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神の剣 異聞 Invisible Blade ３ 黒崎狼編
あれから友情を深め、退魔行も２人で行う事が多くなる織田義明と衣蒼未刀。
義明は未刀に剣と神秘を教えていた。
彼は知識を徐々に物にしていく。
あなたも未刀の変わる姿が楽しく思えた。
ある日、２人は大きな仕事に出掛ける。まずは下見だ。
どうも、おかしなマンションがあるらしい。死人の山を見つけたと通報が入ったのにも、駆けつければ、そんなことは全くなかった。
警察では全くわからないようになったため、長谷家に“仕事”が来る。其れを通じて、義明達が仕事を受け持つ形になった。
故に、建築家でもないが、下調べで一度訪れる。義明。
「異様な気分になる」
未刀が呟く。
「固有異界か？ 超越するための儀式なのだろうな」
「超越……こんな能力をもって何を得たいのだろう？」
「何、霊長の魂の高みを目指すなど、魔術師を筆頭に神秘使いにとって基本的なことだ」
「そうか……」
お互い、まずは間取りを調べた後、本業準備の為に一度戻る。
“気配”がする。
「魔術師か……三滝を思い出す」
義明はごちた。
「三滝？」
「ああ、前にかなり戦った死者の魔法使いさ」
――あの神の子に封門の剣士か……。
――嬉しいぞ……織田義明、衣蒼未刀……そして……
“気配”は喜んでいた。
〈臭い〉
黒崎狼がその地に足を踏み入れたとき、なじみ深いそして厭な“臭い”がする。
「感じるか？」
彼に訊いたのは義明と未刀。
「ほんとう、反応同じだな」
「そうか？」
「それは、ともかく。プンプンするな。これだけの“死の臭い”。これだけあるっていうのに、アイツ職務怠慢だ」
「ああ、あいつか。多分恋人の怒りを収めている最中じゃないのか」
と、狼の言葉に義明は笑って答える。
狼は死者の国の者。死神の類なのだ。故に“予め予期された死を迎える者”を導く使命を帯びていても問題はない。その存在は邪悪ではないため、義明は何も言わない。逆に親しみを覚える。ある少女と親しく花に好かれることが何より“自然”である証拠だからだ。
「ああ、後で俺が更にコテンパにしてやるよ」
狼が笑って言う。
因みに話のネタになっているのは織田義明を一方的にライバル視している死神君だ。彼について語ることは別の機会に置いておく方がいいだろう。
「これだけ、閉塞感と狼が言う、“臭い”が在るとなると」
未刀が考える。
「一度、引き返して準備をした方がいい」
その言葉に２人は頷いた。
今回は下見なのだ。
向こうは察知して居るが未だ手を出さない模様。
相手がくってかかる前に一度、引き返す方がいい。
「マンションから奴さんは逃げないようだな」
狼はマンションを睨み、後にした。
〈突入〉
「成る程」
義明は様々な情報を再整理する。
「死の臭いがしたのは地下。どこかに隠している」
「じゃあ、何かな？ 空間とか奴さんの考えていることはよくわからないが、死の臭いを充満させて“超越”するって事か？」
「リッチという英古語を元にしているアンデッドがいるが、敵は其れではなく、神の力を手に入れようとしているのは確かだろう」
「そうか、死に関しては俺が詳しい。人間が勝手にしている何かの実験とかは義明や未刀に任せた」
と狼が義明と未刀に言う。
「餅は餅屋ってことか」
未刀は言った。
「まさしくそうだ」
未刀の言葉に、狼は頷く。
「義明が判断してくれ、ヤツが何者なのかとか。俺は其れにフォローする方向で動く」
と、狼はペンダントに少し触れた。
そして、義明の薦めで護符や鋼糸など、退魔道具を揃え。もう一度、あの死のマンションに向かった。
もう潜入する必要はなく、そのままマンションに戻ってくる。正面突破である。
地下に何かあるとわかるため、一度エレベーターで降りていく。
「なんだ？ 普通の駐車場じゃないか」
と、３人は漏らす。
「……と、見せかけでは、な」
しかし、すぐにわかった。
「実際に使われているが、異様にエレベーターの距離が長い気がする」
義明が言うと、狼も未刀も頷いた。
『察しが良いな……』
頭に響く謎の声。
「奴さんが挨拶か……」
狼は気配を探る。
――え？
そう、死の臭いもそうだが、この建造物全体に、その謎の声自体の気配を感じるのだ。
「一体化しているというのか？」
目を丸くする狼。
「そう、らしいな……」
義明は水晶を、未刀はInvisible Bladeを抜刀する。
『威勢の良いことだ』
謎の声は笑い始めた。
〈死の獣〉
