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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


ハクリの森

オープニング

 草間興信所にやってきた一人の中年男性。
 その男性が言うには最近「山」を買ったらしい。
 だけど、その山では昔「大量虐殺事件」が起こりその呪いのようなモノが存在するという。
 夜中の二時頃に殺された村人が出てくるのだという。
 そして、それを見たものを憑き殺してしまうそうだ
「…村人?」
 男性の話を聞いていたところで草間武彦が怪訝そうな顔で問いかける。
「はい…大量虐殺は…一つの村の人間が全て殺されてしまったのです」
 よくもそんな山を買う気になったものだ、草間武彦は口にはしなかったが心の中で毒づいた。
「でも…あの山にはオマモリサマがいるんです」
「…オマモリサマ?」
「はい、白髪で少年の姿をしていると言われてます。村人が殺された村の名前もオマモリサマの名前を取って
ハクリの村と呼ばれていたそうです」
「ハクリの村、ねぇ?」
 その男性の依頼は亡者となってしまったマヨイビトたちの霊を沈めてほしいというものだった。
「よろしくお願いします」
 そう言って男性は頭を下げて草間興信所を出て行った。
「午前二時に現われるマヨイビトか…」

 偶然、その場に居合わせた貴方だったがその依頼をどう解決しますか?


視点⇒水鏡・千剣破

「オマモリサマ…それに午前二時に徘徊するマヨイビトですか…」
 千剣破は草間武彦に渡された資料を見つめながら小さく呟いた。
 そして、同時に久々に巫女らしい仕事だなー…と呑気に思いながら、再度資料に目を通した。
「大丈夫か?少し…というか、かなり危険と言える依頼なんだが…」
 草間武彦が千剣破を心配する素振りを見せながら話しかけてくる。その言葉に千剣破はにっこりと笑って「もちろん大丈夫ですよ」と答えた。
 とりあえず依頼を受けた千剣破は準備のために自宅へと一時足を向けた。
 相手が幽霊なら清めの水の出番だろうとペットボトルに浄化した水を入れ、持っていくバッグに入れた。
「…………うーん…まだ春先だし…冷え込む、よね」
 千剣破は誰に言うでもなく呟き、棚に置いてある『あるモノ』へと視線を移した。
 その『あるモノ』とは…――。
「やっぱり温まるにはこれよね」
 うふふ、と笑いながら千剣破が手にしたものは日本酒だった。いくら虐殺があったとは言え、村に桜の一つや二つは咲いていることだろう。月と桜を見ながら日本酒を嗜む。何て風流なんだろう、千剣破は想像しながら薄く笑う。
 もちろん目的を忘れたわけではない。マヨイビトを鎮めるという目的。未練を残し、この世からあちら側へと逝けないのならば、千剣破がそれを手伝ってあげなくてはならない。
 きっと、オマモリサマもマヨイビトもどちらも苦しんでいるはずだから。
「とりあえず、問題の山に行かなくてはいけませんね」
 準備したバッグを抱え、タクシーで問題の山まで向かう事にした。

