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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


ハードボイルドワンダーディテクター


 この世界は、現実である。
 例え何かと比べて異なる世界だとしても、ここで生きてる限り、ここの住人には現実なのだ。逃げ出す術は幾らでも転がっていようとも、けして、ここから抜け出す事は出来ない、だからけして異なる世界では無い。
 けど、
 異常な世界なのは、確かである。
 人間が余りにも死にすぎる世界だからこそ、ディテクターは神隠し事件よりも遥か前に、この世界が作られた物だと、推理出来たのだ。
 だが、それだけである。それ以上、どうしようとは思わない。
 例えば今目の前で、着々と職務を果たす男に、化け物を無尽蔵に屠り続ける鬼鮫にこの事実を喋った所で、止まるだろうか?
(あんな顔で、あんな殺しだ)
 この世界は、きっとそう作られているのだろう、或いはそう仕掛けられているのだろう。そうなるように、殺しあうように、そう、
 きっと自分も――
 無頼の生き様、不思議な世界で、彼。
 三年前を望む人は居よう。この世界の宿命を、屠る方法を探す人は居よう。実際、ディテクターはこの異界の原因を、何かを、知っているかもしれない。だがディテクター、
 鬼鮫が余した怪異な人を銃で撃つように、
 ディテクターはこの世界で生きている、殺している、……、
 ――殺している
 、
 殺される宿命を、腹の中に抱えるようにしながら。
 幾つかの女性の顔が、彼の頭の中に浮かぶ。それは、義理の妹だろうか、興信所での人だろうか、
 昔不幸にした、女だろうか。


◇◆◇

 染みが、気になる?
 この異界じゃ世界こそ歪だ。

◇◆◇


 テレビの砂嵐を擬音語にしてみるテスト、ザー。さればある情けないおっさんに適応出来る、ザー。ザー、男の名、ザー、犬神・ウェスカー・椿、ザー、とある精神病院清掃員、ザー、アル中、ザー、元天才物理学者、ザー、ザー、ザー、
 現在はこの表現のよううっとおしく不快に触るイラつくような歪な姿になってるのに、
 ちいとも誰も見やしないのは、「……異界、か」
 アルコール臭い息だけは、住人の鼻は動くようだ。けど、それだけだ。こんな風になったちまった姿を、透明のように気づかないのです。嗚呼、満たされぬガラスのコップよりも存在感が薄い。
 こんなにも、姿がブレてるというのに。
 犬神・ウェスカー・椿。悲しいくらいおっさん。東京の、7キロ先でまた死体が生まれてるけど、誰も野次馬にゃいかない雑踏の中、まるで壊れたテレビが像のように、二重に姿が重なっていたり、それが唐突に戻ったり、けれどすぐまたブレたり、実際は足が地面に着いてるのだけどきちんと計って7cm空中へズレたりして、認識する、アルコール漬けと比喩出来る脳みそで、ここは異界なのだ。別に、テレビの中という訳じゃない、
(ああ……くそう、くそう)
 めんどうごとは嫌いだ。だからウェスカーは眩暈がした、その場に膝を崩す。すると、――声がかけられた。おっさん、何してんだ、って、けど、
 すぐにまた、声をかけた男は歩き出して。うずくまるおっさんが消えたかのように、姿が消えたという訳じゃなく、元々存在していなかったかのように。それが、この異界なのだろう。
「なんで、こんな目に……」
 この異界には、きっと自分がハナから存在しないのだ、と。
 殺しあう異界は、《世界から》三年後の異界なのだけど、本来なら三年後の自分が居てもおかしく無いのだけど、元々存在事体が歪んでる彼の性質なら、異界が受け付けずに三年後の彼を消去したのかもしれない。要らないおっさんだったのだ。
 それなのに、存在する自分が居る。存在したり、存在しなかったり、居るか居ないか、かごめかごめ籠の中の鳥は何時何時出会い、中略、正面は誰? 居るの、居ないの、定まらない。
 ともかく、嵌ってしまった。洗剤を探しに来ただけなのに。この万年筆で、“量子力学上「可能性は0%ではない」とされるあらゆる現象の確立を万年筆の一振りで200%に引き上げる”で、患者の妄想なる願いで作られた異界に、洗剤を。
 異界は、何ものかの妄想や想像、もしかしたら願いで実在する、と清掃員は知っている。実際自分が染みを拭き取る間、患者が語る空想の話は、異界としてあった。だから洗剤が切れた時はしばしば探しにいったのだけど、
 患者の妄想じゃない、異界に迷い込んでしまったのか。
 抜け出すには、知らなければならない。あらゆる法則を、この異界の法則を知らねば、可能性すら考慮できない。嗚呼、くそう、くそう、
「……酒」
 どんな場所に至って、酒が欲しい。けれど困った、切れかけの電球のように、存在が点いたり消えたりするなら、透明の間に簡単に盗めそうだけど、ビクビクしてる42歳にゃ盗めやしない。
 けれど買うにはどうしたらいいんだ。こんなにブレてちゃ、お金も払えない。
 アルコールの息を吐く、息は最早自分の存在じゃない、だから酒気だけが不思議に漂う。椿、居たり、居なかったりしながら、ともかく雑踏を歩いてゆく。探さなければ、
 法則を。


