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<東京怪談ウェブゲーム あやかし荘>


鎌鼬掃討作戦

古めかしく佇む巨大な館、あやかし荘。
其の清閑とした木造の形に似合わず内部では、甲高い少女の声が彼方此方へと動いては響き、また動く。

「きゃああっいやーっ!あっち行って……っ!!」
片手に箒、片手に鍋の蓋を振り回し何かを威嚇する其の少女――あやかし荘管理人である、因幡・恵美の異様な様子に館の住人達は何事かと各々の部屋から顔を覗かせ、それとほぼ同時に脅威的な速さで飛び出た頭を引っ込めた。
原因は、館を繋ぐ真っ直ぐな通路を風の如く駆け抜けた一匹の影――。

――鎌鼬――

何時からかあやかし荘に迷い込んでいた鎌鼬は見るも痛々しい傷を負っており、今日になりそれを発見した恵美が手当てを施そうと恐る恐る接触した結果、警戒した鎌鼬が見境無く暴れ始めたという次第だ。
既に幾つかの空き部屋が鎌鼬によって無残な姿を晒しているが、館の住人達に被害が無い事が不幸中の幸いだった。

そんなあやかし荘での喧騒を前に、一つの人影が歩み寄る……。
「何じゃ、騒々しい。人の都合も知らんと、ほんに人使いの荒い女子じゃな……。」
自分の身長程もある、先端を槍状に仕立てた錫杖を手に館を見上げる其の少女は、未だ叫び止まぬ悲鳴の出所を視線で追いながら、溜息と共に館の扉へと手を掛けた――。



「み、み、皆さん〜っ!あ、あたし……ずっと、お待ちしてましたぁ〜っ!!」
館へと足を踏み入れるなり、先まで右往左往と廊下を全力疾走していた恵美が一際情けの無い悲鳴を上げて此度の来訪者へと縋り寄った。
「腑抜けた声を出すで無い、戯け者……。そもそも、皆と言うても高々二人ぼっちの集まりじゃろうが」
既に半分泣き面の恵美をさして気に留める様子も無く、帷は自身ともう一人――あやかし荘へと現れた妖艶な女性へと視線を流す。
「おぬし――……覚悟は出来ておるのじゃろうな?手負いの鎌鼬とは言え物の怪一匹、一筋縄で納まる物では無いぞ」
無愛想とも取れる帷の念を押した物言いに、其れでもその女性――繰唐・妓音は艶やかな笑みを添えて唇を動かした。
「いややわあ♪そないに半端な覚悟で首突っ込む程、柔な生き方はしてへんつもり何やけど……。――せや、うち妓音ちゃんゆいますのん。あんじょう、よろしゅうお頼申します〜♪」

先までの喧騒が嘘の様に飄々と自己紹介を行う妓音に、一時その場が呆気に取られ微妙な空気が流れる中――突如として三人の目の前を素早く横切った物体に、瞬時妓音と帷の纏う空気が変化した。
「恵美、おぬしはさっさと自分の部屋にでも戻っておれ――!」
「さあ、さあ――早くしいひんと、嬢ちゃん建物諸共刻まれてしまいますえ?」
途端に妓音は鉄扇を。帷は錫杖を構え、恐らくは鎌鼬が逃走したであろう廊下の先を見据え、其の後を追い駆けた。
暫くはおろおろと立ち尽くしていた恵美も、先ず自分の為すべき事を漸く理解した後二人の消えた廊下の先を見詰め……。祈りを込める様に一礼を下げると、自身の管理人室へと足早に駆けて行った。


「……見る所――おぬしの扱う武器は、近接に特化しておる様じゃな」
点々と続く鎌鼬の手負いの後を慎重に辿りながら、妓音の持つ鉄扇を軽く見遣り帷が口を開く。
「そやなあ。向こう向こうの相手にはわやかもしれへんけど……。うちのこの両の腕の届く限りは、安心して背中任せておくれやす♪」
口元で鉄扇を広げ妖艶に笑む妓音へと多少胡散臭げな視線を送りつつ、会話の腰を折らぬ様に修正を加え帷が先を続ける。
「わしは元来、妖術や陣の類の専門での……自然術具の発動までに時間が掛かる。此度の物の怪――あのすばしこい鎌鼬めの動きを、如何して止めてやるかが問題じゃが……」
――其処まで発し、ぴたりと二人の歩みが止まった。

