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<白銀の姫・PCクエストノベル>


トモダチ、絶賛募集中!



------<オープニング>--------------------------------------

 兵装都市ジャンゴの中心にある、巨大な塔『知恵の環』。
 その内部に立ち、瀬名・雫(せな・しずく)は壁面に刻まれた螺旋を見ていた。
「なんだか、巨大カタツムリの殻の中にでも閉じ込められた気分だよ」
 渦巻く螺旋を辿れば、自然と視線は上へ上へと昇って行く。くるくると回っていた雫は、ああ目が回る、と呟いて足を止めた。
 頭上では、鎖で拘束された剣が、遥か上の天窓から差し込む光を鋭く弾いている。その切先は下を向いていて、初めて見た時は、もし落ちてきたらと心配になったものだが、もう慣れた。
 雫を「勇者様」としてこの世界に召喚した女神は、この場所をとてもお気に入りだ。本がたくさんあるのが良い、と言う。この世界の支柱の一人である彼女が、今更書物で新しい智識を仕入れる必要など、もうないだろうに。
 今も、その小さな女神は膝の上で大きな本を開いていた。
「ねえ、ネヴァンちゃん」
 雫の声に、ネヴァンは顔を上げた。
「なあに、雫ちゃん?」
 小首を傾げるネヴァンの、赤い瞳が雫を見る。
 人見知りの激しい彼女だったが、雫の粘り強い友好ビームにより、やっと目を合わせてくれるようになったし、親しげに名を呼んでくれるようにもなった。
 それは、確かに好ましい変化だ。
 しかし、まだまだ雫以外の相手には、逃げたり隠れたりと消極的な面が目立つ。
 この世界のラスボスたる邪竜と友達になってしまおう、というある意味大胆不敵なネヴァンの計略を果たすためには、頼りないことは否めなかった。
「あのね、あたし思うんだけど」
「うん」
 素直なネヴァンに噛んで含めるように、雫は言った。
「いくら、心の中でお友達になりたいと思ってても、それだけじゃダメでね。お友達になりたーい!って、ちゃんと大きな声で言葉に出して、それにね、態度でも示さなきゃ、通じないんだよ」
「うん。この本にも書いてあるね」
 ネヴァンが熱心に読んでいた本のタイトルは、『内気なあなたへの特効薬。友達の輪を広げる方法』。本人も、それなりに悩んでいるようだ。
 よし、と雫は手を叩いた。
「じゃ、本ばっか読んでないで、実行しなくちゃねっ☆」
 言うなり、雫が手を引いて外に連れ出そうとするので、話の見えないネヴァンは目を瞬く。
 雫は、そんな彼女に満面の笑みを向けた。
「クロウ・クルーハ復活の前に。まずは、身近なところでお友達を作ってみようよ!」

