがあの不思議ナマモノ かわうそ? だった事に驚いた。
「かわうそ?さん」
 人が溜まっているスタート地点外の川原から行水する前のかわうそ? に手を振るセレスティ。

|Д゚)ノ よ!総帥

 はっぴに鉢巻の かわうそ? は器用に川原を駆け上がるとセレスティの膝の上にヒョイと乗る。
「かわうそ?さんが最後に飲む御神酒を少し分けていただけませんか?」
 だが、このセレスティの質問に かわうそ? は首をかしげ、

|Д゚) すまぬ総帥。かわうそ?分からない

 と、また自信満々に言い放ち、神主さんたちに呼ばれてスタート地点へと戻ってしまった。
「スタート前じゃ厄払いは出来ないよ?お兄さん」
 その光景に手をふって見送ったセレスティの真横から掛かる声。
セレスティは声が下方向へ顔を向けると、中学生くらいの男の子がニッコリと微笑んだ。そしてママチャリにまたがりスタート地点へと疾走していく。
 セレスティはそんな少年の背中に自分と似たような気配を感じながら執事に車椅子を引かれて車へと戻った。


|Д゚)人(゚Д|


 かわうそ? に分からなければ、あの男が言っていたように一般に御神酒が晒される瞬間に頼んでみよう。
 セレスティはそう思うと車を神社の方へと移動させた。あまりの人の多さに圧倒されそうになるが、この辺りでは大きなお祭りなのだから人も多くて当たり前。出店のバリエーションが多くても頷けた。
 セレスティは車から降りると杖を着いてゆっくりと歩き出す。
 神社の境内は丸石が敷き詰められ段差も多く、車椅子では通り辛かったからだ。
「セレスティ…さん」
 名前を呼ばれて振り返ればお手伝いの巫女の格好をした深々那が、甘酒配給テントから手を振っていた。
「こんにちは」
「大丈夫?」
 杖を着きながら歩くセレスティに、同じようにお手伝いの高良が駆け寄る。
「ありがとうございます」
 高良に付き添われてテントの椅子に腰掛けると深々那が甘酒を手渡してくれた。
 ホカホカと手の中で暖かい甘酒を一口含むと甘い味が口の中一杯に広がり、お腹の中から暖かくなった気がした。
「おぉ〜。セレスティじゃないか」
 余りに聞き知った声に顔を上げると、そこには防寒具に身を包んだ草間武彦が片手を上げた。
「ここの甘酒は毎年絶品なんだよな」
 ホクホク顔でセレスティの隣に腰掛けた草間は、深々那から甘酒の紙コップを受け取ると本当に嬉しそうに口をつける。
「草間さんお一人ですか?」
 問いかけるセレスティに、草間は甘酒を堪能したままの顔で、
「いや、零が参加したいって言ってなぁ」
 いつも世話になっている連れ合いと、零を姉と慕う少年と共にお祭りに来たらしい。
「そういうセレスティはどうなんだ?甘酒を飲みに来たってわけじゃなさそうだが」
 行き成り話しを振られて、セレスティは一瞬きょとんと瞳を瞬かせたが、直ぐに何時もの微笑を浮かべると、
「秘密です」
 別段隠す必要も無いのだが、なんとなく帰ってくる草間の反応が面白くてそう答えてしまった。
 セレスティは、紙コップをゴミ箱に捨てると、かわうそ? がここに到着するまでには時間が掛かりそうですし、と、神社見学でもしようかと椅子から立ち上がる。
 おみくじやお札、お守りが売っている社務所には、祈祷済みの御神酒が一升瓶で売られている。セレスティは携帯電話を取り出し部下に連絡を取ると、この一升瓶のラベルに貼られた製造元へ連絡を取るようにと手配する。
 一通りの手配を済ませると、セレスティはまた歩き始める。
 柵に囲まれ注連縄で巻かれた大きなご神木の立て札を読み、本殿から少し言った所にある一つ目の龍の銅像の台座にこの神社の祭神が掘られていた。
「天津…日子根命、ですか」
 水と火を司る龍神。その力は水を操るという時点で自分と似ている。もし自分が東洋の生まれであったら、こんな存在になっただろうか。
 いや、自分では八尾比丘尼男版。流石に血肉を与える事で不老不死をもたらすかどうかまでは分からないが。
 セレスティはふとテントの方に知った気配を感じて顔を向ける。どうやら零達が甘酒のテントにやってきているようだった。そして当の草間は連れ合いの彼女を怒らせたらしく、一人置いてきぼりをくらっている。
(おやおや)
 草間興信所は今日も元気ですね〜などと呑気に思いつつ、零達が来たのなら かわうそ?達ももう直ぐ神社に来るかもしれないと、ゆっくりと本殿へと戻った。


|Д゚)人(゚Д|


 ママチャリと共に神社に駆け込んだ かわうそ? は何時もの余裕そうな面持ちとは裏腹に、耳が少しだけうな垂れている。
 ママチャリから降りた拓海が、ニコニコと、
「沢山厄背負ったね、かわうそ?。それも女の子とか女の人ばっかり」
 大きなお世話だと言わんばかりの かわうそ? だが、セレスティを見つけると、その小麦色の手を振った。
「さっきのお兄さんだね。御神酒、欲しいんだっけ。でもお兄さんには御神酒は必要なさそうなんだけどな」
 意味深な言葉を吐いて、拓海は準備があるから。と社務所の方へとかけていく。
 そして当の かわうそ? は神社の宮司さんの後に着いて扉の閉まっている本殿へと入っていった。
 本殿の前や、甘酒テントに人が溢れかえってくる。
 そろそろ御神酒が出てくるのかな?とセレスティも周りの人達同様眺めていると、普段売られている御神酒の製造元から同じ酒を手に入れたらしい部下がセレスティを呼んだ。
 部下が同じように用意した車椅子にセレスティは一息つくと、
「普通のお酒ですね」
 本当に至って普通の大吟醸。これはやはり、祈祷や御祓いなどのありがたみが加わる事による効果なのだろうか。
 それに、さっきの少年・拓海が言っていた言葉。

