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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


ハードボイルドワンダーディテクター


 この世界は、現実である。
 例え何かと比べて異なる世界だとしても、ここで生きてる限り、ここの住人には現実なのだ。逃げ出す術は幾らでも転がっていようとも、けして、ここから抜け出す事は出来ない、だからけして異なる世界では無い。
 けど、
 異常な世界なのは、確かである。
 人間が余りにも死にすぎる世界だからこそ、ディテクターは神隠し事件よりも遥か前に、この世界が作られた物だと、推理出来たのだ。
 だが、それだけである。それ以上、どうしようとは思わない。
 例えば今目の前で、着々と職務を果たす男に、化け物を無尽蔵に屠り続ける鬼鮫にこの事実を喋った所で、止まるだろうか?
(あんな顔で、あんな殺しだ)
 この世界は、きっとそう作られているのだろう、或いはそう仕掛けられているのだろう。そうなるように、殺しあうように、そう、
 きっと自分も――
 無頼の生き様、不思議な世界で、彼。
 三年前を望む人は居よう。この世界の宿命を、屠る方法を探す人は居よう。実際、ディテクターはこの異界の原因を、何かを、知っているかもしれない。だがディテクター、
 鬼鮫が余した怪異な人を銃で撃つように、
 ディテクターはこの世界で生きている、殺している、……、
 ――殺している
 、
 殺される宿命を、腹の中に抱えるようにしながら。
 幾つかの女性の顔が、彼の頭の中に浮かぶ。それは、義理の妹だろうか、興信所での人だろうか、
 昔不幸にした、女だろうか。


◇◆◇

 三年前、人間は変わる物だと彼は度々言われた物だ。想像だにしなかった、クールで大人の雰囲気という奴。けれど良く話してみれば、その雰囲気もすぐ剥がれたけど。
 唯、三年前の彼を知る人が、今の彼に出会った場合、たいして変わる物だとは思わない。けれど人は変わらなくても、仕事や、左手の薬指、買い物、
 村雲翔馬と手を組んでるという事など変更はある。野球は相変わらず広島のファンだけど。蹴球の方は、とある人数減少により統合された。

◇◆◇


 月見里と書いてやまなしと読む事を、一体どれだけの人間が知っているか? 少なくともある男は知らなかった。表札を見て、素直につきみざとと読んだ所を、関西弁でつっこまれて初めて知りえたのだ。酷く、いぶしかんだ物だが。
 村雲翔馬は、むらくもしょうまと読める。今年十歳になる彼女の娘――色々あったようだが母親を含む家族の繋がりは三人にきちりと見受けられる――も、名前はともかく、名字はちゃんと呼んでくれた。ただその後、じゃあこれからは月見里になるのか? と真顔で尋ねられた時、彼は戸惑ったが、それは母が娘に、居候になる事について、家族になるという説明をした事からの誤解であると。その言葉に、おかしさと、
 自分の状況を、深く思い知らされたのは、確かである。居候、
 村雲翔馬は、彼の家に居候している、彼に、
 夜の時刻、供に町内を徘徊している月見里豪、彼の家に。
「無差別で、連続の、殺人犯か」
 何故かいちいち接続尾で、単語を分解しながらの彼、腰まで伸びた髪は一歩前進する度、彼という形の良さや美しさを表現するように揺れる。元六本木のナイトクラブ指名率NO.1の、焔から爆ぜる火花のような名残か。
 何があってやめたのか、というのもあるが、何があって今のような家族に《戻った》のかも、村雲翔馬の知る所ではない。人間は変わる物と表現するには、翔馬が豪に会ったのは、変わった後だからだ。だからもし、変わった物があるとすれば、
 月見里豪の気苦労か、「隣町やからな、順々、俺等の町に来てもおかしない。今日の夜に決着――」
 傍らにはただ飯位の居候が居たはずであるが、今は何処にも居ない。けれどすぐ発見できた、コンビニの戦略がおかげである。
「翔馬ぁぁッ!!」
 コンビニが窓際に本棚を設置しているのはご承知の通り、人が居る事をアピールして呼び水にする為だ。という訳で、雑誌を立ち読みしている男の居るコンビニへ、店員の出迎えの挨拶を素通りして入り、すぐ隣。
「おのれ、挨拶も無しに何をさぼっとるんや!」
「人が読書中だろう、しっかり黙れよ」
「図書館かここはーッ、だいたいいっつもいつもおのれは人の話聞かんと、この前もそやないかい! ダーッと走ってバーッっと危機陥りよって、俺がおらんかったら今頃この世に」
 次の雑誌を手にとる、「なぁッ! ああくそ、仲間やなかったら真っ先にお前殺っとるっちゅうねんこの猪突猛進単細胞ドアホ、俺はお前の尻拭い担当やないし、だいたいその態度! お前ほんまに居候の分際かこらぁッ!」
 別に図書館ではないコンビニだが、静かにして欲しいコンビニ店員、けど、あまりの迫力にそんな声をかけられない。美男子なのに、このノリじゃ大失敗である。喧々諤々の様子に頭を抱えるのはコンビニの店員と、
 その店員が、思わずビクゥってする程の、
 鎧武者。
「……豪殿、拙者達がご厄介になってる身分は重々承知してござるが、もう少し静かには出来ぬでござるか? ここはこんびに、人も多く集まる場所ゆえに」
 鎧武者は喋る、足の無い、なんだらうこのヴィジュアル、黒い霊が甲冑を装備していて、翔馬の傍らに。その鎧武者に驚く事無く、
「……それやったらおのれこそ姿引っ込めときや、店員さん怖がってるやないかい」
「む……、つい、な。やれやれ、戦場では見事な阿吽の呼吸を見せるが、互いの常態がこれとは一体」
 そのセリフに言い返そうとする豪、立ち読みを止めない翔馬、警察を呼んでも役立たずなのは承知である店員、だったが、
 その動作は全てキャンセルされ、突然、
 翔馬がコンビニのガラスを体当たりでぶち破り、店先の駐車場に着地した後刹那で駆け出した。店員が、喚き声を散らすよりも早く、
 月見里豪は能力を発動する、