------<臆病な女神様>------------------------------

「ちょ、ちょっと待って、雫ちゃん。そんな、急に……」
 分厚い本が、ネヴァンの膝の上から床に転げ落ちた音が塔内に響き渡った。自然、二人は周囲の耳目を集めることになる。
「あ……っ」
 視線に気付いたネヴァンは、キュウっと肩を縮めて、雫の後ろに隠れてしまった。雫は、やれやれと溜息を吐く。
「だからぁ、そうやって隠れてちゃ、誰ともお話できないでしょー」
 この分では、今すぐ誰かに積極的に話し掛けてお友達に、なんてとても無理だ。誰か、向こうから声をかけてくれる人は居ないものか――きょろきょろと雫が周囲を見回したとき、壁面の螺旋の影から、ひょこりと出てきた者がある。
「よーう! 久しぶり。どうしたんだ?」
 と片手を挙げて、歩み寄ってきたのは小柄な少年だった。見たところ、年齢は小学校中学年程度。緑色の瞳にはいかにも好奇心の強そうな光を宿し、体を被うマント、足許はブーツという、軽装剣士風のいでたちが、その悪戯っぽい表情によく似合っている。雫とは、何度かゴーストネット関連の事件で一緒になったことのある鎌鼬の少年、鈴森・鎮(すずもり・しず)だ。
「ほらこれ、さっき落としただろ」
 鎮が床に落ちた本を拾い、差し出す。が、ネヴァンは雫の背中に張り付いているばかりで、受け取ろうとしない。猛烈に先行きの不安を感じつつ、雫はネヴァンの代わりに本を受け取った。
「……ありがと」
 礼を言ってから、雫は鎮の頭の天辺から爪先までまじまじと眺めた。
 身長はネヴァンよりも少し高いながらも、視線の高さはそう変わらない。ネヴァンが今のところ雫の後ろに隠れるだけで、逃げるとまではいかないのは、体格がそう変わらない相手であるからであろう。男の子である、という点で少しハードルが高いかもしれないが、そこを越えられば、ネヴァンにも自信がつくかもしれない。何より、大人しすぎるネヴァンに、鎮の好奇心旺盛さと破天荒なほどの元気さが、少しでもうつってくれれば……。
 つまり、目の前に居る彼は、ネヴァンの身近な友達として、かなりの好物件。
「ねえ。今から、何か予定ある?」
「俺? 本見てんのにも飽きたからさ、機骸市場にでも遊びに行こうと思ってたとこだけど」
 鎮の返事に、雫は満面の笑みを浮かべた。渡りに船とはこのことだ。
「じゃあ、あたしたちも一緒に行っていい?」
「え……っ」
 目を丸くするネヴァンを、雫が無理矢理前に押し出す。
「そんでついでに、このネヴァンちゃんとお友達になっちゃってよ☆」
 はい挨拶挨拶っ、と背中を叩かれて、ネヴァンはおどおどと視線を彷徨わせる。
「……えっと、あの、その……ネヴァンです」
 やっとのことで、ネヴァンはそれだけ言えた。
「俺は鈴森鎮。特技は調剤。主に傷薬!」
 鎮は、ネヴァンの前で自己紹介がてらマントを広げた。マントの裏に括りつけられているのは、薬草の束に、薬の入った小壜だの試験管。どう考えても外から見てわからなかったのがおかしい量の大荷物だ。ゲームなので、「持ち物」リストに物理的にあり得ないサイズのものが含まれるのもアリなのだった。
「よろしくな!」
 マントを元通り調えて、鎮が手を差し出す。ここで握手、と思いきや、ネヴァンは顔を真っ赤にして後ろに引っ込んでしまった。雫の背中から、よろしく、と蚊の鳴くような声がする。それが彼女の精一杯のようだ。
「ごめんね。キミのことを嫌がってるってわけじゃないんだよ」
 雫のフォローに、鎮はうーん、と唸った。
 いつも知恵の環の中で本を読んでいる内気な女神のことは、鎮も知っていた。見ていれば、雫の言うとおり、彼女が決して人と接するのが嫌で逃げ隠れしているわけではないということはわかる。ただ極端に臆病なだけなのだ。
 ここは一つ、奥の手を使ってみようか。鎮はマントの中に手を引っ込めて、ゴソゴソと中を探った。次に手が出てきた時には、何かを握っている。
「トモダチになりたがってるのは俺だけじゃないんだぞ?」
 鎮が指を開くと、掌の上にチョコンと、ふわふわした小さな生き物が座っていた。まるで毛皮でできた小さなぬいぐるみのようだ。見た目の印象は、小型のハムスターに似ている。その生き物はネヴァンを見て、円らな目をぱちぱちと瞬いた。
「ほら。くーちゃんもネヴァンちゃんとトモダチになりたいってさ。な!」
「キュ!」
 鎮に答えて、掌の上でくりっとお辞儀をする仕草が愛らしい。
「……くーちゃん?」
 おずおずと、ネヴァンが近付いてきた。
「そう、くーちゃん。俺のトモダチ。可愛いだろー。絶対噛んだりしないから、持ってみるか?」
 こくりと頷いたネヴァンの手に、鎮はハムスターに似た生き物――実はイヅナと呼ばれる霊獣である――くーちゃんを跳び移らせた。
「あったかい」
 ふわふわの毛皮を掌に包み込んで、ネヴァンの唇が自然に綻ぶ。
「だろー。俺もネヴァンのこと噛んだり絶対しないからさ、一緒に市場に遊びに行こうぜ。な!」
「……うん」
 ニカっと笑いかけた鎮に、ネヴァンは笑顔で答えた。
 よし、大進歩! 背後で雫が、こっそり拳を握っている。

