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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


『放課後のオチビちゃん』



「ちゅうもっく!美理ちゃんに会いたい奴手ぇ挙げて〜っ!あ、冷やかしはナシな。ちゃ〜んとあの子と遊ぶつもりのある奴!」
 その日のホームルームが終わり、担任教師が教室から出て行き、生徒達が帰る支度や部活動へ行く準備をしている時、桐生・暁は手を上げて席から立ち上がり、教室中に響き渡る声をあげた。
 おかげで教室のざわめきは一気に静まり、すでに教室から出て行こうとした女子高生の集団までもが、暁の方を振り返っておかしな表情を浮かべている。
 暁はそんなクラスメイト達の反応など物ともせず、さらに声を大きくして言った。
「美理ちゃんの事は知ってるよね〜?そうそう、放課後になるとこの学校の一番奥の教室に出るって言う、子供の幽霊の事!俺さー、今日あの子のところへ行ってあげようかと、思ってるんだよね〜!」
 表情ひとつ変えない顔や、きょとんとした顔、何言ってるんだコイツ、というような数々の顔を見回しながら、暁は皆にいつもの明るい口調で話し掛ける。暁の視界の端に、数人の生徒が教室から出て行くのが見えたが、自分の話に興味のない生徒には用はない。
「興味のあるヤツだけ来なよ。いくら幽霊だからって、からかったり、意地悪したら可愛そうだしさ」
 数週間ほど前だったろうか。暁は用事があって職員室に入ろうとした時、この神聖都学園の教師である、響・カスミとどこかの女子生徒が幽霊の話をしているのを聞いたのだ。
 一年程前、この学校へ入るのを楽しみにしながらも、入学一ヶ月前に病気でこの世を去った幼い女の子、桜乃・美理。学校が大好きだったという美理は、入学前もこの学園内に入っては、教室で遊んだりしていたという。入学前、買い揃えたランドセルや勉強道具を見て、美理はどんなに学校へ行く事を楽しみにしていただろうか。
 その楽しみの中、早すぎる幼い命の死を思うと、暁はとてもやりきれない気持ちになるのだ。幽霊になってまでも学園内で遊ぼうとする美理に、少しでも楽しい思いをさせてあげる事が出来ればと思い、暁は美理に会いに行く事を決めたのであった。
「何だよ、桐生。お前暇人だなー。んな幽霊なんかどうでもいいだろ」
 男子生徒の一人は、暁をバカにしたような視線を向けて、さっさと教室を出て行ってしまう。
「その子供の幽霊って、物とか投げるって聞いたわよ。危ないんじゃないの?何かあっても自分で責任取りなよ」
 携帯電話のメールを打ちながら、女子高生の一人が暁に背中を向けた。
「別にいいじゃんかー、そこまで言わなくてもさー」
 数人の生徒達が暁の言葉を気にもせずに出て行くと、やがて教室内にざわめきが戻り、一人、また一人と次々に生徒達が教室から消えていく。
「何だ皆、ノリ悪いなぁ」
 暁がそう呟くと、後ろから声がかかる。
「暁、幽霊の子供がいる教室へ行くんだろ。俺も一緒に行くぜ?」
 いつも何かをする時は一緒の暁の友人の一人が、教科書を机の中に押し込みながら言う。成績はあまり良くないし、いつも教科書は机の中に置きっ放しの友人だが、暁のそばにいつもいて、高校生生活を楽しく盛り上げてくれる友人の一人・星耶(せいや)が笑顔を浮かべている。
「興味ない人を誘ってもしょうがないわよ、けど、あたしはその子には興味があるわね」
 すでに荷物をまとめ、暁のそばに近づいてくるのは、同じく暁の友人で理数系が得意な実月(みづき)だ。
「お前らなら来ると思ってたよ」
 暁が二人に答えてみせる。
「じゃあ、早速一番奥の教室へ行こう!美理ちゃん、もう教室へ来てる頃だしさ!」
 そう言って暁は、友人二人を連れて、まだおかしな目で自分達を見つめている生徒達を無視し、教室を後にした。