建物は異質なモノだった。
コンクリートから、石人形が現れたり、槍襖が飛び出してきたり、デタラメも良いところなのだ。
「こなくそぉ！」
狼が石巨人の拳を躱わして、触るだけでソレを石榑にした。
背中には黒い翼が羽ばたいている。
義明と未刀は、流石と言ったところで、あらゆる攻撃を躱わして破壊していた。
３人が背中を合わせ。
「なぁ、死霊術使っているんじゃなかったのか？」
「僕に言われてもわからないよ」
「狼、死の臭いだけはわかるか？」
と、襲い来る石人形たちを倒しながら話す。
「ここの天井だ」
狼は指を差す。
「「よし……すこし、離れて」」
また義明と未刀が狼に同時に言った。
――考えているのも一緒かよ？
未刀は“紅魔”を召喚、義明を守り、教えて貰った剣を巧く使っていく。
同じように、狼も護符や鋼糸に一時命を与えて障害を打ちのめした。
義明は、独特の突きの構えを天井に向けて……。
水晶が……槍に変わっていく。
ソレを……投げた。
ガラスが割れるような音にラップ音。
そして……周りの敵が塵となったあと……土煙で周りが良く見えなくなる。
その中で
狼と義明、未刀は視た
天井に、中地階に続く“作られた穴”があると……
〈魂の牢獄〉
３人は軽々そこに立った。
「ひでぇ……臭い」
狼が呟いた。
彼が言った臭いは、一般に言う“死臭”というのは違う。
狼が気配を臭いに置き換えただけだ。
無機質にボイラーや様々な機器が無造作に置かれている場所であり、そこには様々なパイプなどがある。 奥には、無数のチューブがあり、そのチューブ全部がそこにある大きな水たまりに浸かっている。
「水たまりから臭いがする」
用心して、狼が近づく。
それが、
どんなに
残酷なものか
狼は憎悪を顔にだした
そのプールは、魂の牢獄だった。
「ひでぇ。帰るべき場所、本来あるべき所に返さなきゃならないのに、留まらせやがって！」
そう、その水たまりは、狼が良く眺めていた、河の水に酷似している。
ソレを何らか加工し、牢獄にしているのだ。
「無数のチューブから、魂の情報を取り出し、あたかも生きているように見せかけているだけのようだ」
未刀は術師としてその仕組みを読みとった。
「そのようだ。此処まで特異な所。普通なら脳髄保存がこの世界で最高の方法らしいが……これは師・エルハンドの“幻想世界”と同じような仕組みだ」
義明……いや、影斬が周りを警戒しながら、答える。
『ソレをどうする？』
また謎の声がした。
「決まっているだろう！ 解放するに……っ」
「危ない！」
狼が叫び返すと同時に未刀が彼を突き飛ばした。
「え？」
未刀に幽霊のようなモノがまとわりつく。
「ばかな事をするな！ それ……」
いや、あれは“死”ではない……
「幽霊でもないのか！」
「未刀は考えてやったと思え！ 狼！ 己の役目を！」
影斬が、襲ってくる白いものを切り裂く。
「あ、ああ！」
友人に助けられ、あの状態にさせた狼は歯を食いしばった。
おそらく、あれは……
魔力の塊なのだと……思った
狼が今出来ることは只、未刀を救うことと
――今囚われている魂達を自由にしてあげること！
ペンダントを握り、外して捨てた。
人の姿はなく、急激に翼を持った獣となる狼。
水たまりの構成上この姿にならないと、破壊できないと悟った。
その姿になった狼が意識を保てるのは僅か。しかし、ソレで充分だ。今なら、謎の声の攻撃も無効しており、怪力で水の毒さえも意味もなさず、プールを破壊した。
そこで……マンション自体を支配していた死の臭いが無くなった。
『私の塔が！ なんと言うことを！』
――上？
気配を察知した獣は、俊敏に謎の声を追っていく。
近くにあった怪談を駆け上り、鉄の扉を豪快にぶちこわした音を響かせる。
その中で、相手と大きな戦いをしている音と地響きがしていた。
「未刀」
「大丈夫……だ。それより狼を……元に戻さないと」
何とか鋼糸に霊力を込めて解呪し、難を逃れていた未刀。
「ああ、彼は私たちを信じて獣化した。完全暴走する前に止めに行こう」
影斬と未刀は、ペンダントを拾って狼の後を追う。
その速さは獣となった狼よりは劣るが、人間離れしていることは確かだった。
〈決戦〉
１４階で死の獣と謎の声は対峙していた。
狼の獣の姿が闇に染まった翼の魔狼であれば、その相手は影だった。
闇と死の戦いというのは永遠に続くらしい。
既に狼は人間として意識はなく本能で戦い、影を追い込もうとしている。
「さすが、死者の国の獣よ！」
笑う影。
その取り巻く“何か”は獣に不快感を与え、憎悪を燃やす。
