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ハードボイルドワンダーディテクター
この世界は、現実である。
例え何かと比べて異なる世界だとしても、ここで生きてる限り、ここの住人には現実なのだ。逃げ出す術は幾らでも転がっていようとも、けして、ここから抜け出す事は出来ない、だからけして異なる世界では無い。
けど、
異常な世界なのは、確かである。
人間が余りにも死にすぎる世界だからこそ、ディテクターは神隠し事件よりも遥か前に、この世界が作られた物だと、推理出来たのだ。
だが、それだけである。それ以上、どうしようとは思わない。
例えば今目の前で、着々と職務を果たす男に、化け物を無尽蔵に屠り続ける鬼鮫にこの事実を喋った所で、止まるだろうか?
(あんな顔で、あんな殺しだ)
この世界は、きっとそう作られているのだろう、或いはそう仕掛けられているのだろう。そうなるように、殺しあうように、そう、
きっと自分も――
無頼の生き様、不思議な世界で、彼。
三年前を望む人は居よう。この世界の宿命を、屠る方法を探す人は居よう。実際、ディテクターはこの異界の原因を、何かを、知っているかもしれない。だがディテクター、
鬼鮫が余した怪異な人を銃で撃つように、
ディテクターはこの世界で生きている、殺している、……、
――殺している
、
殺される宿命を、腹の中に抱えるようにしながら。
幾つかの女性の顔が、彼の頭の中に浮かぶ。それは、義理の妹だろうか、興信所での人だろうか、
昔不幸にした、女だろうか。
◇◆◇
鬼ごっこ。
◇◆◇
4.あきる野市トウモロコシ畑、
ディテクターから、神隠し事件の報酬として受け取った角の無い鬼出現場所一覧。
5.夢の島清掃工場
数多ある箇条書きだ、角の無い鬼というカテゴリは全て網羅されている。
11.中里線路上
どれが求めている者か解らない、玉石混同に。
14.中野区錆びた商店街
けど、
18.西池袋毒化地帯
だけど、
21.名を失った南西
明らかだ、共通事項。目撃談に、同一人物と思われる行動。日時の順に点を繋いでも、規則的に移動しているとは言えないが、神出鬼没なのは、
22.丸の内オフィス街
自分で、良く知っている。
……実際、この情報をもらう前から、暴風に巻き込まれた強靭な蒲公英の綿毛のように、彷徨っていたのが彼女、水上操。目的は、求めてるから、
父を。
『せやけどなぁ、』声が、ブレスレットから聞こえる。『また無駄足、あの探偵のおっちゃん嘘吐いてるとおもわへん、後鬼?』
『オレに聞いてどないすんねん』
両手首のブレスレットが会話している。けして巧みな腹話術じゃない、このブレスレットは意思を持っているのだ。そもそも、本来はブレスレットに擬態してるだけ。真は刀。(長刀は前鬼で一人称はボク、短刀は後鬼で一人称はオレ)
父の角で母が作り出した刀。
水上操は、角の無い鬼を探している。オフィス街、不釣合いを承知なのか、或いはそれをねじ伏せるように設置したのか、花壇の傍らに座る彼女。通りすがりから既に、情報は聞き終えた。ディテクターの資料とも合致している情報だ。
だから、足跡を辿ればいずれ追いつけるわと、薄く微笑みながら二つに語る。誠、晴れ晴れとした青空の下、東京の腐れた空気の中でも素晴らしく色を咲かせる花の稀には相応しくない、薄い微笑み。ああ、そう尋ねる者よ、どうやれば彼女が快活に笑うと?
