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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


神の剣 異聞 Invisible Blade 4 天薙撫子編

 衣蒼未刀。彼との出会いは私にとって楽しくそして大切な時間だ。今でもハッキリと覚えている。
 出生が異なりや力のあり方、心のあり方ではなく、論理的に説明できないが、私たちは何か似ていた。
 元々、論理的に説明できるほど私は賢くない。が、これだけは自信持って言えるだろう。
 魂の友であり、兄弟だ。
 其れが何かは今でもわからない、柱であり抑止の座に付き、あらゆる危機を斬る刃になった今でも。
 私は未刀と共に過ごしたかけがえのない友人の事を一生忘れることはない。
 抑止の一、光刃の柱になっていようとも。

                               影斬・現世名 織田義明

 これは、織田義明はまだその“名”を持っていたときの手記か誰かに伝えた言葉である。
 短い時間だったか、それとも長い時間だったのか……。
 彼にとって衣蒼未刀は未来永劫、心の友で、親友であり兄弟であると言ったのだ。

 彼のこの言葉を聞くか読むのは、かなり先の話。   
 あなたは、義明と未刀と共に過ごした一番の思い出を、残していく。
 それが、『何処か』に記されるだろう。
 彼らと友人としてか仲間としてか、それ以上の存在としてかを過ごしてきたのかを。 


〈望むならば〉
 時間が止まってくれればいいと思う事
 それは良き友人と恋人との平和な日々
 今はそのままでも
 何れ、言わなくては
 共に進むべき人は誰かと言うことを


 天薙撫子は織田義明と衣蒼未刀と共にいる日々で平穏を満喫していた。世話のかかる弟が2人出来た事が何より嬉しいらしい。とは言っても、彼女自身もかなり危なっかしい事は自覚している。
 其れにくわえて、未刀が義明の趣味に走っていくのが怖いことも事実だ。
 なにせ、未刀は世間を知らない。
 好き嫌いはあるだろうが、義明の趣味趣向に染まっていくのは間違いなくあるだろう。
 義明はヘヴィメタルが好きなこと、妙なドリンクや食べ物が好きである。別に味覚がおかしいわけではないし、流石に音楽の趣向にケチはつけられない。が、やはり義明は極端である。
 地味な服や着物を好むと思いきや、ロックファッションやら派手なものを好む。
 この極端性はどこから来ているのか撫子も謎だった。
 幸い、未刀は派手なロックファッションやロックは拒否したが、大抵暇なときは作務衣を着ているか、義明のお下がり着物でゆったりしているのだ。
 実際地味を好む未刀。しかし、好奇心旺盛なのは確かなので、徐々に義明の毒に染まらないかと怖いので、撫子は極力3人一緒に居ることにしている。


「撫子……」
 と、未刀は、黒い革ジャンに黒革ズボン、そしてシルバーアクセサリが少しの姿になっていた。
「み、未刀様! な、何て格好!」
 驚く撫子。
「いや、今服を洗濯したんが……代えが無くなって……」
「義明君の着替えを借りたら結局それしかないと?」
 しかし、似合いすぎている
「そ、そうなる……着心地が良すぎるんだけど……これ……。義明、こんな良いもの持っているなんて」
 なんか、“目覚めた”ような顔つきの未刀君。
「義明君!」
「わあ! 何だ!? 撫子! 何で怒ってんだよ!」
 
 と、こんな一コマもまた面白い。

「あの……まだ……」
「動いちゃダメだ……」
「疲れます……それに」
「それに?」
「は、恥ずかしいです」
「……」
「いや、モデルだし。我慢、我慢」
 と、着物姿の撫子を真剣に見つめて、デッサンを描いている未刀と義明。
 その脇には、何故か彫刻刀と程よい太さの丸太だった。
 いきなり義明と未刀が、思いついた事だった。



〈試合〉
 仕事もないときは、只剣の道を究めようと修練をするのであるが。

 まだ、義明が未刀に天空剣を教えて間もないときであった。
「たしか、義明君と未刀様が試合をしたこと無いですね」
 と、撫子の一言から始まった

「「ん? そうだっけ?」」 
 同時に反応する2人。
 
 天空剣ではそうそう、剣道の試合などはしない。
 試合をする時は表裏がある。
 表向きは、形を練習し、試斬で終わる。スポンジ剣での手合わせはあるが、早々滅多にしないし、剣道のルールではしない。
 なにぶん、真剣をもった勝負と想定し、戦うのである。
 さらに、“裏”での修練では、真剣を持ち試合をするのはしょっちゅうなので、実際義明の身体は傷だらけだ。其れは撫子も茜も良く知っている。