『お兄さんには必要ない』

 あれは、何処からくる台詞か。
 流石に丸石の上では身動きが取れないので、敷石の上まで戻り、最後の禊の儀が始まる光景を見つめる。
 壮年の宮司が白い儀式用の瓶子を民衆に晒した瞬間、セレスティは眼を細めて微笑む。瓶子の中の御神酒が動く気配を感じる。
「おっ兄さ〜ん」
 古代大和の豪族のような格好をした拓海が、セレスティの後ろで立つ…いや、浮いている。
 ゆるゆるの微笑を浮かべて、へにゃっと顔を歪ませると、
「そういう悪い事はしちゃダメだよ〜。どうしてそんなに御神酒が欲しいのか知らないけど」
「ただの興味ですよ」
 場慣れしているセレスティは、そんな拓海に振り返り笑顔を浮かべて付け加える。
「まさか天津日子根命ご本人に会えるとは思いませんでしたけどね」
 このセレスティの言葉に拓海はきょとんと瞳を瞬かせると、肩をすくめてくすっと笑う。
「うーん、まぁいっか。アレはダメだけど、効果が低くてもいいなら直ぐあげるよ」
 このお祭りに使うための御神酒は毎年一年がかりで用意しているものだから、と。
「妥協するしかないですね。神様に逆らっては罰があたりますし」
 クスクスと微笑みながら冗談交じりそんな事を言ってみる。
「僕はそんな事しないよ」
「ええ分かっています」
 目の前の少年(に見える)神がそんな事をしないだろう事は百も承知でそんな言葉を発した。
 拓海はセレスティが抱えていた清比良神社で使われている大吟醸の一升瓶に手をかざし何かを強く握るような仕草を見せると、にっこりと微笑んだ。
「じゃぁね。お兄さん」
だんだんと姿が薄くなり拓海は手を振ると、思い出したように指を振ってこう言った。
「僕は天津た・く・み。だからね、お兄さん」
「はい、拓海くん」
 拓海が完全に姿を消すと、本殿の方でもなにやらあったらしくちょっとした歓声が上がっていた。
 セレスティはその光景を見つめていると、本殿から一つ目の龍が空へと駆け上がる幻を見た気がした。


|Д゚)人(゚Д|


 セレスティは手に入れた本家本元簡易御神酒を手に持ってレンへと赴く。
「これが、あの幸運の御神酒か!」
 男はセレスティが抱えている一升瓶に感嘆の声を漏らし、
「さぁそれを早くわしに!!」
 何をそんなに焦って御神酒を欲しているのかは分からないが、この男の焦りようは尋常ではない。
 セレスティは軽く首を傾げると、腕の中の御神酒に一瞬視線を落とし、男に顔を上げる。
「私は了承した覚えはありませんが?」
「なに?」
 狼狽する男に、セレスティは極上の笑みを浮かべると、
「興味はありますね。とはお答えしましたが、キミにお渡しすると言った記憶はありません」
 セレスティは男の横を通り過ぎるとレンの扉を開ける。
「蓮さん。珍しいお酒を手に入れたのですが、ご一緒しませんか?」
 扉の向こうで怒りに打ち震える男の姿が見える。店の奥から出てきた蓮が男の姿を見るなり、ふーっと長い息を吐いた。
「おやセレスティ。まさかあの男の依頼を受けて御神酒を手に入れてきたのかい?」
「えぇ」
 笑顔で持ち上げた一升瓶に、蓮はこれまはぁと笑みを浮かべる。
「セレスティ……?」
 扉の向こうで男があからさまに動揺したような声を漏らす。蓮は開け放たれたままの扉を閉めようと歩み寄ると、そんな男に追い討ちをかけるように、
「あんた、誰に物を頼んだか理解してなかったのかい?」
 その一言で男は力を無くしたように膝を折り、地面にうな垂れた。












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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1883 / セレスティ・カーニンガム / 男性 / 725歳 / 財閥総帥・占い師・水霊使い】

【NPC / 天津拓海 / 男性 / ? / 中学生】
【NPC / かわうそ? / 無性別 / ? / かわうそ?】
【NPC / 柏木深々那 / 女性 / 12歳 / 中学生兼神官】
【NPC / 草薙高良 / 女性 / 13歳 / 中学生】


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■         ライター通信          ■
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 Carnival 〜幸運の御神酒〜にご参加ありがとうございます。ライターの紺碧です。今回は同じ水を操る事が出来る者どうし拓海との絡みを多くさせていただきました。セレスティ様のプレイングにお酒に対する興味しかなかったので、ならば手に入れたお酒は楽しんでもらってしまおうと、この後蓮さんと杯を酌み交わしていただけたと思っていただければ幸いです。
 それではまた、セレスティ様に出会える事を祈りつつ……