◇◆◇

 戦う相手の能力を、コピー出来る。
 出来る事なら副作用も無い、人間である自分の身体が、壊れない程度の能力を選択して。
 最近は、やけにこの系統が増えてしまった。
 後先考えず突っ込む、馬鹿な男と馬鹿な霊の為に、
 遠距離支援、
「ラジコンバレット」
 アンテナの付いた2センチの弾丸は、割れたガラスを既に通過し、彼の手に何時の間にか発言した操縦機械により、翔馬の後を追い、やがて追い越して、
 今まさに、右手をN極に、左手をS極に変えた大男が、小さな少女を挟み殺そうとした時、
 正確に銃弾は後頭部を撃つ。
 けれど人外には大した威力は無い、けれど、振り返らせる動作で、間に合わせる事が出来る。大馬鹿者二つを、スサノオと、
 ――スサノオは、村雲家が永い時をかけて作り上げた神霊、兵器である

 憑依させ、勇ましき武将の力を体現した翔馬、
 怨念と信念と、熱き感情によって行使される名刀は、
 磁力すら分かつ、真っ二つに両断なる結果をしっかり果たした。

 町内の平和、この異界じゃそう簡単には守れない事、
 だけどこの町は、それでも平和なのである。豪は思う、遥か遠くにあって、もうバレットについたカメラは無くなって視認できないが、きっと、あの姿になってる翔馬、ではなく、
 夕食に間に合いそうだ、今日は確か、ピーマンの肉詰め。居候の多い食卓。

◇◆◇


 上京して半年の間、家探しをめんどくさがり、実家から送られる月二十万なる羨ましがられる高額をシャワー付きのカプセルホテルに使うか、野宿や殺されてがらんどうになった家屋で過ごしていた男。
 上京してから半年、送金がぷつりと止む。
 電話をかけた時に出た警察が曰く、一族全て、死んだらしい。
 村雲家の継承者は、スサノオという意味を含め、自分だけになってしまった。いや、そもそもこうなる事体を見越して、彼の一族は本来は最も危険なる東京へ彼を送ったのか。血を絶やさぬ為か、スサノオを絶やさぬ為か。何があっても帰ってくるなという言いつけを守れば、戻りも出来なかった彼に、それは知る由も無い事だけど。
 財産は人のような虫に食い荒らされたとの事。最後の継承者に残ったのは、口やかましい心霊兵器。これからどうするか、そう思って大きなビルに背中を預けていると、
 小さな子供が、襲われていたから、スサノオに急かされるよりも早く、翔馬は彼を殴っていた。
 それが出会いの切欠だった、娘を目の前で助けてくれた相手に肩を叩いたら、敵だと思われ二三発いいのをもらった出会い。当然やり返したが、お互い頬が腫れた。
 彼が、喫茶店でのお礼という、妻の提案に釈然とせずとも席を供にした事で得る村雲翔馬の事情。そして妻は更に提案する、即ち居候になる事を、冗談やない、こんな男、けれど娘を助けてくれた相手、
 こうして食卓は、また一つ賑やかになる。
 こんな具合に、


◇◆◇


「ってこら翔馬! お前もうさっき食ったやろ、これは俺の、人の味噌汁まで手つけるなぁッ!」
「お前たいして働いてないだろ、こっちはカロリーが減るんだよ」
「あんなぁ、あの能力はしょぼいけど、視界が一時的に弾からの視点になるんやぞ、もし相手が複数犯やったらって可能性を捨ててまでサポートしたっちゅうに、って聞け! だから聞け! というかこの家から出て行けぇッ!」
 拙者という一人称、ござるという語尾で、奥方に謝罪する霊。それを笑って受け止める母。娘は、ピーマンを食べられる。食卓は賑やかである、
 殺しあう異界、
 明日、命が踏み潰されるかもしれなくても、
 繋がる、幸せの価値、知っているから、こんな世界でも、いや、
 こんな世界だからこそ月見里豪は、守りたいと思っている。





◇◆ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ◆◇
 1552/月見里・豪/男/25歳/ホスト

◇◆ ライター通信 ◆◇
 次の次あたり死ぬかもしれませんでした。(えー
 というわけでご参加おおきにでした。まさか彼を使ったプレイングが来るとは思わず……、できるだけPCメインで書く心積もりでしたが、プレイングにはNPC使用の希望が濃かったので、半々に近い形になりました。
 町内の平和を守るという設定は、殺しあう異界の設定としては有りそうでなかった設定なので面白かったです。依頼次第ではこの設定が生かせるようになるかは微妙なのですが……。
 平和が崩れる、というプレイングもあるでしょうし、家族は大切に、というプレイングを貫くでしょうし、モチロンそれに関わる翔馬自身も、どうなるか解りません。色々な意味を含めて、これからが楽しみです。
 参加は強制ではありまへん、でも最後の締めとして、またよろしければお願いします。
[異界更新]
 月見里豪、三年での変化は、家族、ホスト廃業、髪が腰まで伸びた。現在は居候の翔馬と供に、町内の平和の為頑張っている。
 村雲翔馬、生き残りやすいランキングアップ。オリジナル設定が多いのでそれも追加。