------<買い食い a Go Go!>------------------------------

「棒つきキャンディに、チョコがけドーナツだろ、ワッフルにジャムとクリーム挟んでくれるやつも捨てがたいし、アツアツの焼き栗なんかも素朴でいいぞ。キノコの串焼きは見た目がアレだけど、意外とイケるんだ。お気に入りの屋台、いっぱいあって何食べるか迷うんだよな〜」 
 この世界の女神でありながら、ネヴァンはあまりジャンゴの中をうろついたことがないらしい。それを聞いた鎮は、機骸市場へと向かう道すがら、市場がいかに賑やかで楽しいか、熱弁を振るっていた。
「どうでもいいけどさ、食べ物の話ばっかだね」
「あったり前だろ」
 少々呆れ顔の雫に、鎮はえへんと胸を張る。
「トモダチの第一歩! それは…買い食いだ!」
「キュウ!」
 鎮の肩の上で、くーちゃんも後足で立ち上がって小さな胸を反らした。
「……そうなの?」
 目を丸くしたのはネヴァンだ。自我に目覚めたばかりの彼女にとっては「友達」が何たるものか、言葉の定義意外での実感に乏しいのだろう。雫は一瞬考え込んだが、鎮の言うことももっともだと思って頷いた。
「まあ……そうだね。友達と一緒におやつなんか食べるのは、素敵なことだよ。それに、友達じゃない人とだって、一緒においしい物を食べると仲良くなれたりもするね」
「だろ。俺は市場のジャンクフードにはちょっと詳しいぜ。任しとけよな!」
 鎮は反らした胸をドンと叩いた。くーちゃんも一緒に、前足で胸を叩く。
「うん……よろしく」
 飼い主と霊獣の絶妙な連携に、ネヴァンはくすりと笑った。
 市場へ近付くにつれ、道を行く人の数が増えてくる。やがて、機骸市場のゲートが見えてきた。
 パイプ状に組まれた長大なアーケードはいかにも頑丈そうで、その外壁にものものしく大砲が設えられているのが見える。中を賑わわせる人々が安心していられるのも、この備えがあればこそだ。
「よし、じゃあまずは適当に店を覗いてみよう!」
 鎮に手を引かれて、ネヴァンは市場のゲートをくぐった。
 日常品から武器防具まで、何でも揃うというだけあって市場の中は酷く雑多だ。
 高級そうな衣類やアクセサリーをウィンドウ越しに通りに向けて並べているような店もあれば、安価な品を地面に直接並べて売っているような露店もある。
 その中でもなんと言っても目を引くのが、カラフルな屋根のついた露店だ。覗き込んでみれば、それは大抵、飲み物や菓子を売る店だった。
 折しも午後の、小腹の空く時間帯。あちらこちらから良い匂いがして、目移りさせられることこの上ない。
「まずは、軽くこのへんでどうだ?」
 鎮がネヴァンを連れて行ったのは、水色の屋根の屋台だった。屋根の下に入ると、ひやりと冷気が流れてくる。アイスキャンデー屋だった。
「果肉入りで美味いんだー。味は色々あるけど、どうする? 俺的に、オススメはメロンかイチゴかオレンジ!」
 鎮は早々と注文を済ませて、黄緑色のアイスキャンデーを店主の小父さんから受け取っている。
「えっと……」
 言葉に詰まってしまったネヴァンの背中を、雫が押した。
「ほらほら、言わなきゃ何がいいのかわかんないでしょ」
「じゃあ、……イチゴ」
 おずおずと言ったネヴァンの手に、鎮が赤いアイスキャンディーを握らせる。
「あ、あたしはオレンジねっ☆」
 最後にオレンジ色のアイスキャンディーを受け取った雫は、小父さんから個別に勘定を求められて唇を尖らせた。
「えー! 何、ネヴァンちゃんの分だけオゴリなの?」
「悪い」
 雫に向かって、鎮は両手を合わせる。
「だって、俺の懐具合、低レベルキャラ相応だもんでさ。今までこまごま貯めて来たぶんで、ネヴァンちゃんの分払うのが精一杯なんだよ」
 ネヴァンに聞こえないように小声で、鎮は言った。女神であるネヴァンは、ゲーム内通貨を一切所持していないので、奢ってあげるしか方法がない。一方、雫は勇者様だ。
「勇者様が一般冒険者にたかっちゃだめだろ。ってことで!」
「確かにね……そう言われちゃ、奢ってとは言い辛いなあ」
 残念そうな表情をしながらも、雫は自分の財布を出した。流石に勇者様、財布の中身はたっぷり詰まっている。
「おいしい!」
 アイスキャンディーを一口かじって、ネヴァンが歓声を上げた。
「だろー! 食べながら適当に歩いて、なんか美味しそうなの見つけたらどんどん買おうぜ」
 嬉しそうな顔を見せられて、鎮も嬉しくなる。小さなカケラと分けてもらって、鎮の肩の上のくーちゃんもご満悦の表情だ。
