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<東京怪談ウェブゲーム あやかし荘>


『時には厳しく☆』



「いってきまーす!」
 今日も元気な声で、あやかし荘で暮らす小さな男の子、川野・綾(かわの・りょう)は幼稚園へと出かける。
「きゃっ!」
 あやかし荘の前を掃除していた因幡・恵美はあやうく綾とぶつかりそうになり、反射的に横へと飛びのいた。
「綾君、もうちょっとゆっくり歩いた方がいいと思うけどな」
 恵美が綾にそう注意するが、綾はとっくにあやかし荘の門をくぐって走ってしまう。おかげで、せっかく恵美がほうきで集めたちりは踏み荒らされ、ところどころに散乱してしまい、掃除のやり直しだ。
「おはようございます、恵美さん」
 綾に続いて、今度は母親である美佐が歩いてくる。黒髪のおっとりした女性で、恵美に会釈をすると、綾に追いつこうと小走りに恵美の前を通っていく。
「あのー、川野さん、綾君、元気があるのはいいんですけど、人のそばを通る時はもうちょっとゆっくり通ってもらえると…」
 恵美が遠慮しがちに言うと、美佐は申しわけなさそうに小さく笑って答える。
「あら、ごめんなさいね。後でちゃんと注意しておきますから」
 決して悪い母親ではない。子供に甘すぎるのだ。嫌われる事を恐れてしまったら、子供にしつけなどは到底無理。恵美は綾の将来が、いささか心配になったのであった。



「んー、なるほど。過保護に育てられて、我侭になってしもうた子がいるんやな」
 あやかし荘の前で自動車の修理をしながら、吏綿徒・朱樹が恵美に返事をした。
「そうなの。悪い子じゃないけど、正直困っているわ。あのまま大きくなったら、良くないと思うの」
「そうやな、躾はしっかりせなあかんもんなあ。せやけど、うち、あまりびしっと言うのは得意やあらへんで?」
 朱樹は自動車の下に入り込み、裏側から点検をする。
「うちが出来る事言ったら、せやなあ、一緒に遊びながら、躾ける事ぐらいやな」
「それで十分だと思うわ。とにかく、親御さんがきちんとしないといけないし、他人から言う方は効果的だと思うの」
 機械の油汚れで顔を真っ黒にし、朱樹が自動車の下から滑り出てくる。
「それなら、うちがその子の事引き受けてもええで?遊びを介して行う躾で良ければな」
「有難うございます!近くに、川野さんのご両親が旅行へ行くと聞いたわ。その間、あの子の面倒見る人がいなくて困ってたんです。朱樹さんに是非お願いするわね!」
「了解や。何とかして、その子に何が大切なのかを教えてやるさかい。後、自動車の修理終わったで?」
 バンと、自動車のボディーを軽く叩き、朱樹は恵美ににこりと笑顔を見せた。
「色々と有難うございます。これ、川野さんところの自動車なの。調子が悪くてこれじゃ動けないと言ってて。朱樹さんにお任せしたら、何でも修理出来てしまうから、ついでにお願いしてしまったの」
「何、機械の修理と改造はいつでも受けたまわりますんで、これからもよろしゅうな!」
 朱樹は油だらけの顔と手をタオルで拭き、元気良く恵美に言葉を返した。