 その教室は神聖都学園の一番奥、一階の端っこにあった。
 昔は普通の教室として使われていたが、東京の少子化によって生徒が減った結果、空き教室となった場所であった。現在では授業で使う機材の物置に教室で、授業が行われている時間はともかく、放課後となれば滅多に人は出入りしない。
「小さなレディこんにちは〜!」
 いつもにも増して暁は、教室の前で大きな声を出す。
「お菓子もあるよ、一緒に食べよう!」
 しかし、薄暗い教室からは何の反応もない。
「美理ちゃん、いるんだよねえ?遊びに来たよ、出ておいで」
 暁が優しく、ゆっくりとした口調で語りかける。暁のすぐ横で、星耶と実月も教室へ顔を覗かせているが、その表情からして空いた教室以外、特に何も視界に入らないのだろう。
「しーんとしてるわね」
 実月が首を捻って呟く。
「何もないけど、この教室で子供を見たって噂があるから、間違いないよな」
 星耶が一歩足を踏み入れ、機材があちこちに置かれた教室を見回している。
「何もないよなあ、やっぱり…あっ、冷てえっ!!」
 星耶が慌てた顔で濡れた背中に手を当てる。
「水鉄砲じゃ〜。あははっ!」
「暁!お前何やってるんだよ!」
 友人をからかうために持ってきた水鉄砲に、水筒の中の水を入れながら暁は楽しそうに笑ってみせる。
「暁〜、お前が俺の事からかってどーするよ」
 呆れたような表情で、星耶が暁に視線を向ける。
「まあまあ、そんな怖い顔しないでよ、美理ちゃんと一緒に遊ぼうと思ってさ」
 そう言って暁は、星耶に続いて教室の中へ足を踏み入れる。
「学校を楽しみにしながら、命を落とした子供。さぞ無念だったろうな、美理ちゃんは。幽霊になってもここに出入りしているぐらいなんだ、よっぽど学校が好きなんだろうな」
 暁があたりを見回しながらそう言うと、急に目の前にあった地球儀が浮かび上がり、暁の方目掛けて飛んで来た。
「おっと!?」
 飛んできたといっても、決して強さはない。力のない者が単純に投げただけのようなその地球儀を、暁は見事にキャッチすると、そばの机にそれを置き、今度は古い地図帳が浮き上がるのを見て、静かに語りかける。
「美理ちゃんだなあ?そんなイタズラしたら駄目だよ、誰かが怪我をするかもしれないよ?」
 古い地図帳はしばらく宙に浮き上がっていたが、やがてゆっくりと床に落ちた。
「そんな事しなくても大丈夫だよ、さあ、こっちに出ておいで。一緒に遊ぼうよ!」
 暁が、何もない闇に向かって呼びかけると、しばらくの沈黙のあと、闇から背の低い人間の姿が現れた。髪の毛を後ろでひとつにしばり、白いワンピースを着た可愛らしい少女。しかし、その体は半透明で、瞳は開いているが、生きている人間の温かみはまったく感じない。
「お兄ちゃん、美理に会いに来てくれたの?」
 か細い小さな声で幽霊が言う。
「そうだよ、友達と一緒にね。さ、何をしようか。美理ちゃんの好きな事をしよう」
「美理、学校ごっこしたいな!美理、学校大好きだから!」
「いいねー、それはとても楽しそうだ。ねえ、星耶、実月」
 暁はにこやかな表情で美理から、星耶と実月に視線を移す。
「そうね、授業ごっこで遊びましょう」
「じゃあ、実月に先生やってもらおうぜ、俺ら生徒な、美理ちゃんも」
 
 教室の隅に放置されている机と椅子を並べ、最後はいつ使われたのだかわからない黒板に数字の計算を書き、実月がチョークで数字を指し示す。
「じゃ、この計算わかる人。暁君、答えて見なさい」
 実月がにやりとした表情で暁に言う。黒板に書いてある数式は、小学校一年生で習うような簡単なものばかりだった。暁は腕を組み、しばらく考えた後、実月に答える。
「せんせ〜い、わかりませ〜ん」
「駄目ねえ、暁君は。他に、わかる人」
 実月がそう言うと、美理がまっすぐに手を上げる。
「じゃあ、美理さん」
「はい、2+3の答えは5です!」
 美理が自信に満ちた、楽しそうな表情で答える。
「美理さん、正解です。さすがですね。暁君は、もっと勉強をするように!」
「はぁーい、先生。それにしても、美理ちゃんあったまい〜!」
 暁が驚いた表情で美理に言う。
「美理ね、学校へ行く前から沢山お勉強したんだよ。学校でね、もっと沢山勉強して、テストで百点一杯取るの!」
 幽霊とは思えないほど嬉しそうな目で、美理が暁に答える。
「凄いなぁ、そんなに勉強が好きなんて。そうだ、教室の外へも行ってみない?外にはもっと面白い事がいっぱいだよ?」
「おい、大丈夫か、そこまでして?」
 星耶がそれを聞き、少し心配そうに暁へ尋ねる。
「大丈夫、この学校で幽霊なんていつもの事だしさ。それに…」
 暁はそう言って、言葉をそこで止めた。
「まあとにかく、出来る限りの事はしてあげようよ、この学校での思い出を作ってあげたいしね」