◇◆◇

 異界は、核となる霊が、人物が、化け物が、居る。なりかけの異界ならその核霊たる物を殺せば、鯨の夢が如く消滅するし。夢が現実となった場合、殺してもどうにもならぬが。
 それを探し出す事が、この異界を知るに一番速度がある。そういう意味で言えば、ウェスカーの現在の姿は、調査という意味じゃ優れてるのだけど、

◇◆◇


 酒が、切れた。手が、震える。
 腰に下げた酒瓶、もう中身はないのだけど注ぎ口を咥える。せめて中に残ってる酒気を吸引して、……余計イラつくのだ。
 存在が点滅する彼、酒屋の横の路地裏に腰を下ろす。猫も、鼠も、気づくけど、気づかない。彼は歩き回って、得た事がある。
 青の子。
 ……ウェスカーがここに来て経過した時間は三時間程だ、それだけで、名前は知れた。自分が歪になる程知識に貪欲な性格、……まぁその性質が、協力殺戮の術をも手にしてしまい、軍事大国の科学者から現在の身分におちぶれた。いやおちぶれたのか、肩書きは研究員だったが、無理矢理研究を強いられたのだし。けど、その事は今は関係ない、
 酒が欲しいと思う事と、空に向かって、

「青の子」と言う事は。そしてそれに、
「望ンダ人ハ初メテダヨ」
 返事が、あるのは。

 ……まるで宇宙人のような顔をした、微弱に青白く発光する、青い髪、青い瞳の、青い、子供。
 青の子。
「ドウシテ、」
 、
「僕ガココニ居ル事ニ」
 酒が欲しいと思う。思いながら、作り物のように微笑む物に、ぼつぼつと、
「……青い、から、青空」
 、
「そこなら……この異界を見渡せる」
 青い光、闇の中に潜めば、人はその闇を求めるけれど、
「青空に何があるかなんて、誰も知ろうとしない」
 もうワイヤーを使うかのように浮遊する、青の子はみつめない。地面に向かって小さな声で。けれど、青の子は聞こえる。
「流石世界ノ存在ダ、呆気ナイクライダ。世界ハ、知識ヲトテモ得ヤスインダ、ソレニ」
 異界の法則に巻き込まれないからと、不思議な音程で少年が語ると同時、
 もたれていた壁が崩壊する。
 酒屋の壁が崩壊する。建造物を食い荒らす巨大な蛾、歯の間に、人間の、その牙、ウェスカーへ、けど、
 だけど、
「死ナナイ」


◇◆◇

 世界の存在は死にやしない。

◇◆◇


「ケレド、ソレガ弱点デモアルンダヨ」
 崩れた瓦礫も、彼を押し殺す事は無い。二重にブレるウェスカーは、死なないし、
 殺せない。
「……それは、……、ああ」右手に冷たい発泡酒の缶がころがってあたった。迷う意味は無いから彼はそれを掴んだ。プルタブをあける、――泡が噴き出て服にかかる、汚れるのは嫌だ、潔癖症なんだ。けど酒は飲んで、
 大きくゲップをした後、また地面をみつめながら、
「弱点か……?」
 大量の殺戮手段を発見しても、ウェスカーは殺そうとしない。それは優しさというよりも、きっと、
 怖いのだろう。子供のように、実際、アル中なのに更に震える。秘密を知って殺される恐怖に脅えたおっさん、いっぱい殺せる手段を知って怖がるおっさん、
 酒を、呑む。酒を。
 青の子を見つける事は出来た、でも、まだこの異界から抜け出す手段は、法則は解らない。まだ知らなければいけない事は、それは、
「何者」
 なんだろうかと続けるよりも、そもそも何を企んでるかよりも、この異界が生まれる法則よりも、
 彼は、瓦礫の中に転がった無事な日本酒の瓶を探しに、壊れた酒屋へ。けれど大抵は無残な結果だ、人のように。無事な物は紙パックに入っていて、
 青の子はとうに去っている。探したいという願いはもう無くなったから。今彼は酒を求めている、全身を殺すような酒を望んでいる、犬神・ウェスカー・椿、
 彼の目は死んでいる魚だ。
 それすらも、二重にブレる、異界における彼という世界の存在。


◇◆ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ◆◇
 5037/犬神・ウェスカー・椿/男/42/元天才物理学者/清掃員

◇◆ ライター通信 ◆◇
 青の子遂に登場。(えらい久しぶり
 どもどもエイひとでーす(漫才の出だし風挨拶)まず最初に、プレイングの一部に、その時点では納品してないシチュノベの《リサルト》を考慮にいれた文があったので、今回は踏まえていまへん。といってもその部分は少なかったんで、省いても支障にはなってないと思います。以後ちょっぴり気をつけてくださいませ。
 世界PCの介入、青の子の捜索というプレイング、二つの初めてにつけくわえ、PCのキャラクターデーターも踏まえ異界の謎が解ける結果に書かせていただきました。もしこれからも参加していただけるのでしたら、話の展開なるドアをどんどんこじあけていく感じでしょうか。でもちょっと間違えるとひたすら酒を飲みそうでもありますし(えー
 今回は参加おおきにでした、またよろしくお願いします。
[異界更新]
 犬神・ウェスカー・椿、42歳のおっさん、世界PCとして介入。(世界PCなので《現時点では》異界PC一覧には更新無し。今までの依頼等で補足)
 世界の存在ゆえか、ウェスカーの性質ゆえか、何よりもその行動ゆえか、青の子が普段は青空に潜んでいる事判明。正体や企みなどはまだ不明。