「…お客さん、本当にここでいいのかい?」
 人気のない山に来て、タクシーの運転手は訝しげな目で千剣破を見つめる。
「えぇ、ここで結構です。これは代金です」
 千剣破は代金を払って、タクシーを降りる。夜なのだから暗いのは当たり前なのだが、時間の問題ではなくて、何かが押しつぶしているような重圧感を感じる。
 依頼人を疑っていたわけではないけれど、本当にこの山には何かが存在するようだと千剣破は溜め息まじりに心の中で毒づいた。
 山の入り口から、村までの道のりはそこまで遠い事はなかった。村が見えてくる距離に近づくと満開に咲いた桜が千剣破の目に入った。村の住人がいなくなっても桜は変わらずに咲き続ける。この桜たちはどれだけの年月を一人で咲いていたのだろう、千剣破は桜の前で立ち止まり、桜を見上げた。
「丑三時までもう少し、まだ時間がありますね」
 千剣破はシートを広げて、腰を降ろしバッグから日本酒を取り出した。夜空に浮かぶ月に満開に咲く桜、この二つが揃って花見酒を飲まないという日本人はいないだろう。
 花見酒を飲みながら、マヨイビト、そしてオマモリサマについて千剣破は考えていた。だが、何も案は浮かばずにどうしようか、と迷っていた時に異変を感じた。
 村の中央に石像があり、その石像から微弱ながら霊力を感じて千剣破は眉を寄せた。
「…そこにいるのは誰ですか?」
 千剣破は立ち上がり、石像の近くまで行くと静かな声で問いかける。その霊力の主はおずおずとしながら千剣破の前に立った。
「お姉さんはボクが見えるの?」
 千剣破の前に現われた人物、白い髪に白い瞳を持った一人の少年だった。
「…もしかして…オマモリサマ?」
 千剣破の言葉にその少年はにっこりと笑って「村の皆はそう呼んでくれていたよ」と短く言葉を返してきた。
「まさか…こんな小さな男の子だなんて…」
「こう見えてお姉さんの十倍以上は生きてるよ…と言っても霊体でだけどね」
 クス、と笑いながらオマモリサマ…ハクリはそう呟いた。
「…あたしはマヨイビトを浄化しに来たの、時間までまだあと少しあるし、付き合わない?」
 千剣破は日本酒をハクリに見せながら言うと「いいよ」とハクリはその場に腰を降ろした。
「一つ聞きたいのだけど…ここ最近を騒がせている崇りって…」
 千剣破がハクリに問いかけると、ハクリは俯きながらキュっと唇を噛み締めた。
「村人がマヨイビトになってしまったのは…ボクのせいなんだ」
 ハクリの言葉に「え?」と千剣破は聞き返す。
「ボクは村を守るものとして、この石像に奉られていたんだ。だけど…あの日…この村がなくなってしまったときに村の皆は逃げる事はせずに…ボクの…この石像を守ったんだ。村に生まれた人間は生まれつきボクを視る能力が備わっていたからね…」
 それからもハクリは淡々と語りだす。
 村の人間はこの石像を守るために死んで、死して尚も石像を守るためにマヨイビトと化して村に近づく人間を殺しているのだとか…。
「ボクさえいなければ、村の人たちがマヨイビトになることはなかったんだ…。だから、ボクのせいなんだよ…」
 ハクリは弱々しい声で呟き続けた。その時、回りの空気がフッと変わったのを千剣破は感じた。時計に視線を移せば時間は午前二時。マヨイビトが現われる時間だ。
「迷える魂なら、浄化してあげるのが最善の策だとあたしは思う。だから躊躇わない。それでも…構わない…?」
 ハクリに問いかけると、ハクリは首を縦に振り「おねがい、もう眠らせてあげて」と懇願してきた。
 千剣破はハクリの言葉を聞いて、バッグから清めの水を取り出し、マヨイビトに向けて放った。いくら哀れな魂たちとは言え、殺戮を繰り返してきたことには変わりがない。だからあちら側へと行く際に苦しみがあるだろうが、それを超えた後の彼らに待つのは安らぎだけ。だから、千剣破は迷うことなくマヨイビトたちを浄化した。


「これで、ボクも眠れるよ」
 ハクリはにっこりと笑いながら溶けるように消えていった。
「あなたと村人達を祭る慰霊碑を建てるように依頼人に言うわ。だから、もう迷うことなく…眠って…」
 空へと消えていくハクリを見ながら千剣破は小さく呟いた。
 その後、マヨイビトが現われたという噂はぱったりと消えた。






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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

3446/水鏡・千剣破/女性/17歳/女子高生(巫女)

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■         ライター通信          ■
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水鏡・千剣破サマ>

初めまして。
今回は「ハクリの森」に発注をかけてくださいまして、ありがとうございました!
…それなのに!納品が遅れてしまったことを深くお詫びします。
「ハクリの森」はいかがだったでしょうか?
少しでも楽しんでいただけたらありがたいです。
それでは、またお会いできる機会がありましたらよろしくお願いします^^;


                   −瀬皇緋澄