 暁達は美理を連れて校舎を歩き、生徒達が部活をやっている校庭に出た。
 美理の存在に気がつかない者も多いようで、暁達が誰もいないところへ目線を下げて子供に話し掛けるような口調でしゃべっているのを、不思議そうに見つめていた。
「ほら、あそこで皆マラソンしてる。美理ちゃんとどっちが早いかな?」
 陸上部のマラソンに参加したり、テニス部の試合に混ざったり。普通ならどやされるところであるが、暁のその魔力的な魅力で、大抵のものは、そのまま暁達が自分達の部活に混ざる事を許してしまう。
 その間、美理は無邪気にテニスをやったり、校定を走り回ったりしていた。その姿を見ていると、生きていたらどんな楽しい学校生活を送っただろうと、少しせつない気分になるのであった。
「楽しかった!みんな、もう帰っちゃうみたい。また明日も部活やろうっと!」
 部活動の時間も終わり、生徒達が次々と下校していく。暁達はしばらく校庭で美理がはしゃぎまわるのを見ていたたが、日が暮れてきて、暁達のところへ美理が戻ってくると、顔を見合わせて美理へと口を開いた。
「美理ちゃん、今日は沢山遊んだなぁ!そいや、ちゃんとあの場所から出れたじゃん。最後にお母さん所行こうか」
 暁の美理に対する優しい口調は変わってなかったが、表情は真剣であった。美理がうん、行く、と言ったのを聞き、暁達はそのまま美理の母親がいる家へと向かった。

 最初、美理の母親の家へ尋ね玄関のチャイムを押しても、誰も出てこなかったので少し不安になったのだ。しかし、家の中の明かりはついていた為、中に誰かいるはずだと、失礼と思いつつ、しつこく玄関のチャイムを押しているうちに、中から疲れきったような表情の痩せた女性が出てきた。
「ママ!」
 その女性に真っ先に声をかけたのは誰でもない、娘の美理であった。
「美理ちゃん連れてきました」
 暁は美理とその母親を見つめながら、一瞬、自分の親の最期が頭を掠め、心の中が切ない思いで一杯になった。
「美理、こんな事って…」
「幽霊となって、神聖都学園に遊びに来てたんだ。美理ちゃんはとても学校が好きなんだね」
 暁がそう言うと、美理の母親はそのまま床へ泣き崩れた。
「ママ、美理、学校へ行けて楽しかったよ!お友達も出来たの。暁お兄ちゃん達が遊んでくれたんだ!ママ、ねえ、泣かないでよ、美理、今日は今までで一番楽しい日だったんだもの。だって学校でお勉強も部活も出来たんだもん!」
 次第に薄くなっていく美理の姿を、暁はただ黙って見つめていた。
「美理ちゃん、次の世に生まれた時は、もっと楽しい学校生活が出来るといいな」
 美理の姿が完全に消えた後も、暁はその消えた場所を見つめていた。
 その後、美理の母親を優しく慰め、家を後にした暁達は、すっかり暗くなった道を歩きながら美理やその母親の事を話していた。
「美理ちゃんがいなくなって、ちょっち寂しいかも?でもほんと良かったよね〜、あの親子。愛で無事解決だね!俺羨ましくなっちゃった〜」
 明るく言うが、暁はあの親子が本当に羨ましかった。友人達の前で、それを口にする事はなかったけれども。
「お前らもありがと。今日は楽しかったかな?」
 暁のその言葉に、星耶と実月が頷いて見せた。
 何となく見た暁の視界の先に、桜が咲いているのが見える。今年もまた新入生が新しい生活を始める季節になった。
 毎年咲き続けるあの桜の下を、いつか生まれ変わった美理が歩く日が、やってくるかもしれない。(終)

◆◇◆ 登場人物 ◆◇◆

【4782/桐生・暁/男性/17歳/高校生アルバイター、トランスのギター担当】

◆◇◆ ライター通信 ◆◇◆

 桐生・暁様
 
 こんにちは、新人ライターの朝霧青海です。今回も発注頂き、本当に有難うございました!
 明るい雰囲気で美理と遊ぶ暁君を、ほのぼのとしたタッチで、朝霧の小学校時代を思い出しながら描かせて頂きました(笑)また、暁君の友人の星耶と実月ですが、プレイングに友人と一緒に、とありましたので、名前も一緒に出してみました。友人に名前をつけるかどうかは迷ったのですが、友人とのやりとりを書く時に、男子生徒、女子生徒ではちょっと物語りにハリが出なかったので、NPC扱いとして名前をつけて登場させました。ちなみに、暁君なので、暁の空にちなんで星と月だったり(単純)
 ラストのあたりは、少しシリアスに描いてみました。美理が昇天してしまうという、少し悲しい雰囲気が出てればいいなあと思います。
 それでは、今回はどうもありがとうございました!!