水上操は、父を追っている。
淡白な服の下にある肌は、己が父の子であるという証拠、鬼のような肉付きになっている。人が、鬼か。
まるで言い伝えのようだと、自嘲した。さぁそろそろ次へ行こう、日暮れを気にする必要は無いから、休みながら渡ればいい、
……立ち上がって顔を45度上に傾けると、ある感覚がする。花から目を離した時に、その感覚が走る。
『どないしたん姐さん』
「……いえ」
些細な事だと感じた、些細な事のはずだ。
何処かで見た、景色のように感じたなんて、けど、
◇◆◇
それは蟻の行列のように続いたのだ、行く場所全てに、
25、28、34、36、
デジャヴが始まり、デジャヴが終わる。
39、40、41、42、
時系列順に並べられた、あちこち。向かう先々にはっきりと、
50、52、55、
感じる、“何時か何処かで”。それは、
56、
嗚呼、なんだ。徒労だ、けど、
とても良く思い知らされた。
――水上操は、日暮れなぞ気にする必要は無い
けれど、
人気の無くなった道路上、黄色い斜線の上に、モノレールのよう立って、思い知らされる。焦りを、持たなければ、小さな汗を、垂らさなければ。けど、
水上操は、自嘲する。
◇◆◇
ディテクターの資料、現地での目撃情報、
長い髪をした鬼のような物が何かと殺しあっていた事。
考えるまでもなく、彼女じゃないか。
◇◆◇
道路上、狂ったロボット乗りを、飯事のように片付けた事。
考えてみればオフィス街の花壇、あそこには元々先天的な芸術彫刻が有り、それが角のような二本の鉄パイプで狂って、仕方なく砕き、
南西、右半身は子供、左半身は大人、醜く歪んだ表情には牙。滅ぼした時には爆発みたいなものが生じたか。うまく竜巻に身を任せ、肉をズタボロにさせながら逃げたけど、その傷も素早く完治したけど、肌はますます鬼化したけど。
毒の王と名付けられた樹木があった。それは本来意思は無かった。けれど天才かつ馬鹿なオカルティックサイエンティスト、それを利用する。シルエットは角が生えているようで、少し骨が折れて、大木を折り毒沼に叩き込むまでに三日。
それは、数日置きに、或いは数時間毎に、彼女が出向き、選択した戦闘。鬼ごっこというには、鬼を捕まえようとするなんて矛盾? そう、誰かが思わなくもない事、けど、
今や白神どころか、様々な物に追われ事も増えた身分は、身体は、
――日暮れなぞ気にする必要は無くても
「もう、やばいのでしょうね」
そうして、彼女はブレスレットを二つの刀身に変える。鉄の重さを二本で扱うには、彼女の腕は細身、
たけど、袖口から、鬼の肌が見えた。ああ、時間が無い。
鬼に落ち堕く身だと思いながら、名を上げる為に急襲してきたダイヤモンドの鳥を、正確にはその中に魂と心臓を埋め込んだ巨大な鳥を、
◇◆◇
短刀で殴るように削りながら、短刀で殴るように砕きながら、
巨大な鳥の形をした物に、自分を押しつぶそうとする物に綺麗に自分の身だけが潜れる穴を掘って、叩けば壊れやすい金剛石を、最も破砕する角度を狙って長刀で、後鬼で、
沈黙する彼女の下僕で突き刺し、心臓を串にして引き出し、
ダイヤモンドダストが雪のように煌く中、
心臓を、右手で掴み、
心臓を、握りつぶすのです。
彼女の顔とその周囲、夕焼けを侮蔑する程に赤い。それは目撃されれば、御伽噺のような景色、
鬼が居る話。
◇◆◇
時間が、無いと思う。
残された時間は尚更に少ないと思う。
だから刀をブレスレットに戻さぬのか? 鬼になる事を歯止めする効力があるはずのの、父の角を。
顔に塗れる心臓の血を拭わないのも、時間が無いからか、彼女、
ディテクターの資料を見る。共通した事項、暴風に巻き込まれた蒲公英の綿毛のような自分の出現場所。もし記されるならば、あの荒廃した街に吹雪を呼んだ事だって。
ともかく、これ以外だ。私以外の、角の無い鬼の情報を。共通してる情報は少ない、そのほとんどが、私がかつて騙された鬼モドキなのかもしれない。けれど、
時間が、無いのだ。
歩き始めながら、刀をブレスレットに戻す。けれどやはり黙した侭だ、関西弁は愉快に語らない、静寂が今だと、自覚する。けれど本当は、
顔、汚れてるで
そうどちらかが、言いたかった。けれど、水上操には、角の無い鬼を、自分の父を追う彼女には、
己の肉が疼く彼女には、時間が無いのだ。
◇◆ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ◆◇
3461/水上・操/女性/18歳/神社の巫女さん兼退魔師
◇◆ ライター通信 ◆◇
ぶっちゃけ、今まで刀の長さ同じだと思ってました。(ぶっちゃけ
すいまへんすいまへん本当にすいまへん、以前前鬼と後鬼の一人称を間違ったのも、きっちり読んでなかったからですすいません。一度目に参加していただいた方やので、時々すっとばしてしまう事が……。これからは過去の参加不参加関わらずきちり読みます。ご迷惑おかけしました。
改めまして、ご参加おおきにでございました。戦闘シーンのプレイングはあらへんかったですが、話にメリハリ(水増し)をつけるためくわえさせていただきました。後はほとんどプレイング準拠です、短くですがよくまとまっていましたので、思ったより早く作業できました。ありがとうございます。
それでは短いですがこれにて、またのご参加お待ちしています。
[異界更新]
ディテクターの資料から鬼を探して、その鬼の噂のほとんどが自分だと知り、身体に始まりきっと心すら鬼へ堕ちゆく己を知り、「残された時間は少ない」事を自覚する。また、白神以外にも望まぬ戦闘が増える。
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