 じゃがいもの揚げ菓子に、アケビに似た果物に、貝殻のまま炭火で焼いた貝にと、市場で売られている食べ物は、海も山も北も南もごちゃ混ぜの豊富なバリエーション。あれやこれやと食べるうち、お腹もいっぱいになってきた。
「あたし、もうダメえ」
 串に刺さった色鮮やかなキノコを食べ終わったところで、雫が音を上げる。
「俺もかなあ」
 木苺ジャムのたっぷり乗ったワッフルをもぐもぐやりながら、鎮が雫に続いた。キュウ、とくーちゃんも同意を示す。
「ボクもそろそろ。なんだか、美味しくて食べ過ぎちゃったみたい……」
 レモン風味のチョコのかかったドーナツを食べ終わり、指についたチョコを舐めてから、ネヴァンがフウと息を吐いた。
 こういうときは、もうだめと言いつつ、最後に何かもう一品、と思ってしまうのが人の常。
「よし、じゃあ次で最後にしよう!」
 と三人+一匹の意見が一致した。色んなものを見て、食べている間に、ネヴァンもすっかり鎮とくーちゃんに馴染んだようだ。
「あ。あれなんか、美味しそう」
 ややあって、ネヴァンが指さしたのは、屋根に中華風の竜の柄のついた屋台。店先には、蒸篭から漏れるいいにおいの湯気が漂っている。
「中華まんかあ」
 いいな、いいね、と、鎮と雫も頷いて、一つずつ買うことになった。ほかほかの肉まんを前に、三人が口を開いた、まさにその時。
「ええっ。肉まん、売り切れなんですかぁ!?」
 という情けない声に、三人は屋台を振り向いた。
 財布を握っておろおろしているのは、さんしたくんこと、三下・忠雄(みのした・ただお)。オロオロついでに、三下は財布を落として小銭を地面にばらまいた。
 不運とドジなら世界一。この世界でも、三下の性質に変化はないらしい。そんな彼を、何の因果か勇者として召喚してしまった女神は――
「あら。困ったわね。私、今とっても肉まんが食べたい気分なのに」
 女神モリガンが、切なげに溜息を吐いた。その足許であたふたと小銭を拾う三下を手伝う気は、もちろん毛頭なさそうだ。
「他に、肉まんの屋台ってあったかしら」
 周囲を見回したモリガンの視線が、鎮たちに、正確にはその手許に、止まった。
「あら。肉まん……」
 三人が買ったので、ちょうど最後だったらしい。別に自分たちが悪いわけでもなんでもないのだが、ここでモリガンを無視して食べるのは、非常に心が痛む。
 最初に口を開いたのは、意外にもネヴァンだった。
「あの……半分、食べる?」
 モリガンの顔が、ぱっと輝いた。見た目は波打つ銀の髪が美しい、ナイスバディーのお姉さまだが、時折意外なほど無邪気で子供っぽい表情をするのが、この女神の特徴かもしれなかった。
「よろしいの? 嬉しいわ」
 モリガンは躊躇いなくネヴァンに歩み寄ってきた。
 ジャンゴが崩壊した時点で不正終了が実行されることになるので、ジャンゴ内での戦闘は禁止。それが、女神たちの不文律だった。だから、出会っても好き好んで諍いを起こすことはない。とは言え、仲良くすることも滅多になかったので、女神二人が並んで半分ずつの肉まんを食べるという光景は、珍しいものであった。
「ねえ、ネヴァン」
 モリガンの呼びかけに、ネヴァンは顔を上げた。
「私、あなたの考え方は嫌いではないわ」
 四人の女神の中でもモリガンとネヴァンは「世界の変革を望む」という点では意志が一致してる。クロウを討伐するか否かという点では敵対していたが。
「ねえ。だったら、クロウを……」
 すがる表情になったネヴァンを突き放すように、モリガンは頭を振った。
「でもね、私が肉まんを半分じゃなく全部寄越せと言っていたら、あなた、どうしていたのかしら」
「……え」
 絶句するネヴァンに、モリガンは軽く肩を竦める。
「皆とお友達になりたいあなただから、そう言えば全部下さるのかしら?」
「それは……」
 言葉に詰まり、ネヴァンは手の中に半分残った肉まんに視線を落とした。モリガンは最後の一口を咀嚼し終えると、にっこりと微笑んだ。
「ごちそうさま。美味しかったわ。でも、いくら肉まんを頂いたからって、私が世界の支配者になる為に邪魔ならば……クロウは倒しますわよ」
「あ……」
 小銭を集め終えた三下を伴い、モリガンは去って行った。
「なんだよ、あれ。なんか難しいこと言うなあ」
 肉まんをもぐもぐやりながらの鎮の言葉に、ネヴァンは頷く。
「そう、だね。難しいね……」
 キュウ、と、鎮の肩の上で、くーちゃんが首を傾げた。