 天空剣は人ならざる道を進む道の一つ。
 人外との戦いで勝ち、生きるための術。
 それ故に、試合をするのは常に真剣勝負であるのだ。
 
「どうする?」
 未刀が義明に訊いた。
「どうするって、まあ……衣蒼の剣がどれ程か見たいから他流試合になるな……」
 俺の一存では、と言う顔をする義明。
 未刀は義明の反応を待っているし、撫子も見てみたいようだ。
 早速、携帯を取り出してある人物に電話した。
 師範代位である義明は、こうした難しい判断をエルハンドに相談することがある。
 他流試合の認可など、生死に関わるようなこと。
 会計など経理は長谷茜だ(門下生ではないが)。
 そして、電話を切った。
「OKだって」
 苦笑ともとれる口調だった。

「しかしいきなり、真剣というのは……」
 すこし、言葉に後悔している撫子。
 すっかり、天空剣の試合は“死合い”を焦点にしている事を忘れていた。
 表ではなく裏でする試合なのだ。
「師匠が“表”でなく“裏”でしろとのことなんだ」
「それならしかたありませんが……」
「おいおい、いきなりこんな……」
 未刀も驚いている。
 やはり、業物でないが本物の日本刀は無い。
「一応言っておく。天空剣は裏表あって、未刀に今まで教えたのは裏の……いや真の天空剣なんだ。三技“斬・封・解”の修得、人間の力のリミッター解除、つまり人を人の身体のまま超越するための修練を目的にしている。なので、全て真の天空剣、裏のやり方で行う」
「……」
 真剣に聞いている未刀に……
「あうう」
 オロオロしているのは撫子だった。
「流石に俺が“影斬化”するわけでないけど、生きるか死ぬかで活路を見出す粗っぽいやり方になるんだ。わかるか」
「ああ、わかった」
 と、練習用とは言え、刃が少なくともついている刀を鞘のまま腰にさす。
 幼いときから封魔と剣術しかし込まれなかった未刀。
 義明も練習用の刀を用意し、腰にさした。
 有る程度距離をとる。

「ん? 試合するの? 撫子さん」
 茜が巫女服姿、箒を持って道場に顔を出す。
「え? あ、はい……普通の剣の試合ではないので……」
「確かに、コレじゃ試合じゃなく。死合いだからね……」
 箒を外に立てかけて、茜も中に入り、
 撫子と共に正座して試合を見るとこになった。
 他流試合となったから、それぞれの構えで抜刀。

 正眼は一緒。しかし、衣蒼の剣は正眼から刃を右下に降ろす。
 義明の構えは、正眼のままだ。
 動かない状態が続く。
 しかし既に戦いの中なのだ。
 隙をうかがっているのだ。
 しかし、義明が先に動いた……
 それは、“消えた”とも言える。
 
 正眼から動くなら、上段か袈裟、逆袈裟か?
 しかし信じられないところから刃が襲う!
――反対方向から水平に……!?
 反応が早かったため、刀でその義明の一撃を受け流す未刀。
 そのまま未刀は急所を狙って真っ向から斬るが、義明に峰で弾かれた。
 刀は片手で持っている義明は一気に飛び退く。

 間合いが戻った。

「まだ、覚醒してないだろ? いっそあの時、会った時のように……」
 未刀が刀を納刀した。
「……そうか……。力を直に見たいのか」
 義明も納刀する。

「え? まさか……」
 茜は“上の段階の試合”をすることを感じ取る。
「そ、そこまでしなくても……」
 撫子は、このままでは大けがに繋がりかねないと恐怖した。
 しかし、止めることはできない。

 出会ったとき、未刀は警戒と同時に、好奇心があったのだ。
 同じような感覚を持つあの刃に……
『水晶』と『未だ見ぬ刀』が共鳴している。
 剣客としても、能力者としても、戦ってみたいのだ。
 すでに裏の試合形式ならば、馴染みの“武器”で戦う方がいいだろう……。