死霊術での魔法を繰り出すが、元から死霊に通じる獣に効果はない。
純粋な魔力の迸りが、徐々に獣を傷つけていく。
かといって、死の爪が影を掠めて行き影も、死の影響を緩和している。
たどり着いた影斬と未刀は、影と互角に戦っていることで、お互い別の驚きを見せた。
未刀は、狼の真の力に。
義明は影の“存在”に。
「未刀、狼にアレを渡すんだ！」
「ああ、影は任せた。義明、アレを知っているのか？」
「とある“現象”で舞い上がっている、三流魔法使いだ」
と、２人は同時に駆けた。
「狼……痛いけど我慢してくれ」
未刀は、鋼糸とペンダントを繋げ……
友人を霊力付与鋼糸で絡め取った！
獣が苦しみを上げる！
それは、自我を取り戻し、自分をコントロールする苦痛だった。
しかし影はそんなことを知るわけが無く、
「ふはは！ 仲間割れか！ ２人もろとも……」
と、影が何か特大の呪文を唱え始めたときだ、
「解・現象離反」
と、影斬が気配を一切無くした状態で、影を斬り裂いた。
――真の三滝なら、これぐらい躱すんだけどな……。
影が離れ、本来の姿に戻る。只の人間だった。
そして残った影は絡められた狼に取り憑こうとするが。
「寄るんじゃねぇ……」
と、反獣半人状態の狼が、かぎ爪で影を斬り裂いたのだった。
霧散する影、疲労してもう動けない影だった人間。
「まったく、人間がすることはよくわからん」
と、狼が人間に戻って呟いた。
〈それから〉
事件から数時間後。
「あの影は“現象”というモノが視覚化したものなのか？」
現場のテントで、代えの服を貰って着替えた狼がココアをのみながら、義明に訊いた。
「現象の名前はおそらく、俺が前に倒した“三滝尚恭”。死に関して超越しようとした、屍術師だ」
「ソレは前に聞いたな。本当にそいつだなんて」
未刀が驚いている。
「まて、魂はすでにアイツが捕まえたはず？ なぜ？」
「現象化は未だ説明が付かない。世界現象レベルにはなら大体科学でわかるのだけど。三滝現象は朝になったら全てを悟ったとか、知識や秘術が常に何かに与えうるものだ。よほど三滝は魂の超越をしたかったらしい。元から死という概念がない分、視覚化した部分が“死んだ”と思う。現象自体は殺せないんだ……」
義明は少し悔しそうだった。
――倒しても尚、まだあれと戦うことが。
「ま、どっちにしても……仕事は終わったんだ。だから義明、あまり深く考えるな」
と狼が、義明の肩に手を置いた。
本来なら、死を誘う手であるが、今では友人を気遣う、優しさに満ちていた。
「ああ、ありがとう」
義明は笑う。
「未刀、自我を取り戻させてくれてありがとな」
「何、狼とは友人だ。助けて当たり前だよ」
と、未刀も笑う。照れているのが何となく可愛かった。
長谷家の事後処理班が、帰って良いと言うことと仕事料をその場でもらった３人。
「さて、疲れているけど、遊びに行こうか？」
と、義明がとんでもないことを言った。
「おいおい、怪我は治して貰っているけどさ、霊力やら結構消費しているじゃないか？」
苦笑する狼と未刀。
しかし、狼がポンと手を叩く。
「常花の館にでも行こうか？」
と、狼が提案する。
「土産物も持って」
「それはいいな」
と、また同時に反応する義明と未刀。
あそこでのんびり眠れる場所もある。
謎の巨大薔薇に気をつけることや、主人に対して過保護でイヤミな執事の文句さえ受け流しておけば、あそこは良い場所だ。
仕事疲れを癒すにはもってこいの場所、３人揃ってくつろげるだろう。
何より、狼にとって、あそこであの死神が来たら虐めることが出来るので尚更良い。
義明という味方もついて楽しめそうなのだ。
――未刀の教育に悪い気もするが、ソレは横に置いておこう
歩きながら、狼と義明、未刀は談笑してその館に向かった。
４話に続く。
■登場人物
【1614 黒崎・狼 16 流浪の少年（『逸品堂』の居候）】
【NPC 織田・義昭／影斬 18 男 天空剣士／装填抑止】
【NPC 衣蒼・未刀 17 男 妖怪退治屋（家離反）】
■ライター通信
滝照直樹です。
『神の剣 異聞 Invisible Blade ３』に参加して下さりありがとうございます。
フォローどころか、出番有りまくりの狼君でしたが如何でしたでしょうか？
最後の４話はフリープレイングであります。彼らに対しての気持ちなどを書き添えて、プレイングとなるでしょう。それにより、３人との関係がわかります。
では、機会が有れば４話にお会いしましょう。
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