------<また会う日まで>------------------------------

「今日は……どうも、ありがとう」
 市場をうろつくうち、すっかり黄昏時になっていた。
 女神の杜の前で別れることになり、ネヴァンは鎮に深々と頭を下げた。
「別に、そんなかしこまって礼言われるようなことしてねえよ?」
 苦笑する鎮に、ネヴァンは首を横に振った。
「屋台の食べ物、美味しかったし、それに……こんな時間までボクと一緒に、過ごしてくれたから……」 
 その応えに、鎮はますます苦笑する。
「そりゃ、トモダチと遊ぶときは楽しいもん。時間なんかすぐ忘れちゃうよな」
「……トモダチ」
 目を丸くするネヴァンの肩を、雫がバンバン叩いた。
「そりゃそうでしょ。鎮ちゃんとネヴァンちゃんはもうオトモダチ。ね!」
「そう……なんだ」
 ネヴァンは驚いたような顔で、瞬きをする。そして、再び深々と鎮に向かってお辞儀をした。
「ありがとう。今日は、お友達になるってことの簡単なところと、難しいところ……両方、ちょっとずつわかった気がする」
 足元の影は、刻々と長くなってゆく。そういえば兄たちに、夕食までには帰るよう、口を酸っぱくして言われていたっけと思い出して、鎮は慌てて踵を返した。
「じゃあな! こっちこそ、今日はいろんなもん食べられて楽しかったよ! またな!」
 くーちゃんと一緒に手を振ると、ネヴァンが大きく手を振り返してくる。
「また、遊んでくれる?」
「あったりまえ!」
 言って、鎮はネヴァンよりも更に大きく大きく、手を振り返す。
 ログアウトする寸前、ネヴァンの口が「ありがとう」と動いたのが見えた。
 だから、トモダチなんだから当たり前だって。
 鎮は苦笑した。次にまた会う時に、もう一度それを伝えてやろうと思いながら――。

                                         END


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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【2320 鈴森・鎮 (すずもり・しず) 497歳 男性 鎌鼬参番手】

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          ライター通信         
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 いつもお世話になっております。担当させて頂きました、ライターの階アトリです。
 納品が遅れてしまい、申し訳ありませんでした。

 白銀の姫、第一回ミッションよりも前段階の話ということになります。
 ネヴァンの考え方の、良いところと甘いところ、両方が出るように書かせて頂きました。
 イヅナのくーちゃんをまた書かせていただけて、とても楽しかったです。
 マントの中の薬を生かせる局面を用意できず、申し訳ありません。RPGでの、物理的な問題を無視した四次元的道具袋って、便利だけど不自然で、想像すると面白いですよね。

 楽しんでいただけましたら幸いです。
 では、またの機会がありましたら、よろしくお願いします。