 2人は、更に人を超えた戦いを始めた。
 神の気を発する義明に、其れをいとも簡単に『見えない刃』で斬り、自分の空間を作る未刀。
「非実体なら何でも切れるか……」
「衣蒼は、封魔の剣だ。神だろうと魔であろうと封じるために斬れる」
 試合は本当の意味で戦いに入ろうとしている。

 道場自体、結界があるため何ともない。
 中に居るものが耐えられるかが問題なのだが、今居る人物達には怪我はない。
 撫子も覚醒者。茜は世界の加護をもって護られている。
 しかし、試合している者が無事である保証はない。

「だ、だめです!」
 撫子が言う。
 しかし、聞こえていないようだ。
 水晶と見えない刀を抜いたときから、もう退けないのだ。
 義明と未刀は爆ぜた。

 未刀の刃は義明の頭を
 義明の水晶はのど元を
 一寸で止めていた。

「相打ちか」
 ゆっくり正眼に構え直し、
 2人は数歩あるいて、自分の“刀”を“納刀”した。

 撫子は安堵感で溜息をついた。
 茜は、別の意味で溜息をついていた。


〈喧嘩〉
「何故其処まで、熱くなるんですか!?」
 と、2人に説教している撫子さん。
「いや、真の天空剣は試合と言うより実戦ってなるから、其れに……」
「其れが行けないんです!」
 義明の言い訳を怒号でかき消す。
「しかし、本当に水晶や未だ見ぬ刀を使うなんて……!」
 と、半分泣いて撫子は2人を怒っていた。


 数日後。
 撫子は悄気ていた。
 霊木の所でぼうっと立っている。
 義明は、アレから少しも口を聞いてくれないのだ。
 あの試合が死合いになり、其れに怒った撫子に逆ギレしたのだ。
「あらら〜。喧嘩になっちゃったようだね」
 茜がのんびり茶をすすっている。
「喧嘩するといつもああなのか?」
 未刀は団子を食べながら茜に訊く。
「う〜ん、はじめてみたかなぁ……喧嘩」
「そうなのか……」
 未刀はゆっくり立ち上がった。

「撫子」
「未刀様」
「気に病むことはない、と思う。義明は……、あいつは、謝りたいと思ってもどう謝ればいいか分からないだけだと思う」
「……」
「会ってあまり間もないけど……なんとなく……そう思うだけ……」
 頬を掻きながら、未刀は言う。
「心配かけてゴメン」
「未刀様……」
 撫子は、深々と頭を下げる未刀に
――義明が重なった。
「わたくしこそ、怒鳴ってしまってごめんなさい」
 撫子も頭を下げた。


 暫くしてからだった、
「撫子……」
 義明が撫子を呼んだ。
「義明くん……? !?」
 義明は泣いていた。
「よ、義明君……な? ど、どうしたのです?」
「心配かけてゴメン! ホントごめん」
 まるで、子供のように泣いている義明。
 いきなり泣いて謝るのだから、またどうすればいいか分からない撫子。
 茜が静香(見えないが)、未刀と共にどこかに行く。
「子供みたいだな」
 未刀が笑う。
「そーだよ♪ 未刀君もおなじ」
「僕はそうじゃない……とは言い切れないか……」
「♪」
「何がおかしい?」
「何でもない〜♪」


 平凡な日常。
 色々あるが心が落ち着く。
 撫子は、今はこの時間を大事にしようと思っている。


 何れ、撫子は義明と共に同じ道を進むことを未刀に言うだろう。
 しかし、今はこんな平凡で幸せな日常に……居たいのだった。
 あの2人も同じく思っていることが、貰った木の人形にも込められている。




Fin

■登場人物
【0328 天薙・撫子 18 女 大学生・巫女・天位覚醒者】

【NPC 織田・義昭/影斬 18 男 天空剣士/装填抑止】
【NPC 衣蒼・未刀 17 男 妖怪退治屋(家業離反)】
【NPC 長谷・茜 18 女 長谷家継承者】


■ライター通信
 滝照直樹です。
 『神の剣 異聞 Invisible Blade 4』に参加して下さりありがとうございます。
 義明と撫子さんの喧嘩が多分初かもしれないです。
 しかし、義明は意地を張ってました。
 義明色に染まる未刀君に対しての心情と、将来においての言わなくてはならないことがしっかり伝わるモノであれば幸いです。

 アイテムとして、義明と未刀の合作彫刻人形(天薙撫子版)をどうぞ。