「さて、綾君。お父さん達がお出かけしている間は、このお姉さんが面倒見てくれる事になったわ」
 恵美が優しくその男の子に言うと、男の子は朱樹の顔をじっと見つめて、きょとんとした顔で答えた。
「お母さん達、いつ帰ってくるの?」
 朱樹は恵美に案内され、綾の住む部屋へと案内されていた。親子3人が住むには少し狭いと感じる部屋であったが、可愛らしい飾り付けが部屋のところどころにあり、部屋の雰囲気を親が子供に合わせているのだろうと、朱樹は感じていた。
「明後日には帰ってくるわ」
 と、恵美が答える。
「初めましてやな。うち、吏綿徒・朱樹って言うんや。機械の修理や改造の仕事やってるんやで。色々な機械を修理出来るんやけど、綾にはまだ関係ないかもしれへんな。ま、気軽によろしく頼むで?一緒に楽しく遊ぼうなあ」
「うん、いいよ」
 意外にも素直に答える綾に、ひとまず朱樹はほっとする。聞いていた限り、かなりの我侭だと言う事であったから、とんでもない悪ガキとも思ったのだが、実際にあった限りではそうでもなさそうだ。
「それでは、私はそろそろ行くわね。朱樹さん、後はよろしくお願いします」
 そう言って、恵美は部屋から出て行った。コツコツと恵美が遠ざかっていく音が耳に入り、やがてその音も聞こえなくなったところで、綾が朱樹に言う。
「ねえ、つまらないから何かしよ」
「そうやな、せっかくやしな。綾は何をして遊びたいんや?うち、何でも一緒にやったるで?」
 朱樹の言葉を聞いて、綾は少し考えたようにして、やがてテレビの下にある引き出しを開けた。
「テレビゲームやろ!」
「そら面白そうやな。任しとき!」
 テレビゲームのコードをテレビにつなげ、ゲームCDをセットする。綾が選んだのはパズルゲームだった。ブロックを単純に積んでいくだけのゲームなのだが、これが綾がなかなかうまい。最初は手加減して負けてあげようと思った朱樹であったが、そんな事しなくても十分なほど、綾はこのゲームが得意のようだった。
「うわー、また負けた。綾、えらいうまいなあ」
「うん、ずっとね、練習したんだ」
 画面を見つめながら、綾が得意げに話す。
「ずっと練習してたんや?」
 その綾の言葉が気になり、朱樹が綾に言葉を返した。
「家で沢山ゲームやってたって事なんか?」
「うん。ママがずっとやってていって言ったから」
 これぐらいの年齢の子供が、ゲームを上達させるにはかなり練習しないといけないのだろう。疑問に思い、朱樹はもう一度綾に尋ねた。
「綾、一体どれぐらいゲームの練習をしたんや?」
「んとねー、家に帰ってきたらずっと。寝るまでやってる時もあるよ。ママがやってもいいって言うの」
 小さく息をつき、朱樹はそれを聞いて綾に答えた。
「なあ綾。ずっとゲームばかりやるのは体に良くないで?ママがいいって言っても、ずっとやっているのはあまりな」
「何で?どうして駄目なの?ママは良いって言ったよ?」
 不機嫌そうな顔で、綾が朱樹をにらみ付ける。
「家にずっと閉じこもっていると、体が運動不足でぶよぶよにになって、目が悪くなってデメキンみたいになるんやで?」
「本当?」
 そのあたりを素直に聞いているところが、まだ子供なのだろう。
「そや、これから外へ遊びに行かへんか?外で遊ぶのも楽しいやろ?」
 ところが、朱樹の言う事を綾はまったく聞かず、首を強く横に振った。
「やだ。綾、ゲームやりたいもん!」
「そやけど、ほら、外は天気も良さそうやで?今はちょうどいい気候やしな」
「やだ!!!」
 あまり室内に閉じこもるのも教育には良くないと思った朱樹であったが、綾がそばにあったゲームのケースを投げつけたので、それが朱樹の腹に直撃した。子供の力で投げられたものだから、それほど痛くはなかったが、綾はそれでもまだ、まわりのものを朱樹に投げつけようとするので、朱樹は少しだけ強く言った。
「綾、物を人に投げつけたらあかん。ほら、こんなに投げたりしたら、物が可愛そうやで。人も物も同じや、優しくせんと、嫌われてしまうで?」
「綾、嫌われてなんていないもん!」
 綾は不満げに呟いた。
「綾が友達に何か投げつけられたら痛いやろ?今のも一緒や」
 綾は下を向いて黙ってしまった。
「わかったかいな?とにかく、嫌だからって物を投げるのはやめなあかんで?わかったら外へ遊びに行こう。ゲームはまた別の時にな?」
 綾はやっとわかったようで、朱樹と綾は近くの公園へ遊びに行くことにした。
 その公園で綾はブランコに乗りたいと言い出したが、あいにく別の子供が乗っていて、なかなかブランコがあかない。
「ねえ、ブランコ空かないよ!」
 綾はまたもや不機嫌になっているのが、手に取るようにわかる。
「もう少し待ってな。順番やから」
 やがて、ブランコが空き、綾はそれに乗って遊び始めるのだが、今度は別の子供が並んでいると言うのに、綾はなかなか譲ろうとしない。
「綾、そろそろ並んでいる子に変わってやらんと」
「もうちょっと遊びたい」
 何十分も経過しても、綾はなかなかブランコを変わろうとはしない。
「ごめんな、ちょっと待っててな」
 綾の次に並んでいる子供にそう優しく言い、朱樹は綾のブランコのチェーンを手でつかみ、無理やりブランコを止めた。
「何するのー!」
 綾が目をつり上げて朱樹を睨んだ。
「ブランコは綾だけのものじゃないんや。順番は守らないといかへんで!」
「ママはずっとやってて良いっていったもん!」
 負けじと綾が答える。
「それなら教えたる。いいか、皆の気持ちを考えるんや。さっきは綾が、ブランコ代わって欲しくってしょうがなかったやろ?綾の次に待っている子も同じやで」
 後ろに並んでいる子を見つめて、朱樹はきちっと言う。
「綾はいい子や。せやけど、うちのいう事をきちんと守れたら、もっといい子になるで?皆の人気者になれるさかい、頑張って欲しいなあ〜」
 綾はしばらく黙っていたが、やっとブランコから降り、並んでいた子供にブランコを譲った。
「えらいえらい、それでこそ良い子やで!」
 朱樹はにこりと笑い、綾の頭を撫でた。綾は照れくさそうな表情であったが、どことなく嬉しそうであった。おそらく、いつも可愛い可愛いと大事にされてて、このように褒められた事がないのかもしれない。
 その後、朱樹と綾は買い物をしながら家へ帰り、その日の夕食を楽しんだ。翌日も朱樹は、遊びながら躾をするという事を繰り返し、最後の日には綾が朱樹と別れるのを悲しがるほどにまでなっていた。
「いいな、綾。うちと約束した事、絶対守るんやで?」
 そう言って、朱樹は綾と別れた。
 後日、朱樹は恵美より綾が前より聞き分けのよい素直な子供になったと聞いた。いや、元々素直な子なのだろうが、両親の甘やかしがそれすらもおかしくしてしまっていたのだ。
 芽のうちからきちんと育てれば、その後も木はきちんと伸びていく。人間もそれと同じなのだろう。(終)




◆◇◆ 登場人物 ◆◇◆

【3104/吏綿徒・朱樹/女性/356歳/魔機構士】

◆◇◆ ライター通信 ◆◇◆

 吏綿徒・朱樹様

 初めまして!新人ライターの朝霧青海と申します。発注頂き有難うございました!
 関西弁で話すPCさんは初めてでしたので、不自然なところがないかと少々緊張しております。遊びながら躾をする、というプレイングを頂きましたので、それに沿ってかなり遊びをメインとした描写にし、その中できちっと躾をする朱樹さんの姿を描いてみました。
 少しでも楽しんでいただければ幸いです。それでは、本当にありがとうございました!