其の距離三メートル強、と言う所であろうか。
……鎌鼬の血痕が、其処で途切れている――。

「――居てますなあ?」
「ああ、気を抜くで無いぞ……」
二人の立つ其の場所は、本館と旧館を繋ぐ夢幻回廊≠ニ称される廊下の――丁度中程であろうか。
廊下と名付けられてはいても、古びた其処は日が射さず、先に暴れまわった鎌鼬の所為もあってか扉や硝子戸は無残にも壊れ痛ましく揺れている。
「――!!嬢ちゃん、こかしますえ〜♪」
暫しの静寂の後、場に不釣合いな程声を弾ませた妓音の声に帷が顔を向け掛けた瞬間――。
何かが砕けた音と共に、地面にキラキラと光る石の様な物が散らばった。
「?!おぬしっ何を……っ?!」
「先の壊れた硝子戸、ありましたやろお?あないにはしこく動きはるから、丁度止まってくれるんやないかなあ思て――」
言われて帷が改めて周囲を見回せば、石かと思った物は砕け散った硝子片で、其の硝子がついさっきまで嵌め込まれていたと思われる木枠は妓音の手の内に収められている。
「戯けがっ!おぬし、わしを殺す気か……?!!」
「そやかて、あんじょう声は掛けたどっしゃろ?――結果オーライゆうやつやなあ♪」
悪びれ無く木枠を床へと放り投げ、さも愉快そうに笑う妓音へ帷が疲弊した一瞥を送ると、二人は硝子、木枠――其の他に、唯一床へと崩れ落ちた物体へと視線を落とした。
硝子に真正面から衝突した鎌鼬は元より負っていた傷も然る事ながら、奇襲に近く受けた突然の事態を把握出来ず、未だ床でじたじたと悶え苦しんでいる。

「――兎も角も……此処で止めを刺しておくかの」
「ああ、そやったら――。一つ、かまへんかなあ?」
錫杖の柄の先を鎌鼬の腹へと付け、其の動きを封じた帷が視線は物の怪から外さぬままに妓音の声へと耳を傾ける。
「この鎌鼬、うちが引き取りたいんやけど……♪」
「此れを……か?――別に構わんが……」
鎌鼬と妓音とを交互に見遣り、不可解そうに相槌を打った帷を他所に妓音は何とも表現し難い笑みを浮かべて。
「えろうおおきに〜♪」
そうしてあやかし荘による鎌鼬掃討の事件は、無事に解決へ至った――。


鎌鼬を捕獲した後恵美から手厚く御礼が為され、あやかし荘を後にした二人は其の道行き、互いの分かれ道となる所で対面した。
「――取り敢えずは此れでこやつもそう容易くは身動きが取れん筈じゃが……本当に持って行く気か?」
物の怪の動きを封ずる札や縄を捕獲した鎌鼬へと施し、再三其の意志を確認した帷が都度、同じく首を縦に振る妓音へ呆れた様に溜息を吐いた。
「今迄長い事退魔の職におるが、依頼先で物の怪を引き取る人間なぞおぬしが始めてじゃぞ……」
「あらあ、光栄やわあ♪何でも始めては特別ゆいますやろ?」
最後まで読めない妓音の言葉に、それも有りかと笑みを漏らし合った二人は其れを境に、其の歩みは潔くそれぞれの赴くべき道へと向かった。
「それじゃ、うちはこっちやから――また会うても仲良うしてなあ嬢ちゃん♪」
そう残すと、妓音は一度として振り返る事無く、颯爽と自身の向かう地へと去って行った――。

「しかしあの鎌鼬――、一体何を如何するつもりなんじゃか……」
其の後、鎌鼬が妓音によってどんな顛末を遂げたのかは……。

唯一人、妓音のみぞ知る――。



【完】

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【5151 / 繰唐・妓音 / 女性 / 27歳 / 人畜有害な遊び人】

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■         ライター通信          ■
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繰唐・妓音様

初めまして、この度は素敵なご注文を誠に有り難うございました。
妓音様の艶っぽさや強かさが、イメージ通り表現出来ておりましたら嬉しく思います。
今回は妓音様の思わぬ機転で(笑)戦闘らしい戦闘はありませんでしたが、騒がしさ一番のあやかし荘を少しでもお楽しみ頂ければ幸いです。